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本編

-276- レンの人柄 アレックス視点

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とにかく、この上ない極上な夜だった。
ちゃんと意識を保っていられたレンは、寝るまでも可愛かった。
眠そうにしながらも、話をしていたいっつー気持ちが見てとれた。

『明日の朝は、レンの体調が大丈夫なら少しだけつきあってくれ』と、言った俺に対して、『ん?…あ、うん。い…いよ?』なんて恥じらいながら答えたレン。
あれは、マジで可愛かった。

誤解させちまったが、それでもOKを出してきたレンが可愛すぎる。
明らかな失言だが、あんなに可愛いレンを引き出せたならそれも正解だった、などと阿呆な考えが浮かんだ。
『ふふっ、ごめん。朝もしたいのかなって思っちゃった』と、おかしそうに笑うレンも本当に可愛かった。



「ーーー様、アレックス様」
「……なんだ、爺」

様々な表情をした可愛いレンをたくさんのアングルで脳内に思い描いていたが、ふと、現実に引き戻された。
残念でならないが、こうずっと浸っているわけにはいかない。
浸るために早く戻ってきたわけじゃないのだから。

「まず、クロッシェ店の件からです。
ナイトウェア、下着、靴下の一式が届きました。
一組ずつですが、急ぎ用意されたそうです」
「そうか、助かる」

レンのサイズに合い、且つ肌に良いものが随分早く手に入った。
一組ずつだけでもありがたい。

「それで……アレックス様、レン様に絹ではなく綿の下着を頼まれたのは何故か理由をお聞きしても?」

セバスの瞳が怪しむように光った気がした。
絹ではなく綿にした理由、そんなのはレンの肌にいいと言われたからだ。

「極力肌に優しいものを、と伝えたところ、オーガニックコットンを勧められた。
貴族には人気がなく、絹は庶民が身に着けるものだと絹に拘るものもいるとも聞いていたが」
「……そうですか。そこまで聞かれていらしたなら何もお咎めしません」

やはり、絹の方がよかったのだろうか?
レンは俺に任せてくれたが、何を選んだのかを伝えていなかった。
気に入らなかっただろうか。

「レンは気に入らなかったか?」
「いいえ、レン様はとても気に入って、喜んでいました」
「そうか」

ならいい。
他のものがなにかひっかかろうとも、レンが良ければ。

「綿にひっかかりを持ったのは、この爺とアニーです。
古い考え……なのかもしれません。
綿は庶民のつけるもの、という概念もレン様によって変わっていくかもしれませんね……っ失礼いたしました」
「どうした?」

思い出したように、思わず笑いを吹き出すなどセバスには珍しい。

「いいえ、絹の方が上品だと伝えたこの爺に対し、レン様は、下着の上品さなんてアレックス様は気にしない、とおっしゃったときを思い出しまして。
大変失礼いたしました」
「いや、まあ、確かに気にしないが。……普通は、気にするものなのか?」
「いいえ、人それぞれだと思われます」
「そうか」

それから、エイミー店でレンが購入した品々を確認する。
別に俺がこまごまと確認する必要性はないが、気になるのだからしかたない。

「随分安いものを選んだんだな?もっと高級なものも用意されていただろ?」
「そのようなのですが、セオの判断でそれらは却下となったようです。曰く、妊娠したら使えない、と」
「……マジか。いや、良い判断だが、そうなのか?」

妊婦に使えない化粧品なんてあるのか?と思ったが、あるらしい。
実際には、使えないわけじゃないが避けたほうが良い、ということのようだ。
妊婦によくないハーブが化粧品に使われているなど知らなかった。
紅茶の飲み過ぎは良くない、と量を減らすくらいは知っていたが。

「それと、レン様曰く、この商品を僕が使えば売れる、と。
自分に売り込むときは、その場の利益だけでなく、三方にいい商品を勧めて欲しいとも仰っていたそうです。
自分が広告塔であることを良くご存じであらせます。
この基礎化粧品は、エリソン侯爵領のりんごを使用し、商家のお嬢様向けに作られた比較的手に入りやすい価格帯です。売れ行きはいまいちのようでしたが、帝都ではなく領都に店を構えるエイミーでしたら爆発的に売れるでしょう」
「レンは……本当に若いのに色々と考えてくれる」

「はい。それに本当にお優しい方です。レン様は今回香水を購入されていませんが、その理由を店長は尋ねられました。
買わない理由を問う等、礼に欠くことですし答える必要もありません。
レン様は、気を悪くするどころかきちんとその理由を全て述べた後、折角選んでくれたのにと、買わないことを謝罪されたそうです」
「甘く見られてはいないか?」
「ええ、店長はきちんと非礼をわびたようですし、失礼を承知で、と前置きをしていたようですので、レン様のお人柄に感化されたのではないか、と」
「そうか。因みに買わなかった理由は聞いているか?」

香水はジュードが苦手としているし、レン自体が最高に良い香りなので必要ないが、貴族夫人にとって極上の香水は一種のステイタスのような考えもある。
レンが、ステイタスを目的としてつけることはないだろうが、購入しなかった理由は知っておきたい。

「はい。第一に、テンと会えなくなるから。
第二に、厨房に顔を出せなくなるから。
第三に、香りで印象を左右されたくないから。
そして、一番重きな理由が、アレックス様にとって、自分はすでにいい香りがしているから、だそうです。
レン様自身がつけたくない理由というのはなく、どれも他人を思いやっての選択です。
後からセオが、ジュードは香水が苦手としていることを伝えると、その情報は先に欲しかったとも仰っていました。
本当に、容姿やお人柄だけでなく、その考え方もが素晴らしい方です」

セバスが絶賛するのも無理ない。
こうしてレンの話を聞くたびに、本当に俺には勿体ないくらいだ。
これから、俺がレンに対して何をどう返してやれるか、いつも考えさせられる。
悪いことじゃない、ただ、俺も留まっていないで成長が必要だと思い知らされるんだ。
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