271 / 440
本編
-271- エイミー店
しおりを挟む
「ううん、自領の侯爵夫人にひとりで売り込むんだし、気負わせてしまったなら申し訳ないなって思ってるよ。
でも、どうかマリアンさんらしく肩の力を抜いて、ね?」
「重ね重ね、ありがとうございます」
それからのマリアンさんは、気持ちの切り替えが出来たのか、僕のメイクをしながら色々な話を振ってきた。
唐突じゃないし、話の切り出し方もすごく上手だ。
それに、なんでも話していいのよ?なんて押しつけがましいことは言っていないのに、何でも話してもいいような、そんな雰囲気が彼にはある。
本来は、ちゃんとお客様に寄り添った商品を提供できる、とても商売上手な人なんだろうな。
ただ、自領の侯爵夫人が相手だっていうことが、マリアンさんの選択を狂わせてしまったのかもしれない。
聞けば、領民として認められて日が浅いと言うから尚更だ。
認められたからこそ、旦那さんと望んでいた養子も縁組出来たらしい。養子は、孤児院にいるギーだ。
「ギーはとても物知りで僕も色々教わったよ。アレックスの魔法士の話を楽しそうに聞いてた」
「良い子でしょう?私の夫も元宮廷魔法士なの。今は個人でキャンベル商会と契約してるのよ。だから、彼に色々と教えてあげられることがあるみたいでとても喜んでるわ」
嬉しそうに話すマリアンさんは、旦那さんの事がとても大好きなんだなって伝わってきたよ。
それから、祝賀会の衣装の話になった。どこで購入したのか、どんな色や素材を選んだのか、なぜそこにしたのか。
するすると言葉が出てくるし、マリアンさんは、さっきと同じように自分の話も適度に盛り込んでくれる。
「うん、レースと刺繍がすごく可愛いお店だったし、店長のジェシカさんもとても良くしてくれたんだ」
「クロッシェ店は刺繍とレースが一級品ですから、ご衣装の出来上がりが今から楽しみですわね!私もハンカチはいつもあそこで購入していますわ。とても美しく丁寧に作られていますもの」
「ハンカチかあ。今度お店に行けるときは、僕もハンカチを購入したいな。セオ、次いつ行けるかな?」
「仮縫いが済んだ段階で一度お声がかかるはずですよ?呼び寄せるか伺うかはご相談になると思いまーーーって、ストップストップ、店長っ!」
「あら、セオ様、何かしら?ーーー出来ましたわ、とっても可愛いらしい中に妖艶な美を引き出せたと思います。我ながら渾身の出来です!どうぞご確認ください」
セオはずっと後ろに控えてくれていたから、僕のメイクがどう出来上がってるのかきちんと見えていなかったみたいだ。
僕の出来よりも、マリアンさんの手元やメイクの種類に気を遣っていたから当然かもしれない。
使用する化粧品のひとつひとつ、きちんと説明しながらセオに手渡していたし、セオも気になる箇所を聞き出していた。
本来は僕が聞くべきところなのかもしれないけれど、僕よりセオの方が着眼点が鋭いんだもん。選別はセオにお任せしよう。
従者を話に入らせることを嫌う貴族もいるかもしれないけれど、こういう時にきちんと間に入ってきてくれるセオが頼もしい。
元の世界と違って、商品のひとつひとつには何が使われているかは書かれていない。
それに、何を使っているかや配合は、秘密にされるものらしかった。
セオは、元の世界で言うところの添加物に、特に気を遣ってくれてるようだった。
不自然な混ざり物がないか、っていう感じで、マリアンさんも僕に選んだ化粧品の数々は、自然本来の発色で作られたものだった。
魔法でどうこうしたりとか、金属や宝石の粉を入れてどうこうしたりとかはしていないみたい。
詳しくはよくわからなかったけれど、発色を良くするために、金属や宝石の粉を混ぜて魔法付与によってより発色や輝きを上げてる商品もあるんだって。
通常の草や花や果物からとれる色素だと魔法の付与は効きづらいし色は劣化する。
そこに、金属や宝石の粉を混ぜることによって、魔法の付与をしやすく、色彩豊かに出来るみたいだ。輝きや発色は素晴らしいから、寧ろそっちの方が貴族のご夫人のは人気があるんだとか。デメリットとしては、やっぱり肌に負担がかかりやすいんだって。
さて。僕のメイクが仕上がったけれど、セオが慌ててストップをかけた出来だ。
どんなかな?とマリアンさんが差し出してくれた鏡を覗き込む。
「うわ……若い時の母さんみたいだ」
メイクを施された顔を覗き込むと、もう、本当に美少女だ。
可憐な中にどこか妖艶さが確かにある。
少女が女性になる手前みたいな、羽化したばかりの蝶のような、危うさというか、どこか未熟さがある気がする。
「めちゃくちゃ可愛くしてどうすんの。祝賀会なんて闘いだよ、闘い!メイクは武装でしょ、逆逆っ、レン様の可愛いところを打ち消してよ!」
「何言ってるの、もったいない!これが一番レン様の魅力を引き出したメイクですっ!
アレックス様の瞳の色に寄り添うような淡いグリーンの目元、うっすらと色づく頬、そして潤いを与え血色の良いピンクの唇。完璧よ!そもそもそこまで弄ってないわ」
「わかるよ?わかるけど、これは領内だけにしてよー。……アニーさーん!」
セオは見方を増やしたいのか、アニーに声をかけ、助けを求める。
アニーは僕を見てずっと驚いてたような顔をしていたけれど、セオに呼ばれてはっと意識を取り戻したみたいに思えた。
「素晴らしい出来ですが、この私ですら惚けてしまうほどです。
このまま祝賀会にお出ししたら、現実に目を閉ざされた夢見がちな貴族男性を大勢引き寄せてしまいますわ、それでは困ります」
アニーの言葉が結構辛らつだ。
帝都の貴族男性っていうのは、そんなにおバカな人が多いのかな?
そう思ったけれど、初日のあの第一王子様……ああ、帝国だから王子とは言わないよね、皇太子。
時期皇帝陛下となりうるのがあのお馬鹿さじゃあ、それも頷ける話だ。
「セオ、あなたがやってみたら?元からセンスは良いのだし、実際にメイクを任せるのはあなたですから」
「そうよー、そこまで言うなら、セオ様がお手本にやってみせてほしいわー」
マリアンさんが面白そうに笑ってセオをけしかける。
セオは、じとっとした目をマリアンさんに向けた。
でも、アニーの言うように、試しにセオにメイクをして貰うのは良いかもしれない。
「セオ、お願い出来る?」
「分かりました、やってみましょ」
僕がセオを見上げて尋ねると、セオはちょっと肩をすくめてから、了承してくれたよ。
でも、どうかマリアンさんらしく肩の力を抜いて、ね?」
「重ね重ね、ありがとうございます」
それからのマリアンさんは、気持ちの切り替えが出来たのか、僕のメイクをしながら色々な話を振ってきた。
唐突じゃないし、話の切り出し方もすごく上手だ。
それに、なんでも話していいのよ?なんて押しつけがましいことは言っていないのに、何でも話してもいいような、そんな雰囲気が彼にはある。
本来は、ちゃんとお客様に寄り添った商品を提供できる、とても商売上手な人なんだろうな。
ただ、自領の侯爵夫人が相手だっていうことが、マリアンさんの選択を狂わせてしまったのかもしれない。
聞けば、領民として認められて日が浅いと言うから尚更だ。
認められたからこそ、旦那さんと望んでいた養子も縁組出来たらしい。養子は、孤児院にいるギーだ。
「ギーはとても物知りで僕も色々教わったよ。アレックスの魔法士の話を楽しそうに聞いてた」
「良い子でしょう?私の夫も元宮廷魔法士なの。今は個人でキャンベル商会と契約してるのよ。だから、彼に色々と教えてあげられることがあるみたいでとても喜んでるわ」
嬉しそうに話すマリアンさんは、旦那さんの事がとても大好きなんだなって伝わってきたよ。
それから、祝賀会の衣装の話になった。どこで購入したのか、どんな色や素材を選んだのか、なぜそこにしたのか。
するすると言葉が出てくるし、マリアンさんは、さっきと同じように自分の話も適度に盛り込んでくれる。
「うん、レースと刺繍がすごく可愛いお店だったし、店長のジェシカさんもとても良くしてくれたんだ」
「クロッシェ店は刺繍とレースが一級品ですから、ご衣装の出来上がりが今から楽しみですわね!私もハンカチはいつもあそこで購入していますわ。とても美しく丁寧に作られていますもの」
「ハンカチかあ。今度お店に行けるときは、僕もハンカチを購入したいな。セオ、次いつ行けるかな?」
「仮縫いが済んだ段階で一度お声がかかるはずですよ?呼び寄せるか伺うかはご相談になると思いまーーーって、ストップストップ、店長っ!」
「あら、セオ様、何かしら?ーーー出来ましたわ、とっても可愛いらしい中に妖艶な美を引き出せたと思います。我ながら渾身の出来です!どうぞご確認ください」
セオはずっと後ろに控えてくれていたから、僕のメイクがどう出来上がってるのかきちんと見えていなかったみたいだ。
僕の出来よりも、マリアンさんの手元やメイクの種類に気を遣っていたから当然かもしれない。
使用する化粧品のひとつひとつ、きちんと説明しながらセオに手渡していたし、セオも気になる箇所を聞き出していた。
本来は僕が聞くべきところなのかもしれないけれど、僕よりセオの方が着眼点が鋭いんだもん。選別はセオにお任せしよう。
従者を話に入らせることを嫌う貴族もいるかもしれないけれど、こういう時にきちんと間に入ってきてくれるセオが頼もしい。
元の世界と違って、商品のひとつひとつには何が使われているかは書かれていない。
それに、何を使っているかや配合は、秘密にされるものらしかった。
セオは、元の世界で言うところの添加物に、特に気を遣ってくれてるようだった。
不自然な混ざり物がないか、っていう感じで、マリアンさんも僕に選んだ化粧品の数々は、自然本来の発色で作られたものだった。
魔法でどうこうしたりとか、金属や宝石の粉を入れてどうこうしたりとかはしていないみたい。
詳しくはよくわからなかったけれど、発色を良くするために、金属や宝石の粉を混ぜて魔法付与によってより発色や輝きを上げてる商品もあるんだって。
通常の草や花や果物からとれる色素だと魔法の付与は効きづらいし色は劣化する。
そこに、金属や宝石の粉を混ぜることによって、魔法の付与をしやすく、色彩豊かに出来るみたいだ。輝きや発色は素晴らしいから、寧ろそっちの方が貴族のご夫人のは人気があるんだとか。デメリットとしては、やっぱり肌に負担がかかりやすいんだって。
さて。僕のメイクが仕上がったけれど、セオが慌ててストップをかけた出来だ。
どんなかな?とマリアンさんが差し出してくれた鏡を覗き込む。
「うわ……若い時の母さんみたいだ」
メイクを施された顔を覗き込むと、もう、本当に美少女だ。
可憐な中にどこか妖艶さが確かにある。
少女が女性になる手前みたいな、羽化したばかりの蝶のような、危うさというか、どこか未熟さがある気がする。
「めちゃくちゃ可愛くしてどうすんの。祝賀会なんて闘いだよ、闘い!メイクは武装でしょ、逆逆っ、レン様の可愛いところを打ち消してよ!」
「何言ってるの、もったいない!これが一番レン様の魅力を引き出したメイクですっ!
アレックス様の瞳の色に寄り添うような淡いグリーンの目元、うっすらと色づく頬、そして潤いを与え血色の良いピンクの唇。完璧よ!そもそもそこまで弄ってないわ」
「わかるよ?わかるけど、これは領内だけにしてよー。……アニーさーん!」
セオは見方を増やしたいのか、アニーに声をかけ、助けを求める。
アニーは僕を見てずっと驚いてたような顔をしていたけれど、セオに呼ばれてはっと意識を取り戻したみたいに思えた。
「素晴らしい出来ですが、この私ですら惚けてしまうほどです。
このまま祝賀会にお出ししたら、現実に目を閉ざされた夢見がちな貴族男性を大勢引き寄せてしまいますわ、それでは困ります」
アニーの言葉が結構辛らつだ。
帝都の貴族男性っていうのは、そんなにおバカな人が多いのかな?
そう思ったけれど、初日のあの第一王子様……ああ、帝国だから王子とは言わないよね、皇太子。
時期皇帝陛下となりうるのがあのお馬鹿さじゃあ、それも頷ける話だ。
「セオ、あなたがやってみたら?元からセンスは良いのだし、実際にメイクを任せるのはあなたですから」
「そうよー、そこまで言うなら、セオ様がお手本にやってみせてほしいわー」
マリアンさんが面白そうに笑ってセオをけしかける。
セオは、じとっとした目をマリアンさんに向けた。
でも、アニーの言うように、試しにセオにメイクをして貰うのは良いかもしれない。
「セオ、お願い出来る?」
「分かりました、やってみましょ」
僕がセオを見上げて尋ねると、セオはちょっと肩をすくめてから、了承してくれたよ。
51
お気に入りに追加
1,079
あなたにおすすめの小説
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。
柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。
頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。
誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。
さくっと読める短編です。
αなのに、αの親友とできてしまった話。
おはぎ
BL
何となく気持ち悪さが続いた大学生の市ヶ谷 春。
嫌な予感を感じながらも、恐る恐る妊娠検査薬の表示を覗き込んだら、できてました。
魔が差して、1度寝ただけ、それだけだったはずの親友のα、葛城 海斗との間にできてしまっていたらしい。
だけれど、春はαだった。
オメガバースです。苦手な人は注意。
α×α
誤字脱字多いかと思われますが、すみません。
瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜
Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、……
「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」
この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。
流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。
もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。
誤字脱字の指摘ありがとうございます
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる