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本編

-269- エイミー店

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アレックスと一緒にお昼を食べるときに下着のことを聞いたら、やっぱりちゃんと説明を受けた上で購入してくれたようだった。
貴族間で綿は人気がないが、肌に優しいのはオーガニックコットンだ、と。
給仕中のセバスは、何とも言えないような顔をしていたけれど、僕は気に入ったから問題ない。

確かに元の世界じゃ綿に比べたら絹は高価だった。
でも、オーガニックコットン製もものによっては高価な部類だ。

綿が人気がないのなら、僕が先がけになればいい。
そんな風にも思う。
少なくともエリソン侯爵領では、僕の購入するもは注目を浴びるはずだ。


お昼を食べて、一時間だけセバスに勉強を見て貰った後、エイミー店の店長がやってきた。
時間ぴったりだ。

「レン様、初めまして。
本日は数ある中から当店エイミーを選んで頂き光栄にございます。
エイミー店店長を務めます、マリアンと申します。
どうぞお見知りおきください」

今日も今日とて応接室、客間で待ってからの流れだ。
座ったままでいい、なんてセバスからは言われていたけれど、そういうわけにはいかない。
感じが悪い気がするもん。
どれだけ偉いんだって……まあ、侯爵夫人だから偉いんだけれどさ。
せめて、立ち上がって、挨拶くらい同じ視線でしたいよ。

目の前で、エイミー店の店長、マリアンさんは、綺麗なおじぎと挨拶をくれた。
所作もだけれど、すごく容姿の綺麗な人だ。
一目で男性だってわかるけれど、綺麗に化粧をして、挨拶からもどことなく女性らしさを感じた。
品がある人だけれど、とても話しやすい雰囲気で、初めて会う男性も女性も相談がしやすそうな、そんな感じだ。

「忙しい中来てくれてありがとう、マリアンさん。レン=エリソンです。
今日は、祝賀会の時のメイク一式と、普段使う基礎化粧品や日焼け止めもお願いしたいんだ。
種類には疎いから、一緒に選んでもらえると嬉しいな」
「……っはい、お任せくださいませ」

僕が挨拶を返すと、マリアンさんは一瞬びっくりしたような顔をされたけれど、はっと元の笑顔に戻った。
うん、この反応は、最初にこのエリソン侯爵邸でみんなに挨拶をした時と似ている。
悪い反応じゃないはずだ。


部屋には僕と、セオと、マリアンさん、そして、アニーもいてくれた。
セバスは用事があるからと申し訳なさそうに席を外したけれど、全然問題ない。
アニーはグレース様の衣装やメイクの管理をしていたことがあるから一緒いて貰ったよ。
アニーだって忙しいのだけれど、快く引き受けてくれた。
頼もしいよね。

まずは、基礎化粧品からだ。
別に、日焼け止めがあれば必要ないんじゃないかな?って思ったけれど、必要らしい。
セオとアニーに説得されて、購入することになった。

メイクをするならしっかりとした保護が必要になるし、メイクは祝賀会のときだけでいいわけじゃない、と。
来月、各貴族を招く納税報告の時も必要だし、今後公務の時も必要になることもあるんだって。

「アレックス様からは極力お肌に優しいものをとお聞きしていましたので、本日は4つのラインナップをお持ちしました。
内3つは、化粧落とし、導入液、化粧水、美容液、乳液、クリームの6セットとなります。
6セットでお使いいただくことをおすすめいたします。
どれも、お肌に優しい成分で出来ておりますよ」

言いながら3つのラインを並べてくれたマリアンさんだけれど、僕はその量にびっくりだ。
男だし化粧水と乳液だけかと思っていたけれど、6つもある。
しかもとってもキラキラした瓶や入れ物に入ってて、凄く高そうだ。
6行程かあ、母さんといい勝負だ。

男性でも夫人ならこのくらい気を遣って当然なのかもしれない。
僕が使うものだけれど、基本僕じゃなくてセオがやってくれるから面倒臭がってちゃ駄目だ。

「香りも違いがありますが、使用感にも違いがあります。
さっぱりしたタイプがお好みでしたら、こちらになります。
香りの成分も一番控えめです。
レン様はまだお若いので、私的にはこちらがおすすめですわ」

促されて手の甲を差し出すと、パフにたっぷりと化粧水を浸してから優しくつけてくれる。
肌を確かめると、水分を含んで手の甲がしっとりしてるのが分かった。
鼻を近づけて香りを確かめると、うっすらローズマリーやラベンダーが合わさったような、癒される香りがする。
鼻を近づけないとわからないくらいには優しい香りで、嫌みが全くない。
これなら僕にも使いやすそうだ。

セオにも手の甲をそのまま出して確かめてもらう。
自分で良いと思っていても、そうじゃない場合もあるからだ。
セオは、両手下さいと言って、塗ってない方の手の甲と比べてちゃんと確かめてくれた。

「よさそうですね。気になる使用感はありましたか?」
「ううん、刺激もないし、水と変わらないくらいに自然な感じ」
「使用感も問題なさそうですね。…店長ー、具体的にどう肌に優しいの?」
「商品すべてに、アルコールと保存薬を使用してないの。保存魔法もかけてないから、自然本来の効果が期待できるわ。商会と個人契約してる元薬師が作成してるのもポイントね」
「主に何使ってんの?」
「ローズマリー、ラベンダー、ジャスミンに、ツバキね。配合は秘密です」
「えー……」

セオがとたん変な顔になる。
なんだろう?
元の世界でもある植物ばかりだし、良さそうだけどなあ。

「セオ?」
「ちなみにここに出てる他のふたつは?」
「こちらがローズマリー、ローズ、ベリーリーフを、こちらは、ローズマリー、カサブランカ、イチジクね」
「なんでこの3つ?今は良いけど、これじゃ、レン様が妊娠したら使えないよ?」

セオが渋い顔して呟く。

僕は、え?そうなの?っていう驚きだ。
体に良さそうなものなのに、妊娠したら使えないの?

「そうなの?」
「少量ですし、直接飲むわけではありませんから問題ないと思われますよ?どれも本店で取り扱っている商品ですし、ご夫人に大変人気があります」

うーん、問題ない、じゃなくて、問題ないと思われますよ?っていうのは、マリアンさんがそう思うってことで、なんの保証もなさそうだ。
あと、この帝国、ご夫人は男の方が断然多いはず。
妊娠しないよね、それじゃ。
それに、人気なものよりも、僕に合うものを選びたい。

「リーフと精油じゃ成分比べられないよ。毎日使うものだし、避けた方が無難でしょ?
で?店長がこの3つを売り込みたいのは分かったけどさ、残りのひとつは?
さっき、4つって言ったよね?
……それとも、レン様を試してんの?」

セオの声音が冷たいものに変わる。

「大変失礼しました。こちらです」

そう言って取り出したのは、真っ赤なりんごと緑色した青りんご型のガラス瓶だ。どちらの大きさも形もりんごそのもので、他のものに比べると大分大きい。
上部にヘタと1枚の葉っぱを模した摘みがついてる。
そのまま置物としても可愛い!

「可愛いね」
「青りんごが化粧落とし、赤りんごがジェルクリームです。こちらのお品は、キャンベル商会会長のおすすめになります」

浮かない顔をしてるのは、マリアンさんと、それからアニーもだ。
何でだろう?

「主な成分は、見た目の通りりんごでございます。他に、保湿成分として、シアバターと黒糖も配合されてます。ジェルとクリームどちらも合わせ持ち、こちら1つで化粧水、乳液、クリームと全てが叶う商品です」
「試しても?」
「……どうぞ」

今度はセオが塗ってくれるみたいだ。
葉っぱの摘みをひねると、蓋が開く。
中にはたっぷりとジェルクリームが入ってる。
色も少しだけ黄身がかった乳白色だから、本当にりんごみたいだ。
香りもふんわり甘いりんごの香りがする。

手の甲に少量塗りこんで貰うと、しっとりもっちりしてるのに、べとつかずにつるつるだ。

「どうです?」
「良いね、これ!僕はこれがいいな」

なんといっても、これ1個つければおしまいなのが良いよね。
元の世界の、いわゆるオールインワンジェルだ。
それに、アレックスの友人のコナー会長がおすすめしてくれたなら、良いもののはずだし。

セオが笑顔で頷く。

「このようにレン様も大変気に入ってらっしゃいますし、これにしましょう」
「……畏まりました」


「……レン様、本当によろしいのですか?」
「ん?」

マリアンさんは、唸るように了承してくれたけど、こめかみを抑えて難しい顔をしてる。
自分のおすすめが選ばれなかったからかな?
そんなふうに僕が思ってると、おずおずとアニーが尋ねてきた。

「こちらのお品は、他のものに比べると大分見劣りします。お子様向けの商品では?」
「ええ、本来、商家のお嬢様がメイクにご興味が出てきた頃におすすめするような商品です」
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