266 / 440
本編
-266- 夫人部屋の隠し通路
しおりを挟む
アレックスに着替えを手伝ってもらいながら着替え終わったところで、はた、と気がついた。
気がつけた僕はえらいと思う。
「あ、そうだ、アレックス」
「どうした?」
何に気がついたかって言うと、この部屋の隠し通路のことだ。
聞こう聞こうと思っているのに、アレックスと一緒だと、ついその機会を逃してた。
「この部屋の隠し通路を教えてもらおうと思って」
「あー……すっかり忘れてた。言い当てたんだったな。や、言い当ててなくても近いうちに教えるつもりだったが」
「うん。急いでるわけじゃないんだけれど、僕もアレックスと一緒だと一緒のことが嬉しくてつい忘れちゃって」
「ああ。そう難しくないから、今教えておく」
アレックスは上機嫌で僕の背中を促して、ベッドからほど近い壁に近づく。
「ここに立って、手を当ててくれ」
壁にそっと掌を当てると、ふわっと掌を当てた部分を中心に壁が白っぽく光った。
音もなく、壁にぽっかりと入り口が出現する。
人が一人通れるくらいの大きさだ。
元の世界で例えるなら、家のトイレの出入口と同じくらいの大きさで、この侯爵邸の扉に比べたらずっとこじんまりした入り口だった。
中は、真っ暗だ。
「わ、凄いね!手を当てる場所は、どうやったらわかるの?」
何の印もないように思えたけれど、と首をひねる。
「ああ、説明不足で悪い。壁の位置はさほど問題じゃなくて、立つ位置が決まってるんだ。
奥から三つ目の板と覚えておいてくれ」
言われた通りに床に目を向ける。
よく見ると、比較的大き目な正方形の板がいくつか埋まってる作りで、その三つ目ということらしかった。
向こうの世界の一般的なフローリングとは作りがちょっと違うけれど、升目が少ないから覚えやすい。
「わかった。……中、真っ暗だね。この入り口は誰でも開くの?」
「いや、うちでも限られた人間しか開かない。門を通らなくても自由に出入り出来る使用人だけだ。
俺とレン以外には、セバス、アニー、セオ、レオン、ジュードの5人だな。
他は存在自体教えていないが、5人と一緒ならば通れはする」
「そっか」
限られた人数しか知らないのは、そのほうがセキュリティーが固いからだろうなあ。
いざという時に守る側にまわる使用人は存在と通路を知っているみたいだ。
「明かりはつかないの?」
「ああ。だが、このまま入り口に左手をかけて、左手に壁を触れたまま伝いに歩くだけだ」
「それだけ?」
「ああ。絶対に壁際から手を離してはならないが、それだけだ。
先ほど言った者以外が触れても駄目だし、離れていてもいけない。
一緒ならば通れると言ったが、他のものは手を繋ぐ等、直に肌に触れていなければ通れない」
アレックスが言うには、こうだった。
通れる人間が壁に左手を触れる。
その右手を通れない人の左手で繋ぐ、その人の右手を別の通れない人の左手で繋ぐ、その人の右手を……といった感じで繋がって歩けばみんなで進めるみたい。
最初から手を繋いだ状態で入り口を入る必要があって、みんなで一緒に歩み進む必要があるらしい。
じゃないと入り口は閉まっちゃうんだって。
だから、手を繋ぐといっても、万が一離れちゃうと困るから、互いの手首を握るように繋ぐのが良いみたいだ。
「中は広い?」
「そこまで広くないが、使用人全員が手を繋いで入ったとしてもかなりの余裕はあるぞ」
「もし手が離れちゃったらどうなるの?」
「この部屋に送還されるな。子供のころに興味本位でやったことがあるが、やるもんじゃなかったな。
レンは絶対にしないでくれ」
「わかった。どんな感じか聞いても良い?」
アレックスが苦笑しながら話すから、ちょっとどういう感じか聞いてみたかった。
出来心でやったけれど、やらなきゃよかったくらいには酷かったってことでしょ?
どうなっちゃうのか気になる。
「入り口が開き、爆風で吸い込まれるようにこの部屋に吸い込まれる感じだ。
放り投げられるように尻もちをついた挙句、屋敷全体の緊急を知らせる警報が鳴り響く。
今とはセキュリティの違いはあれど、俺の子供のころからすでに緊急警報自体はあったんだ。
レオンとも一緒だったが、その頃のレオンにはまだ権限がなかったから俺と道連れだった。
セバスが血相をかえて飛んできて、祖母さんからは大目玉だ。
祖父さまとジュードはそれを見て二人して大笑いしてたな、いつかやると思ってた、って」
アレックスは笑いながら話してくれたから、それすらも、今はいい思い出なんだろうなあ。
僕もその姿を想像して、思わず笑っちゃう。
ぽっかりと空いた真っ暗な中を覗き込む。
「これ、進むとどこに出るの?」
「丁度裏手、厩のすぐ傍だ。ここから行ってみるか?
隠し通路といっても、実際に通路がそこまで引かれてるわけないんだ。
転移に酷似した大きな魔法式が組まれている円柱状の空間があるだけだ。ある程度進むと発動し出口が開ける。
今の俺とレンならすぐに出るはずだ。
俺も通るのはその時以来だが、そうだな……20歩も進めば出るんじゃないか?」
発動するには権限のある人物の魔力量と魔法能力や素質が、その体積に関係しているみたい。
たくさんの権限のない人を一緒に連れていると、それだけ発動時間がかかるからたくさん歩かなければならないらしい。
昔から厩はあそこにあったというから、一目が付きにくく、いざという時の足になる馬が近い場所に出口を設定したんだろうな。
「近道だね、アレックスと一緒なら行ってみたい」
「了解だ」
気がつけた僕はえらいと思う。
「あ、そうだ、アレックス」
「どうした?」
何に気がついたかって言うと、この部屋の隠し通路のことだ。
聞こう聞こうと思っているのに、アレックスと一緒だと、ついその機会を逃してた。
「この部屋の隠し通路を教えてもらおうと思って」
「あー……すっかり忘れてた。言い当てたんだったな。や、言い当ててなくても近いうちに教えるつもりだったが」
「うん。急いでるわけじゃないんだけれど、僕もアレックスと一緒だと一緒のことが嬉しくてつい忘れちゃって」
「ああ。そう難しくないから、今教えておく」
アレックスは上機嫌で僕の背中を促して、ベッドからほど近い壁に近づく。
「ここに立って、手を当ててくれ」
壁にそっと掌を当てると、ふわっと掌を当てた部分を中心に壁が白っぽく光った。
音もなく、壁にぽっかりと入り口が出現する。
人が一人通れるくらいの大きさだ。
元の世界で例えるなら、家のトイレの出入口と同じくらいの大きさで、この侯爵邸の扉に比べたらずっとこじんまりした入り口だった。
中は、真っ暗だ。
「わ、凄いね!手を当てる場所は、どうやったらわかるの?」
何の印もないように思えたけれど、と首をひねる。
「ああ、説明不足で悪い。壁の位置はさほど問題じゃなくて、立つ位置が決まってるんだ。
奥から三つ目の板と覚えておいてくれ」
言われた通りに床に目を向ける。
よく見ると、比較的大き目な正方形の板がいくつか埋まってる作りで、その三つ目ということらしかった。
向こうの世界の一般的なフローリングとは作りがちょっと違うけれど、升目が少ないから覚えやすい。
「わかった。……中、真っ暗だね。この入り口は誰でも開くの?」
「いや、うちでも限られた人間しか開かない。門を通らなくても自由に出入り出来る使用人だけだ。
俺とレン以外には、セバス、アニー、セオ、レオン、ジュードの5人だな。
他は存在自体教えていないが、5人と一緒ならば通れはする」
「そっか」
限られた人数しか知らないのは、そのほうがセキュリティーが固いからだろうなあ。
いざという時に守る側にまわる使用人は存在と通路を知っているみたいだ。
「明かりはつかないの?」
「ああ。だが、このまま入り口に左手をかけて、左手に壁を触れたまま伝いに歩くだけだ」
「それだけ?」
「ああ。絶対に壁際から手を離してはならないが、それだけだ。
先ほど言った者以外が触れても駄目だし、離れていてもいけない。
一緒ならば通れると言ったが、他のものは手を繋ぐ等、直に肌に触れていなければ通れない」
アレックスが言うには、こうだった。
通れる人間が壁に左手を触れる。
その右手を通れない人の左手で繋ぐ、その人の右手を別の通れない人の左手で繋ぐ、その人の右手を……といった感じで繋がって歩けばみんなで進めるみたい。
最初から手を繋いだ状態で入り口を入る必要があって、みんなで一緒に歩み進む必要があるらしい。
じゃないと入り口は閉まっちゃうんだって。
だから、手を繋ぐといっても、万が一離れちゃうと困るから、互いの手首を握るように繋ぐのが良いみたいだ。
「中は広い?」
「そこまで広くないが、使用人全員が手を繋いで入ったとしてもかなりの余裕はあるぞ」
「もし手が離れちゃったらどうなるの?」
「この部屋に送還されるな。子供のころに興味本位でやったことがあるが、やるもんじゃなかったな。
レンは絶対にしないでくれ」
「わかった。どんな感じか聞いても良い?」
アレックスが苦笑しながら話すから、ちょっとどういう感じか聞いてみたかった。
出来心でやったけれど、やらなきゃよかったくらいには酷かったってことでしょ?
どうなっちゃうのか気になる。
「入り口が開き、爆風で吸い込まれるようにこの部屋に吸い込まれる感じだ。
放り投げられるように尻もちをついた挙句、屋敷全体の緊急を知らせる警報が鳴り響く。
今とはセキュリティの違いはあれど、俺の子供のころからすでに緊急警報自体はあったんだ。
レオンとも一緒だったが、その頃のレオンにはまだ権限がなかったから俺と道連れだった。
セバスが血相をかえて飛んできて、祖母さんからは大目玉だ。
祖父さまとジュードはそれを見て二人して大笑いしてたな、いつかやると思ってた、って」
アレックスは笑いながら話してくれたから、それすらも、今はいい思い出なんだろうなあ。
僕もその姿を想像して、思わず笑っちゃう。
ぽっかりと空いた真っ暗な中を覗き込む。
「これ、進むとどこに出るの?」
「丁度裏手、厩のすぐ傍だ。ここから行ってみるか?
隠し通路といっても、実際に通路がそこまで引かれてるわけないんだ。
転移に酷似した大きな魔法式が組まれている円柱状の空間があるだけだ。ある程度進むと発動し出口が開ける。
今の俺とレンならすぐに出るはずだ。
俺も通るのはその時以来だが、そうだな……20歩も進めば出るんじゃないか?」
発動するには権限のある人物の魔力量と魔法能力や素質が、その体積に関係しているみたい。
たくさんの権限のない人を一緒に連れていると、それだけ発動時間がかかるからたくさん歩かなければならないらしい。
昔から厩はあそこにあったというから、一目が付きにくく、いざという時の足になる馬が近い場所に出口を設定したんだろうな。
「近道だね、アレックスと一緒なら行ってみたい」
「了解だ」
56
お気に入りに追加
1,079
あなたにおすすめの小説
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。
柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。
頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。
誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。
さくっと読める短編です。
αなのに、αの親友とできてしまった話。
おはぎ
BL
何となく気持ち悪さが続いた大学生の市ヶ谷 春。
嫌な予感を感じながらも、恐る恐る妊娠検査薬の表示を覗き込んだら、できてました。
魔が差して、1度寝ただけ、それだけだったはずの親友のα、葛城 海斗との間にできてしまっていたらしい。
だけれど、春はαだった。
オメガバースです。苦手な人は注意。
α×α
誤字脱字多いかと思われますが、すみません。
瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜
Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、……
「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」
この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。
流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。
もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。
誤字脱字の指摘ありがとうございます
こんな異世界望んでません!
アオネコさん
BL
突然異世界に飛ばされてしまった高校生の黒石勇人(くろいしゆうと)
ハーレムでキャッキャウフフを目指す勇人だったがこの世界はそんな世界では無かった…(ホラーではありません)
現在不定期更新になっています。(new)
主人公総受けです
色んな攻め要員います
人外いますし人の形してない攻め要員もいます
変態注意報が発令されてます
BLですがファンタジー色強めです
女性は少ないですが出てくると思います
注)性描写などのある話には☆マークを付けます
無理矢理などの描写あり
男性の妊娠表現などあるかも
グロ表記あり
奴隷表記あり
四肢切断表現あり
内容変更有り
作者は文才をどこかに置いてきてしまったのであしからず…現在捜索中です
誤字脱字など見かけましたら作者にお伝えくださいませ…お願いします
2023.色々修正中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる