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本編

-260- 共に夕食を アレックス視点

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「髪と目の色が派手だからな、これ以上派手にならずに丁度いいかもしれない」
「ふふっ」

ピンクの髪色に緑の目だぞ?
レンの瞳の色が黒で良かったように思う。
まあ、例え、青だろうと、黄色だろうと、赤だろうと、レンの瞳の色であれば喜んでつけるが。

「レンは何色でも合いそうだな」
「アレックスの瞳の色があれば、それだけで十分だよ」

あー……マジで可愛い。
セバスも微笑ましくレンを見ている。

「そうか」
「うん。……ん!このソース美味しいね!」

同じタイミングで料理に口を運べば、なるほどただの温野菜に見えたが美味い。
ひと口で手間暇かけたソースだとわかる。
レンの口にもあったようだ。

「玉ねぎと人参をベースに数種類のお野菜から作っているそうですよ」
「そうなんだ?こんなにクリーミーなのに野菜ベースなんて凄く手が込んでるね。とっても美味しい!」
「お伝えしておきます」
「うん」

俺は美味いと思っても口に出したことはなかったな。
祖父さまも祖母さんも、食事中に料理の感想は口にしたことはなかった。
美味しいのは当たり前で、料理は舌だけで楽しむものだった。
素直に料理の感想を口にするレンが可愛い。
マーティンも作り甲斐があるだろう。

「今日、アレックスの誕生日をセオから聞いたよ」
「そうか。レンはいつだ?」

俺の誕生日はまだまだ先だ。
3月3日、覚えやすいと言われる日だ。
レンはいつだ?と白々しく聞き返すも、すでに5月26日だと知っている。
来て間もないうちに、セバスに見て貰ったからだ。

「僕は5月26日だよ。スズランの人だって教えて貰った。
こっちの世界には月の花っていうのがあるんだね?
アレックスはガーベラの人なんでしょう?ぴったりだね」
「レンも皆に愛される生まれなら、ぴったりだ」
「人一倍努力が必要な月って教えて貰ったから、頑張るね」
「そう頑張らなくても良いぞ、もっとのんびりさせてあげたいが」
「僕に出来ることがあって嬉しいよ」

のんびりさせてあげたいが、セバスによって領地と帝国の知識を必要なだけ詰め込ませている状態だ。
来月初めに予定のある各貴族からの報告まで、なにも知らない状態では迎えることも出来ないしただ横にいるだけなのは侯爵夫人としてあってはならない。
というのも、夫夫、もしくは当代と次代と、来るのは大抵二人だ。
夫夫で来られる場合、夫人の相手はレンに任せることもあるし、報告時にはレンも一緒に話を聞くわけで、スムーズに話を進めるのならある程度の知識が必要だ。
各地の訪問が終わってしまっている以上、一緒に現地に足を運び、レンを紹介する時間もとれない。

さらに、祝賀会を前に、マナーとダンスのレッスンが入る。
レンのやりたい護身術も、セオから教わるらしい。
歌もピアノも時間を作って楽しむようだ。

それがあっての、明後日からの使用人の面談。
今年は、一日中のんびりさせてやる時間がない。

本来、神器様とは、魔力譲渡と妊娠、出産さえすれば大切にされるものなんだ。
だが、有難いことに、レンもそれを望んでいない。
俺に寄り添い、志し高い侯爵夫人となろうとしている。
すでに十分すぎる。

「誕生日にはみんなでお祝いしようね。みんなの誕生日もお祝いするんでしょう?レナードが一番近いって聞いたよ」
「家の者を皆で祝ったことはないぞ?物は渡すが」

それも、自分の目で選ぶことは最近はめっきり減っていた。
俺の代わりにセバスが用意していたからだ。

「そうなの?」
「だが、レンがしたいのなら、みなで祝うのも悪くないな。
レンに任せきりになるが……」
「うん、もちろん。相談してみるね」
「レンも、ちゃんと祝いの場を開こう。貴族は祝いのパーティーを開く家が多いんだ」
「そうなの?」
「ああ」

高貴族ともなれば、毎年派手な誕生会を開くことが多い。
誕生会というか、あれはもう、誕生祭だな。
商人ならともかく、大抵の貴族の収入源は、税金だ。
他に使うべきものはたくさんあるだろうに、そう思う。

うちは、領地経営と家の経営とは別にしているから、多少の贅沢が許されている。
物を買うにしても、食うものにしても、修繕修復にしても、気が引ける思いをしたことがない。
レンにも好きなものを買ってやれる。
自分の手で稼いだ金だ、多少の自由が利く。

「まあ、俺も、当主になってからパーティーを開いたことはないな。
4月に向けてどこも新人が入ってくるし、3月で退職者も出る。
俺だけでなく、友人も一年で一番なにかと忙しい時期だ」
「そっか」
「領内を行き来するだけで物も祝いの言葉も飛び交うから、毎年自分の誕生日を忘れることはない」
「皆アレックスの誕生日を祝いたいんだね。
僕もお祝いしたいから、来年は一緒にお祝いしようね?」
「ああ。俺もレンの誕生日を祝いたい」
「僕の誕生日も、アレックスと家のみんなにお祝いしてもらえればそれで十分だよ」

嬉しそうに笑うレンにつられて、俺も自然と笑みがわく。
こんな穏やかで優しい気持ちになれる時間があることに、なによりもそうさせてくれるレンに、心から感謝したい。
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