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本編
-256- 一緒にごはん
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顔の熱を冷ませるようにゆっくり階段を下りてロビーを通り、セオに続いて足を進める。
アレックスは、今談話室の方にいるみたいだ。
「……なんだ」
「レン様をお連れしました」
セオが扉をノックすると、少し不機嫌なアレックスの返事が返ってくる。
セオには話の内容まで聞こえていたと思う。
何か、難しい話をしてる途中だったら、もう少し待つべきかな……なんて思ったりもしたけれど、それこそセオが調整してくれるはずだ。
セオは気にせず返事を返して、扉を開き、僕を招き入れる。
「おかえりなさい、アレックス。……話の邪魔だった?」
「いや、大丈夫だ。ただいま」
鋭利な表情が僕を見ると、とたんふんわりと優しげになる。
そっと抱き寄せてくれ触れるだけの口づけを落とすその行為が、ただの挨拶だとしても特別大事にしてくれてるんだってすぐに思わせてくれる。
それだけで幸せな気持ちになれる。
アレックスも同じかな?そうだと良いな。
ずっと、こういう気持ちになれるように僕も努力しよう。
アレックスの肩越しにセバスと目が合うと、ほっとしたような顔をして僕らを見てた。
「アレックスが帰ってきたの聞いて、待ちきれなくて来ちゃった」
「ありがとう、夕食を一緒にとろう。今日は一度宮廷に戻るが、早めに帰るから……」
早めに帰るから、と告げたアレックスは一度口を閉じてからどう言おうかちょっとだけ迷ってる感じだった。
直接的な、セックスしようって感じは間違っても全然なかったよ?
ただ、待っていてくれるかどうか、言っていいべきか、少し不安や寂しげな瞳で僕を見てきた。
僕にそんな不安を感じる必要はない。
「うん。一緒にお風呂に入ろうね」
「ああ」
安心したように一言返してくれたその後に、お礼代わりの口づけを頬に受けた。
「セバス、今日はもうこのままセオを休ませてあげてね?ちょっと無理をさせちゃったから」
「畏まりました」
給仕の最初にセバスに声をかけると、セバスは優しそうな顔で僕に了承してくれた。
よかった。
セオの疲れ具合は、セバスの方が分かるだろうからこの後に頼み事やお遣いなんかはしないと思う。
でも、僕が言葉にしてその意志を伝えることで、セバスも気にせずセオに休むよう言ってくれるはずだ。
「なにかあったのか?」
「ん?あのね、セオが僕の従者にちゃんと決まった時に贈り物をしたくて、今日お店の人が急遽来てくれたんだ」
「ああ、ブローチだったか」
「うん。セオには内緒にしたかったからセバスが協力してくれてお遣いに出してくれたんだけど、そのせいで疲れさせちゃったから」
「そうか。欲しいものは買えたか?」
納得したようにアレックスは頷いて、優しく聞いてくる。
アレックスに内緒にしたいとは特別思わなかったけれど、アレックスが正式に認める前に僕が独断で購入したから少しだけ後ろめたい気持ちがあった。
でも、アレックスはそこを指摘することはなかったし、ブローチを買うのを知ってた。セバスがアレックスに話を通してくれていたみたいだ。
体重計のこともだし、僕が欲しいものはアレックスを通さずとも購入して良いと聞いているけれど、こうやってスムーズに会話ができるのはセバスのおかげだよね。
今日も、見た目も美しい前菜が目の前に置かれる。
僕らのために、マーティンが心を込めてくれてるのがわかる。
「うん。セバスとアニーも一緒に選んでくれたから頼もしかったよ。黒い宝石って随分たくさんあるんだね。いただきます」
アレックスが口に前菜を運ぶのを目に、僕も一口運ぶ。うん、美味しい!
マーティンの作る料理は、味は勿論香りが良いんだよね。それに、良い意味で複雑さがあるんだ。どれも真似出来ない味がする。
「ああ。種類は豊富みたいだな」
「僕の色のブローチとピアスは、お父様が用意してくれるってセバスが言ってた」
そう、アレックスに贈る僕の色のブローチとピアス。
本人というより、その家が用意するものなんだって。
僕の色のブローチとピアスはお父様が用意してくれるみたいだ。
「ああ、張り切って用意するとセバスから聞いて少し怖いくらいだな。……や、安心して良い、ちゃんとしたのを用意してくれるだろうから」
「貰ってばかりだね」
「そうでもないさ。レンが息子になって楽しそうだったぞ」
「うん」
たぶん、僕が息子になったことより、アレックスが義理の息子になったことが嬉しいんじゃないかな?って思ったけれど頷くだけにとどめた。
そういうのは、僕から言葉にするものでもないと思ったからだ。
アレックスも嬉しいと感じてるならそれでいいと思う。
「アレックスはかっこいいから、黒が似合いそう」
「髪と目の色が派手だからな、これ以上派手にならずに丁度いいかもしれない」
「ふふっ」
「レンは何色でも合いそうだな」
「アレックスの瞳の色があれば、それだけで十分だよ」
「そうか」
「うん。……ん!このソース美味しいね!」
思わず料理だけに意識が向くほど美味しくて、お皿の上の料理を凝視する。
温野菜なんだけど、付け合せのソースがさっぱりしてるのにコクと風味と自然な甘さがあって凄く美味しい!
ほんの少しだけ後から爽やかな香りが鼻から抜けてく。嫌味が全くなくて、まろやかで上品な味。初めて食べる味だ。
「玉ねぎと人参をベースに数種類のお野菜から作っているそうですよ」
「そうなんだ?こんなにクリーミーなのに野菜ベースなんて凄く手が込んでるね。とっても美味しい!」
「お伝えしておきます」
「うん」
それからも、美味しい料理に舌鼓を打ちながら、アレックスとの会話を楽しんだ。
誕生日の話もできたよ。貴族は毎年誕生日を祝うパーティーを開く家が多いんだとか。
規模はそれぞれだけど、アレックスは当主になってからは、パーティーを開かなかったみたい。
友人も忙しいし、なによりアレックス自身が忙しいからだそうだ。
こちらの世界でも、新年度となるのは4月からで、新人や部署異動で人の入れ替わりが増える。
毎年色々なものが4月から改定されることが多くて、領主としての仕事も忙しいんだって。
誕生日当日に街中に出ると、お祝いの言葉が飛び交って、物も飛び交うみたい。
来年は一緒にお祝いが出来るといいな。
アレックスは、今談話室の方にいるみたいだ。
「……なんだ」
「レン様をお連れしました」
セオが扉をノックすると、少し不機嫌なアレックスの返事が返ってくる。
セオには話の内容まで聞こえていたと思う。
何か、難しい話をしてる途中だったら、もう少し待つべきかな……なんて思ったりもしたけれど、それこそセオが調整してくれるはずだ。
セオは気にせず返事を返して、扉を開き、僕を招き入れる。
「おかえりなさい、アレックス。……話の邪魔だった?」
「いや、大丈夫だ。ただいま」
鋭利な表情が僕を見ると、とたんふんわりと優しげになる。
そっと抱き寄せてくれ触れるだけの口づけを落とすその行為が、ただの挨拶だとしても特別大事にしてくれてるんだってすぐに思わせてくれる。
それだけで幸せな気持ちになれる。
アレックスも同じかな?そうだと良いな。
ずっと、こういう気持ちになれるように僕も努力しよう。
アレックスの肩越しにセバスと目が合うと、ほっとしたような顔をして僕らを見てた。
「アレックスが帰ってきたの聞いて、待ちきれなくて来ちゃった」
「ありがとう、夕食を一緒にとろう。今日は一度宮廷に戻るが、早めに帰るから……」
早めに帰るから、と告げたアレックスは一度口を閉じてからどう言おうかちょっとだけ迷ってる感じだった。
直接的な、セックスしようって感じは間違っても全然なかったよ?
ただ、待っていてくれるかどうか、言っていいべきか、少し不安や寂しげな瞳で僕を見てきた。
僕にそんな不安を感じる必要はない。
「うん。一緒にお風呂に入ろうね」
「ああ」
安心したように一言返してくれたその後に、お礼代わりの口づけを頬に受けた。
「セバス、今日はもうこのままセオを休ませてあげてね?ちょっと無理をさせちゃったから」
「畏まりました」
給仕の最初にセバスに声をかけると、セバスは優しそうな顔で僕に了承してくれた。
よかった。
セオの疲れ具合は、セバスの方が分かるだろうからこの後に頼み事やお遣いなんかはしないと思う。
でも、僕が言葉にしてその意志を伝えることで、セバスも気にせずセオに休むよう言ってくれるはずだ。
「なにかあったのか?」
「ん?あのね、セオが僕の従者にちゃんと決まった時に贈り物をしたくて、今日お店の人が急遽来てくれたんだ」
「ああ、ブローチだったか」
「うん。セオには内緒にしたかったからセバスが協力してくれてお遣いに出してくれたんだけど、そのせいで疲れさせちゃったから」
「そうか。欲しいものは買えたか?」
納得したようにアレックスは頷いて、優しく聞いてくる。
アレックスに内緒にしたいとは特別思わなかったけれど、アレックスが正式に認める前に僕が独断で購入したから少しだけ後ろめたい気持ちがあった。
でも、アレックスはそこを指摘することはなかったし、ブローチを買うのを知ってた。セバスがアレックスに話を通してくれていたみたいだ。
体重計のこともだし、僕が欲しいものはアレックスを通さずとも購入して良いと聞いているけれど、こうやってスムーズに会話ができるのはセバスのおかげだよね。
今日も、見た目も美しい前菜が目の前に置かれる。
僕らのために、マーティンが心を込めてくれてるのがわかる。
「うん。セバスとアニーも一緒に選んでくれたから頼もしかったよ。黒い宝石って随分たくさんあるんだね。いただきます」
アレックスが口に前菜を運ぶのを目に、僕も一口運ぶ。うん、美味しい!
マーティンの作る料理は、味は勿論香りが良いんだよね。それに、良い意味で複雑さがあるんだ。どれも真似出来ない味がする。
「ああ。種類は豊富みたいだな」
「僕の色のブローチとピアスは、お父様が用意してくれるってセバスが言ってた」
そう、アレックスに贈る僕の色のブローチとピアス。
本人というより、その家が用意するものなんだって。
僕の色のブローチとピアスはお父様が用意してくれるみたいだ。
「ああ、張り切って用意するとセバスから聞いて少し怖いくらいだな。……や、安心して良い、ちゃんとしたのを用意してくれるだろうから」
「貰ってばかりだね」
「そうでもないさ。レンが息子になって楽しそうだったぞ」
「うん」
たぶん、僕が息子になったことより、アレックスが義理の息子になったことが嬉しいんじゃないかな?って思ったけれど頷くだけにとどめた。
そういうのは、僕から言葉にするものでもないと思ったからだ。
アレックスも嬉しいと感じてるならそれでいいと思う。
「アレックスはかっこいいから、黒が似合いそう」
「髪と目の色が派手だからな、これ以上派手にならずに丁度いいかもしれない」
「ふふっ」
「レンは何色でも合いそうだな」
「アレックスの瞳の色があれば、それだけで十分だよ」
「そうか」
「うん。……ん!このソース美味しいね!」
思わず料理だけに意識が向くほど美味しくて、お皿の上の料理を凝視する。
温野菜なんだけど、付け合せのソースがさっぱりしてるのにコクと風味と自然な甘さがあって凄く美味しい!
ほんの少しだけ後から爽やかな香りが鼻から抜けてく。嫌味が全くなくて、まろやかで上品な味。初めて食べる味だ。
「玉ねぎと人参をベースに数種類のお野菜から作っているそうですよ」
「そうなんだ?こんなにクリーミーなのに野菜ベースなんて凄く手が込んでるね。とっても美味しい!」
「お伝えしておきます」
「うん」
それからも、美味しい料理に舌鼓を打ちながら、アレックスとの会話を楽しんだ。
誕生日の話もできたよ。貴族は毎年誕生日を祝うパーティーを開く家が多いんだとか。
規模はそれぞれだけど、アレックスは当主になってからは、パーティーを開かなかったみたい。
友人も忙しいし、なによりアレックス自身が忙しいからだそうだ。
こちらの世界でも、新年度となるのは4月からで、新人や部署異動で人の入れ替わりが増える。
毎年色々なものが4月から改定されることが多くて、領主としての仕事も忙しいんだって。
誕生日当日に街中に出ると、お祝いの言葉が飛び交って、物も飛び交うみたい。
来年は一緒にお祝いが出来るといいな。
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