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本編
-250- 黒い宝石
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「でも、テ…、前に来た商人は座ってたでしょう?」
「ですが、レン様。レン様は、今、侯爵夫人であられます」
「うん、まだちょっと実感ないけど、そうだね」
テイラー商会、と言おうとしたけど、あれはもうきっと会うこともないだろうこら、口にするのもはばかれた。
侯爵夫人。
人から言われると、ちょっと照れる。
それが、たとえセバスであっても。
「同じ席には通常着きません」
「うーん…よくわからないよ。
孤児院でだって、子供たちと一緒の席で食べてたよ?それに、お店に行ったら向かいに座るでしょう?
アレックスとジェシカさんは対面に座っていたよ?それと何が違うの?」
「そうは言いましても」
セバスを困らせてるのは分かる。
けど、納得できないものは納得できないもん。
お父様と渚君は歓迎して座ってくれていいのに、こっちが呼んだ宝石店のオーナー夫妻は座っちゃ駄目っておかしくない?
「レン様、私たちも対面に座ることはないでしょう?お立場がございますから、今は、それと同じようなものだと考えてくだされば」
僕がアニーを頼るように視線を向けると、アニーも困ったような顔で告げてくる。
うん、座らないっていうのがこの世界の貴族のマナーで、それはここエリソン侯爵領でも変わらないってことはわかった。
でも、僕の心はわかってない。
「でも、呼んだのは僕だよ?それなら、僕にとってもお客様になるよね?お互いにお客様同士、でしょう?
それに……」
オーナーの奥さん、入ってくるときにちょっと右足を庇って入ってきたんだ。
杖はついていないけれど、旦那さんに寄り添うように一緒に入ってきた。
ある程度時間がかかるものだと思うし、ずっと立たせるのは酷だ。
それも、僕に合わせて屈んだり、膝を使うこともあるはず。
「足を痛めてるでしょう?」
僕が夫人に声をかけると、セバスとアニーがはっとして驚いたような顔を僕と夫人に向けてくる。
夫人は申し訳なさそうな顔で頭を下げてきた。
「は、はい……申し訳ありません」
「ううん、咎めてるわけじゃないんだ、謝らないで。でも、どうか座って?僕はまだ宝石には疎いから、同じ目線でおすすめなものを見せて欲しいな。オーナーも。
セバス、アニー、今日は僕だけだから、今日だけ見逃してくれる?」
「「かしこまりました」」
よかった。
なんだか座るだけで、随分時間をかけちゃった気がするけれど、今後はもう少し僕の意見と周りの意見をすり合わせてこういう時間が無いようにしたい。
今後はアニーとセバス両方が傍にいないときも出てくるかもしれないから、セオとアレックスにもちゃんと相談してみよう。
僕が、というより、アレックスの、エリソン侯爵の立場を下げるような行為だっていうなら、それは僕の考えが間違ってるんだと思う。
今回は、僕の我を通してもらった。
「わがままを言って時間をとっちゃってごめんね」
「とんでもございません。家内も私も感謝するばかりです」
「ならよかった」
「台座と宝石を厳選してご用意させていただきました。お色は黒、レン様の専属従者となる方への送り物と伺っております」
そう言って、手にしていたトランクをテーブルの上に置き、180度開いてくれた。
トランクの大きさは小ぶりだったけれど上下の厚さが均一でどちらにも収納が可能なタイプみたいだ。
厳選して持ってきてくれたみたいだけれど、凄く種類が多い。
今回は最初からオーダーするんじゃなくて、宝石と台座を選んで、加工を加えて貰うセミオーダータイプだ。
黒い宝石ってこんなに種類があるの?
「セバスとアニーももっとそばに来て一緒に選んで?」
本当は僕の左右に座ってほしいけれど、そこまでわがままは言えない。
「元々アレックスに仕えていた従者が僕の専属になってくれるんだ。
だから、彼を身分的に守れるようなブローチが欲しい。
彼は納得して僕に尽くしてくれてるけど、当主の側近から外されたって思う人もいるかもしれないから。
そのためのブローチだから、目を引いて主張するものが良いんだ。
でも、彼は僕の護衛も兼ねてるから、つけても邪魔にならないくらいの大きさが良い」
ふたりは、時折頷きながらしっかり僕の言葉に耳を傾けてくれる。
「ーーーかしこまりました。でしたら、僭越ながら、私がおすすめするのは、こちらの3点でございます」
オーナーはトランクから宝石を取り出して、広げた白い布地の上に三つを並べてくれる。
「こちらから、ブラックスターサファイヤ、ブラックダイヤ、オーロラピーコックにございます。
どれも大きさ、色、ともに価値のあるものになります。
色味の魔法は加えておりません、すべて天然のものでございます」
どうやら、魔法をかけて色味を調整することも出来るそうだ。
そうすると価値は勿論下がるし、ちょっと鑑定が使える人が目にすれば調整してるのがわかっちゃうんだって。
「太陽光に弱かったり、繊細なものだとちょっと不安かな……オーロラピーコックは、真珠だよね?綺麗だけれど扱いには注意が必要だったりするの?」
「こちらは、黒蝶貝ですが魔物化したものが長い年月をかけて生み出しております。そのため鉱物ではございませんが複数の魔法付与が可能です。
ですので、状態を保つことが出来ますよ」
「そうなんだ」
大きくて綺麗な真珠だ。
黒一色に見えるけれど、オーロラピーコックっていう名の通り、光の加減で様々な色に光ってるのが分かる。
「こちらのブラックスターサファイヤは、ドームに厚みがあり、中央から綺麗に12に輝きを放っているのが特徴です。
6つの金色の輝き、そして、同じく6つの銀色の輝き、どちらも兼ね揃えた大変貴重なものとなっております」
確かに、中央から金色と銀色の線が交互に輝いているのがわかる。
黒い石なのに、見た目通りの真っ黒ってわけじゃないからなのかな?
金と銀の交互にはしる光の線が凄く綺麗だ。
「綺麗だね」
「偶然に偶然が重なって出来たものでございます」
「うん、なんだかちょっとロマンを感じるよ」
「ですが、レン様。レン様は、今、侯爵夫人であられます」
「うん、まだちょっと実感ないけど、そうだね」
テイラー商会、と言おうとしたけど、あれはもうきっと会うこともないだろうこら、口にするのもはばかれた。
侯爵夫人。
人から言われると、ちょっと照れる。
それが、たとえセバスであっても。
「同じ席には通常着きません」
「うーん…よくわからないよ。
孤児院でだって、子供たちと一緒の席で食べてたよ?それに、お店に行ったら向かいに座るでしょう?
アレックスとジェシカさんは対面に座っていたよ?それと何が違うの?」
「そうは言いましても」
セバスを困らせてるのは分かる。
けど、納得できないものは納得できないもん。
お父様と渚君は歓迎して座ってくれていいのに、こっちが呼んだ宝石店のオーナー夫妻は座っちゃ駄目っておかしくない?
「レン様、私たちも対面に座ることはないでしょう?お立場がございますから、今は、それと同じようなものだと考えてくだされば」
僕がアニーを頼るように視線を向けると、アニーも困ったような顔で告げてくる。
うん、座らないっていうのがこの世界の貴族のマナーで、それはここエリソン侯爵領でも変わらないってことはわかった。
でも、僕の心はわかってない。
「でも、呼んだのは僕だよ?それなら、僕にとってもお客様になるよね?お互いにお客様同士、でしょう?
それに……」
オーナーの奥さん、入ってくるときにちょっと右足を庇って入ってきたんだ。
杖はついていないけれど、旦那さんに寄り添うように一緒に入ってきた。
ある程度時間がかかるものだと思うし、ずっと立たせるのは酷だ。
それも、僕に合わせて屈んだり、膝を使うこともあるはず。
「足を痛めてるでしょう?」
僕が夫人に声をかけると、セバスとアニーがはっとして驚いたような顔を僕と夫人に向けてくる。
夫人は申し訳なさそうな顔で頭を下げてきた。
「は、はい……申し訳ありません」
「ううん、咎めてるわけじゃないんだ、謝らないで。でも、どうか座って?僕はまだ宝石には疎いから、同じ目線でおすすめなものを見せて欲しいな。オーナーも。
セバス、アニー、今日は僕だけだから、今日だけ見逃してくれる?」
「「かしこまりました」」
よかった。
なんだか座るだけで、随分時間をかけちゃった気がするけれど、今後はもう少し僕の意見と周りの意見をすり合わせてこういう時間が無いようにしたい。
今後はアニーとセバス両方が傍にいないときも出てくるかもしれないから、セオとアレックスにもちゃんと相談してみよう。
僕が、というより、アレックスの、エリソン侯爵の立場を下げるような行為だっていうなら、それは僕の考えが間違ってるんだと思う。
今回は、僕の我を通してもらった。
「わがままを言って時間をとっちゃってごめんね」
「とんでもございません。家内も私も感謝するばかりです」
「ならよかった」
「台座と宝石を厳選してご用意させていただきました。お色は黒、レン様の専属従者となる方への送り物と伺っております」
そう言って、手にしていたトランクをテーブルの上に置き、180度開いてくれた。
トランクの大きさは小ぶりだったけれど上下の厚さが均一でどちらにも収納が可能なタイプみたいだ。
厳選して持ってきてくれたみたいだけれど、凄く種類が多い。
今回は最初からオーダーするんじゃなくて、宝石と台座を選んで、加工を加えて貰うセミオーダータイプだ。
黒い宝石ってこんなに種類があるの?
「セバスとアニーももっとそばに来て一緒に選んで?」
本当は僕の左右に座ってほしいけれど、そこまでわがままは言えない。
「元々アレックスに仕えていた従者が僕の専属になってくれるんだ。
だから、彼を身分的に守れるようなブローチが欲しい。
彼は納得して僕に尽くしてくれてるけど、当主の側近から外されたって思う人もいるかもしれないから。
そのためのブローチだから、目を引いて主張するものが良いんだ。
でも、彼は僕の護衛も兼ねてるから、つけても邪魔にならないくらいの大きさが良い」
ふたりは、時折頷きながらしっかり僕の言葉に耳を傾けてくれる。
「ーーーかしこまりました。でしたら、僭越ながら、私がおすすめするのは、こちらの3点でございます」
オーナーはトランクから宝石を取り出して、広げた白い布地の上に三つを並べてくれる。
「こちらから、ブラックスターサファイヤ、ブラックダイヤ、オーロラピーコックにございます。
どれも大きさ、色、ともに価値のあるものになります。
色味の魔法は加えておりません、すべて天然のものでございます」
どうやら、魔法をかけて色味を調整することも出来るそうだ。
そうすると価値は勿論下がるし、ちょっと鑑定が使える人が目にすれば調整してるのがわかっちゃうんだって。
「太陽光に弱かったり、繊細なものだとちょっと不安かな……オーロラピーコックは、真珠だよね?綺麗だけれど扱いには注意が必要だったりするの?」
「こちらは、黒蝶貝ですが魔物化したものが長い年月をかけて生み出しております。そのため鉱物ではございませんが複数の魔法付与が可能です。
ですので、状態を保つことが出来ますよ」
「そうなんだ」
大きくて綺麗な真珠だ。
黒一色に見えるけれど、オーロラピーコックっていう名の通り、光の加減で様々な色に光ってるのが分かる。
「こちらのブラックスターサファイヤは、ドームに厚みがあり、中央から綺麗に12に輝きを放っているのが特徴です。
6つの金色の輝き、そして、同じく6つの銀色の輝き、どちらも兼ね揃えた大変貴重なものとなっております」
確かに、中央から金色と銀色の線が交互に輝いているのがわかる。
黒い石なのに、見た目通りの真っ黒ってわけじゃないからなのかな?
金と銀の交互にはしる光の線が凄く綺麗だ。
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