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本編
-246- 夕食と魔力譲渡 アレックス視点
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「ーーース、アレックス?」
本日のノルマ3分の2を終えたころだった。
一瞬幻聴かと思ったが、そうではなかったらしい。
「アレックス、まだ戻れそうにない?そろそろご飯取りに来てーーー」
ペーパーウェイトの烏から可愛い声が聞こえてきた。
レンの声だ。
真っ黒で可愛げのない烏も、レンの声で嘴を開閉すれば、とたんに可愛くなるな。
時間を見ると、20時をとっくに回っている。
急いで立ち上がり、レンを目標に転移をする。
一瞬驚いた顔のレンが、ふんわりと笑顔になる瞬間を見逃さなかった。
可愛く極上で甘やかな蜂蜜の香りにすげー癒される。
華奢な身体を抱き寄せると、そっと背中に両腕を回してくれた。
拘束を緩めて、レンの顔を覗き込むと嬉しそうな顔で見上げてくる。
あー……本当、相当な可愛さだ。
早くこの薄く形のいい耳朶に、エメラルド色したピアスをはめてやりたい。
「すまない、遅くなった」
「ううん、随分集中していたみたいだけれど、邪魔しちゃった?」
「いや、丁度きりの良いところだった。ありがとう」
「マーティンが美味しい夕食を箱詰めしてくれたよ。
全部一口でつまめるようになってるから、これなら仕事しながらでも食べらると思う」
そういって、大き目な箱二段にふと目を落とす。
随分デカいな。
「セバスに、きっと夜中までかかるって聞いてるけれど、間休憩してね?
少し多めに作ってもらったし、イアンのお夜食も一緒に入ってるから」
「ありがとう」
なるほど、夜食もついての大きさか。
ならば妥当かもしれない。
「アレックス、ちょっとだけ下向いて?」
「ん?ーーーっ……」
箱をもって戻ろうと、名残惜しくもレンを両腕から解放した時だった。
ちょっとだけ下を向いて、とのレンの言葉にどうした?とその通りにすると、するりとレンの腕が背中から外れて両肩へと回った。
黒く大きな瞳が長く濃い睫毛の下に隠れるのを間近でとらえる。
くちづけを望まれたことが嫌でも分かって、形もいいその唇に惹かれるように己の唇を合わせた。
直ぐ離れるかと思ったその唇は、レンが許さなかった。
控えめにも俺の唇を舌で割り入れて、そっと舌を探り絡ませてくる。
「ん……」
甘く極上な蜂蜜の風味に誘われて、くちづけをより深くすると、レンから可愛い鼻息が小さく漏れた。
レンの魔力が、くちづけを伝い俺を満たしていく。
今日は流石に回復ポーション数本を用意していたが、その出番はなさそうだ。
レンの意図を汲み取れたころには、どちらからともなくくちづけを終える。
両瞼を美しく彩る長い睫毛の間から、大きな黒い瞳が顔を出す。
幾分潤んだその瞳がすげー可愛い。
目が合うと、恥じらうように一度視線をそらすも、それからすぐに見上げてくる。
羞恥に少しだけ赤らめた頬が可愛くて、そこに感謝と愛しさを込めてくちづけを落とすと、ふんわりと嬉しそうに微笑んでくれた。
「ありがとう」
「気分はどう?」
「上々だ」
「?……ふふっ、よかった」
小さくおかしそうに笑われて、レンの言う気分というのが、気持ちではなく体調面であることがわかった。
そりゃそうだよな、魔力譲渡をした後だ。
まあ、だが間違っちゃいない。
レンの手から箱詰めの夕食を受け取る。
短い時間だったが戻ってこれてよかった。
けして魔力譲渡だけが理由じゃない。
「無理せず頑張ってね」
「ああ、本当にありがとう」
「今日も帰ってきたら隣で寝てね」
「わかった。少し早いが、おやすみ、レン。いい夢を」
「うん、おやすみなさい」
宮廷に戻り、少し部屋の空気を入れ替えるために窓を明けた。
とたん、ひんやりとした空気が入り込んでくる。
もう、秋も終わりに近い。
これから冬がやってくる。
今年の冬は例年よりはあたたかくなるはずだ、と生産ギルドの気候予想が立っていたが、どうなることやら。
そうなると、ますます蝗害に警戒が必要になる。
やってくるのは辺境の奥深くからだ。
辺境伯は、どうお考えだろうか。
爺さんと懇意にされていた先代は代替わりして間もないが、今の辺境伯である長男は容姿も考え方も良く似ていて、俺のことも気にかけてくれている。
辺境から帝都まで約1週間程かけてこられる為、年明けにしか会うことは無いが少し情報を共有しておきたいところだ。
1つ問題が片付けは、何かしら1つ問題が増える。立場的にも仕方ないが、今はレンがいてくれる。その事が、俺を随分と穏やかな気持ちにしてくれている。
窓を閉め、夕食の箱詰めの蓋を開くと、色とりどりな食の数々が目に入ってくる。みな、ひと口サイズであり、汁気が少ない。
上部にピッグが刺さっており、なるほどこれなら左手で口に放りながらも仕事を進めていける。
俺の性格と効率の、両方をよく考えられた食事だ。
前菜らしき野菜巻を口に放り込むと、爽やかな香草の香りが鼻を駆け抜け、少し酸味のあるすっきりとした味に目が冴える。
残すところ3分の1、ふた山半。
いつもより標高は高いが、終わりが見えてきた。
気を取り直し、仕事へと取り掛かる。
今日を乗り越えれば、少しは楽になるはずだ。
本日のノルマ3分の2を終えたころだった。
一瞬幻聴かと思ったが、そうではなかったらしい。
「アレックス、まだ戻れそうにない?そろそろご飯取りに来てーーー」
ペーパーウェイトの烏から可愛い声が聞こえてきた。
レンの声だ。
真っ黒で可愛げのない烏も、レンの声で嘴を開閉すれば、とたんに可愛くなるな。
時間を見ると、20時をとっくに回っている。
急いで立ち上がり、レンを目標に転移をする。
一瞬驚いた顔のレンが、ふんわりと笑顔になる瞬間を見逃さなかった。
可愛く極上で甘やかな蜂蜜の香りにすげー癒される。
華奢な身体を抱き寄せると、そっと背中に両腕を回してくれた。
拘束を緩めて、レンの顔を覗き込むと嬉しそうな顔で見上げてくる。
あー……本当、相当な可愛さだ。
早くこの薄く形のいい耳朶に、エメラルド色したピアスをはめてやりたい。
「すまない、遅くなった」
「ううん、随分集中していたみたいだけれど、邪魔しちゃった?」
「いや、丁度きりの良いところだった。ありがとう」
「マーティンが美味しい夕食を箱詰めしてくれたよ。
全部一口でつまめるようになってるから、これなら仕事しながらでも食べらると思う」
そういって、大き目な箱二段にふと目を落とす。
随分デカいな。
「セバスに、きっと夜中までかかるって聞いてるけれど、間休憩してね?
少し多めに作ってもらったし、イアンのお夜食も一緒に入ってるから」
「ありがとう」
なるほど、夜食もついての大きさか。
ならば妥当かもしれない。
「アレックス、ちょっとだけ下向いて?」
「ん?ーーーっ……」
箱をもって戻ろうと、名残惜しくもレンを両腕から解放した時だった。
ちょっとだけ下を向いて、とのレンの言葉にどうした?とその通りにすると、するりとレンの腕が背中から外れて両肩へと回った。
黒く大きな瞳が長く濃い睫毛の下に隠れるのを間近でとらえる。
くちづけを望まれたことが嫌でも分かって、形もいいその唇に惹かれるように己の唇を合わせた。
直ぐ離れるかと思ったその唇は、レンが許さなかった。
控えめにも俺の唇を舌で割り入れて、そっと舌を探り絡ませてくる。
「ん……」
甘く極上な蜂蜜の風味に誘われて、くちづけをより深くすると、レンから可愛い鼻息が小さく漏れた。
レンの魔力が、くちづけを伝い俺を満たしていく。
今日は流石に回復ポーション数本を用意していたが、その出番はなさそうだ。
レンの意図を汲み取れたころには、どちらからともなくくちづけを終える。
両瞼を美しく彩る長い睫毛の間から、大きな黒い瞳が顔を出す。
幾分潤んだその瞳がすげー可愛い。
目が合うと、恥じらうように一度視線をそらすも、それからすぐに見上げてくる。
羞恥に少しだけ赤らめた頬が可愛くて、そこに感謝と愛しさを込めてくちづけを落とすと、ふんわりと嬉しそうに微笑んでくれた。
「ありがとう」
「気分はどう?」
「上々だ」
「?……ふふっ、よかった」
小さくおかしそうに笑われて、レンの言う気分というのが、気持ちではなく体調面であることがわかった。
そりゃそうだよな、魔力譲渡をした後だ。
まあ、だが間違っちゃいない。
レンの手から箱詰めの夕食を受け取る。
短い時間だったが戻ってこれてよかった。
けして魔力譲渡だけが理由じゃない。
「無理せず頑張ってね」
「ああ、本当にありがとう」
「今日も帰ってきたら隣で寝てね」
「わかった。少し早いが、おやすみ、レン。いい夢を」
「うん、おやすみなさい」
宮廷に戻り、少し部屋の空気を入れ替えるために窓を明けた。
とたん、ひんやりとした空気が入り込んでくる。
もう、秋も終わりに近い。
これから冬がやってくる。
今年の冬は例年よりはあたたかくなるはずだ、と生産ギルドの気候予想が立っていたが、どうなることやら。
そうなると、ますます蝗害に警戒が必要になる。
やってくるのは辺境の奥深くからだ。
辺境伯は、どうお考えだろうか。
爺さんと懇意にされていた先代は代替わりして間もないが、今の辺境伯である長男は容姿も考え方も良く似ていて、俺のことも気にかけてくれている。
辺境から帝都まで約1週間程かけてこられる為、年明けにしか会うことは無いが少し情報を共有しておきたいところだ。
1つ問題が片付けは、何かしら1つ問題が増える。立場的にも仕方ないが、今はレンがいてくれる。その事が、俺を随分と穏やかな気持ちにしてくれている。
窓を閉め、夕食の箱詰めの蓋を開くと、色とりどりな食の数々が目に入ってくる。みな、ひと口サイズであり、汁気が少ない。
上部にピッグが刺さっており、なるほどこれなら左手で口に放りながらも仕事を進めていける。
俺の性格と効率の、両方をよく考えられた食事だ。
前菜らしき野菜巻を口に放り込むと、爽やかな香草の香りが鼻を駆け抜け、少し酸味のあるすっきりとした味に目が冴える。
残すところ3分の1、ふた山半。
いつもより標高は高いが、終わりが見えてきた。
気を取り直し、仕事へと取り掛かる。
今日を乗り越えれば、少しは楽になるはずだ。
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