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本編

-244- 良き友 アレックス視点

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「幸せかみしめてるところ悪いけれど、これ、今日中に出来そうかい?」

宮廷に戻るや否や、にっこにこのユージーンがお出迎えだ。
これまた随分と怒りが溜まっているようだな。
そろそろ決算と予算案をまとめなければならないはずだが、うまくいっていないんだろうか。
毎年毎年げずられるたびに、ユージーンは怒り狂う。

出来そうかい?っつーか……“やってくれ、君ならやれるよね?出来ないとか言わないよね?つーか、やれよ?”って顔してんぞ。
気持ちが一気に萎えちまうが、俺があんまり幸せそうな顔を見せてると、よりユージーンの心をえぐりそうだ。
羨ましいだとか、いいなだとかは言ってくるが、幸せそうな顔を見せるな、とは言ってこない。
それを言葉にしないのは、ユージーンの優しさだろう……意地、かもしれないが。

改めて、書類の束……山だな、目に入れる。
まあ……出来るだろ、多分。
今日中ってことは、今日中だ、終わらせてやる。

「ああ、わかった」
「助かるよ」
「で、まだこっちが片付いてなくてな。戻ってすぐで悪いが、先にコナーに連絡を取らせてくれ」
「構わないよ?僕がいても大丈夫なのかい?」
「ああ、寧ろいてくれたほうが良いな」

領都の店に関するものだ。
直接関係ないと言えども、管理しているのはユージーンの実家、ハワード伯爵家だ。
今回俺が規制をかけたために、俺自身に直接陳情書が届いたわけだが、全く状況を知らせないのもいかがなもんかと思っちまう。
状況はいずれ把握されるだろう、第一夫人、第二夫人ともに情報にはいち早い。

俺の口から直接ハワード伯へ伝えると、それは、管理不届きに繋がり、失態を意味する言葉になる。
どんなに、言葉を選ぼうとも、だ。
勿論管理不届きだ、と思える内容なら俺だって先にハワード伯へ知らせる。

まあだから、“こんなことがあったらしいよ、知ってた?”という話を、俺の友人である息子から伝えられるのがいいだろう。
動物を使役できるユージーンなら、またすぐカラスにでもなって実家に伝えにいくはずだ。
行かなければいかないで、それはそれで問題でもないが、察しが良いので多くを言わなくてもわかるだろう。

声をかける前に、鈴を三回鳴らす。
不規則なリズムだが、話しかける前にこのリズムで三回鈴を鳴らして欲しい、と言ってきたのはコナーだ。

この、離れていても会話が出来る魔道具は、コナーキャンベルの商会長の部屋に置かせてもらっている。
というか、『そんな便利なものがあるなら私のところにも寄こしなさいよ』と言われた挙句、『本店と支店にも置かせてくれないかしら?』とのおねだり付きだ。
流石にそれはできないことを告げると、すぐに引き下がり『残念だわ。商品化するなら是非うちで』と笑顔で告げられた。

「アレックス?やだ、なあに?久しぶりじゃなーい!それと、結婚おめでとう!あなたに幸せが来て本当に良かったわー!」

ハイテンションで、女性のようなセリフ回しだが、れっきとした男であり、きちんと話せば普通にそれ相応の声になることを俺は知っている。
だがこれが武装ではなく、自然体なコナーだ。
客相手ではもう少し落ち着いたトーンで優雅に話すが、それでも女性らしい話し方にはかわりない。
学生時代のころのほうが、窮屈だったろうな。

「ああ、ありがとう。お前のところにも神器様が来たと聞いたが……大丈夫なのか?」
「何よ、大丈夫なのかって失礼ねー、ちゃんと愛してるわよ、ダイジョウブよ」
「あまり無理させるなよ?」
「そのままそっくりお返しするわー!」
「………」

カラカラと笑うコナーに、何も言えなくなっちまう。
もうすでに無理をさせた。

「コナー、君の植え付けた間違った知識を訂正する僕の身にもなってくれ?」
「あら、ユージーン、あなたもそこにいるの?間違ってないわよー、私には“正しい”知識だわ。
え?やだ、もしかしてもうやっちゃったの?あーでもそうよね、高級なナイトポーション2ダースを早急にって言われたら、やるわよねー!
ごめんなさい?悪気は全くなかったのよ?」
「嘘つけ!」
「嘘じゃないわよー!そう怒らないでユージーン、怒ると老けるわよ?」
「君のせいだ!」
「相変わらず苦労性ねー……で?私に文句言うためにつないだわけじゃないんでしょ?何?」

急に真面目な声音になって、コナーが聞いてくる。
察しが良いのはコナーもだ。
まあ、商人なのだから察しが良くなくては困るが。

「うちの領で出禁したテイラー商会の件はもう知ってるか?」
「ええ、勿論よ。優しいあなたが出禁にまでするなんて、相当なことしたんでしょう?うちもすぐ動いたわ」
「は?」
「あなたがそうするなら、うちも関わりもちたくないもの。うちでもテイラー商会と少しでも関係を持ってる店舗や工房は全て取引中止にしたわ」
「それは……やりすぎじゃないのか?」

なにも関係してる店や工房の食い扶持まで潰そうなどとは思っていないぞ。
コナーだって痛手だろうが。

「大丈夫よ?テイラー商会とは手を切ってもらって、うちと新たに契約を結んでもらったところが殆どだもの。
テイラー商会より格段に良い契約内容を結べたし、うちにとっても相手にとっても良い話だったはずよ?
今、テイラー商会が独占していた工房すべてに掛け合ってるわ。
そろそろ良い返事をもらえると思うから、少しだけ待って頂戴。そうね……一週間あればエリソン侯爵領の販路は整えるわ」
「すげーな、お前。俺の頼むことなくなっちまった」

「やあね、商人を舐めないでちょうだい。当然じゃない、3つくらい先を読まないとやってらんないわよ。
服飾部門はラインを広げたくても、うちが服飾ギルドに所属してないって理由で難を示すところが多かったの。
これで珍しい生地や革も手に入りやすくなるわ。
美味しい話にはのっておかなくちゃ」
「助かる」
「いいのよ」
「この件に関して服飾ギルドで規制をかけることはないし、情報も公開することをとりつけた」
「あら、素敵。ならもっと早く片付くかもしれないわね、嬉しいわ」
「俺の方こそ」
「アレックス、実はね……一つお願いしようと思っていたことがあるの」

あくまで自分の利益だ、と主張するコナーに、危うく、心根の良い友人を持っていてつくづく恵まれている、と実感しかけたところだった。
や、良い友人には変わりない。
だが、こういうちゃっかりしているところが、コナーらしい。

猫なで声になったコナーに身構える。
コナーからのお願いか……いったい何を言われるんだ、怖えよ。
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