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本編

-241- 遣る瀬無さ アレックス視点

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「はー……」
「お疲れ様です」

服飾ギルドを出ると、思わずため息を吐いてしまうと、ジュードから労いの声がかかる。
店主との話し合いは、最初こそ難航を示していた。
若い……といっても、俺よりは皆年はいってるが、30代から40代の者たち。
“なぜ出禁にしたのか”の部分に拘った。

ただ単に“俺の不興を買った”というだけじゃ満足できないようだった。
うちの領は、領主と領民との垣根は他と比べてかなり低い。
だが、それでも一線を越えることなく慕ってくれるものが多かった。

しかしどうだ。
自分が不利になると、とたん自分優先になる。
落ち着いて現状を把握してる旨を伝えようとも、我先にと“いかに困っているか”を伝えてきた。
困っているということはわかったが、あの法外な取引を続けていたらいずれどこかが崩れるだろう。

『アレックス様はまだお若いからーーー』そう言われた時には、『だから何だ?』と返してしまった。
若かいから何なのか、領民のことをわかっていないとでもいうのか。
もし、祖父さまが祖母さんにレンと同じことをされたら?
怒り狂うのは目に見えてる。
や、祖母さんのことだから、これ幸いと自分から商会を潰しにかかるに違いない。


「悪かったな、ジュード、助かった」
「いいえ、アレックス様が謝る必要はございませんよ。
寧ろ、アレックス様はもっと怒っても良かったかもしれません。
領内の店主とはいえ、あのようでは……あのままではいずれ痛い目を見そうですよ」

結果だけを伝えれば満足するだろうと思っていたのに、なかなか言えないでいた。
ヒートアップしていく4人の店主に、だんだんと販路を設けること自体やる気が失せてきたときだった。
見かねてジュードが間に入ってくれた。

俺もジュードも“なぜ出禁にしたのか”については、レンを直接持ち出すことはしなかった。
だが、新しく適正な価格で販路を設けることをギルド長と話し合って決まったばかりだということを伝えてくれた。
側近の手を借りて解決したことに、悔しくないと言ったら噓になる。
自分たちよりずっと若く生まれながらにして貴族の領主より、年の近い領民の中でもカリスマ的な職に就いているジュードの方が聞く耳を持っていたのだから。


「俺は領に戻る前に、4店舗の前店主を訪ねてきます」
「は?今からか?」
「代替わりしたとはいえ、まだどの親父さんも元気のようですからね。
それに、セバスさんからも忠告されてました。
万が一アレックス様に対して失礼があれば、前店主に報告しろ、と。
テイラー商会がテイラー商会でしたからね、その上あのような取引を続けたいと思っている連中です。
恐らく、前店主と前商会長のころはうまく取引がされていたのでしょう。
現状を知れば、活を入れてくれるはずです。
皆領都に住んでると聞いてますし、その内2人は自衛団で元気に活動しているようですから」
「そうか……ならば頼む」
「お任せください。
アレックス様は、責任を感じる必要はございませんよ。
寧ろ、誇るべきです」

当然のように笑顔で伝えてくるジュードは、疲れた顔を一切見せもしないし、文句ひとつ言わない。
朝早くから連れ回してるんだ、疲れてはいるだろう。
これがセオだったら、疲れた顔を露わにブーブーと文句を垂れていることだろう。
レナードもあの店主らに冷たい視線を送りそうだ。

セオもレナードも戦闘能力も頭脳も高い。
だが、俺の欠点を上手くカバーしてくれるのは、ジュードだ。
誰か一人を選ばなければならないのなら、オールラウンド型のジュードになる。
それは、ジュードが年上だからというのが半分を占めているが、それにしたってうまく補佐してくれているもんだ。
仕事が増えただろうに。
今でもいい兄貴分であるが、それがありがたい。
けして、消去法だけで選んだわけじゃないと自負している。

「前店主への言伝を終えたらゆっくり休んでくれ」
「そうさせていただきます。アレックス様もあまり無理なさらず」
「ああ」

笑顔で見送られて魔法を発動する。
転移先は、我が家、エリソン侯爵邸だ。

一日と離れていないが、レンが恋しいかった。
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