241 / 441
本編
-241- 遣る瀬無さ アレックス視点
しおりを挟む
「はー……」
「お疲れ様です」
服飾ギルドを出ると、思わずため息を吐いてしまうと、ジュードから労いの声がかかる。
店主との話し合いは、最初こそ難航を示していた。
若い……といっても、俺よりは皆年はいってるが、30代から40代の者たち。
“なぜ出禁にしたのか”の部分に拘った。
ただ単に“俺の不興を買った”というだけじゃ満足できないようだった。
うちの領は、領主と領民との垣根は他と比べてかなり低い。
だが、それでも一線を越えることなく慕ってくれるものが多かった。
しかしどうだ。
自分が不利になると、とたん自分優先になる。
落ち着いて現状を把握してる旨を伝えようとも、我先にと“いかに困っているか”を伝えてきた。
困っているということはわかったが、あの法外な取引を続けていたらいずれどこかが崩れるだろう。
『アレックス様はまだお若いからーーー』そう言われた時には、『だから何だ?』と返してしまった。
若かいから何なのか、領民のことをわかっていないとでもいうのか。
もし、祖父さまが祖母さんにレンと同じことをされたら?
怒り狂うのは目に見えてる。
や、祖母さんのことだから、これ幸いと自分から商会を潰しにかかるに違いない。
「悪かったな、ジュード、助かった」
「いいえ、アレックス様が謝る必要はございませんよ。
寧ろ、アレックス様はもっと怒っても良かったかもしれません。
領内の店主とはいえ、あのようでは……あのままではいずれ痛い目を見そうですよ」
結果だけを伝えれば満足するだろうと思っていたのに、なかなか言えないでいた。
ヒートアップしていく4人の店主に、だんだんと販路を設けること自体やる気が失せてきたときだった。
見かねてジュードが間に入ってくれた。
俺もジュードも“なぜ出禁にしたのか”については、レンを直接持ち出すことはしなかった。
だが、新しく適正な価格で販路を設けることをギルド長と話し合って決まったばかりだということを伝えてくれた。
側近の手を借りて解決したことに、悔しくないと言ったら噓になる。
自分たちよりずっと若く生まれながらにして貴族の領主より、年の近い領民の中でもカリスマ的な職に就いているジュードの方が聞く耳を持っていたのだから。
「俺は領に戻る前に、4店舗の前店主を訪ねてきます」
「は?今からか?」
「代替わりしたとはいえ、まだどの親父さんも元気のようですからね。
それに、セバスさんからも忠告されてました。
万が一アレックス様に対して失礼があれば、前店主に報告しろ、と。
テイラー商会がテイラー商会でしたからね、その上あのような取引を続けたいと思っている連中です。
恐らく、前店主と前商会長のころはうまく取引がされていたのでしょう。
現状を知れば、活を入れてくれるはずです。
皆領都に住んでると聞いてますし、その内2人は自衛団で元気に活動しているようですから」
「そうか……ならば頼む」
「お任せください。
アレックス様は、責任を感じる必要はございませんよ。
寧ろ、誇るべきです」
当然のように笑顔で伝えてくるジュードは、疲れた顔を一切見せもしないし、文句ひとつ言わない。
朝早くから連れ回してるんだ、疲れてはいるだろう。
これがセオだったら、疲れた顔を露わにブーブーと文句を垂れていることだろう。
レナードもあの店主らに冷たい視線を送りそうだ。
セオもレナードも戦闘能力も頭脳も高い。
だが、俺の欠点を上手くカバーしてくれるのは、ジュードだ。
誰か一人を選ばなければならないのなら、オールラウンド型のジュードになる。
それは、ジュードが年上だからというのが半分を占めているが、それにしたってうまく補佐してくれているもんだ。
仕事が増えただろうに。
今でもいい兄貴分であるが、それがありがたい。
けして、消去法だけで選んだわけじゃないと自負している。
「前店主への言伝を終えたらゆっくり休んでくれ」
「そうさせていただきます。アレックス様もあまり無理なさらず」
「ああ」
笑顔で見送られて魔法を発動する。
転移先は、我が家、エリソン侯爵邸だ。
一日と離れていないが、レンが恋しいかった。
「お疲れ様です」
服飾ギルドを出ると、思わずため息を吐いてしまうと、ジュードから労いの声がかかる。
店主との話し合いは、最初こそ難航を示していた。
若い……といっても、俺よりは皆年はいってるが、30代から40代の者たち。
“なぜ出禁にしたのか”の部分に拘った。
ただ単に“俺の不興を買った”というだけじゃ満足できないようだった。
うちの領は、領主と領民との垣根は他と比べてかなり低い。
だが、それでも一線を越えることなく慕ってくれるものが多かった。
しかしどうだ。
自分が不利になると、とたん自分優先になる。
落ち着いて現状を把握してる旨を伝えようとも、我先にと“いかに困っているか”を伝えてきた。
困っているということはわかったが、あの法外な取引を続けていたらいずれどこかが崩れるだろう。
『アレックス様はまだお若いからーーー』そう言われた時には、『だから何だ?』と返してしまった。
若かいから何なのか、領民のことをわかっていないとでもいうのか。
もし、祖父さまが祖母さんにレンと同じことをされたら?
怒り狂うのは目に見えてる。
や、祖母さんのことだから、これ幸いと自分から商会を潰しにかかるに違いない。
「悪かったな、ジュード、助かった」
「いいえ、アレックス様が謝る必要はございませんよ。
寧ろ、アレックス様はもっと怒っても良かったかもしれません。
領内の店主とはいえ、あのようでは……あのままではいずれ痛い目を見そうですよ」
結果だけを伝えれば満足するだろうと思っていたのに、なかなか言えないでいた。
ヒートアップしていく4人の店主に、だんだんと販路を設けること自体やる気が失せてきたときだった。
見かねてジュードが間に入ってくれた。
俺もジュードも“なぜ出禁にしたのか”については、レンを直接持ち出すことはしなかった。
だが、新しく適正な価格で販路を設けることをギルド長と話し合って決まったばかりだということを伝えてくれた。
側近の手を借りて解決したことに、悔しくないと言ったら噓になる。
自分たちよりずっと若く生まれながらにして貴族の領主より、年の近い領民の中でもカリスマ的な職に就いているジュードの方が聞く耳を持っていたのだから。
「俺は領に戻る前に、4店舗の前店主を訪ねてきます」
「は?今からか?」
「代替わりしたとはいえ、まだどの親父さんも元気のようですからね。
それに、セバスさんからも忠告されてました。
万が一アレックス様に対して失礼があれば、前店主に報告しろ、と。
テイラー商会がテイラー商会でしたからね、その上あのような取引を続けたいと思っている連中です。
恐らく、前店主と前商会長のころはうまく取引がされていたのでしょう。
現状を知れば、活を入れてくれるはずです。
皆領都に住んでると聞いてますし、その内2人は自衛団で元気に活動しているようですから」
「そうか……ならば頼む」
「お任せください。
アレックス様は、責任を感じる必要はございませんよ。
寧ろ、誇るべきです」
当然のように笑顔で伝えてくるジュードは、疲れた顔を一切見せもしないし、文句ひとつ言わない。
朝早くから連れ回してるんだ、疲れてはいるだろう。
これがセオだったら、疲れた顔を露わにブーブーと文句を垂れていることだろう。
レナードもあの店主らに冷たい視線を送りそうだ。
セオもレナードも戦闘能力も頭脳も高い。
だが、俺の欠点を上手くカバーしてくれるのは、ジュードだ。
誰か一人を選ばなければならないのなら、オールラウンド型のジュードになる。
それは、ジュードが年上だからというのが半分を占めているが、それにしたってうまく補佐してくれているもんだ。
仕事が増えただろうに。
今でもいい兄貴分であるが、それがありがたい。
けして、消去法だけで選んだわけじゃないと自負している。
「前店主への言伝を終えたらゆっくり休んでくれ」
「そうさせていただきます。アレックス様もあまり無理なさらず」
「ああ」
笑顔で見送られて魔法を発動する。
転移先は、我が家、エリソン侯爵邸だ。
一日と離れていないが、レンが恋しいかった。
49
お気に入りに追加
1,079
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
僕の兄は◯◯です。
山猫
BL
容姿端麗、才色兼備で周囲に愛される兄と、両親に出来損ない扱いされ、疫病除けだと存在を消された弟。
兄の監視役兼影のお守りとして両親に無理やり決定づけられた有名男子校でも、異性同性関係なく堕としていく兄を遠目から見守って(鼻ほじりながら)いた弟に、急な転機が。
「僕の弟を知らないか?」
「はい?」
これは王道BL街道を爆走中の兄を躱しつつ、時には巻き込まれ、時にはシリアス(?)になる弟の観察ストーリーである。
文章力ゼロの思いつきで更新しまくっているので、誤字脱字多し。広い心で閲覧推奨。
ちゃんとした小説を望まれる方は辞めた方が良いかも。
ちょっとした笑い、息抜きにBLを好む方向けです!
ーーーーーーーー✂︎
この作品は以前、エブリスタで連載していたものです。エブリスタの投稿システムに慣れることが出来ず、此方に移行しました。
今後、こちらで更新再開致しますのでエブリスタで見たことあるよ!って方は、今後ともよろしくお願い致します。
神様ぁ(泣)こんなんやだよ
ヨモギ丸
BL
突然、上から瓦礫が倒れ込んだ。雪羽は友達が自分の名前を呼ぶ声を最期に真っ白な空間へ飛ばされた。
『やぁ。殺してしまってごめんね。僕はアダム、突然だけど......エバの子孫を助けて』
「??あっ!獣人の世界ですか?!」
『あぁ。何でも願いを叶えてあげるよ』
「じゃ!可愛い猫耳」
『うん、それじゃぁ神の御加護があらんことを』
白い光に包まれ雪羽はあるあるの森ではなく滝の中に落とされた
「さ、、((クシュ))っむい」
『誰だ』
俺はふと思った。え、ほもほもワールド系なのか?
ん?エバ(イブ)って女じゃねーの?
その場で自分の体をよーく見ると猫耳と尻尾
え?ん?ぴ、ピエん?
修正
(2020/08/20)11ページ(ミス) 、17ページ(方弁)
ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
貧乏Ωの憧れの人
ゆあ
BL
妊娠・出産に特化したΩの男性である大学1年の幸太には耐えられないほどの発情期が周期的に訪れる。そんな彼を救ってくれたのは生物的にも社会的にも恵まれたαである拓也だった。定期的に体の関係をもつようになった2人だが、なんと幸太は妊娠してしまう。中絶するには番の同意書と10万円が必要だが、貧乏学生であり、拓也の番になる気がない彼にはどちらの選択もハードルが高すぎて……。すれ違い拗らせオメガバースBL。
エブリスタにて紹介して頂いた時に書いて貰ったもの
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる