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本編
-240- 服飾ギルドの面目 アレックス視点
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「気立ての良い優しいお方のようですね」
「ああ、俺には勿体ないくらいだ」
「何をおっしゃいますか……こちらのパウンドケーキは皆さんでいただきましょう。
ーーーこのままお話を進めても?」
ギルド長は柔らかな表情を幾分か固くしてから俺の顔を見てくる。
レンのくれたメッセージカードと昼飯に顔が緩みまくってたかもしれない。
「ああ、頼む」
気持ちを切り替えるように一息つき、頷いた。
「テイラー商会のお取引と領内の出禁を行ったことで、今まで取引をされていた7店舗が少なからず影響が出ました。
7店舗の内3店舗は『アレックス様がおっしゃるなら』という理由で納得されましたが、他の4店舗の亭主は、ギルドに救いを求めてきました。
洋服店が2店舗、装飾店が1店舗、靴屋が1店舗でございます。
どの店も領都の一等地に店を構え、貴族や豪商を相手にする老舗店でございます。
テイラー商会が各店舗に下ろしていた素材は少々特殊でして、魔物の素材が中心。
とても珍しい生地で、代々ずっとお取引していた品々のようです」
「テイラー商会以外に扱っている品ではないのか?リストがあれば見せてくれ」
「こちらでございます」
渡された用紙を受け取り、テイラー商会から搬入している品を目に入れるが……なんだこれは。
俺を試したいのか?
「……ギルド長、俺を試してるのか?」
「めっそうもございません!このお値段で取引がされておりました」
「馬鹿言え、俺でもわかるぞ。少なくとも相場の2倍から3倍はするだろうが」
マジックホワイトグース、魔蚕の絹織、ワイバーンの革地等々。
決まった店でしか購入したことはないし、金額をほど細かに確認するなどはしない。
素材が高くとも、作り手の手間と技術料、品質のブランド、その総合だと思っているからだ。
だが、それを差し引いたとしてこの値はあり得ないだろ。
今回は、全て紋章を許可していない店だ。
4店舗の情報は、あらかじめセバスから情報を得て聞いていたが、比較的若い亭主だった。
「現在の商会長へ代替わりした際、少しずつ金額が吊り上がったようなのです。
ですが、代々からのお取引であり、別商会からの販路がないのでこちらに頼るしかない状態でございました」
「これらの素材は独占販売ではないだろ?ギルドの方で販路の融通きかないのか?」
「取り扱っている工房は、すでに商会と契約を結ばれている工房ばかり。それらの商会は帝都を中心としている服飾系の商会で、エリソン侯爵領の店舗とはお取引が出来かねると。店と直接取引している工房もいくつか存在してはいますが、親戚筋の工房や自店工房で、そちらは量を下ろせないとのことです」
申し訳ないような顔のギルド長を目に入れてしまえば、彼を攻めるわけにはいかない。
テイラー商会の取引は中止、エリソン侯爵領は出禁、この二つは変えられない。
ならば、俺がやることは一つだ。
「わかった。これらの搬入経路を俺が確保すれば問題ないな?
確保するからには適正価格を約束する。
販路の確保が出来たらギルドの方でも斡旋してくれ。
とりあえず早急に7店舗分。
必要量を表にしてほしいが」
「こちらにございます」
さすがギルド長、7店舗分の量をまとめてきた。
7店舗の内3店舗は、紋章を認めている店か……これはこれで問題だ。
「俺を頼るなら、販路を通すにあたり服飾ギルドを通さずとも構わないな?」
「……良くはございませんが、商人ギルドへ?」
「服飾ギルドで出来ないならそうなる」
「………」
ギルド長が押し黙る。
ギルド同士というのは、他のギルドとは手を組まない場合が多い。
ライバル関係にあたる場合は特に、だ。
服飾系の店舗は、通常、服飾ギルドに所属している。
商会もしかり。
だが、幅広く多くの品を扱う商会は、商人ギルドに席を置いている場合が多い。
キャンベル商会もその一つだ。
「キャンベル商会を通し、新しい販路を確保できないか打診する。
この量なら、十中八九、かなり早い段階で通してくるはずだ。
この件に関して服飾ギルド側で規制をかけることのないよう。
また、同素材に関して相談を持ち掛けられた際は、情報を閉ざすことのないよう命ずる」
頼めば、コナーなら伝手を使ってやり通すだろう。
多少難しくとも。
寧ろ、多少無理難題吹っ掛けたほうが、あいつは商人魂に火が付くようで燃えるらしい。
さほど時間はかからないはずだ。
俺がキャンベル商会に対してやることは、服飾ギルドからの横やりや報復で商売がうまく回らないなんてことがないよう取り付けることだ。
工房を確保するにあたって、ギルドの移行が必要な場合もしかり。
「……他に方法は?」
この件でいったら、服飾ギルドも少なからず痛手を負う方法だ。
だが、なんの責任がないとは言えないだろ。
多少の痛手を負うことで、今後、こういった法外な取引には目を光らせて貰わなければ困る。
「最善最速の方法だと思うが?
ギルド長、今回の件に関しては、そちらにも問題がある。
この値段の取引を許していたのは問題だ。一度もなんの相談も受けなかったわけじゃないだろ?」
「仰る通りでございます」
「今回、陳情書をこちらによこした4店舗は、素材が手に入らなくなったから困っている、間違いないな?」
「さようでございます」
「適正価格の販路を確保すれば、問題は須く解決する、違いないな?」
「その通りでございます……アレックス様の命に従い、この件に関しましては全面的に協力し、情報を開示致します」
「よろしく頼む」
「ああ、俺には勿体ないくらいだ」
「何をおっしゃいますか……こちらのパウンドケーキは皆さんでいただきましょう。
ーーーこのままお話を進めても?」
ギルド長は柔らかな表情を幾分か固くしてから俺の顔を見てくる。
レンのくれたメッセージカードと昼飯に顔が緩みまくってたかもしれない。
「ああ、頼む」
気持ちを切り替えるように一息つき、頷いた。
「テイラー商会のお取引と領内の出禁を行ったことで、今まで取引をされていた7店舗が少なからず影響が出ました。
7店舗の内3店舗は『アレックス様がおっしゃるなら』という理由で納得されましたが、他の4店舗の亭主は、ギルドに救いを求めてきました。
洋服店が2店舗、装飾店が1店舗、靴屋が1店舗でございます。
どの店も領都の一等地に店を構え、貴族や豪商を相手にする老舗店でございます。
テイラー商会が各店舗に下ろしていた素材は少々特殊でして、魔物の素材が中心。
とても珍しい生地で、代々ずっとお取引していた品々のようです」
「テイラー商会以外に扱っている品ではないのか?リストがあれば見せてくれ」
「こちらでございます」
渡された用紙を受け取り、テイラー商会から搬入している品を目に入れるが……なんだこれは。
俺を試したいのか?
「……ギルド長、俺を試してるのか?」
「めっそうもございません!このお値段で取引がされておりました」
「馬鹿言え、俺でもわかるぞ。少なくとも相場の2倍から3倍はするだろうが」
マジックホワイトグース、魔蚕の絹織、ワイバーンの革地等々。
決まった店でしか購入したことはないし、金額をほど細かに確認するなどはしない。
素材が高くとも、作り手の手間と技術料、品質のブランド、その総合だと思っているからだ。
だが、それを差し引いたとしてこの値はあり得ないだろ。
今回は、全て紋章を許可していない店だ。
4店舗の情報は、あらかじめセバスから情報を得て聞いていたが、比較的若い亭主だった。
「現在の商会長へ代替わりした際、少しずつ金額が吊り上がったようなのです。
ですが、代々からのお取引であり、別商会からの販路がないのでこちらに頼るしかない状態でございました」
「これらの素材は独占販売ではないだろ?ギルドの方で販路の融通きかないのか?」
「取り扱っている工房は、すでに商会と契約を結ばれている工房ばかり。それらの商会は帝都を中心としている服飾系の商会で、エリソン侯爵領の店舗とはお取引が出来かねると。店と直接取引している工房もいくつか存在してはいますが、親戚筋の工房や自店工房で、そちらは量を下ろせないとのことです」
申し訳ないような顔のギルド長を目に入れてしまえば、彼を攻めるわけにはいかない。
テイラー商会の取引は中止、エリソン侯爵領は出禁、この二つは変えられない。
ならば、俺がやることは一つだ。
「わかった。これらの搬入経路を俺が確保すれば問題ないな?
確保するからには適正価格を約束する。
販路の確保が出来たらギルドの方でも斡旋してくれ。
とりあえず早急に7店舗分。
必要量を表にしてほしいが」
「こちらにございます」
さすがギルド長、7店舗分の量をまとめてきた。
7店舗の内3店舗は、紋章を認めている店か……これはこれで問題だ。
「俺を頼るなら、販路を通すにあたり服飾ギルドを通さずとも構わないな?」
「……良くはございませんが、商人ギルドへ?」
「服飾ギルドで出来ないならそうなる」
「………」
ギルド長が押し黙る。
ギルド同士というのは、他のギルドとは手を組まない場合が多い。
ライバル関係にあたる場合は特に、だ。
服飾系の店舗は、通常、服飾ギルドに所属している。
商会もしかり。
だが、幅広く多くの品を扱う商会は、商人ギルドに席を置いている場合が多い。
キャンベル商会もその一つだ。
「キャンベル商会を通し、新しい販路を確保できないか打診する。
この量なら、十中八九、かなり早い段階で通してくるはずだ。
この件に関して服飾ギルド側で規制をかけることのないよう。
また、同素材に関して相談を持ち掛けられた際は、情報を閉ざすことのないよう命ずる」
頼めば、コナーなら伝手を使ってやり通すだろう。
多少難しくとも。
寧ろ、多少無理難題吹っ掛けたほうが、あいつは商人魂に火が付くようで燃えるらしい。
さほど時間はかからないはずだ。
俺がキャンベル商会に対してやることは、服飾ギルドからの横やりや報復で商売がうまく回らないなんてことがないよう取り付けることだ。
工房を確保するにあたって、ギルドの移行が必要な場合もしかり。
「……他に方法は?」
この件でいったら、服飾ギルドも少なからず痛手を負う方法だ。
だが、なんの責任がないとは言えないだろ。
多少の痛手を負うことで、今後、こういった法外な取引には目を光らせて貰わなければ困る。
「最善最速の方法だと思うが?
ギルド長、今回の件に関しては、そちらにも問題がある。
この値段の取引を許していたのは問題だ。一度もなんの相談も受けなかったわけじゃないだろ?」
「仰る通りでございます」
「今回、陳情書をこちらによこした4店舗は、素材が手に入らなくなったから困っている、間違いないな?」
「さようでございます」
「適正価格の販路を確保すれば、問題は須く解決する、違いないな?」
「その通りでございます……アレックス様の命に従い、この件に関しましては全面的に協力し、情報を開示致します」
「よろしく頼む」
応援ありがとうございます!
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