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本編

-239- 実技

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ひたすらセオを相手に、棍で挑んだ90分。
間何度かセオがストップをかけてきたけれど、流石にくたくただ。
こんなに運動したのは久しぶりかもしれない。
持久力と体力には自信があったけれど、もっとつけなくちゃなあ。
ランニングして底上げした方が良い気がする。
きっと、膝も腕も筋肉痛だ。

「……正直、こんなに持つは思いませんでした。
レン様かなり体力ありますねえ」

セオが、汗で張り付いた髪を鬱陶しそうにかき上げて、感心したように呟く。
それでも、全然息が乱れてないのは流石としか言いようがない。
セオは、僕の棍を紙一重で綺麗によけたり腕でいなしたり受け止めたりしてきた。
腕というか、腕にまとう風がそうしてるので、当たってはいない。

セオの言う“慣れ”っていうのは、人に向けて躊躇なく使えるための、“慣れ”だった。
カンフーを習い、棍を習ったからといっても、実際は全て役のためにしてきたことだ。
魅せるための武術と、自身を守るための武術は、根本的に意識が違う。
『俺は絶対当たりませんし怪我しませんから、まずは躊躇なく人に向けて操れるようにしてください』そう言われた。
セオからの攻撃はなく、向かってくるセオをひたすら相手するだけ。
すぐに意識を変えるのは思ったよりも難しいことだった。

セオはぱぱっと浄化もかけて、涼しげな顔で僕を見てくる。
僕はそんな余裕はない。
荒い息を整えつつ、棍を手にそのまましゃがみ込んだ。
とたんセオの顔が心配そうに歪むけれど、僕が笑顔で見上げるとすぐにほっとした表情を向けてくる。

「こんなに、動いたの……久しぶりだよ。全然、足りない。もっと、体力つけなくちゃ」
「十分だと思いますよ?」
「あるに、こしたことない、でしょ?」
「まあ、そうですけどねえ」
「セオ、凄いね……全然、息も乱れないなんて」
「俺は風でズルしてますからね」
「それでも、だよ」

今日使って思ったけれど、この棒、結構使いやすい。
滑ることなく手に馴染むし、これなら手に豆も出来にくい気がする。
軽すぎず適度な重さがあるから回しやすいし、掌は全く痛くないから豆も出来にくいと思う。

「この棒、ずっと借りててもいいかな?」
「大丈夫だと思いますよ、後でロブ爺に言っておきます」
「うん。あー……なんか、道のり長いなって感じだよ」

息が整ってきたところで、差しのばされたセオの手を取り立ち上がる。
家に入って、お昼までは領内についてのお勉強だ。
すっきりした状態で頭を使えるのは集中できそうだ。
いいかもしれない。

「そんなことないですよ!それだけ動けたら、うちの使用人試験だったら、迷わず実技は合格ですよ」
「そっかな?……ん?うちの使用人試験って……実技って、そういうアレなの?」
「そうですよ?いざという時守るものも守れなかったら困るでしょ?」

セオが何でもないように告げてくる。
明後日から行う使用人の面談は、一次面談と二次面談があって、一次を通過した人だけが二次に進める。
一次面談は、質疑応答、二次面談はそれに加えて実技を設けるって聞いていた。
実技内容は、侯爵邸に相応しい使用人の動きがどれほど身についているか、って聞いていたんだよね。

「てっきり、姿勢だとか所作についてだと思ってたよ」
「もちろんそれもありますよ?」
「そっか」
「出来てないから失格ってわけじゃないですけどね、伸びしろも考慮されるといいと思います」
「わかった。セオの時は、試験はなかったの?」
「ありましたよ?爺さまの縁で入りましたけど、お茶入れがありましたね」
「お茶入れ……なのに、戦闘力も見られるの?」
「爺さまの攻撃をかわし受けつつお茶を入れるっていう感じですね」

セオは笑いながらいうけれど、僕からしたらなにそれ?って感じだ。
そんな攻撃されながらお茶を入れる機会なんてそうそうないよ。
映画の世界じゃあるまいし。

「合格してるなら、うまくいったんだよね?」
「うーん……物理的にはお茶は入りましたね、零すことなく、時間制限以内に、怪我もなく、且つ優雅に」
「そっか」
「我ながら上手くいったと思いましたけど、味は最悪でした」

やっぱりすごいなあ、と感心したところで、セオは落ちを伝えてきた。
味が最悪って。
紅茶ってそんなに不味くいれられるものなのかな?

「数種類の紅茶を選ぶところから始まりましたからね、それまで紅茶なんて入れ方どれも同じだと思ってました。
香りの良いものを選んで混ぜたのもいけなかったんでしょうね。
そんときの紅茶を飲んだ爺さまの顔は今でもしっかり覚えてます、傑作でしたよ」

試験で出されたお茶には、色々と罠があったみたいだ。
セオが面白おかしく話すから、僕もセバスの表情を想像して笑う。
今ではセオは美味しい紅茶を出してくれる。
初めは出来なくとも、あとから身につけられるだろうと思えるなら問題ないってことだ。
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