232 / 441
本編
-232- 粋な計らい アレックス視点
しおりを挟む
「アレックス様、この度はお呼びだてして申し訳ございません。
迅速なご対応、何とお礼を申し上げれば良いか……本当にありがとうございます」
領都にある服飾ギルドは、帝国内においても比較的大きな支部だ。
うちの領だと、服飾ギルドの支部は少なく、領都とフィーテルに1つずつあるのみ。
だが、今のところ増やして欲しいとの要望などは出ておらず、どちらの支部もそこそこの大きさがあるからか、2ヶ所で上手く回っているようだった。
ここのギルド長は長く務めていて、そろそろ定年を迎えてもいいころだろうか。
以前会った時よりも大分皺と白髪が増えている。
恭しく頭を下げてくるこのギルド長は、エリソン侯爵領内にある子爵家、クリフォード家出身の者だ。
貴族出身ながら服飾ギルド員になったのは、ひとえに服や布地に興味があったから、らしい。
自ら店を持つことは様々な理由でままならなかったが、こうしてやりたい仕事に就いているのだから尊敬すべき相手でもある。
「ギルド長自らの出迎えに感謝する」
「とんでもございません。さっそくですが応接室へとご案内いたします」
「よろしく頼む」
この時間は少し人が引けているとはいえ、スーツ姿の俺と正装のジュードはすぐに領民の視線を惹きつける。
“アレックス様だ”“おめでとうございます!”とあちこちで祝いの言葉が上がり、手をあげてそれに応える。
そうすると、また歓声があがる。
自領じゃなきゃこんなことは起きないが、だからこそありがたいとも思う。
「先ほどセオ様がいらっしゃいまして、先に応接室へお通ししてございます」
「は?……や、セオが来てるのか」
「はい、奥方様の命を受けてお越しになったそうです。
遅ればせながら、アレックス様、ご結婚おめでとうございます。
まだお約束の時間まで少しありますから、セオ様がいらっしゃる方へご案内いたします」
「ああ、頼む」
素っ頓狂な声を素で上げてしまい、一瞬言葉に詰まる。
レンに何か緊急なことでも起きたのか、と心配になったが、レンの指示と聞いてほっとする。
昨夜の夕食以降顔を合わせていないから、様子でも見てくるように頼んだのだろうか。
応接室が開くと、ソファに腰かけていたセオが立ち上がりこちらへと軽く頭を下げてくる。
なんだ、やっぱり何か急ぎで報告しなければならないことでも起きたのか?と身構えると、顔を上げたセオはにこやかに俺とジュードを見る。
「レン様からのご指示で、昼食をお届けしました」
「……マジか」
届けるためだけに、正装したのか?と思っていると、セオはすぐさま答えを述べてきた。
「俺が正装してきたのは爺さまがうるさく言うからで。本当はさくっと預けて帰ろうとも思ったんですが」
「や、悪い。お前が来てると聞いて、何か起こったんじゃないかと身構えた」
「なんも起こりませんよー、あ、ちゃんとジュードの分も用意するように言われてきてるよ」
「え?俺のも?」
「そー。アレックス様と同じものとはいかないだろうけれど、ジュードの分も、立って食べられる方がいいのかな?って。いい子だよねえ、本当に」
セオがしみじみといい子だ、と呟くが、本当にいい子だ。
「ここで食べちゃっていいみたいですよ?」
「や、だが……」
「今日アレックス様が来るっていうんで、先に別の部屋で今回陳情書を出した4人の店主はもう集まってるようなんです。
ただ、アレックス様の対応が予想以上に早いこともあって、4人での顔合わせもまだだったらしく。
それ兼ねて、のようです。
事情をお話したら、みなさんびっくりされて、どうぞ私らは気にせずゆっくり食べてください、と言ってました。
なので、食べながらギルド長と打ち合わせしていただいて、その後で移動されたらいいと思います」
「助かる。ーーージュード、お前も俺の横、座って食べてくれ」
「ありがとうございます。お言葉に甘えます」
「ギルド長、すまない」
「いいえ、滅相もございません」
セオの図らいに感謝する。
俺の前に重箱が置かれて、その蓋を取られると、なんともまあ、また色彩豊かな凝った品々が並んでいた。
イアンもだが、マーティンもレンが来てからと言うもの、より見た目にも味にも凝ったものを出してくる。
少し遅れてから女性ギルド員が人数分のお茶と茶菓子を運んでやってきた。
セオは自分のものは断わりつつ、別箱に入ったデザートをも前に置き、蓋をあける。
デザートの箱は白かったが、内側に花模様のある器だ。
調和するようなフルーツゼリーが美しい。
「今日は、レン様は外、厩近くの芝生でこちらと同じものをお召し上がりです。
同じものを届けて欲しいとのご要望にお応えしてます。
それと、こちらがレン様からのメッセージカードです」
薄いエメラルド色の綺麗なカードを差し出されて、受け取る。
すぐさま開くと、美しい綺麗な文字が飛び込んでくる。
レンの文字を見るのは、初めてだ。
セバスから、文字も書ける、心配いらない、実に綺麗で美しい文字だとは聞いていたが、本当に手本のように綺麗な文字だ。
レン自身の名前、サインには態と少し崩しているようで、特徴があるところが良い。
真似したくとも出来ないはずだ。
ーーーアレックスへ。
昨夜は遅く、今朝は早く出かけたと聞きました。
しっかり食べて、無理せず、休めるときに休んでね。
追伸
セオの体術試験に受かったよ。
明日から稽古をつけてくれるそうです。
レンよりーーー
「受かったのか」
「はい、手は抜いてません。やられました。
ーーーアレックス様」
「なんだ」
やられました、と言いながらも、セオは嬉しそうに笑う。
レンの出来に喜んでいるのだろうな。
その笑顔をすぐに真顔に変えて、俺を見てきた。
「この話し合いが終わりましたら、宮廷に行かれる前に一度エリソン侯爵邸へお戻りください。
お茶の時間も過ぎるかと思いますが、ほんの少し……10分程でもいいので。
レン様、寂しそうにしてましたから」
「わかった。必ず戻る」
「ありがとうございます。ーーーさて、じゃあ、俺は戻りますねー。
あ、こっちはジュードのね、俺も同じサンド食ったけど、めちゃくちゃ美味かったよ。
それと、これは侯爵邸のコンフェから皆さんへ。
パウンドケーキです」
「ありがとうございます」
「では、俺はこれで」
セオは、テキパキと用を済ませて、最後にパウンドケーキの入ってるだろう箱をギルド長へと手渡し、ぺこりと頭を下げて足取り軽くその場を後にする。
帰りは案内を待つまでもなく、必要を感じていないのだろうな。
最初は丁寧に応じていたが、必ず戻ると伝えると、途端扱いが雑になった。
早く戻りたいという気が見え隠れしていた。
それが、実にセオらしい。
その背を見送ると、扉が閉まるやいなや全員から苦笑が漏れた。
迅速なご対応、何とお礼を申し上げれば良いか……本当にありがとうございます」
領都にある服飾ギルドは、帝国内においても比較的大きな支部だ。
うちの領だと、服飾ギルドの支部は少なく、領都とフィーテルに1つずつあるのみ。
だが、今のところ増やして欲しいとの要望などは出ておらず、どちらの支部もそこそこの大きさがあるからか、2ヶ所で上手く回っているようだった。
ここのギルド長は長く務めていて、そろそろ定年を迎えてもいいころだろうか。
以前会った時よりも大分皺と白髪が増えている。
恭しく頭を下げてくるこのギルド長は、エリソン侯爵領内にある子爵家、クリフォード家出身の者だ。
貴族出身ながら服飾ギルド員になったのは、ひとえに服や布地に興味があったから、らしい。
自ら店を持つことは様々な理由でままならなかったが、こうしてやりたい仕事に就いているのだから尊敬すべき相手でもある。
「ギルド長自らの出迎えに感謝する」
「とんでもございません。さっそくですが応接室へとご案内いたします」
「よろしく頼む」
この時間は少し人が引けているとはいえ、スーツ姿の俺と正装のジュードはすぐに領民の視線を惹きつける。
“アレックス様だ”“おめでとうございます!”とあちこちで祝いの言葉が上がり、手をあげてそれに応える。
そうすると、また歓声があがる。
自領じゃなきゃこんなことは起きないが、だからこそありがたいとも思う。
「先ほどセオ様がいらっしゃいまして、先に応接室へお通ししてございます」
「は?……や、セオが来てるのか」
「はい、奥方様の命を受けてお越しになったそうです。
遅ればせながら、アレックス様、ご結婚おめでとうございます。
まだお約束の時間まで少しありますから、セオ様がいらっしゃる方へご案内いたします」
「ああ、頼む」
素っ頓狂な声を素で上げてしまい、一瞬言葉に詰まる。
レンに何か緊急なことでも起きたのか、と心配になったが、レンの指示と聞いてほっとする。
昨夜の夕食以降顔を合わせていないから、様子でも見てくるように頼んだのだろうか。
応接室が開くと、ソファに腰かけていたセオが立ち上がりこちらへと軽く頭を下げてくる。
なんだ、やっぱり何か急ぎで報告しなければならないことでも起きたのか?と身構えると、顔を上げたセオはにこやかに俺とジュードを見る。
「レン様からのご指示で、昼食をお届けしました」
「……マジか」
届けるためだけに、正装したのか?と思っていると、セオはすぐさま答えを述べてきた。
「俺が正装してきたのは爺さまがうるさく言うからで。本当はさくっと預けて帰ろうとも思ったんですが」
「や、悪い。お前が来てると聞いて、何か起こったんじゃないかと身構えた」
「なんも起こりませんよー、あ、ちゃんとジュードの分も用意するように言われてきてるよ」
「え?俺のも?」
「そー。アレックス様と同じものとはいかないだろうけれど、ジュードの分も、立って食べられる方がいいのかな?って。いい子だよねえ、本当に」
セオがしみじみといい子だ、と呟くが、本当にいい子だ。
「ここで食べちゃっていいみたいですよ?」
「や、だが……」
「今日アレックス様が来るっていうんで、先に別の部屋で今回陳情書を出した4人の店主はもう集まってるようなんです。
ただ、アレックス様の対応が予想以上に早いこともあって、4人での顔合わせもまだだったらしく。
それ兼ねて、のようです。
事情をお話したら、みなさんびっくりされて、どうぞ私らは気にせずゆっくり食べてください、と言ってました。
なので、食べながらギルド長と打ち合わせしていただいて、その後で移動されたらいいと思います」
「助かる。ーーージュード、お前も俺の横、座って食べてくれ」
「ありがとうございます。お言葉に甘えます」
「ギルド長、すまない」
「いいえ、滅相もございません」
セオの図らいに感謝する。
俺の前に重箱が置かれて、その蓋を取られると、なんともまあ、また色彩豊かな凝った品々が並んでいた。
イアンもだが、マーティンもレンが来てからと言うもの、より見た目にも味にも凝ったものを出してくる。
少し遅れてから女性ギルド員が人数分のお茶と茶菓子を運んでやってきた。
セオは自分のものは断わりつつ、別箱に入ったデザートをも前に置き、蓋をあける。
デザートの箱は白かったが、内側に花模様のある器だ。
調和するようなフルーツゼリーが美しい。
「今日は、レン様は外、厩近くの芝生でこちらと同じものをお召し上がりです。
同じものを届けて欲しいとのご要望にお応えしてます。
それと、こちらがレン様からのメッセージカードです」
薄いエメラルド色の綺麗なカードを差し出されて、受け取る。
すぐさま開くと、美しい綺麗な文字が飛び込んでくる。
レンの文字を見るのは、初めてだ。
セバスから、文字も書ける、心配いらない、実に綺麗で美しい文字だとは聞いていたが、本当に手本のように綺麗な文字だ。
レン自身の名前、サインには態と少し崩しているようで、特徴があるところが良い。
真似したくとも出来ないはずだ。
ーーーアレックスへ。
昨夜は遅く、今朝は早く出かけたと聞きました。
しっかり食べて、無理せず、休めるときに休んでね。
追伸
セオの体術試験に受かったよ。
明日から稽古をつけてくれるそうです。
レンよりーーー
「受かったのか」
「はい、手は抜いてません。やられました。
ーーーアレックス様」
「なんだ」
やられました、と言いながらも、セオは嬉しそうに笑う。
レンの出来に喜んでいるのだろうな。
その笑顔をすぐに真顔に変えて、俺を見てきた。
「この話し合いが終わりましたら、宮廷に行かれる前に一度エリソン侯爵邸へお戻りください。
お茶の時間も過ぎるかと思いますが、ほんの少し……10分程でもいいので。
レン様、寂しそうにしてましたから」
「わかった。必ず戻る」
「ありがとうございます。ーーーさて、じゃあ、俺は戻りますねー。
あ、こっちはジュードのね、俺も同じサンド食ったけど、めちゃくちゃ美味かったよ。
それと、これは侯爵邸のコンフェから皆さんへ。
パウンドケーキです」
「ありがとうございます」
「では、俺はこれで」
セオは、テキパキと用を済ませて、最後にパウンドケーキの入ってるだろう箱をギルド長へと手渡し、ぺこりと頭を下げて足取り軽くその場を後にする。
帰りは案内を待つまでもなく、必要を感じていないのだろうな。
最初は丁寧に応じていたが、必ず戻ると伝えると、途端扱いが雑になった。
早く戻りたいという気が見え隠れしていた。
それが、実にセオらしい。
その背を見送ると、扉が閉まるやいなや全員から苦笑が漏れた。
49
お気に入りに追加
1,079
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
神様ぁ(泣)こんなんやだよ
ヨモギ丸
BL
突然、上から瓦礫が倒れ込んだ。雪羽は友達が自分の名前を呼ぶ声を最期に真っ白な空間へ飛ばされた。
『やぁ。殺してしまってごめんね。僕はアダム、突然だけど......エバの子孫を助けて』
「??あっ!獣人の世界ですか?!」
『あぁ。何でも願いを叶えてあげるよ』
「じゃ!可愛い猫耳」
『うん、それじゃぁ神の御加護があらんことを』
白い光に包まれ雪羽はあるあるの森ではなく滝の中に落とされた
「さ、、((クシュ))っむい」
『誰だ』
俺はふと思った。え、ほもほもワールド系なのか?
ん?エバ(イブ)って女じゃねーの?
その場で自分の体をよーく見ると猫耳と尻尾
え?ん?ぴ、ピエん?
修正
(2020/08/20)11ページ(ミス) 、17ページ(方弁)
その子俺にも似てるから、お前と俺の子供だよな?
かかし
BL
会社では平凡で地味な男を貫いている彼であったが、私生活ではその地味な見た目に似合わずなかなかに派手な男であった。
長く続く恋よりも一夜限りの愛を好み、理解力があって楽しめる女性を一番に好んだが、包容力があって甘やかしてくれる年上のイケメン男性にも滅法弱かった。
恋人に関しては片手で数えれる程であったが、一夜限りの相手ならば女性だけカウントしようか、男性だけカウントしようが、両手両足使っても数え切れない程に節操がない男。
(本編一部抜粋)
※男性妊娠モノじゃないです
※人によって不快になる表現があります
※攻め受け共にお互い以外と関係を持っている表現があります
全七話、14,918文字
毎朝7:00に自動更新
倫理観がくちゃくちゃな大人2人による、わちゃわちゃドタバタラブコメディ!
………の、つもりで書いたのですが、どうにも違う気がする。
過去作(二次創作)のセルフリメイクです
もったいない精神
貧乏Ωの憧れの人
ゆあ
BL
妊娠・出産に特化したΩの男性である大学1年の幸太には耐えられないほどの発情期が周期的に訪れる。そんな彼を救ってくれたのは生物的にも社会的にも恵まれたαである拓也だった。定期的に体の関係をもつようになった2人だが、なんと幸太は妊娠してしまう。中絶するには番の同意書と10万円が必要だが、貧乏学生であり、拓也の番になる気がない彼にはどちらの選択もハードルが高すぎて……。すれ違い拗らせオメガバースBL。
エブリスタにて紹介して頂いた時に書いて貰ったもの
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる