231 / 445
本編
-231- 予定外に アレックス視点
しおりを挟む
「悪いな、ジュード。このまま服飾ギルドへ向かうことになりそうだ」
「いいえ、俺は昨日早く休ませてもらったのでまだ余力はあります」
「そうか」
苦笑いで答えるジュードに少しだけ安堵し、時刻を確認する。
現在、13時45分。
服飾ギルドの約束まであと15分。
そこまで時間を切り詰めたつもりはなかった。
市場の方は遅くとも午前中に片付くと思っていたし、昼食はレンと取るつもりでいた。
間に一度ジュードをエリソン侯爵邸に戻してから、宮廷に出仕するつもりでもいた。
それが狂った理由は、テイラー商会長が予想以上に遅く来たことと、一部の騎士団がもめ事を抑えるどころかもめ事を起こしていたからだ。
もめ事を起こしていたその騎士団は、市場の花にケチをつけ、あり得ないほどに値段を下げろと店主に脅しをかけたらしい。
だが、市場の連中はうちの連中だ。
相手が騎士団であろうと、市井の人間であろうと、商品にケチをつけられた挙句、不当に値を下げろと言われて素直に応じるやからではない。
例にもれず、声も体格もでかい店主は、頑として譲らなかった。
それを目にした警備隊が、間に入った。
警備隊はうちの領民だ。
当然店主の見方をした。
まあ、誰が見てもこの場合はその騎士団が悪い。
権力をかさにかけて不当に値段を下げて商品を手に入れようとしたわけだ。
しかも、勤務中に。
あり得ないだろ?色々と。
流石は、左遷されてきたぼんくらぼんぼんだ。
この分じゃ、入隊も親からの口添えがあったに違いないな。
そいつはあろうことか警備隊相手に剣を抜いた。
対峙していた警備隊は若かったが冷静であり優秀だった。
自分が剣を抜けば、立場的に不利になることが分かっていた。
剣は抜かずに警棒を手にした。
うちの警備隊がもつ武器は、なにも剣だけじゃない。
警棒という、魔力を流すことで伸縮するミスリル製の棒も支給している。
警棒は、先を相手に押し込むことで相手の魔力の流れを狂わせ立ち眩みのような眩暈を起こさせることが出来る棒だ。
相手を酷く酔ったような状態にさせるだけのものだが、これが剣よりも良く抜かれる。
その場から動けなくなるほどには、良く効くんだ。
相手に傷をつけずにその場を取り押さえることが出来る。
因みに相手を取り押さえて拘束するための魔道具は、勿論魔力制御付きである。
他にもいろいろと開発しては警備隊の連中が実験を重ねた上で商品化したものはいくつかあるが、とにかくその警棒を使用し、若き優秀な警備隊は、気ばかりデカい阿呆な騎士団を取り押さえた。
そして、取り押さえたところからがまた問題が発生。
どちらに非があるか見るに明らかだが、その騎士団は伯爵家の末弟、四男坊だった。
身分を振りかざし、警備隊の非を大声で唱え始めた。
迷惑極まりないその男の相手に、俺が登場、というわけだ。
やつはとたん真っ赤な顔を真っ青に変えてうろたえ始めたが、もう遅い。
班長に責任を問えば、案の定存知らぬ存ぜぬを貫いてきたので、今回の件にかんしては家に責任を問うこととした。
だが、これでうちの区画担当の騎士団を変更してもらうよう掛け合える。掛け合うというか、抗議だな。班長ではなく、第二騎士団の団長に、だ。
団長は話のわかる方だが、身分を重んじてもいる。どこまで受けてくれるかは、正直わからないが。
騒ぎを起こした伯爵家は、親も長男も領地だというが、次男三男は宮廷の文官だったので、宮廷に戻りそっちを呼び出した。
こう続いて伯爵家の人間を捉える羽目になると、他領の伯爵家っつーのはろくなもんがいないのか?と疑いたくなるが、それはきちんとしている伯爵家に申し訳ない。
今回は、そいつの兄二人は至極まともな者たちだった。
幾度と問題を起こしている末の弟に、親も兄も手を焼いているらしい。
後日改めて謝罪を行うとし、事を収めた。
因みに、指揮を取る原因となったテイラー商会長だが、予想外に遅く来たものの、市場の敷地内に入る前に取り押さえることに成功したため、こちらは被害もなく片付いた。
まさか俺が出てくるとは思わなかった商会長は、とたん青ざめた顔で小さくなった。
レンが、師匠の、スペンサー公の養子だと告げれば、へなへなと座り込み、終わりだおしまいだを繰り返し呟くばかり。
うちの領地では一切取引しないことと、領地に足を踏み入れることを禁じることを再度突きつけて送り返す。
貴族の対応としては甘い、と言われるかもしれない。
商会のひとつやふたつ潰すのは簡単だ。
だがそれをしてしまうと、関係のない人間を、多くの者を路頭に迷わせてしまう。
それは俺にとっては不本意だし、敵を増やしちまう。
現に、取引しないとしただけで、うちの領地のいくつかの店と服飾ギルドとで陳情書が届くくらいだ。
判断を見誤ってはいない、正しい判断だ、と自信をもって言えるが、その後のフォローは、領主としてどこまで対応してやれるか難しいところだ。
レンは、きちんと昼飯を食っただろうか?
本当は声が聞きたかったが、宮廷に戻りユージーンにも状況を告げた後セバスに連絡を入れた時には、レンはセオと体術の試験中だった。
本気で学びたいと思うレンに、必要ないと感じてるセオは手を抜かないだろう。
邪魔は出来なかった。
「アレックス様、一度エリソン邸に戻られては?」
服飾ギルドの裏道へと転移し、ギルドに向かうため1歩踏み出した時だった。
気遣わしげにジュードが聞いてくる。
ただのいざこざで呼び出されたのならば少しばかり遅れても良いかもしれないが、今回は事が事だ、早めに着いておきたい。
「いや...」
「アレックス様だけでも。今から少しだけ、10分ほどなら十分許されると思います。俺が繋いでおきますよ?」
ジュードは優秀だ。剣術だけでなく、対話術においても。
ジュードには、何故か人を穏やかにさせる力がある。
俺の代わりに度々苦情を受けているが、領民はジュードの前だと苛立ちが凪いでいくようで、問題事の事実のみきちんと伝えてくる。
慕われているにしろ、苦情自体が直接俺の行いのせいでは無いにしろ、本人の技量だと思っている。
「いや、時間前にギルド長とだけ話せればそれにこしたことない。行くぞ」
「畏まりました」
「いいえ、俺は昨日早く休ませてもらったのでまだ余力はあります」
「そうか」
苦笑いで答えるジュードに少しだけ安堵し、時刻を確認する。
現在、13時45分。
服飾ギルドの約束まであと15分。
そこまで時間を切り詰めたつもりはなかった。
市場の方は遅くとも午前中に片付くと思っていたし、昼食はレンと取るつもりでいた。
間に一度ジュードをエリソン侯爵邸に戻してから、宮廷に出仕するつもりでもいた。
それが狂った理由は、テイラー商会長が予想以上に遅く来たことと、一部の騎士団がもめ事を抑えるどころかもめ事を起こしていたからだ。
もめ事を起こしていたその騎士団は、市場の花にケチをつけ、あり得ないほどに値段を下げろと店主に脅しをかけたらしい。
だが、市場の連中はうちの連中だ。
相手が騎士団であろうと、市井の人間であろうと、商品にケチをつけられた挙句、不当に値を下げろと言われて素直に応じるやからではない。
例にもれず、声も体格もでかい店主は、頑として譲らなかった。
それを目にした警備隊が、間に入った。
警備隊はうちの領民だ。
当然店主の見方をした。
まあ、誰が見てもこの場合はその騎士団が悪い。
権力をかさにかけて不当に値段を下げて商品を手に入れようとしたわけだ。
しかも、勤務中に。
あり得ないだろ?色々と。
流石は、左遷されてきたぼんくらぼんぼんだ。
この分じゃ、入隊も親からの口添えがあったに違いないな。
そいつはあろうことか警備隊相手に剣を抜いた。
対峙していた警備隊は若かったが冷静であり優秀だった。
自分が剣を抜けば、立場的に不利になることが分かっていた。
剣は抜かずに警棒を手にした。
うちの警備隊がもつ武器は、なにも剣だけじゃない。
警棒という、魔力を流すことで伸縮するミスリル製の棒も支給している。
警棒は、先を相手に押し込むことで相手の魔力の流れを狂わせ立ち眩みのような眩暈を起こさせることが出来る棒だ。
相手を酷く酔ったような状態にさせるだけのものだが、これが剣よりも良く抜かれる。
その場から動けなくなるほどには、良く効くんだ。
相手に傷をつけずにその場を取り押さえることが出来る。
因みに相手を取り押さえて拘束するための魔道具は、勿論魔力制御付きである。
他にもいろいろと開発しては警備隊の連中が実験を重ねた上で商品化したものはいくつかあるが、とにかくその警棒を使用し、若き優秀な警備隊は、気ばかりデカい阿呆な騎士団を取り押さえた。
そして、取り押さえたところからがまた問題が発生。
どちらに非があるか見るに明らかだが、その騎士団は伯爵家の末弟、四男坊だった。
身分を振りかざし、警備隊の非を大声で唱え始めた。
迷惑極まりないその男の相手に、俺が登場、というわけだ。
やつはとたん真っ赤な顔を真っ青に変えてうろたえ始めたが、もう遅い。
班長に責任を問えば、案の定存知らぬ存ぜぬを貫いてきたので、今回の件にかんしては家に責任を問うこととした。
だが、これでうちの区画担当の騎士団を変更してもらうよう掛け合える。掛け合うというか、抗議だな。班長ではなく、第二騎士団の団長に、だ。
団長は話のわかる方だが、身分を重んじてもいる。どこまで受けてくれるかは、正直わからないが。
騒ぎを起こした伯爵家は、親も長男も領地だというが、次男三男は宮廷の文官だったので、宮廷に戻りそっちを呼び出した。
こう続いて伯爵家の人間を捉える羽目になると、他領の伯爵家っつーのはろくなもんがいないのか?と疑いたくなるが、それはきちんとしている伯爵家に申し訳ない。
今回は、そいつの兄二人は至極まともな者たちだった。
幾度と問題を起こしている末の弟に、親も兄も手を焼いているらしい。
後日改めて謝罪を行うとし、事を収めた。
因みに、指揮を取る原因となったテイラー商会長だが、予想外に遅く来たものの、市場の敷地内に入る前に取り押さえることに成功したため、こちらは被害もなく片付いた。
まさか俺が出てくるとは思わなかった商会長は、とたん青ざめた顔で小さくなった。
レンが、師匠の、スペンサー公の養子だと告げれば、へなへなと座り込み、終わりだおしまいだを繰り返し呟くばかり。
うちの領地では一切取引しないことと、領地に足を踏み入れることを禁じることを再度突きつけて送り返す。
貴族の対応としては甘い、と言われるかもしれない。
商会のひとつやふたつ潰すのは簡単だ。
だがそれをしてしまうと、関係のない人間を、多くの者を路頭に迷わせてしまう。
それは俺にとっては不本意だし、敵を増やしちまう。
現に、取引しないとしただけで、うちの領地のいくつかの店と服飾ギルドとで陳情書が届くくらいだ。
判断を見誤ってはいない、正しい判断だ、と自信をもって言えるが、その後のフォローは、領主としてどこまで対応してやれるか難しいところだ。
レンは、きちんと昼飯を食っただろうか?
本当は声が聞きたかったが、宮廷に戻りユージーンにも状況を告げた後セバスに連絡を入れた時には、レンはセオと体術の試験中だった。
本気で学びたいと思うレンに、必要ないと感じてるセオは手を抜かないだろう。
邪魔は出来なかった。
「アレックス様、一度エリソン邸に戻られては?」
服飾ギルドの裏道へと転移し、ギルドに向かうため1歩踏み出した時だった。
気遣わしげにジュードが聞いてくる。
ただのいざこざで呼び出されたのならば少しばかり遅れても良いかもしれないが、今回は事が事だ、早めに着いておきたい。
「いや...」
「アレックス様だけでも。今から少しだけ、10分ほどなら十分許されると思います。俺が繋いでおきますよ?」
ジュードは優秀だ。剣術だけでなく、対話術においても。
ジュードには、何故か人を穏やかにさせる力がある。
俺の代わりに度々苦情を受けているが、領民はジュードの前だと苛立ちが凪いでいくようで、問題事の事実のみきちんと伝えてくる。
慕われているにしろ、苦情自体が直接俺の行いのせいでは無いにしろ、本人の技量だと思っている。
「いや、時間前にギルド長とだけ話せればそれにこしたことない。行くぞ」
「畏まりました」
50
お気に入りに追加
1,093
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
αからΩになった俺が幸せを掴むまで
なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。
10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。
義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。
アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。
義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が…
義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。
そんな海里が本当の幸せを掴むまで…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる