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本編

-229- 試験

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「いつでもどうぞ、本気で来てください。
もし、1回でも攻撃が入ったら合格です」

朝食を食べ終わって、薔薇が咲き誇る庭園を散策した後は、庭の一角にある芝生の上で“僕の試験”だ。
セオから体術と短剣を教わるためのもの。
1ヒットでもセオに入れることが出来たら僕の合格だ。
出来なかったら、不合格。
不合格になったらセオは教えてくれないというから、合格以外ありえない。

セオは、スキルや武器は使わない上に自分から攻撃はしないという。
僕からの攻撃はよけるか、いなすか、受け止めるかのどれかで対応する。
セオが受け止められずに僕の攻撃が入れば合格。

一見簡単そうだけれど、セオはエリソン侯爵邸の中で体術が一番だっていう。
上級使用人は、体術と武器ありきなんだって。
なんと、セバスどころかアニーも戦えるって聞いたときはびっくりしたよ。
物腰も受け答えもとても穏やかで上品なアニーなのに、体術も短剣もそれなりに出来るって教えて貰った。
アニーがそれなりっていうくらいだから、きっと得意なんだと思う。

アニーはメイド服だけれど、白襟で紺地のロングワンピースに白いエプロン。
髪型は、いつもシニヨンできっちりまとめられて白いカバーをつけてる。
フリルもリボンもないけれど、いつもぴしっと着こなしている。
そのメイド服の中にも、シニヨンの中にも武器となるものを隠してるんだって、凄いよね。

そんな中での一番が、セオだ。
心してかからないと。
だって、セオは僕の体術と短剣は必要ないって思ってるくらいだ。
手は抜いてくれないはず。

一度大きく深呼吸をしてから、精神を整える。

「お願いしますーーー」

今まで師範に習ってきたときと同じように“お願いします”と告げてから、攻撃に入った。


僕はウェイトもないし、力自体も強くない。
筋肉をつけることも、仕事柄セーブしてたし、付けようと思ってもなかなかつかない体質だっていうことも分かった。
となると、武器になるのは柔軟性と素早さ。
型にはまりきらないように、それも人に魅せる動き、というのに重きをおいて習ってきた。
実践的とは違う、役者として使える動きだった。

だからかな?全然ヒットしない。
全身使っても、セオはひょいひょい軽くよけるし、片手で軽くいなしてくるし、上下に緩急をつけても速度を上げても、だ。
これは……かなり、思っていたよりもずっと厳しいかもしれない。


「レン様ー、そろそろ諦めます?」
「ううん……っ諦めない!」

笑いながら聞いてくるセオは、余裕がありすぎる。
僕の息が少しずつ上がってきたところで、諦めるか聞いてきた。
時間制限つけなかったのは、セオだ。
だったら、諦めるわけにはいかない。

僕の答えに苦笑してくるセオに、一瞬隙が出来たように思えた。
咄嗟のことだったけれど、いなされそうになった右手を掴んで自分に引き寄せる。
引き寄せると同時、綺麗な笑みを作った。
僕の武器と言えるのは、何も手足だけじゃない。
綺麗だと言われる顔も武器だ。
そう教えてくれたのは、師範の一番弟子でもある女性だった。

セオの顔が一瞬、びっくりしたような顔になる。
引き寄せてから、突き放すように距離をとって、体制を崩してがら空きになったセオの胸元めがけて拳を打ち込んだ。

「………」
「………」

僕の拳は、セオの掌の中だ。
ふたりして動きが止まる。

「駄目かあ……」

諦めたくないし、諦めない。
諦めないけれど、正直そろそろ休憩が欲しい。

「いいえ、少し入ってます。……合格です」
「え?」

どうやら、セオは受け止めきれなかったようだ。
ほんの少しだけれど、胸元に届いていたらしい。

「っ本当!?っやった!……よかったー!!」
「っちょ、レン様、汚れる!ああ、ゴロゴロしないでください」

その場で背中を芝生に預けて、嬉しさにゴロンと一回転するとセオが止めに入る。

正直、入らなかったら、ヒットしないイメージが出来上がっちゃってた。
がむしゃらにやったって、あの後じゃ難しかったと思う。

「ああ、服も頭も芝生がついちゃってますよー」
「だって、嬉しかったから」

へにょっとした顔で草を払ってくるセオに、嬉しさを隠さず告げる。

「立ってください、ああ、もう、目閉じてください」

セオの手を借りて目を閉じると、ふわっと風が僕を包んでからやむ。
風魔法で草を払ってくれたみたいだ。
自分で浄化してもよかったんだけれどなーと思うけれど、セオの心遣いが嬉しい。

「ありがとう、セオ」
「どういたしまして。体術は明日からにしましょうね、今日はもう終わりです。短剣は、もうちょっと経ってからです」
「わかった、よろしくね」
「はい。あーあ」

僕の顔を見て、あーあって、残念そうな顔を隠さずに言ってくる。
なんかすごく幼い言い方で、思わずくすりと笑みが浮かぶ。

「ふふっ何それ」
「やられたなあって思いまして」
「何で?」
「不合格にする気満々だったんで。でも、レン様が今まで努力して身に着けたスキルですもんね。
こうなったらとことん磨いて、高見を目指しましょう。お手伝いします」
「頼りにしてるね」
「はい」
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