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本編

-227- 僕の欲しいもの

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「レン様ー、朝ですよー」

セオの声に、ぱちっと目が覚める。
あれ、これ昨日と同じだ……なんて思ったけれど、日の高さは昨日と違って紛れもなく朝だった。
でも、アレックスがいない。

「おはよう、セオ」
「はい、おはようございます」
「アレックスは?」
「アレックス様は、朝早くお出になりました。どうしても早朝に確認することが出来たようですよ」
「そっか……」
「一緒にご朝食を取れなくてすまない、だそうです」
「……戻っては来たんだよね?」
「はい。日付が回る前にはお戻りだったと聞いておりますよ」
「そっか、ありがとう」

セオから洗顔用のタオルを受け取る。
すっきりする香りで、温かさのある濡れタオル。
これだけで、心遣いを感じる。
アレックスがいなくても拗ねるわけにはいかない、と思いなおす。

でも、アレックスは、じゃあ12時前には帰ってきたけれど、朝早く出かけたってことか。
ちゃんと眠れたかな?

僕は昨日は早めに休むようにした。
アレックスにいってらっしゃいをしてからは、セオとセバスに少しだけエリソン侯爵領の色々と、周囲の他領との関係を教えて貰った。
まだ、周囲の領や貴族関係については細かく学ぶ必要はなくて、さらっと流してもらっただけだ。
まずは、エリソン侯爵領の色々を知って貰いたいと二人とも言っていたから、期待に応えたい。

『お風呂はお一人で入りますか?』ってセオに聞かれて、『うーん……アレックスがいないなら、浄化で良いや』って答えたら、『そういうと思いました』って返されちゃったよ。
だって、浄化だってお風呂上りと変わらないし、あの広いお風呂にぽつんと一人はいるのは、より寂しくなりそうな気分だったから。

セオの手を借りながら着替えて、髪も肌も整えて貰う。
こういうお世話になれてるのは、孤児院の子供たちの影響なのかな?

「はい、もういいですよ。今日も綺麗で可愛いレン様のできあがりです」
「……ありがと、セオ」
「どういたしまして」

綺麗で可愛いとの言葉になんて言えばいいか一瞬戸惑うけれど、お礼だけにとどめた。
大きく伸びをして、セオからお水を受け取る。
今日のお水は、ほんのりりんごの香りだ。
すっきりしてて美味しい。
ふとセオを見ると、僕の脱いだ服をまとめたり、ベッドを整えたりしていた。

「あ、ごめん」
「なにがですか?」
「脱ぎっぱなしにベッドもそのままで」
「こういうのは俺がやるんでいいんですよ、慣れてください」
「そっか、わかった」

そういえば昨日だってその前だって脱ぎっぱなしだったわけで。
仕事が役者なこともあって、顔も髪も服も弄られなれてる。
他人よりお世話されなれてるかもしれないけれど、脱ぎっぱなしやベッドそのままっていうのは、小さいころに何度も怒られてたからか、気がついた時にはどうしても悪いことって感じがしちゃうんだよね。
マネージャーと二人三脚で仕事をしていたけれど、こういう日常的なお世話とか、人と話すときには隣に座らないし会話にも参加しないで後ろにたつだとか、やっぱり違いはたくさんある。
会話への参加は人によるだろうけれど、慣れてください、って言われたのだから慣れなくちゃ。
やってもらうのが当然だ、とは全然思えないけれど、慣れすぎも良くないよね、悪いなとは思わずとも感謝だけは忘れずにいたい。

「少しストレッチする時間ある?」
「ありますよ、どうぞ」

水分を取ったら、ストレッチ。
以前の朝のルーティンと同じだ。

ストレッチをしながら、セオに話しかける。特になにも考えなくても出来るくらいには、ストレッチの順番も身についてる。

「アレックス、朝食べてた?」
「いいえ、ですが、マーティンが急ごしらえでサンドイッチを作ってそれをもって出られましたよ」
「そっか、なら安心だね」

朝ごはんを食べないと力は出ないと思う。
朝食べないほうがいい説と、朝はしっかり食べたほうがいい説と両方あるみたいだけれど、僕は断然後者だ。
お腹が減った状態だと、お腹が減った方に集中しちゃうと思うんだよね。

こっちに来てから、毎日ご馳走を食べてる。

「セオ、体重計ってある?体組成計は、ないよね?」
「“タイソセイケイ”ってなんです?体重計は大人用のはないですね、うちにないだけで物としては存在しますよ、必要です?」
「体組成計っていうのは、身長とか年齢を入れると、体脂肪率とか消費カロリーとかBMIとかが出るんだけれど……あ、ないよね」
「ないですね。体重計は、病院にはあるので医療装置扱いなんですが、必要でしたら取り寄せますよ?」
「大きい?」
「まあ、そうですね、このくらいはありますね」

そういって、セオが手をかざしてくる。
うん、大きい。
昔からある銭湯においてあるやつみたいな感じかな?
電気がないんだからデジタルなんてものはなく、アナログだ。

「小さいのはないの?」
「小さいのは幼児用ですね」
「そっか。前は小さいのがあって毎朝測定してたんだけれど、大きいと邪魔になっちゃうよね」

部屋にどーんと体重計が置いてあったら、なんだかミスマッチだ。

「うーん、そうですね……脱衣場に置くのはどうです?」
「それなら邪魔にならないかも」

それこそ、さっき思い浮かべた銭湯感覚だ。

「高い?」
「お値段は気にしなくて大丈夫ですよ?」
「でも、高いなら──」
「この花瓶より全然お安いです。このお部屋にあるどの家具よりはずっと、だから大丈夫ですよ。他に欲しいものはありますか?」
「他に......あ、日記帳が欲しい」
「わかりました。欲しいものがあったら遠慮なく言ってくださいね、レン様用のお金はちゃんとあるんですから」
「うん。ありがとう」

僕用のお金があっても、僕が稼いだ訳じゃないから好き勝手使うことは出来ないし、気が引ける。
それに欲しい物って、これと言ってない......あ。

「どうしました?」
「ううん、なんでもない」
「ほんと、遠慮なく言ってくださいよ?」
「大丈夫、わかったよ」

セオが僕の正式な従者になったら、何かプレゼントしたいな、って思ったんだ。
決めるのはアレックスなんだと思うんだけど、僕はもう、セオ以外考えられないから、万が一アレックスが反対しても押し通す気でいる。
アレックスは僕のお願い事にはきっと弱い......って、そんなことには、ならないと思うけどね。

セオには喜んで貰いたいから、セバスに相談してみよう。
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