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本編
-224- 面倒ごと アレックス視点
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「顔を出せれば、と言っておきながらその後連絡もせず悪かったな」
「いやあ、この時期ですわあ、宮廷も領地もお忙しいでしょうなあ。
それに、えらい美しいご夫人を迎えられたばかりじゃあ、朝はしょうがない」
「……」
悪びれもなくでかい声でそう宣言されると、なんと返したらいいか返答に困る。
まあ、他貴族から色々うるさく言われようとも、すでに婚姻届けを出した後。
師匠が養子縁組の届をせっついた後だ、役所の提出が済受理後に脚下、とはならないはずだ。
「いやあ、ぼっちゃんにもようやく春ですなあ。おめでとうございます!」
「ああ」
ボブがデカい声で言うので、周りからも歓声が飛ぶ。
ボブたちはともかく、もうすでに出来上がってる奴らも多いな。
仕事終わりの一杯。
日が昇ってる時間から飲んだくれているが、日が昇らない時間から真面目に商いをやってる連中だ。
飲んで帰宅して眠って、また明日の夜が明けない時間から仕事となる。
エリソン侯爵領を支える薔薇を中心にした花市場と果物市場だ。
帝都にある市場の一角を占めてる、領にとっても大切な収入源。
明日には問題を解決しておきたい。
ジョッキで茶が置かれて、それを手に乾杯する。
何か食うか聞かれたが、すぐ戻ることを告げると亭主は祝いの言葉を述べて奥へと引っ込んでいく。
「で?ユージーンから、多少の経緯は聞いたが……」
「ああ、まあ、昼過ぎの出来事でしたからなあ、花市は終わって、うちはほとんど撤退した後だったので商売の邪魔にはなってないんですわあ」
「その後がうちですわ。客も引けてましたが、箱馬車で道を塞がれましてなあ。ありゃあ質が悪い」
「明日はあいてる時間に来るでしょうな」
「『明日出直してやる!首を洗って待っていろ!』と叫びながら警備隊に追い出されましたからなあ……ありゃあ来るでしょうな」
「そうか。なら、明日は朝一で顔を出し、直接俺から指示を出す。
その後は警備隊の見回りを強化させるが……騎士団の巡回は相変わらずか?」
「ああ、ありゃあなんの役にも立ちませんわ!」
うちの領が管理する区画は、領が金を出して場所を借りているので当然ながらうちの領の警備隊が見回ってるわけだが、帝都であるゆえに騎士団の巡回も行われている。
だが、市井を巡回する騎士団というのは、やる気のない奴らが多い。
特に、早朝、市場を巡回する騎士団は、半分寝ぼけた使えない連中が多いのだ。
回るだけ回るならまだいいが、本当に回ってるのか怪しく姿も見ない日というのもあるらしい。
帝都はこの国の一角にすぎないが、狭いようでいて広い。
騎士団にも色々と順列があり、皇族警備にあたる第一、帝都の安全を守る第二、地方への要請を受け、賊退治の他魔物や野生猛獣の討伐に対応し派遣される第三があり、ここはその第二にあたる。
だが、第二の連中でもさらなる順列、組み分けがあり、貴族の住宅が立ち並ぶ区画、貴族御用達の店が立ち並ぶ区画を担当するものは第二の連中でも上位。
市井の区画を担当するものは下位、その中でも豪商住宅や、商店街を中心に担当するものはまだシャキッとしてる。
だが、市場区画や市井の中層下層を担当するものは、やる気のない連中が多い。
それも当たり前だ。第一でやらかしたやつらの左遷先であるゆえ、だろう。
勿論、真面目に働いているやつらも一定数いるが、第一は貴族出身者が多く、元から第二の連中は半分以上が平民だ。
そうなると格差が開く一方で、デカい顔をして権力を振りかざすだけの使えない貴族出身の騎士と、やる気はあるが肩身の狭い平民の騎士が混合されている。
とくにうちはやっかみをかられやすい上に、田舎者と下に見られやすい。
さらに、警備隊が騎士をもしのぐ力を持っている。
そんな場所に、真面目な騎士があてられるはずもなく、もれなく使えない騎士が回ってくる。
何かあったとしても、うちの責任だからだ。
班長が使えないからな。
何を言っても無駄だとわかってから、労力の無駄だと、うちの連中は判断したんだ。
「まあ、昔のようにデカい顔をして商売の邪魔にならない分、今の方がマシですな」
「わかった。明日は非番の奴にも特別手当を出して増員する。
対応は俺と警備隊とで話をつける。
明日も安心して皆が働けるよう万全を期す。
花市と果物市は、うちの大事な収入源だ。
明日一日で片を付けるから、よろしく頼む」
「いやあ、この時期ですわあ、宮廷も領地もお忙しいでしょうなあ。
それに、えらい美しいご夫人を迎えられたばかりじゃあ、朝はしょうがない」
「……」
悪びれもなくでかい声でそう宣言されると、なんと返したらいいか返答に困る。
まあ、他貴族から色々うるさく言われようとも、すでに婚姻届けを出した後。
師匠が養子縁組の届をせっついた後だ、役所の提出が済受理後に脚下、とはならないはずだ。
「いやあ、ぼっちゃんにもようやく春ですなあ。おめでとうございます!」
「ああ」
ボブがデカい声で言うので、周りからも歓声が飛ぶ。
ボブたちはともかく、もうすでに出来上がってる奴らも多いな。
仕事終わりの一杯。
日が昇ってる時間から飲んだくれているが、日が昇らない時間から真面目に商いをやってる連中だ。
飲んで帰宅して眠って、また明日の夜が明けない時間から仕事となる。
エリソン侯爵領を支える薔薇を中心にした花市場と果物市場だ。
帝都にある市場の一角を占めてる、領にとっても大切な収入源。
明日には問題を解決しておきたい。
ジョッキで茶が置かれて、それを手に乾杯する。
何か食うか聞かれたが、すぐ戻ることを告げると亭主は祝いの言葉を述べて奥へと引っ込んでいく。
「で?ユージーンから、多少の経緯は聞いたが……」
「ああ、まあ、昼過ぎの出来事でしたからなあ、花市は終わって、うちはほとんど撤退した後だったので商売の邪魔にはなってないんですわあ」
「その後がうちですわ。客も引けてましたが、箱馬車で道を塞がれましてなあ。ありゃあ質が悪い」
「明日はあいてる時間に来るでしょうな」
「『明日出直してやる!首を洗って待っていろ!』と叫びながら警備隊に追い出されましたからなあ……ありゃあ来るでしょうな」
「そうか。なら、明日は朝一で顔を出し、直接俺から指示を出す。
その後は警備隊の見回りを強化させるが……騎士団の巡回は相変わらずか?」
「ああ、ありゃあなんの役にも立ちませんわ!」
うちの領が管理する区画は、領が金を出して場所を借りているので当然ながらうちの領の警備隊が見回ってるわけだが、帝都であるゆえに騎士団の巡回も行われている。
だが、市井を巡回する騎士団というのは、やる気のない奴らが多い。
特に、早朝、市場を巡回する騎士団は、半分寝ぼけた使えない連中が多いのだ。
回るだけ回るならまだいいが、本当に回ってるのか怪しく姿も見ない日というのもあるらしい。
帝都はこの国の一角にすぎないが、狭いようでいて広い。
騎士団にも色々と順列があり、皇族警備にあたる第一、帝都の安全を守る第二、地方への要請を受け、賊退治の他魔物や野生猛獣の討伐に対応し派遣される第三があり、ここはその第二にあたる。
だが、第二の連中でもさらなる順列、組み分けがあり、貴族の住宅が立ち並ぶ区画、貴族御用達の店が立ち並ぶ区画を担当するものは第二の連中でも上位。
市井の区画を担当するものは下位、その中でも豪商住宅や、商店街を中心に担当するものはまだシャキッとしてる。
だが、市場区画や市井の中層下層を担当するものは、やる気のない連中が多い。
それも当たり前だ。第一でやらかしたやつらの左遷先であるゆえ、だろう。
勿論、真面目に働いているやつらも一定数いるが、第一は貴族出身者が多く、元から第二の連中は半分以上が平民だ。
そうなると格差が開く一方で、デカい顔をして権力を振りかざすだけの使えない貴族出身の騎士と、やる気はあるが肩身の狭い平民の騎士が混合されている。
とくにうちはやっかみをかられやすい上に、田舎者と下に見られやすい。
さらに、警備隊が騎士をもしのぐ力を持っている。
そんな場所に、真面目な騎士があてられるはずもなく、もれなく使えない騎士が回ってくる。
何かあったとしても、うちの責任だからだ。
班長が使えないからな。
何を言っても無駄だとわかってから、労力の無駄だと、うちの連中は判断したんだ。
「まあ、昔のようにデカい顔をして商売の邪魔にならない分、今の方がマシですな」
「わかった。明日は非番の奴にも特別手当を出して増員する。
対応は俺と警備隊とで話をつける。
明日も安心して皆が働けるよう万全を期す。
花市と果物市は、うちの大事な収入源だ。
明日一日で片を付けるから、よろしく頼む」
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