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本編
-219- しばしのお別れ
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「渚君、お父さま、今日はありがとう!とても楽しかった」
あれからずっと歌ったわけじゃなかったけれど、その後もピアノのある部屋で3人で話をしたよ。
主に、渚君の僕に対する褒めちぎりな感想と、あれが好き、これが好き、に応えながら少しだけ歌うって……っていう感じだ。
時間が過ぎるのは思った以上に早くて、あっという間にふたりが帰る時間。
これから定期的に会えるってお互いにわかってるから、別れるときも心穏やかだ。
渚君も足りなかった僕はしっかり補充されたみたい。
途中、お父様が懐かしい歌が聞きたい、と言ってきた。
懐かしい歌?懐メロ?なんて思ったけれど、懐かしくなれるような曲だっていうから、イタリアが舞台のアニメの主題歌を歌った。
主人公は人買いに売られて煙突掃除をする貧しい暮らしのアニメだ。
母さんがまだ中学生くらいのときに放送していたアニメで、僕が見たのはDVDでだ。
まだ子役時代、決まった舞台の役が同じ世界観だったから、母さんと一緒に泣きながら見たっけ。
懐かしいといっても、渚君に元の世界のことを思い出させるには未練があると思うし、心残りが全くないっていったら嘘だと思う。
僕だって、会えるなら会いたい人がいる。
アレックスと一緒になるって決めたから、ここで暮らしていくって決めたから元の世界には戻らないけれど、渚君はどの程度未練があるかはわからない。
だから、僕が懐かしいって思える曲、曲がなんとなく懐かしいって思える曲にしたんだ。
父や母、故郷を懐かしむ歌詞の歌は、まだ歌うには早いと思った。
お父さまは、この曲をとても気に入ってくれたから、曲選びも成功したみたい。
エリソン侯爵邸のみんなに聞いてもらったのはあのメドレーだけだ。
また、聞いてもらえる機会がこれからはいつだってある。
「蓮君ー!僕のほうこそだよ!すっっっごーく楽しかった!イアンさんに製菓を教わるのも楽しみ!
本当にありがとう!」
「息子が良い子で嬉しいぞ。ーーー稀に見ない素直さだが、大丈夫か?」
渚君がキラキラとした顔でお礼を言ってくれるその横で、お父さまも優しい笑顔を向けてくれた。
大丈夫か、と確認した相手はセバスとセオにだ。
む。大丈夫だって胸を張って言いたいけれど、そうやって言われるとその自信がない。
「年明けの祝賀会までにはまだ時間がございますし、なにより演じることで上手く立ち回れることでしょう」
「ふむ……なるほど。まあでも、あいつがずっとそばにいられるわけでもないだろうからな、いつもは面倒で出てなかったが来年は俺も出るか」
「そうしていただけるととても心強く存じます」
セバスがお父様にどこか自慢げに告げる。
セバスの迷いない言葉に僕も少しだけ自信が湧いてきた。
メインキャラの大舞台が決まったっていう気持ちでいよう。
覚えることがいっぱいだろうけれど、セバスがいうようにまだ時間はあるもんね。
「次は、父親であり、教師だ」
「うん、楽しみにしてる」
「なにが習いたいか考えておけ」
「うん」
「時間や頻度はそっちで決めてくれ、聞いてから調整してやる」
「うん、ありがとう」
「ルカ、もっと優しく言って!それじゃあ、蓮君、またね!」
言い方があれだけれど、お父さまの声は楽しそうだ。
渚君は案の定咎めるけれど、お父さまは変わらないんだろうなあ。
だって、渚君に言われることに楽しんでるもん。
僕の使う魔法と違って、ふわっと二人の足元が円状の虹色に光って、二人を包み込むようにくるくると螺旋が立ち上ってから消えた。
後には、キラキラとした粒子が少しだけ宙を舞ってから完全に消える。
すごく綺麗な魔法だ。
「お父さまの魔法は綺麗だね」
「この国で一番素晴らしい魔法の使い手です」
「授業が楽しみ」
お父さまと渚君が帰った後に、アレックスが帰ってくるまで時間がある。
この時間を使って、使用人の面談の流れや、聞きたいこと、判断基準をセバスとアニーと共に詰めてく。
「面談中は、セオも後ろに控えてくれるんだったよね?」
「はい、レン様の後ろにおりますよ」
「ありがとう。うーん、僕ら3人で面談するのは良いんだけど、未婚で若い人の案内はレナードにお願いしたい。あと、その時は、下がらせないで部屋に留まって欲しいかな」
「嫌がるでしょうね……」
「でしょうね」
セバスとアニーが苦笑気味に呟く。
わかってるよ?
嫌なことさせるって。
けど、嫌がらせじゃなくてちゃんと理由がある。
「でも、雇っちゃってから面倒になるより良いでしょう?万が一、レナード目的で来られて仕事が疎かじゃ困るし、つきまとわれたりしたら、レナード自身がより困るでしょう?居心地が悪くて疲れちゃうよ?」
「確かに、それはありえますねー」
「でしょ?僕からお願いするから、スケジュールも調整して貰える?」
「畏まりました」
あれからずっと歌ったわけじゃなかったけれど、その後もピアノのある部屋で3人で話をしたよ。
主に、渚君の僕に対する褒めちぎりな感想と、あれが好き、これが好き、に応えながら少しだけ歌うって……っていう感じだ。
時間が過ぎるのは思った以上に早くて、あっという間にふたりが帰る時間。
これから定期的に会えるってお互いにわかってるから、別れるときも心穏やかだ。
渚君も足りなかった僕はしっかり補充されたみたい。
途中、お父様が懐かしい歌が聞きたい、と言ってきた。
懐かしい歌?懐メロ?なんて思ったけれど、懐かしくなれるような曲だっていうから、イタリアが舞台のアニメの主題歌を歌った。
主人公は人買いに売られて煙突掃除をする貧しい暮らしのアニメだ。
母さんがまだ中学生くらいのときに放送していたアニメで、僕が見たのはDVDでだ。
まだ子役時代、決まった舞台の役が同じ世界観だったから、母さんと一緒に泣きながら見たっけ。
懐かしいといっても、渚君に元の世界のことを思い出させるには未練があると思うし、心残りが全くないっていったら嘘だと思う。
僕だって、会えるなら会いたい人がいる。
アレックスと一緒になるって決めたから、ここで暮らしていくって決めたから元の世界には戻らないけれど、渚君はどの程度未練があるかはわからない。
だから、僕が懐かしいって思える曲、曲がなんとなく懐かしいって思える曲にしたんだ。
父や母、故郷を懐かしむ歌詞の歌は、まだ歌うには早いと思った。
お父さまは、この曲をとても気に入ってくれたから、曲選びも成功したみたい。
エリソン侯爵邸のみんなに聞いてもらったのはあのメドレーだけだ。
また、聞いてもらえる機会がこれからはいつだってある。
「蓮君ー!僕のほうこそだよ!すっっっごーく楽しかった!イアンさんに製菓を教わるのも楽しみ!
本当にありがとう!」
「息子が良い子で嬉しいぞ。ーーー稀に見ない素直さだが、大丈夫か?」
渚君がキラキラとした顔でお礼を言ってくれるその横で、お父さまも優しい笑顔を向けてくれた。
大丈夫か、と確認した相手はセバスとセオにだ。
む。大丈夫だって胸を張って言いたいけれど、そうやって言われるとその自信がない。
「年明けの祝賀会までにはまだ時間がございますし、なにより演じることで上手く立ち回れることでしょう」
「ふむ……なるほど。まあでも、あいつがずっとそばにいられるわけでもないだろうからな、いつもは面倒で出てなかったが来年は俺も出るか」
「そうしていただけるととても心強く存じます」
セバスがお父様にどこか自慢げに告げる。
セバスの迷いない言葉に僕も少しだけ自信が湧いてきた。
メインキャラの大舞台が決まったっていう気持ちでいよう。
覚えることがいっぱいだろうけれど、セバスがいうようにまだ時間はあるもんね。
「次は、父親であり、教師だ」
「うん、楽しみにしてる」
「なにが習いたいか考えておけ」
「うん」
「時間や頻度はそっちで決めてくれ、聞いてから調整してやる」
「うん、ありがとう」
「ルカ、もっと優しく言って!それじゃあ、蓮君、またね!」
言い方があれだけれど、お父さまの声は楽しそうだ。
渚君は案の定咎めるけれど、お父さまは変わらないんだろうなあ。
だって、渚君に言われることに楽しんでるもん。
僕の使う魔法と違って、ふわっと二人の足元が円状の虹色に光って、二人を包み込むようにくるくると螺旋が立ち上ってから消えた。
後には、キラキラとした粒子が少しだけ宙を舞ってから完全に消える。
すごく綺麗な魔法だ。
「お父さまの魔法は綺麗だね」
「この国で一番素晴らしい魔法の使い手です」
「授業が楽しみ」
お父さまと渚君が帰った後に、アレックスが帰ってくるまで時間がある。
この時間を使って、使用人の面談の流れや、聞きたいこと、判断基準をセバスとアニーと共に詰めてく。
「面談中は、セオも後ろに控えてくれるんだったよね?」
「はい、レン様の後ろにおりますよ」
「ありがとう。うーん、僕ら3人で面談するのは良いんだけど、未婚で若い人の案内はレナードにお願いしたい。あと、その時は、下がらせないで部屋に留まって欲しいかな」
「嫌がるでしょうね……」
「でしょうね」
セバスとアニーが苦笑気味に呟く。
わかってるよ?
嫌なことさせるって。
けど、嫌がらせじゃなくてちゃんと理由がある。
「でも、雇っちゃってから面倒になるより良いでしょう?万が一、レナード目的で来られて仕事が疎かじゃ困るし、つきまとわれたりしたら、レナード自身がより困るでしょう?居心地が悪くて疲れちゃうよ?」
「確かに、それはありえますねー」
「でしょ?僕からお願いするから、スケジュールも調整して貰える?」
「畏まりました」
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