219 / 440
本編
-219- しばしのお別れ
しおりを挟む
「渚君、お父さま、今日はありがとう!とても楽しかった」
あれからずっと歌ったわけじゃなかったけれど、その後もピアノのある部屋で3人で話をしたよ。
主に、渚君の僕に対する褒めちぎりな感想と、あれが好き、これが好き、に応えながら少しだけ歌うって……っていう感じだ。
時間が過ぎるのは思った以上に早くて、あっという間にふたりが帰る時間。
これから定期的に会えるってお互いにわかってるから、別れるときも心穏やかだ。
渚君も足りなかった僕はしっかり補充されたみたい。
途中、お父様が懐かしい歌が聞きたい、と言ってきた。
懐かしい歌?懐メロ?なんて思ったけれど、懐かしくなれるような曲だっていうから、イタリアが舞台のアニメの主題歌を歌った。
主人公は人買いに売られて煙突掃除をする貧しい暮らしのアニメだ。
母さんがまだ中学生くらいのときに放送していたアニメで、僕が見たのはDVDでだ。
まだ子役時代、決まった舞台の役が同じ世界観だったから、母さんと一緒に泣きながら見たっけ。
懐かしいといっても、渚君に元の世界のことを思い出させるには未練があると思うし、心残りが全くないっていったら嘘だと思う。
僕だって、会えるなら会いたい人がいる。
アレックスと一緒になるって決めたから、ここで暮らしていくって決めたから元の世界には戻らないけれど、渚君はどの程度未練があるかはわからない。
だから、僕が懐かしいって思える曲、曲がなんとなく懐かしいって思える曲にしたんだ。
父や母、故郷を懐かしむ歌詞の歌は、まだ歌うには早いと思った。
お父さまは、この曲をとても気に入ってくれたから、曲選びも成功したみたい。
エリソン侯爵邸のみんなに聞いてもらったのはあのメドレーだけだ。
また、聞いてもらえる機会がこれからはいつだってある。
「蓮君ー!僕のほうこそだよ!すっっっごーく楽しかった!イアンさんに製菓を教わるのも楽しみ!
本当にありがとう!」
「息子が良い子で嬉しいぞ。ーーー稀に見ない素直さだが、大丈夫か?」
渚君がキラキラとした顔でお礼を言ってくれるその横で、お父さまも優しい笑顔を向けてくれた。
大丈夫か、と確認した相手はセバスとセオにだ。
む。大丈夫だって胸を張って言いたいけれど、そうやって言われるとその自信がない。
「年明けの祝賀会までにはまだ時間がございますし、なにより演じることで上手く立ち回れることでしょう」
「ふむ……なるほど。まあでも、あいつがずっとそばにいられるわけでもないだろうからな、いつもは面倒で出てなかったが来年は俺も出るか」
「そうしていただけるととても心強く存じます」
セバスがお父様にどこか自慢げに告げる。
セバスの迷いない言葉に僕も少しだけ自信が湧いてきた。
メインキャラの大舞台が決まったっていう気持ちでいよう。
覚えることがいっぱいだろうけれど、セバスがいうようにまだ時間はあるもんね。
「次は、父親であり、教師だ」
「うん、楽しみにしてる」
「なにが習いたいか考えておけ」
「うん」
「時間や頻度はそっちで決めてくれ、聞いてから調整してやる」
「うん、ありがとう」
「ルカ、もっと優しく言って!それじゃあ、蓮君、またね!」
言い方があれだけれど、お父さまの声は楽しそうだ。
渚君は案の定咎めるけれど、お父さまは変わらないんだろうなあ。
だって、渚君に言われることに楽しんでるもん。
僕の使う魔法と違って、ふわっと二人の足元が円状の虹色に光って、二人を包み込むようにくるくると螺旋が立ち上ってから消えた。
後には、キラキラとした粒子が少しだけ宙を舞ってから完全に消える。
すごく綺麗な魔法だ。
「お父さまの魔法は綺麗だね」
「この国で一番素晴らしい魔法の使い手です」
「授業が楽しみ」
お父さまと渚君が帰った後に、アレックスが帰ってくるまで時間がある。
この時間を使って、使用人の面談の流れや、聞きたいこと、判断基準をセバスとアニーと共に詰めてく。
「面談中は、セオも後ろに控えてくれるんだったよね?」
「はい、レン様の後ろにおりますよ」
「ありがとう。うーん、僕ら3人で面談するのは良いんだけど、未婚で若い人の案内はレナードにお願いしたい。あと、その時は、下がらせないで部屋に留まって欲しいかな」
「嫌がるでしょうね……」
「でしょうね」
セバスとアニーが苦笑気味に呟く。
わかってるよ?
嫌なことさせるって。
けど、嫌がらせじゃなくてちゃんと理由がある。
「でも、雇っちゃってから面倒になるより良いでしょう?万が一、レナード目的で来られて仕事が疎かじゃ困るし、つきまとわれたりしたら、レナード自身がより困るでしょう?居心地が悪くて疲れちゃうよ?」
「確かに、それはありえますねー」
「でしょ?僕からお願いするから、スケジュールも調整して貰える?」
「畏まりました」
あれからずっと歌ったわけじゃなかったけれど、その後もピアノのある部屋で3人で話をしたよ。
主に、渚君の僕に対する褒めちぎりな感想と、あれが好き、これが好き、に応えながら少しだけ歌うって……っていう感じだ。
時間が過ぎるのは思った以上に早くて、あっという間にふたりが帰る時間。
これから定期的に会えるってお互いにわかってるから、別れるときも心穏やかだ。
渚君も足りなかった僕はしっかり補充されたみたい。
途中、お父様が懐かしい歌が聞きたい、と言ってきた。
懐かしい歌?懐メロ?なんて思ったけれど、懐かしくなれるような曲だっていうから、イタリアが舞台のアニメの主題歌を歌った。
主人公は人買いに売られて煙突掃除をする貧しい暮らしのアニメだ。
母さんがまだ中学生くらいのときに放送していたアニメで、僕が見たのはDVDでだ。
まだ子役時代、決まった舞台の役が同じ世界観だったから、母さんと一緒に泣きながら見たっけ。
懐かしいといっても、渚君に元の世界のことを思い出させるには未練があると思うし、心残りが全くないっていったら嘘だと思う。
僕だって、会えるなら会いたい人がいる。
アレックスと一緒になるって決めたから、ここで暮らしていくって決めたから元の世界には戻らないけれど、渚君はどの程度未練があるかはわからない。
だから、僕が懐かしいって思える曲、曲がなんとなく懐かしいって思える曲にしたんだ。
父や母、故郷を懐かしむ歌詞の歌は、まだ歌うには早いと思った。
お父さまは、この曲をとても気に入ってくれたから、曲選びも成功したみたい。
エリソン侯爵邸のみんなに聞いてもらったのはあのメドレーだけだ。
また、聞いてもらえる機会がこれからはいつだってある。
「蓮君ー!僕のほうこそだよ!すっっっごーく楽しかった!イアンさんに製菓を教わるのも楽しみ!
本当にありがとう!」
「息子が良い子で嬉しいぞ。ーーー稀に見ない素直さだが、大丈夫か?」
渚君がキラキラとした顔でお礼を言ってくれるその横で、お父さまも優しい笑顔を向けてくれた。
大丈夫か、と確認した相手はセバスとセオにだ。
む。大丈夫だって胸を張って言いたいけれど、そうやって言われるとその自信がない。
「年明けの祝賀会までにはまだ時間がございますし、なにより演じることで上手く立ち回れることでしょう」
「ふむ……なるほど。まあでも、あいつがずっとそばにいられるわけでもないだろうからな、いつもは面倒で出てなかったが来年は俺も出るか」
「そうしていただけるととても心強く存じます」
セバスがお父様にどこか自慢げに告げる。
セバスの迷いない言葉に僕も少しだけ自信が湧いてきた。
メインキャラの大舞台が決まったっていう気持ちでいよう。
覚えることがいっぱいだろうけれど、セバスがいうようにまだ時間はあるもんね。
「次は、父親であり、教師だ」
「うん、楽しみにしてる」
「なにが習いたいか考えておけ」
「うん」
「時間や頻度はそっちで決めてくれ、聞いてから調整してやる」
「うん、ありがとう」
「ルカ、もっと優しく言って!それじゃあ、蓮君、またね!」
言い方があれだけれど、お父さまの声は楽しそうだ。
渚君は案の定咎めるけれど、お父さまは変わらないんだろうなあ。
だって、渚君に言われることに楽しんでるもん。
僕の使う魔法と違って、ふわっと二人の足元が円状の虹色に光って、二人を包み込むようにくるくると螺旋が立ち上ってから消えた。
後には、キラキラとした粒子が少しだけ宙を舞ってから完全に消える。
すごく綺麗な魔法だ。
「お父さまの魔法は綺麗だね」
「この国で一番素晴らしい魔法の使い手です」
「授業が楽しみ」
お父さまと渚君が帰った後に、アレックスが帰ってくるまで時間がある。
この時間を使って、使用人の面談の流れや、聞きたいこと、判断基準をセバスとアニーと共に詰めてく。
「面談中は、セオも後ろに控えてくれるんだったよね?」
「はい、レン様の後ろにおりますよ」
「ありがとう。うーん、僕ら3人で面談するのは良いんだけど、未婚で若い人の案内はレナードにお願いしたい。あと、その時は、下がらせないで部屋に留まって欲しいかな」
「嫌がるでしょうね……」
「でしょうね」
セバスとアニーが苦笑気味に呟く。
わかってるよ?
嫌なことさせるって。
けど、嫌がらせじゃなくてちゃんと理由がある。
「でも、雇っちゃってから面倒になるより良いでしょう?万が一、レナード目的で来られて仕事が疎かじゃ困るし、つきまとわれたりしたら、レナード自身がより困るでしょう?居心地が悪くて疲れちゃうよ?」
「確かに、それはありえますねー」
「でしょ?僕からお願いするから、スケジュールも調整して貰える?」
「畏まりました」
41
お気に入りに追加
1,079
あなたにおすすめの小説
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。
柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。
頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。
誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。
さくっと読める短編です。
僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした
なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。
「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」
高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。
そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに…
その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。
ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。
かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで…
ハッピーエンドです。
R18の場面には※をつけます。
瞳の代償 〜片目を失ったらイケメンたちと同居生活が始まりました〜
Kei
BL
昨年の春から上京して都内の大学に通い一人暮らしを始めた大学2年生の黒崎水樹(男です)。無事試験が終わり夏休みに突入したばかりの頃、水樹は同じ大学に通う親友の斎藤大貴にバンドの地下ライブに誘われる。熱狂的なライブは無事に終了したかに思えたが、……
「え!?そんな物までファンサで投げるの!?」
この物語は何処にでもいる(いや、アイドル並みの可愛さの)男子大学生が流れに流されいつのまにかイケメンの男性たちと同居生活を送る話です。
流血表現がありますが苦手な人はご遠慮ください。また、男性同士の恋愛シーンも含まれます。こちらも苦手な方は今すぐにホームボタンを押して逃げてください。
もし、もしかしたらR18が入る、可能性がないこともないかもしれません。
誤字脱字の指摘ありがとうございます
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる