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本編
-215- 精魔法といい子
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「師匠……誰を連れてくるつもりです?」
アレックスが恐る恐るお父さまに聞く。
そんなに問題になるようなことなのかな?
だって、精霊でしょう?
「ふむ……まあ、本人たちの意向を聞いてから、だな。
渚のことは皆大好きだから、争奪戦になりそうだ」
「っ……頼みますから平和に決めてください。それと、くれぐれも家を破壊しないでくださいよ?」
「精霊ってそんなに危険なの?」
「いや、普段危険というわけじゃないんだ。師匠と契約している精霊だから高位精霊ばかりだし、人型で普通にしていれば人そのものにしか見えない。
精霊だ、と言われなければ人間と思われるだろう。だが、人より圧倒的な強さをもっている上に、感情の起伏が激しいんだ。
力の強い精霊を怒らせると、天災にもつながりかねない」
「さすがにそこまでのはいないぞ」
「一瞬で家を半壊させるほどの力はあるでしょう?」
「一瞬で戻せる力もあるぞ」
「………」
あ、アレックスが折れた。
精魔法って根本的な使い方が違うんだっけ?
お父さまと目が合う。
「精魔法って他の属性魔法とどうちがうの?
精霊の力を借りて魔法を使うって言うのはわかるんだけれど」
「ああ、通常の魔法は自分の魔力そのものを糧に魔法を使うのに対し、精魔法は自分の魔力を餌にして精霊の力を借りて魔法を使う。
精霊によっては、膨大な魔法を扱える上に、属性を選ばないのが特徴だ。
呼び出してからその場だけ力を借りることもあれば、相性が良ければそのまま契約していつでも力を借りることも出来る」
思い通りに魔法が使えるなら、とても便利だ。
魔法を使うときの工程は増えるわけだけれど、属性問わないなら、使いこなせたらかなり便利そう。
それに、精霊を呼びだすっていうのが、またすごくファンタジーだ。
「半面、自分の魔力で制御できないような精霊を呼び出した場合は、枯渇することもあるし、精霊の暴走が起きうる可能性もある。
興味本位や面白半分で呼び出すと、魔力が枯渇することもある。
精魔法のやっかいなところは、精霊の引き当てが難しいところだ、運まかせに近い。
良い精霊ばかりじゃないし、悪い精霊もいる。まあ、そのあたりは人間と一緒だ」
「そっか、良いことばかりじゃないんだね。渚君は、精霊を呼び出せるの?」
「ううん、僕はまだやってない。お菓子をあげるとね、ルカの精霊が手伝ってくれるんだ。
なんか、最初に呼び出すのは新月の時が成功しやすいんだって、それまで待つの。ね?」
渚君の答えにお父さまが頷く。
月の満ち欠けに関係あるんだ……確かに、こっちの世界でも月は月だ。
その周期はわからないけれど、ちゃんと満ち欠けもあるみたい。
元の世界と違って魔法があって、精霊がいて、妖精がいて、そんなファンタジーな世界でも元の世界と似てる部分ももちろんある。
新月だと願いが叶いやすいだとか、新月にお願いするのが良いだとか、月にはパワーがあるって考え方もあったし。
アーユルヴェーダ、っていうんだっけ?
母さんはヨガに通っていて、月の礼拝っていうのがあったなあ。
一度やってみたけれど、身体の柔軟が得意な僕でも全身に色々効いてるのが分かる一連の動きだった。
ふんふんと頷きながら、ちらりとイアンを見上げる。
さっきから何も言わないけれど大丈夫かな?
固まっちゃってる。
「イアン、普通の人と見た目が変わらないなら、人だと思って接すればいいんじゃない?
イアンが製菓を教えるのがもとで精霊を怒らせるなんて思えないよ」
「え?あ、はい……やあ、精霊ってのはいるんだってのは聞いたことがありますが、そうそうお目にかかれるもんでもないですから驚いてしまって」
「そっか」
「レン様はあまり驚かないですね?」
「うーん、僕のいたところではそもそも魔力もなかったし、魔物もいなかったから。
驚きでいうなら、冒険者がいなかったことの方が驚きがあったかな」
「えー!?いないの、冒険者!?」
渚君が驚きの声を上げる。
採寸していた時の僕と一緒だ、気持ちがわかる。
「そうなんだよ、びっくりじゃない?魔法があるのにダンジョンも冒険者もないんだよ?」
「えー?そうなの?じゃあ、魔物の討伐は?」
「ここエリソン侯爵領だと、緊急時は警備隊や自衛団が動くんだって。場合によっては騎士団の協力を仰ぐみたい。
なんかね、魔物=人を襲うものって感じでもないんだよね、うちにいる馬たちも、乳牛も魔物だったよ」
「えー?あ、じゃあ、オリーブオイルが入ってるおっきい実ももしかして魔物だったりするの?」
渚君が何かを思い出してお父さまに確認する。
オリーブオイルが入ってる大きな実?
オリーブオイルってオリーブの実を絞るイメージだけれど、渚君の言い方だと、まるでココナッツジュースだ。
「ああ、ヒュージオリーブか。あれも魔物だな」
「そうなんだ、そういう植物だって思ってたよ。向こうにいた異世界の知識とはやっぱり違うね」
「だよねえ。あ、そうそう、全然話は違うけれど」
「ん?」
渚君との話ばかりで、旭さんに会ったことを伝えるのを忘れてた。
「昨日ね、旭さんに会ったんだ」
「え!?」
「旭さんね、ちゃんと幸せに、楽しそうに暮らしてるから安心してね」
「そっか、そっかあ……良かったあ。精霊たちが“みんないい子だから大丈夫”って言ってたけど、あんな状態で離れ離れになっちゃったからどこかでずっと心配だったんだ」
「旭さんも、みんなが無事って知って凄く安心してたよ。愛斗君にはまだ会えてないけれど、アレックスの友人だって言ってたから」
そこまで言って、僕はアレックスを見る。
たぶん、愛斗君にもその内会えると思う。
会いたいか会いたくないかでいったら勿論会いたい。
けれど、会う理由が、会いたいからっていうことだけだ。
今の僕には、愛斗君に会うことより優先すべきことがたくさんあるのも本当だ。
「あっちが大手の商会長だからな。オリバーみたくいつでも空いてるってわけじゃないから、すぐに合わせてやれないかもしれない。
レンが俺のところにいるってことは伝わってるぞ」
「うん、ありがとう、アレックス。渚君、旭さんから伝言、よろしく伝えてくれって」
「うんうん!僕はルカが拾ってくれたから楽しく暮らしてるけど、僕だけこんな楽しく幸せになっちゃっていいのかなって思ったりもしてたから、良かった」
「旭さんも同じようなこといってたよ」
「そっかー、怒ると怖いけど、優しい人だよねー、すっごく!○○戦隊のブルーみたいな。表立ってリーダーって感じではないけど、影のリーダーって感じ」
うわ、渚君の勘は鋭い!
裏番長だもん、旭さん。
「ああ、確かそんなことも言ってたな、アサヒは“うらばんちょー”なんだろ?」
「っアレックス!」
「うえぇ!?裏番長!?うっそお」
渚君に、旭さんが裏番長なのがバレちゃった。
ごめんね、旭さん。
「ん?……言っては駄目なことだったのか?」
「うーん、旭さんは隠していたかったかもって思ったんだ」
「強くて頼りになって影で支えてくれるリーダー的な存在なんだろ?隠す必要はないと思うが?」
「それはそうだけど、隠す必要性のありなしに関わらず、隠していたいことってあるでしょう?
そういうのって他人が計れるものではないと思うよ」
「確かにそうだな。すまない」
「ううん」
渚君も驚いてるけど、別に怖がったりとかはしていないから大丈夫そうだ。
「レン」
「ん?」
お父さまに呼ばれて目を向ける。
お父様はなぜかちょっと驚いた顔をしていた。
僕がお父さまに目を向けると、お父様は驚いた顔を破顔させる。
「お前、聞いてた以上にいい子だなあ」
「え?」
「だからいったでしょ!蓮君はすごーくいい子なんだって!」
渚君の力説に、お父さまはカラカラと笑った。
アレックスが恐る恐るお父さまに聞く。
そんなに問題になるようなことなのかな?
だって、精霊でしょう?
「ふむ……まあ、本人たちの意向を聞いてから、だな。
渚のことは皆大好きだから、争奪戦になりそうだ」
「っ……頼みますから平和に決めてください。それと、くれぐれも家を破壊しないでくださいよ?」
「精霊ってそんなに危険なの?」
「いや、普段危険というわけじゃないんだ。師匠と契約している精霊だから高位精霊ばかりだし、人型で普通にしていれば人そのものにしか見えない。
精霊だ、と言われなければ人間と思われるだろう。だが、人より圧倒的な強さをもっている上に、感情の起伏が激しいんだ。
力の強い精霊を怒らせると、天災にもつながりかねない」
「さすがにそこまでのはいないぞ」
「一瞬で家を半壊させるほどの力はあるでしょう?」
「一瞬で戻せる力もあるぞ」
「………」
あ、アレックスが折れた。
精魔法って根本的な使い方が違うんだっけ?
お父さまと目が合う。
「精魔法って他の属性魔法とどうちがうの?
精霊の力を借りて魔法を使うって言うのはわかるんだけれど」
「ああ、通常の魔法は自分の魔力そのものを糧に魔法を使うのに対し、精魔法は自分の魔力を餌にして精霊の力を借りて魔法を使う。
精霊によっては、膨大な魔法を扱える上に、属性を選ばないのが特徴だ。
呼び出してからその場だけ力を借りることもあれば、相性が良ければそのまま契約していつでも力を借りることも出来る」
思い通りに魔法が使えるなら、とても便利だ。
魔法を使うときの工程は増えるわけだけれど、属性問わないなら、使いこなせたらかなり便利そう。
それに、精霊を呼びだすっていうのが、またすごくファンタジーだ。
「半面、自分の魔力で制御できないような精霊を呼び出した場合は、枯渇することもあるし、精霊の暴走が起きうる可能性もある。
興味本位や面白半分で呼び出すと、魔力が枯渇することもある。
精魔法のやっかいなところは、精霊の引き当てが難しいところだ、運まかせに近い。
良い精霊ばかりじゃないし、悪い精霊もいる。まあ、そのあたりは人間と一緒だ」
「そっか、良いことばかりじゃないんだね。渚君は、精霊を呼び出せるの?」
「ううん、僕はまだやってない。お菓子をあげるとね、ルカの精霊が手伝ってくれるんだ。
なんか、最初に呼び出すのは新月の時が成功しやすいんだって、それまで待つの。ね?」
渚君の答えにお父さまが頷く。
月の満ち欠けに関係あるんだ……確かに、こっちの世界でも月は月だ。
その周期はわからないけれど、ちゃんと満ち欠けもあるみたい。
元の世界と違って魔法があって、精霊がいて、妖精がいて、そんなファンタジーな世界でも元の世界と似てる部分ももちろんある。
新月だと願いが叶いやすいだとか、新月にお願いするのが良いだとか、月にはパワーがあるって考え方もあったし。
アーユルヴェーダ、っていうんだっけ?
母さんはヨガに通っていて、月の礼拝っていうのがあったなあ。
一度やってみたけれど、身体の柔軟が得意な僕でも全身に色々効いてるのが分かる一連の動きだった。
ふんふんと頷きながら、ちらりとイアンを見上げる。
さっきから何も言わないけれど大丈夫かな?
固まっちゃってる。
「イアン、普通の人と見た目が変わらないなら、人だと思って接すればいいんじゃない?
イアンが製菓を教えるのがもとで精霊を怒らせるなんて思えないよ」
「え?あ、はい……やあ、精霊ってのはいるんだってのは聞いたことがありますが、そうそうお目にかかれるもんでもないですから驚いてしまって」
「そっか」
「レン様はあまり驚かないですね?」
「うーん、僕のいたところではそもそも魔力もなかったし、魔物もいなかったから。
驚きでいうなら、冒険者がいなかったことの方が驚きがあったかな」
「えー!?いないの、冒険者!?」
渚君が驚きの声を上げる。
採寸していた時の僕と一緒だ、気持ちがわかる。
「そうなんだよ、びっくりじゃない?魔法があるのにダンジョンも冒険者もないんだよ?」
「えー?そうなの?じゃあ、魔物の討伐は?」
「ここエリソン侯爵領だと、緊急時は警備隊や自衛団が動くんだって。場合によっては騎士団の協力を仰ぐみたい。
なんかね、魔物=人を襲うものって感じでもないんだよね、うちにいる馬たちも、乳牛も魔物だったよ」
「えー?あ、じゃあ、オリーブオイルが入ってるおっきい実ももしかして魔物だったりするの?」
渚君が何かを思い出してお父さまに確認する。
オリーブオイルが入ってる大きな実?
オリーブオイルってオリーブの実を絞るイメージだけれど、渚君の言い方だと、まるでココナッツジュースだ。
「ああ、ヒュージオリーブか。あれも魔物だな」
「そうなんだ、そういう植物だって思ってたよ。向こうにいた異世界の知識とはやっぱり違うね」
「だよねえ。あ、そうそう、全然話は違うけれど」
「ん?」
渚君との話ばかりで、旭さんに会ったことを伝えるのを忘れてた。
「昨日ね、旭さんに会ったんだ」
「え!?」
「旭さんね、ちゃんと幸せに、楽しそうに暮らしてるから安心してね」
「そっか、そっかあ……良かったあ。精霊たちが“みんないい子だから大丈夫”って言ってたけど、あんな状態で離れ離れになっちゃったからどこかでずっと心配だったんだ」
「旭さんも、みんなが無事って知って凄く安心してたよ。愛斗君にはまだ会えてないけれど、アレックスの友人だって言ってたから」
そこまで言って、僕はアレックスを見る。
たぶん、愛斗君にもその内会えると思う。
会いたいか会いたくないかでいったら勿論会いたい。
けれど、会う理由が、会いたいからっていうことだけだ。
今の僕には、愛斗君に会うことより優先すべきことがたくさんあるのも本当だ。
「あっちが大手の商会長だからな。オリバーみたくいつでも空いてるってわけじゃないから、すぐに合わせてやれないかもしれない。
レンが俺のところにいるってことは伝わってるぞ」
「うん、ありがとう、アレックス。渚君、旭さんから伝言、よろしく伝えてくれって」
「うんうん!僕はルカが拾ってくれたから楽しく暮らしてるけど、僕だけこんな楽しく幸せになっちゃっていいのかなって思ったりもしてたから、良かった」
「旭さんも同じようなこといってたよ」
「そっかー、怒ると怖いけど、優しい人だよねー、すっごく!○○戦隊のブルーみたいな。表立ってリーダーって感じではないけど、影のリーダーって感じ」
うわ、渚君の勘は鋭い!
裏番長だもん、旭さん。
「ああ、確かそんなことも言ってたな、アサヒは“うらばんちょー”なんだろ?」
「っアレックス!」
「うえぇ!?裏番長!?うっそお」
渚君に、旭さんが裏番長なのがバレちゃった。
ごめんね、旭さん。
「ん?……言っては駄目なことだったのか?」
「うーん、旭さんは隠していたかったかもって思ったんだ」
「強くて頼りになって影で支えてくれるリーダー的な存在なんだろ?隠す必要はないと思うが?」
「それはそうだけど、隠す必要性のありなしに関わらず、隠していたいことってあるでしょう?
そういうのって他人が計れるものではないと思うよ」
「確かにそうだな。すまない」
「ううん」
渚君も驚いてるけど、別に怖がったりとかはしていないから大丈夫そうだ。
「レン」
「ん?」
お父さまに呼ばれて目を向ける。
お父様はなぜかちょっと驚いた顔をしていた。
僕がお父さまに目を向けると、お父様は驚いた顔を破顔させる。
「お前、聞いてた以上にいい子だなあ」
「え?」
「だからいったでしょ!蓮君はすごーくいい子なんだって!」
渚君の力説に、お父さまはカラカラと笑った。
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