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本編

-214- お茶の時間

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お茶は、コンサバトリーですることになった。
今日もいい天気だし、日差しがあたたかい。
普通、こんなに日差しが注がれていたら暑くなりそうだけれど、そこは調整されてるんだと思う。
旭さんたちがいるところの帝都の別邸もとても居心地がいい場所だった。
ここの本邸だって負けてないくらいに居心地が良くて、僕はとても気に入ってる。

「ふえぇ、ここも凄いね!」
「凄くいい場所だよね」

僕のとなりにアレックスが座り、僕の目の前には渚君が、その横にお父さまが座る。
当然、アレックスの目の前が、お父さまだ。

「失礼いたします」

セバスと、その後ろからワゴンを押すイアンが入ってくる。
イアンはかなり緊張気味だ。
慣れないことをさせているっていのは自覚してる。
僕が今出来ることは、普段通りの笑顔で見守るだけだ。

三時のお茶の時間は、いつもの通りセバスが入れてくれる。
今日も、とてもいい香りが空間に広がった。
さっきセオが入れてくれたお茶とはまた違って、濃厚なしっとりとした重さのある紅茶の香りだ。
茶葉とティーカップは、いつもその時々で一番合うものをセバスが選んでくれている。
今日は4客揃ったティーカップで、繊細なアイビーの蔦がカップにもソーサーにも描かれているものだ。
柔らかい曲線を描いていて、取っ手はとても細いけれど、持ちやすいようにか、親指をかけるところがついてるデザインだ。
今日のも凄く綺麗。


最初にコトンと、お父さまの前にプレートが置かれる。
次に渚君、そして僕、最後にアレックスだ。
時計と逆回り。
順番はきっとセバスの指示だろうけれど、座り方のせいもあると思う。
アレックスは、僕を優先されて最後に置かれても、気にしなさそうだ。

今日も凄く繊細で綺麗だ。
渚君も目を丸くしてるくらい、凄く綺麗。
綺麗だけじゃなくて、絶対美味しいんだけれど。

揃いの白地のお皿で、アイビーの蔦が描かれている薄くて丸いお皿に、チョコレートムースとショコラかな?
オレンジのソースや二種のクリーム、オレンジピールのチョコレートが添えられていてとても洗練されてる。
アイビーの曲線が彩を添えるように盛られていて、ムースもショコラもチョコレートも全て曲線だ。
本当に、美味しいを追及するイアンだけれど、その美的感覚も凄いと思う。

「イアン、今日もすごく綺麗で美味しそうだね!」
「ありがとうございます」
「今日は、ムースとショコラ?」
「はい、チョコレートムースとショコラです。オレンジのソースとクリームと合わせてご一緒にお召し上がりください」

イアンはいつもより緊張気味だけれど、僕が普段通りに笑顔で話しかけたら少しだけ安心した顔を向けてくれた。

「いただきます」
「凄ー……いただきまーす」

僕と渚君がいただきますを口にするのを合図に、4人が各々口にする。
僕は、チョコレートのムースから頂いた。
すっごく美味しい!
濃厚なのに甘すぎないし、オレンジの少しだけ酸味のあるソースも甘い生クリームとオレンジのクリームもとってもあってる!

どちらかというと、チョコレートと柑橘系の組み合わせはあまり好みじゃなかったんだ。
チョコレートなら、ナッツやキャラメルの方が好きだった。
何度か口にしたことがあるけど、全て重くて濃厚で激甘のチョコレートと香りの強いオレンジが合わせてあるものだったからかもしれない。

「美味しい!濃厚なのに甘すぎなくてオレンジのソースとクリームともとてもあってる。
柑橘系とチョコレートの組み合わせは向こうの世界で食べた時は、あまり好きになれなかったけれど、これはとっても美味しいね!凄く好きな味」
「気に入って頂けて良かった!ショコラもどうぞ、こちらはアレックス様がお好きなショコラです」
「そうなの?」
「ああ、オレンジとチョコのショコラは好きだが……こうやって出されるのは初めてだ。今日も気合が入ってるな」

美味しそうに笑顔なアレックスだけれど、こうやって出されるっていうのは、綺麗に飾って出されるってことかな?
美味いとも言わないけれど、アレックスの笑顔にイアンも嬉しそうだ。

うん、ショコラも美味しい!こっちも甘すぎないのに濃厚なんだけれど、後味はどこかさっぱりしてるから重すぎない。
もちろん、クリームとソースにも合ってる。

「ショコラもとっても美味しい!濃厚なのに重すぎなくてどこかさっぱりしてるからいっぱい食べられちゃう」
「良かった!けどいっぱいは駄目ですよ」
「ふふっ……あ、渚君、紹介するね。このエリソン侯爵邸のコンフェを務めるイアンだよ」

いつものイアンが見られたから、だんだんと緊張も解けてきたかなってところで、渚君に声をかける。
渚君は、幸せそうにムースとショコラを交互に食べてた。

「凄く美味しいです!こんなにおいしくて綺麗なドルチェを作る人から教われるんだから僕はとても幸運です!
とくにこのオレンジのクリーム、カスタードじゃないのに軽くて滑らかだ。どうやって合わせてるのか……びっくりです!あ、中村渚です!ナギサ=ナカムラか、ナギサでお願いします!」

びっくりした顔をして嬉しそうに渚君は頷いてきた。
対するイアンも、びっくり顔だ。


「やあ……こんなにお若い方とは思わず。レン様、本当にいいんですか?厨房には俺とマーティンの二人ですよ?
マーティンの倅もその内二人来ますよ?」
「ん?でも、厨房はそれでも全然広いでしょう?」
「いやいやいや、そういうんじゃないですよ!むっさい男四人と、こんなキラキラした少年が一緒でいいのかって話です!」
「っふふ」
「っぷ」

イアンの言い方がとっても可笑しくて、僕と渚君が一緒に噴出しちゃう。
すると、今まで何も言わなかったお父さまから声がかかった。
お父さまのお皿の上は、すでに綺麗さっぱり胃の中に納まったようだ。
いつの間に?早いけれど、お皿が綺麗すぎるくらいなところを見ると口にはあってたんだと思う。

「や、大丈夫だ。渚一人で厨房に立たせる気はない。こっちからは精霊を一人つける」
「精霊……」

イアンがさっきよりももっとびっくりした顔でお父さまを見つめた。
僕も多少は驚いてるけど、妖精のおはぎに会ったばかりだ。猫の姿で、話もできて、魔法も使える。それと比べたら、精霊の1人や2人同じ感覚だ。

アレックスはどうかな?とアレックスを見上げる。
わー……アレックスも驚いている!
アレックスは、驚きに少しだけ口が開いたままお父さまを見つめていた。
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