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本編

-211- スキル

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しばらく話に花を咲かせていた僕だったけれど、お父さまと渚君の了承を貰ってから、一度席を立つ。
一度コンフェのイアンに声をかけてくる、という名目だけれど、実際はトイレのためだ。
勿論イアンにも声をかけるけれど。

これは、セオが横からそっと声をかけてくれた。
うん、正直、行きたいかも、から、行きたいな、くらいにはなってた。
凄く助かる。

お茶の入れ方もセバスに習ったのかな、凄くスマートに、おいしいお茶を入れてくれたよ。
話にも加われないで僕の斜め後ろにずっと立たせてるのが最初は少し気が引けたんだけれど……実際、気になって一度ちらっと見ちゃったんだよね。
そしたら、『どうしました?』と声をかけてくれたから、正直に伝えたんだ。
『ずっと立たせてるのが、ちょっと……セオ、疲れない?』って。
そしたら、『俺は大丈夫ですから、慣れてください』って、逆に言われちゃったよ。

因みにお茶請けのお菓子は、三時のおやつ前だから、ほんの少しだ。
僕も口にしたことのあるお花の砂糖漬けと、とっても薄いクッキーの間にベリーのクリームが挟んであるものと、それと真っ白なほろほろのボウロの3種類だ。
本当はボウロっていうんじゃないのかもしれない、ボウロよりほろほろしててくちどけが良くて、甘くておいしかった。
どのお菓子も一口サイズで小さいものだったけれど、とっても手が込んでいて、渚君は味も見た目もしっかり確かめてた。
より、やる気が出たみたいだ。


「ありがとう、セオ。トイレのタイミングつかめなかった」
「我慢してるのは良くないですからね。まあ、ご家族なんですし、これからは行きたいときに席を立っても大丈夫ですよ」
「うん」

用を足してからセオにお礼を言うと、アドバイスをくれた。
そっか、家族だもんね。

「お、レン様、どうされました?」

厨房に顔を出すと、僕らに気が付いたマーティンが最初に声をかけてくれた。
その声に、イアンも顔を上げて笑顔を向けてくれる。

イアンは今一番忙しいかな?
お父さまと渚君が来たことはもう届いているはずだし、急に4人分用意することになったんだもん。
邪魔になっちゃうから、用件だけ伝えておきたい。

「うん、イアンにちょっと用があって……忙しい時にごめんね」
「いえいえ、構いませんよ。どうされました?」
「今日の三時のお菓子、イアンに直接運んでもらいたいのだけれど、出来そう?」
「……わかりました」

一瞬、イアンが身構えたのがわかった。
先に理由を言うべきだったかな?

「前に、後継者を育てるって話をしたでしょう?是非やってみたいって言葉を貰えたから、紹介したいんだ。
お父さまの神器様にあたるんだけれど、元の世界ではイタリアン料理店の息子さんで元々お菓子を作るのが好きな子だよ。
お父さまは、彼の作るプリンに目がないみたい」
「公爵様の神器様が、使用人になられるんですか?」

やっぱりそこが気になるのかな。
お父さまと同じようなことをイアンは聞いてきた。

「うーん……そこはあまり気にしないで、技術を教えるって思って欲しいな。
渚君は元の世界で製菓を学んで菓子職人になりたいって思っていたし、すでにスキルで持ってるんだ。
イアンにも、いい刺激になると思うから」

スキルの話を持ち出すと、イアンがびっくりした顔をする。
僕の勝手な考えで、スキル=得意って単に思ってたけれど、ちょっと違うのかな?

「スキルでお持ちでしたら、教えるってよりは教え合うことになりそうですね。俺でいいんですか?」
「イアンが良いなって思うから僕から彼に話をしたんだよ?
どこかのお店に見習いに入って貰うのは、お父さまも心配されるし」
「なるほど」

「それに、何よりイアンの作るお菓子は、どれも繊細で美味しくて、優しい味がするから」
「っありがとうございます!わかりました!お引き受けいたします!」
「ありがとう!詳しい日程はまた後でね。とりあえず、三時に紹介だけしたいのを伝えに来たんだ」
「ありがとうございます」

「ううん、それじゃあ……あ、お茶請けのお菓子、凄く綺麗で美味しかったよ。
とくに、ほろほろのボウロみたいな、あれはなんていうお菓子?」
「スノーボールですね。気に入って頂けたならよかった!」
「そっか、スノーボールって言うんだ」

元の世界でもスノーボールって言うのかな?
あまりお菓子の名前に詳しくないけど、確かに見た目が白くて、雪のボールって名前がつくのもわかる。

「あ、仕事の邪魔してごめんね。また三時に」
「いいえ、はい!」

すっかり長居しちゃったけれど、イアンもマーティンも相変わらず歓迎してくれた。
イアンもマーティンも、心から歓迎してくれてるのが分かるからとても安心する。

「良かったですね」
「うん。ねえセオ、スキルって得意ってだけじゃないの?」
「うーん…ちょっと違いますかね?得意って言うよりは、才能って言う方が正しいかもしれませんね。
スキルって言うのは元からあるものと、磨いていくうちに身に着いていくものとそれぞれあるんですけれど、ちょっと得意なくらいではつかないですよ」
「そっか」

なら、菓子職人のスキルを持ってる渚君は、すでに立派な菓子職人なのか。
あ、だからお父さまも渋ってたのかもしれない。

「勿論スキルを持っていたとしても、使いこなせなければ宝の持ち腐れですからね。
磨いて身に着いたものなら尚更です。
菓子職人なら、腕を磨いてなんぼでしょうから」
「そっか、ならよかった」

「レン様」

ほっとしたところで、アニーとセバスに出くわす。
ふたりは僕がお父さまと渚君との会話を楽しんでる間に、色々と裏で動いてくれていたんだよね。
セキュリティーのこともだし、お父さまと渚君が急に来ちゃったから、色々と対応することがたくさんあったと思う。

「セバス、アニーも、急に来られたから大変だったでしょう?ありがとう」
「いいえ、レン様もびっくりされましたでしょう?あの警報がなるのは初めてでしたから」
「そうなの?あ、でもそうだよね、門が閉じてると結界が作動するって言ってたもんね。
そうそう鳴らないよね」

そう言うと、アニーもセバスも苦笑しながら頷いてくる。
でも二人ともどこかほんわかしてるのは、何も無かった安心感からだろうなあ。
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