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本編

-210- 再会 アレックス視点

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「アレックス様」
「……なんだ、爺。戻るにはまだ早いぞ」

ユージーンの下の講義が終わり、互いに仕事に戻った時だった。
烏のペーパーウェイトから、遠慮ないセバスの声が聞こえてきた。

「ええ、緊急のご用事ではありませんが、一応ご連絡をさせていただきます」
「……なんだ」

「スペンサー公とその神器様がお見えでございます」
「は?」

まさか、今朝の俺のやらかしが、セオからセバスに伝わったのか?
勘弁してくれ……と身構えたところで、思ってもみない答えが返ってきた。

「ですからーーー」
「や、わかった。……マジか。時間が出来たら来い、っつってたのに」
「神器様の渚様がレン様の大ファンのようでして。
お会いできないことに大変沈まれていたところ、スペンサー公が連れ出された、とのことです」
「そうか」

俳優だったレンの、大ファン、か。
あまりの沈みようなら、すぐ会える、と突然家に訪ねてきてもなんら不思議ではない。
陛下にも祖母さんにも、前触れなんて出さず、突然目の前に現れたみたいだからな。

「一応聞くが、神器様が一緒なら直接屋敷の中に飛ぶなんてことはーーー」
「お察しの通り、この爺の寿命が5年程縮まりました」
「マジか……家の結界は今どうなってる?」
「門の結界はそのまま、屋敷内の結界だけ解除させていただきました」
「そうなるな……」

うちの結界の作りは、二重になっている。
門の開閉で作動する結界と、屋敷そのものの結界だ。
通常、門が閉じていれば結界が作動しているので、外から内側に入れることはない。
一定数の魔力と体積の生き物は入れないようになっている。
だが、何らかの方法で破られることがあるかもしれない。
そのために、登録のない者が門を通らず屋敷内に入ることがあれば警報が鳴り知らせる、という作りになっている。
今まで鳴ったことは一度もない、今回が初めてだ。

勿論、師匠は神出鬼没なので登録させてもらってるし、レンも運び込まれた時点でその魔力を登録している。
俺は勿論、上級使用人である、セバス、セオ、アニー、ジュード、レオンもだ。
この5人は緊急時のためにも、仕事のためにも門の開閉関係なく外との行き来が出来るようになっている。
まあ、なんなく塀や門を乗り越えることができる、という点でも、この5人以外は能力的にも出来ないだろうが。

屋敷の結界自体を解除することが出来るのは、俺とセバスとアニーの3人だ。
解除となると些か屋敷内の警備に不安があるが、門の結界は発動しているのでそう心配することでもないだろう。
俺が戻るまでずっと鳴り響いている方が問題だ。

「戻ったら、その神器様の魔力を登録させてもらう」
「よろしくお願いします」
「すぐにでも戻りたいが、仕事も溜まってる。時間通り、15時に戻る。よろしく頼む」

「畏まりました」

セバスとの連絡を終えたところで、集中するために一度深く息を吐き出す。
さて、気合を入れて取り掛かろうじゃないか。
集中すれば限の良いところまでは終わるはずだ。



「おかえりなさい、アレックス」
「ただいま」
一度ロビーへ戻り、セバスの出迎えを受けた後で客間へと顔を出すと、すぐにレンが立ち上がって、声をかけてくれる。

「ヒュ~やるねえ、お前」
「ほわああ」

抱き寄せて口付けを落とすと同時、師匠の声とその神器様の声が上がった。

レンの顔がぽっと赤く色づく。
可愛すぎるが、せっかく慣れてきたところに、なんつーことを言うんだ。

師匠は相変わらずラフな格好で、全く変わりない態度とその姿。
久しぶりなんだが全く久しぶりに感じないのは、養子届を幻影魔法で貰っていたから、というのもあるが、それだけじゃない気がする。

「……師匠、勘弁してください」

そう、勘弁してもらいたい、色々と。

来るのは構わないし、会いに来てくれたことを嬉しく思わないわけじゃない。
だが、警報を鳴らすような来方をしてもらいたくはなかった。

「なんだ、その言い草は。
それより、来てやったのに警報ならすとは随分な歓迎だったぞ」
「だから、勘弁してくださいって。師匠の魔力は登録してますよ、神出鬼没でも信頼してます。
今までと同様、自由に出入りしてもらって構いません。
けど、そちらの神器様の魔力は登録外なんですよ、屋敷の者を驚かさないでください」
「ふん……お前もセバスも相変わらずだ」

まあ、謝らないだろうな、師匠は。
俺への魔法指導で庭の薔薇を駄目にした時も、屋敷の外壁にヒビを入れた時にも、謝るどころか悪びれすらしなかったもんな。
てか、今も昔も、微塵も悪いと思ってすらない。
あの時に一番慌てふためいて口を酸っぱくしたのもセバスだったな、そういえば。


「お久しぶりです、師匠。レンの養子と俺との結婚、双方の助力に感謝します」

「ああ、良い良い、好きでやったことだ。にしても、お前は相変わらず俺に対して言葉が固いな」

師匠は、しょうがない奴だな、と言いながらも、満足そうな笑みを浮かべて俺を見てくる。
透き通ったアクアマリンのような瞳は、変わらず優しい色をしていた。

師匠にとって俺は、今でも子供なのかもしれない。
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