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本編
-189- 侯爵夫人として
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少し話があるから、と僕とアレックスは談話室に戻った。
まずは、マーティンの息子さんや、お孫さんの他にも数名住み込みの使用人を増員することになった、っていう話からだった。
これは、僕の後継者を育てるという意見を取り入れてくれたことも勿論だけど、1番の人数不足になる原因は、僕を侯爵夫人として迎えるからだ。
元の世界でも、僕が1人で出かけるっていうのはあまりなかったけど、こっちの世界では、まずありえない立場になった。
父さんと母さんは2人で旅行、というのはしなくて、必ず僕も一緒に連れてってくれたし、たまの休みは家でゆっくり……というか、ごろごろダラダラしてたし、仕事は、元々マネージャーと二人三脚で行動。
舞台以外の仕事は、服もメイクも髪も全部人任せだった。
こっちに来て常に傍に誰か居る状態であっても、全然気にはならない。
人によっては、四六時中誰か傍に居られるのは、もしかしたら鬱陶しく思うこともあるかもしれない。
でも、僕は、アレックスやセオが傍に居てくれる事に安心する。
「まだお試しではあるんだが、レンの専属従者にセオを付けようと思ってる」
「僕はセオだったら安心だけど、お試しっていうのは、僕がセオの主に相応しいかってこと?」
うーん、だとしたら、今日は自由にし過ぎたかもしれない。
「いや、お試しなのは、主に俺の心境だ。セオは納得してるし、レンにセオをと押したのは、セバスとアニーだ」
「アレックスの?セオがいないことに慣れるため?」
セオは耳が良いし、風スキルで足もものすごーく早いし、前に聞いた時、情報収集やお使いはほぼセオに回ってくるって言ってたっけ。
髪を結うのも得意だし、手先が器用だし、貴族の生まれだから貴族特有の規則も明るいはずだ。
なにより居心地の良い距離感と接し方をしてくれるからすごく楽なんだけど、セオが僕に付きっきりだと、色々回らないことが出てきちゃうのかも。
「いや、他人にレンを任せることに俺が慣れるためだ。俺が人を信頼するには時間がかかるから、新しく雇う人間をレンにつかせたくないんだ。
新しい住み込みの使用人を増やすにしても、俺が信頼してる者からの紹介でしか取らないつもりだ。これは、アニーとセバスにも話を通してる。
来週から数名面接にくるはずだ。勿論紹介があったからとて、必ずとるわけじゃなく、双方納得の上でとる」
「そっか……ありがとう、アレックス」
アレックス自身の傍に置く人より、僕の傍に置く人を優先してくれたみたいだ。
勿論、そうでないと心配しちゃうアレックスの心境を優先したと言えばそうかもしれないけれど、それでも、すごく大切にされてるなあって感じる。
「新しい使用人の面接は、セバスとアニーと一緒に、レンが主体で行ってもらうことになる。
傍にセオもつかせるが、頼めるか?」
「うん、勿論。まだ仮だけれど、ゆくゆくは、侯爵夫人になるんだし。
僕の、最初の仕事だね、頑張るよ」
「ありがとう」
ほっとした笑顔を向けて感謝を述べたアレックスが、すっと空間から1枚の用紙を取り出す。
僕とアレックスの間、目の前のテーブルに置かれたそれは、婚姻届けだ。
何の飾り気もない用紙だけれど、驚くべきことに、グレース様のサインと、僕の養父であるスペンサー公のサインが入ってる。
え?すっごく早くない?
養子の手続きをしてくれたのって、昨日じゃなかったっけ?
それなのに、もう結婚できるの?
びっくりしてアレックスを見ると、アレックスがばつの悪そうな顔で僕を見てくる。
「……早すぎるか?」
「うん、早すぎる」
「だよな、もう少し経ってからーーー」
「あっそうじゃなくて!」
しまわれそうになった用紙を上から両手で抑える。
びっくりしただけで、入籍するのが早まるのが嫌なわけじゃないんだ。
ただ、本当にびっくりしただけで。
「早いのが嫌なわけじゃないよ、ただ、びっくりしただけで。
アレックスが頼んだの?」
「いや、今日、祖母さんに渡されたんだ。師匠が、陛下を急かしたみたいで」
「え?」
「高位貴族の養子縁組の場合は、陛下の承認が必要なんだ。
役所の申請が通ったら陛下の申請が通らないことはないはずなんだが、同日受理は本来あり得ない」
アレックスの師匠、スペンサー公は僕の養父なわけだけれど、色んな意味で凄い人なのかもしれない。
陛下に急かすって……公爵様なら出来るのかな?
にしたって、その承認を貰ってすぐ婚姻届けにサインして、それを今度はグレース様にすぐに渡しに行ったってこと?
こんなに急いでくれたなら、すぐに入れないわけにはいかない。
それでも、僕の気持ち的には全然オッケーだ。
寧ろ、嬉しい。
面接のときに、仮じゃなくて、本当の侯爵夫人として対応することが出来るのもありがたいし、なにより……その、これからちゃんとえっちするんだもん。
目の前に届の用紙があるんだから、名前を入れた後の方が良いと思うんだ。
なにが良いって、気持ち的にその方が、燃えそうじゃない?
あ……またえっちなことばっか考えちゃう。
顔が熱くなるのがわかる。
アレックスが変に思うかもしれない。
「なら、早く籍入れろってことだね」
変に思われてないかな?とアレックスを見る。
大丈夫みたいだ、優しい顔してる。
「悪い」
「ううん、僕は、嬉しいよ。
今から一緒にサインを入れる?」
「ああ」
セバスが良いインクを用意してくれて、二人でサインを入れる。
明日の朝にアレックスが役所に出してくれるみたいだ。
アレックスは、早すぎることにも、他に何もないことにも凄く申し訳なさそうだった。
他に何も、というのは、ピアスとブローチのことみたい。
急いで作らせてるって言ってたけれど、流石に1日じゃ無理だ。
特別で一生に一度のことなのに全く特別感がなさすぎだよな、って。
でもね、僕にとっては、アレックスと一緒に名前を入れるその瞬間が、十分特別だったよ。
まずは、マーティンの息子さんや、お孫さんの他にも数名住み込みの使用人を増員することになった、っていう話からだった。
これは、僕の後継者を育てるという意見を取り入れてくれたことも勿論だけど、1番の人数不足になる原因は、僕を侯爵夫人として迎えるからだ。
元の世界でも、僕が1人で出かけるっていうのはあまりなかったけど、こっちの世界では、まずありえない立場になった。
父さんと母さんは2人で旅行、というのはしなくて、必ず僕も一緒に連れてってくれたし、たまの休みは家でゆっくり……というか、ごろごろダラダラしてたし、仕事は、元々マネージャーと二人三脚で行動。
舞台以外の仕事は、服もメイクも髪も全部人任せだった。
こっちに来て常に傍に誰か居る状態であっても、全然気にはならない。
人によっては、四六時中誰か傍に居られるのは、もしかしたら鬱陶しく思うこともあるかもしれない。
でも、僕は、アレックスやセオが傍に居てくれる事に安心する。
「まだお試しではあるんだが、レンの専属従者にセオを付けようと思ってる」
「僕はセオだったら安心だけど、お試しっていうのは、僕がセオの主に相応しいかってこと?」
うーん、だとしたら、今日は自由にし過ぎたかもしれない。
「いや、お試しなのは、主に俺の心境だ。セオは納得してるし、レンにセオをと押したのは、セバスとアニーだ」
「アレックスの?セオがいないことに慣れるため?」
セオは耳が良いし、風スキルで足もものすごーく早いし、前に聞いた時、情報収集やお使いはほぼセオに回ってくるって言ってたっけ。
髪を結うのも得意だし、手先が器用だし、貴族の生まれだから貴族特有の規則も明るいはずだ。
なにより居心地の良い距離感と接し方をしてくれるからすごく楽なんだけど、セオが僕に付きっきりだと、色々回らないことが出てきちゃうのかも。
「いや、他人にレンを任せることに俺が慣れるためだ。俺が人を信頼するには時間がかかるから、新しく雇う人間をレンにつかせたくないんだ。
新しい住み込みの使用人を増やすにしても、俺が信頼してる者からの紹介でしか取らないつもりだ。これは、アニーとセバスにも話を通してる。
来週から数名面接にくるはずだ。勿論紹介があったからとて、必ずとるわけじゃなく、双方納得の上でとる」
「そっか……ありがとう、アレックス」
アレックス自身の傍に置く人より、僕の傍に置く人を優先してくれたみたいだ。
勿論、そうでないと心配しちゃうアレックスの心境を優先したと言えばそうかもしれないけれど、それでも、すごく大切にされてるなあって感じる。
「新しい使用人の面接は、セバスとアニーと一緒に、レンが主体で行ってもらうことになる。
傍にセオもつかせるが、頼めるか?」
「うん、勿論。まだ仮だけれど、ゆくゆくは、侯爵夫人になるんだし。
僕の、最初の仕事だね、頑張るよ」
「ありがとう」
ほっとした笑顔を向けて感謝を述べたアレックスが、すっと空間から1枚の用紙を取り出す。
僕とアレックスの間、目の前のテーブルに置かれたそれは、婚姻届けだ。
何の飾り気もない用紙だけれど、驚くべきことに、グレース様のサインと、僕の養父であるスペンサー公のサインが入ってる。
え?すっごく早くない?
養子の手続きをしてくれたのって、昨日じゃなかったっけ?
それなのに、もう結婚できるの?
びっくりしてアレックスを見ると、アレックスがばつの悪そうな顔で僕を見てくる。
「……早すぎるか?」
「うん、早すぎる」
「だよな、もう少し経ってからーーー」
「あっそうじゃなくて!」
しまわれそうになった用紙を上から両手で抑える。
びっくりしただけで、入籍するのが早まるのが嫌なわけじゃないんだ。
ただ、本当にびっくりしただけで。
「早いのが嫌なわけじゃないよ、ただ、びっくりしただけで。
アレックスが頼んだの?」
「いや、今日、祖母さんに渡されたんだ。師匠が、陛下を急かしたみたいで」
「え?」
「高位貴族の養子縁組の場合は、陛下の承認が必要なんだ。
役所の申請が通ったら陛下の申請が通らないことはないはずなんだが、同日受理は本来あり得ない」
アレックスの師匠、スペンサー公は僕の養父なわけだけれど、色んな意味で凄い人なのかもしれない。
陛下に急かすって……公爵様なら出来るのかな?
にしたって、その承認を貰ってすぐ婚姻届けにサインして、それを今度はグレース様にすぐに渡しに行ったってこと?
こんなに急いでくれたなら、すぐに入れないわけにはいかない。
それでも、僕の気持ち的には全然オッケーだ。
寧ろ、嬉しい。
面接のときに、仮じゃなくて、本当の侯爵夫人として対応することが出来るのもありがたいし、なにより……その、これからちゃんとえっちするんだもん。
目の前に届の用紙があるんだから、名前を入れた後の方が良いと思うんだ。
なにが良いって、気持ち的にその方が、燃えそうじゃない?
あ……またえっちなことばっか考えちゃう。
顔が熱くなるのがわかる。
アレックスが変に思うかもしれない。
「なら、早く籍入れろってことだね」
変に思われてないかな?とアレックスを見る。
大丈夫みたいだ、優しい顔してる。
「悪い」
「ううん、僕は、嬉しいよ。
今から一緒にサインを入れる?」
「ああ」
セバスが良いインクを用意してくれて、二人でサインを入れる。
明日の朝にアレックスが役所に出してくれるみたいだ。
アレックスは、早すぎることにも、他に何もないことにも凄く申し訳なさそうだった。
他に何も、というのは、ピアスとブローチのことみたい。
急いで作らせてるって言ってたけれど、流石に1日じゃ無理だ。
特別で一生に一度のことなのに全く特別感がなさすぎだよな、って。
でもね、僕にとっては、アレックスと一緒に名前を入れるその瞬間が、十分特別だったよ。
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