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本編
-188- マーティンの帰宅
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「おくつろぎのところ失礼します。マーティンの乗った馬車が門に着いたようです」
「そうか、今夜はゆっくり休んで……レン?」
「ありがとう、セバス!」
立ち上がった僕を、アレックスが不思議そうに見上げてきた。
「お迎えするでしょ?僕、今朝お見送り出来なかったし」
「ああ……わかった、俺も行く」
「レン様」
「ん?」
談話室の扉を開いたセバスが僕を呼び止める。
あ……この表情は、マーティンへの食材を選ぶときに厨房に行った時と似てる。
「お心遣い感謝しますが、本来、使用人の送り迎えを、侯爵夫人となるレン様がする必要はございません。
今回はセオから聞いておりますが、なさらずとも良いのですよ」
「うん。……でも、ただのお休みならともかく、息子さん達があんな状態での帰宅だから、お帰りって言いたいな」
「勿論、レン様がされたいなら話は別です。迎えられて嬉しくない者はおりません」
「なら良かった」
本当ならもう一日くらい休ませてあげたいくらいだよ。
食材の時とは違って、しなくていいってだけで、僕の行動でマイナスになったりはないみたいだ。
「レン様、慌てずとも大丈夫です。お迎えは玄関ホールでお願いします」
「ん?うん、わかった」
門に着いてるなら早く行かなくちゃ、と気がせっちゃった。
セバスにやんわりと遮られる。
元の世界だと、ほいほい扉を自分で開いてたけど、こっちだと自分から開くことってそうそうない事に今更気がついた。
セバスがとてもスマート且つ優雅に玄関の扉を開くと、あと数歩でマーティンたちがたどり着く頃だった。
外でのお迎えは、アニーとイアンがしてくれていたみたい。
「お帰り、マーティン!」
笑顔で出迎えると、マーティンがびっくりした顔で僕を見て、すぐにくしゃりと嬉しそうに笑顔で頭を下げてくれた。
「ただ今戻りました。今日は本当にありがとうございました」
「ううん、大変だったね。息子さん達の様子どう?」
「必要ならば明日にでも医者を寄越すから遠慮なく言ってくれ」
僕がマーティンに話しかけると、アレックスも心配そうに告げてくる。
そっか、お医者さんにちゃんと診てもらえた方が良いよね。
「ありがとうございます。
2人とも憔悴しきった様子で馬車を降りてきましたが、私が出迎えると涙を流して喜んで貰えました。
久しぶりに家族全員で食を囲みました。
しっかり食べてましたし、後の方にはきちんと話も出来ましたし、なにより自分の足で歩けていましたので、大事には至らず済みました。
栄養のある食材まで下さり感謝するばかりです」
「そっか、良かった。元気になったら、マーティンと一緒に働けそう?」
「ええ、ええ、とても喜んでいました。二人とも帰り際には気力を取り戻してましたので、家内も私もほっとしとります。
あの様子なら大丈夫です」
身体もだけれど心が駄目になっちゃうと時間がかかるものだ。
けれど、マーティンの話す様子だと、しっかり食べて話も出来たなら大丈夫そうだ。
元気になったら、マーティンと一緒に働けるっていうのが大きいと思う。
勿論回復するまでは少し時間がかかるかもしれないけれど、マーティンが笑顔で安心した表情を向けてくれているのがなによりの証拠だ。
「明日ギルドの補償を受けに家内と手続きに行くと言っていました。
その時に提携医師の診断を受けるそうですから」
「そうか。うちで働く前に、無理せずしっかり休養をとってくれ。
うちはいつでも構わないから、医師の診断をしっかり守って、父親であるマーティンが自信をもって紹介できるようになったら二人を連れてくればいいさ」
「ありがとうございます、ありがとうございます」
アレックスが頷いてから、息子さんたちへの提案を出す。
マーティンがそれに何度もお礼を言う。
マーティンも疲れたでしょうからそろそろ休んでもらいましょう、とアニーから声がかかるまで、玄関ホールでは明るくあたたかな時間が流れた。
「そうか、今夜はゆっくり休んで……レン?」
「ありがとう、セバス!」
立ち上がった僕を、アレックスが不思議そうに見上げてきた。
「お迎えするでしょ?僕、今朝お見送り出来なかったし」
「ああ……わかった、俺も行く」
「レン様」
「ん?」
談話室の扉を開いたセバスが僕を呼び止める。
あ……この表情は、マーティンへの食材を選ぶときに厨房に行った時と似てる。
「お心遣い感謝しますが、本来、使用人の送り迎えを、侯爵夫人となるレン様がする必要はございません。
今回はセオから聞いておりますが、なさらずとも良いのですよ」
「うん。……でも、ただのお休みならともかく、息子さん達があんな状態での帰宅だから、お帰りって言いたいな」
「勿論、レン様がされたいなら話は別です。迎えられて嬉しくない者はおりません」
「なら良かった」
本当ならもう一日くらい休ませてあげたいくらいだよ。
食材の時とは違って、しなくていいってだけで、僕の行動でマイナスになったりはないみたいだ。
「レン様、慌てずとも大丈夫です。お迎えは玄関ホールでお願いします」
「ん?うん、わかった」
門に着いてるなら早く行かなくちゃ、と気がせっちゃった。
セバスにやんわりと遮られる。
元の世界だと、ほいほい扉を自分で開いてたけど、こっちだと自分から開くことってそうそうない事に今更気がついた。
セバスがとてもスマート且つ優雅に玄関の扉を開くと、あと数歩でマーティンたちがたどり着く頃だった。
外でのお迎えは、アニーとイアンがしてくれていたみたい。
「お帰り、マーティン!」
笑顔で出迎えると、マーティンがびっくりした顔で僕を見て、すぐにくしゃりと嬉しそうに笑顔で頭を下げてくれた。
「ただ今戻りました。今日は本当にありがとうございました」
「ううん、大変だったね。息子さん達の様子どう?」
「必要ならば明日にでも医者を寄越すから遠慮なく言ってくれ」
僕がマーティンに話しかけると、アレックスも心配そうに告げてくる。
そっか、お医者さんにちゃんと診てもらえた方が良いよね。
「ありがとうございます。
2人とも憔悴しきった様子で馬車を降りてきましたが、私が出迎えると涙を流して喜んで貰えました。
久しぶりに家族全員で食を囲みました。
しっかり食べてましたし、後の方にはきちんと話も出来ましたし、なにより自分の足で歩けていましたので、大事には至らず済みました。
栄養のある食材まで下さり感謝するばかりです」
「そっか、良かった。元気になったら、マーティンと一緒に働けそう?」
「ええ、ええ、とても喜んでいました。二人とも帰り際には気力を取り戻してましたので、家内も私もほっとしとります。
あの様子なら大丈夫です」
身体もだけれど心が駄目になっちゃうと時間がかかるものだ。
けれど、マーティンの話す様子だと、しっかり食べて話も出来たなら大丈夫そうだ。
元気になったら、マーティンと一緒に働けるっていうのが大きいと思う。
勿論回復するまでは少し時間がかかるかもしれないけれど、マーティンが笑顔で安心した表情を向けてくれているのがなによりの証拠だ。
「明日ギルドの補償を受けに家内と手続きに行くと言っていました。
その時に提携医師の診断を受けるそうですから」
「そうか。うちで働く前に、無理せずしっかり休養をとってくれ。
うちはいつでも構わないから、医師の診断をしっかり守って、父親であるマーティンが自信をもって紹介できるようになったら二人を連れてくればいいさ」
「ありがとうございます、ありがとうございます」
アレックスが頷いてから、息子さんたちへの提案を出す。
マーティンがそれに何度もお礼を言う。
マーティンも疲れたでしょうからそろそろ休んでもらいましょう、とアニーから声がかかるまで、玄関ホールでは明るくあたたかな時間が流れた。
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