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本編

-183- 願わくば アレックス視点

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俺とレンがこちらに来てからちょうど一時間ほどたったころだろう、タイラーとソフィアが帰宅した。
二人の様子はいつもとかわらなかったが、レンを目にしてそれから俺を見て、祝福の言葉を貰った。
俺はこの年で結婚していないどころか恋人もいたことがなかったのだ。

更に、闇属性の俺に相手が出来たのは奇跡としか言いようがない。
二人ともエリソン侯爵領の出身なのでそれはそれは喜んでくれて、少しだけ気恥ずかしい気分になった。

おはぎとタイラーが先導し裏門へ向かっているのだが、こうやって向かっている間にもまだタイラーはオリバーへと説教モードだ。
オリバーは、わかったよ、そうだね、気を付けるよ、を繰り返している。
最初はきちんと反省の色が伺えたが、今はもう聞き流しているように見える。
そうしては、タイラーに、ちゃんと聞いていますか?と確認までされる始末だ。
そして、聞いているよ、から、また、“オリバー様は常日頃ーーー”と繰り返される。

あれはオリバーの悪い癖だが、見た目と声が良い分、相手の方が騙されるんだ。
や、騙されるというと誤解が生じるか、絆される、と言った方がいいかもしれない。
それが原因でまたこじれにこじれていた気がするが、アサヒという伴侶が出来たわけだ、少しずつ変わっている……のだろう。

アサヒの良いところは、ストレートに言葉をぶつけられるところだ。
それに、今までの恋人とは違う感性を持っているようだ。
なにより、オリバー自身がきちんと……というより、必死になってアサヒと向き合っているという点だ。
最初に見た時にはにわかには信じられなかったが、これはもう、すげーの一言だ。


二人と一匹が……ケットシーを匹と数えていいのかは疑問だが、彼らがお茶の支度をしているときにオリバーと二人きりで話す時間がとれた。
レンもアサヒと話したいことがあるだろうと、お茶の支度を手伝うことを了承した。
俺は俺で、レンとアサヒがいないところで、オリバーの意見を聞いておきたいこともあったからだ。

だが、あまりの友人の様に、本題に入るのが遅れてしまった。
今なら、セオが俺とレンを見て大笑いした気持ちもわかる。
俺も俺だが、オリバーもオリバーだ。

『イエスマンだったお前がそんなだとはな、やー笑わせてもらった。
ーーーアサヒがいいやつで良かったな、オリバー』
『あなたにも良い出会いがあってよかったです、アレックス。ところで、イエスマンとは?』
『だって、お前、いつも同じ理由で振られてただろ?振られても、そうですか、ええ、じゃあそうしましょう、みたいにあっさり受け入れてたし』
『みんな私の外見だけが好きだったんですよ、きっと。もしくは、その私に好かれている自分が好き、だったのだと思います』

『全員が全員そうじゃなかったとは思うけどな、流石に』
『そうでしょうか?私なりに大切にしてたつもりですが。つまらない、僕の召使と変わらない、なんていう理由で……ああ、召使じゃなくて、奴隷だったこともありますが。大体、皆私に夢を見すぎなんですよ。
この顔、どれだけ相手の理想を上げるんですかね?
私は薬師で、人を面白おかしく笑わせる術も楽しませる術も持ち合わせていません』

先ほど十分に笑わせてくれたが、それを言うタイミングではない、とこの時は思った。

まあ……けど、顔の造作が良すぎて、元恋人たちの想像しているオリバーというのは、本人よりもずっと高い位置にいたのだろう。
理想が高いからそれと少しでも外れた行動や言動を見せると、思ったのと違う、となり、彼らの熱も冷めていく、そのように思えた。
プライドがあって容姿に自信のある者しか寄ってこなかったから、恋人が違っても同じような別れを繰り返していた気がする。

オリバーは、恋人には優しくしていたが、アサヒに見せるような熱っぽさは全く感じなかった。
植物に対する情熱は人間には向かない奴なのかと思っていたが、そうじゃなかったようだ。
必死になって得ようとするものがある。
それが初めて人間相手に向いた。
オリバーだけじゃない、俺もだ。
相手のレンとアサヒにとっては、迷惑この上ないかもしれない。

そんな話題から始まったので、本来の貞操具の残骸を鑑定してもらうのには少し時間を要した。

レンの貞操具に使われていたのは、アサヒの貞操具には使われていないものがあった。
植物を使っているようだ、とわかったからこそオリバーを頼ったが、あたりだった。
薬や植物の鑑定、知識量は、流石だとしか言いようがない。

カランデュエル。
カレンデュラが魔当たりしたのが切っ掛けだといわれている魔物の一種だ。
それが、レンの貞操具に使われていた。
帝国において禁忌とされていて、栽培は認められていない植物だ。

植物の魔物でも、栽培が認められていて広く暮らしに浸透しているものはいくつもある。
だが、認められていないものも一定数ある。
そのうちの一つだ。

本来魔力のある生き物に寄生し、魔力を吸い上げ、成長を続け魔力が満タンになると開花するという。
あのアナルプラグの先に続いていた紐のように細く長いもんが茎で、最後に出てきた気色悪い塊が蕾だったらしい。
あの植物がレンの中で花開くことがあれば、レンの身体を体内から突き破り無事ではすまなかったようだ。

アサヒのものは、アナルプラグの先には何ものなかったという。
ただ、その貞操具自体が帝国で禁止されている魔物の植物をも使用している、らしい。

オリバーの見解では、あの貞操具は、神器様からの魔力で作動し、産道を常に開いた状態にするという働きがあるようだ。
産道が開かれていたら、排泄機能はおのずと閉じ、空腹も感じないのだ、と。
だから、『自分の精液のみ与えていれば満足する。飼い犬より餌代がかからない』とかいう阿呆がいるわけだ。

本当に反吐が出る。


レンを、失わずにすんでよかった。

はじめて手にする存在。
自分と同じ闇属性。
望んでも無理な話だととっくに諦めていたその矢先、目の前に突然現れた。
レンにとっては、理不尽で迷惑な話だったろう。
勝手に違う世界に落とされた挙句、妊娠可能とする実を無理やり食べさせられ、知らない奴のところへ送られて。
まだ出会って3日間だというのに、身も心も受け入れてくれた。
レンは、素直で優しく美しい上に、努力家だ。
人に好かれる素質を持っている。
言われずとも大切にしたいし、幸せにしてやりたい。

願わくば、俺の全てを受け入れて欲しいと思う。

オリバーが、子供を望まないなら、産道が開ききる前に抱いてしまえばいい、と言った助言も理由はわかる。
俺自身が子供が欲しいと望んでいなかったからだ。
闇属性同士から産まれる子供は、闇属性以外ない。
俺と同じ境遇を与えるとわかっていて、己の血を分けた子供を欲するのは間違っている、そう思っていた。

俺は良い、レンと出会えた。
だが、その子供は?
俺等がいるときはいいだろう。
だが、俺たちも寿命には逆らえない。
闇属性の子供が帝国内でどう生きていけばいいのかって考えると正直難しい。

難しいが、子供はいらない、必要ない、とは言えるが、子供が欲しくない、とは、今は言えない。
その変化に自分自身でびっくりする。
欲しくないわけじゃない、と思ってしまった。

願わくば、受け入れて、受け止めて欲しいって思っちまう。
俺だけに許された場所へ、俺の全てを受け入れて欲しい、そう思っている。

余計なことを言ったと謝るオリバーには、申し訳なさがにじみ出ていた。
あれには、俺の方こそ色々と心配をかけているのだと思えた。



「こちらです」

タイラーの声に、裏門近くの魔法陣を確認すべく前に出る。
オリバーはぐったりした様子でため息を吐いていた。
少し一緒に来るのを後悔していそうだな。

結界の魔法陣はところどころ劣化が見られて欠けていた。
放っておいてしまったから当たり前のことだった。
だが、そのかけた魔法陣の上に、なんとも可愛らしい魔法陣が重ね掛けされていた。
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