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本編
-180- 裏番長
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結界の穴の話だけじゃなくて、そこから侵入者まであったと聞いて僕はびっくりする。
地下牢があることにも驚いたけれど、侵入者……立派な犯罪だ。
元の世界だったら、すぐに警察へ届けてそのまま捕まる案件だ。
けれど、タイラーさんは、侵入者三人をこの家の地下牢へ入れたみたい。
アレックスがそれを知っても、冷静だったわけだし、行けば解決することだって言っていたくらいだ。
だとしたら、タイラーさんの判断も間違いじゃないんだろうけれど、帝都にも警備隊はいるよね?
なのに、最善策は、地下牢へ入れて、アレックスに対処してもらうことなの?
アレックスの家だから、直には出来ないのかな?
うーん、僕だけぐるぐるしたってなにも解決しないから、後でどうして正しいのか聞いておかなくちゃ。
万が一本邸で起こったとしたら、たとえアレックスが不在の時でも、その時はセバスやセオが色々助言をしてくれるだろうけれど。
僕が当たり前だと思っていたことが、この世界だと違うことがいくつもあるんだ。
だから、侵入者ひとつにしても、普通はこうする、っていうその“普通”が通用しないこともある。
あ。
つい、自分のことばかり考えちゃって、反省する。
オリバーさんにしてみたら、穴のことだけじゃなくて、侵入者のことも黙ってられたんだもんね。
それも、元職場仲間からの侵入。
堪えちゃう話だ。
「なぜ、おはぎが起こしに来たとき、私を起こしてくれなかったんですか?」
「だって、お前が気持ちよさそうに寝てたから。……それに、お前、腕っぷし0なんだろ?」
「アサヒは強いんですか?」
「まあ、それなりに動ける」
オリバーさんは、身長も高くて筋肉もそれなりにありそうだけれど、荒事は苦手みたいだ。
それにしても。
それなりって旭さんは言うけど、たぶん、だいぶだと思うな。
あんな動きが出来るくらいだもん。
「タイラーから、お前を守れるくらいになってほしいって言われたし」
「危険なことしないでください」
「んなこと言ったって、危険なことしなくても起きるかもしれねーじゃん。
今回のはともかくさ、もし起きた時に守れなきゃ困るだろ?」
「危険なことなんて、私がらみでしょう?
宮廷薬師時代の研究結果の横取か、それとも恋愛の逆恨みか、あり得るのはどちらかです。
アサヒには何の関係もありません!」
わ……それは……オリバーさん、それは、言っちゃ駄目だよ。
何の関係もない、だなんて、旭さん絶対傷つくよ。
僕もつい昨日、いらない、必要ないって言われて凄く傷ついちゃったもん。
でも、僕が口をはさむわけにはいかない。
ちらりとアレックスを見上げると、アレックスも“オリバーの奴やらかしたな”って、痛そうな顔で二人を見てる。
きっと、僕ら、同じような顔で二人を見守ってると思う。
「なんで?」
「なんでって、なんです?」
「なんで俺には何の関係もねえの?オリバーのことなのに?」
「過去の研究結果の横取も恋愛の逆恨みも、あなたは知らないことですし、気にすることじゃありません」
「そりゃあ、宮廷薬師んときの研究結果の横取だって、恋愛の逆恨みだって、俺は知らねえよ。
聞いてねえもん。
けど、さっき、お前俺になんつった?
『あなたが知ってることを私が知らないのが嫌』そう言ったよな?
なのに、お前は俺に、『何の関係もない、知らないことだから、気にしないでいい』そういうのか?
お前、俺に同じこと言われたらどう思うの?俺今すげー傷ついてんだけど」
旭さん、泣きそう。
大丈夫かな?
旭さんは、ちゃんと自分が傷ついてるって素直に言葉に出来るんだ。
相手がオリバーさんだからこそだと思うけれど、まっすぐに言われたら、さすがにオリバーさんにも届くはずだ。
オリバーさんは、はっと息を飲んでから、慈しむように旭さんを見る。
「ごめんなさい、アサヒ。でも、私のために危ないことはしないで欲しくて」
「何の関係もないなんて言わないでくれよ、っ頼むから」
「ごめんなさい」
「危ないことは自らはしないけど、いざという時には、俺自身もお前のことも守れるようになりたいから、それは許してほしい」
「………」
譲れないこともある、かな。
誰だって好き好んで、自分が守りたい人を危ない目に合わせたくはない。
でも……旭さんなら、いざという時は、例えば、二人で逃げる隙をつくる、くらいは任せられるかなって思うんだ。
『アサヒのこと、おはぎ守る』
あ、おはぎ!
クッキーばかりで全然二人のことを気にしてなさそうだったけれど、ちゃんと気にかけてくれてたみたい。
頼りになるなあ……って感心しかけたけれど、お皿の上のクッキーがすっかり全部綺麗になくなってるのを見て、複雑な気分になった。
「本当は私が守りたいんです。出来ないことは、わかってます」
『ん。オリバー弱い、ムリ』
苦しそうに告げるオリバーさんに、おはぎが辛辣な言葉を投げる。
なんていうか、事実を言葉にしただけって感じで、なんの感情も見えないおはぎの言葉が、よりささって聞こえる。
オリバーさんも、おはぎの言葉により顔を顰めた。
「別にいいじゃん、そういうのは適材適所っていうか、出来るやつがやればいいんだし。
何でもかんでも出来るやつなんていないだろ?
苦手なこと無理にしなくていいよ、お前はもっと、得意なことしてればいい」
「アサヒ」
旭さんの言葉に、オリバーさんが感極まって旭さんに抱き着きそうになる。
上手くあしらってから、安堵した旭さん。
良かった。
アレックスを見上げると、アレックスもほっとしたようにソファに背を預けた。
『大丈夫。アサヒ、裏番長、とっても強い!おはぎ、アサヒより、もっと強い!任せて』
「え?」
裏番長?
旭さんが?
裏番長って、元の世界で、ってことだよね?
ぎょっとした顔の旭さんと目が合う。
あ、僕がわかっちゃったのを、わかっちゃったみたいだ。
裏番長ってもっと、厳つい人のイメージだったけれど……あ、それはただの番長か。
でも、えー……旭さんの見た目からしたら意外過ぎだよ。
僕が言うのもなんだけれど、旭さん、線が細いもん。
とてもそんな風には見えない。
あ、だからこその“裏番長”なのか。
あー……うん、でも、そっか、だからか。
なんであんなに実践慣れしてるのかなって思った。
宰相に詰め寄った時と、さっきのアレックスの時と、まだ二回しか見てないけれど、躊躇いとか全くなさそうだった。
素人の動きじゃないなって思ったけれど、だからか、そっか、謎が解けた。
「“うらばんちょー”ってなんだ?」
そっかそっか、と僕が小さく頷いてると、アレックスが僕を見て問いかけてくる。
え?
“裏番長”が何かって?
えー?なんて言えばいいんだろう?
「えーと…強くて頼りになって、影で支えてくれるリーダー的な存在、かな?」
うん、間違っちゃいないよね。
地下牢があることにも驚いたけれど、侵入者……立派な犯罪だ。
元の世界だったら、すぐに警察へ届けてそのまま捕まる案件だ。
けれど、タイラーさんは、侵入者三人をこの家の地下牢へ入れたみたい。
アレックスがそれを知っても、冷静だったわけだし、行けば解決することだって言っていたくらいだ。
だとしたら、タイラーさんの判断も間違いじゃないんだろうけれど、帝都にも警備隊はいるよね?
なのに、最善策は、地下牢へ入れて、アレックスに対処してもらうことなの?
アレックスの家だから、直には出来ないのかな?
うーん、僕だけぐるぐるしたってなにも解決しないから、後でどうして正しいのか聞いておかなくちゃ。
万が一本邸で起こったとしたら、たとえアレックスが不在の時でも、その時はセバスやセオが色々助言をしてくれるだろうけれど。
僕が当たり前だと思っていたことが、この世界だと違うことがいくつもあるんだ。
だから、侵入者ひとつにしても、普通はこうする、っていうその“普通”が通用しないこともある。
あ。
つい、自分のことばかり考えちゃって、反省する。
オリバーさんにしてみたら、穴のことだけじゃなくて、侵入者のことも黙ってられたんだもんね。
それも、元職場仲間からの侵入。
堪えちゃう話だ。
「なぜ、おはぎが起こしに来たとき、私を起こしてくれなかったんですか?」
「だって、お前が気持ちよさそうに寝てたから。……それに、お前、腕っぷし0なんだろ?」
「アサヒは強いんですか?」
「まあ、それなりに動ける」
オリバーさんは、身長も高くて筋肉もそれなりにありそうだけれど、荒事は苦手みたいだ。
それにしても。
それなりって旭さんは言うけど、たぶん、だいぶだと思うな。
あんな動きが出来るくらいだもん。
「タイラーから、お前を守れるくらいになってほしいって言われたし」
「危険なことしないでください」
「んなこと言ったって、危険なことしなくても起きるかもしれねーじゃん。
今回のはともかくさ、もし起きた時に守れなきゃ困るだろ?」
「危険なことなんて、私がらみでしょう?
宮廷薬師時代の研究結果の横取か、それとも恋愛の逆恨みか、あり得るのはどちらかです。
アサヒには何の関係もありません!」
わ……それは……オリバーさん、それは、言っちゃ駄目だよ。
何の関係もない、だなんて、旭さん絶対傷つくよ。
僕もつい昨日、いらない、必要ないって言われて凄く傷ついちゃったもん。
でも、僕が口をはさむわけにはいかない。
ちらりとアレックスを見上げると、アレックスも“オリバーの奴やらかしたな”って、痛そうな顔で二人を見てる。
きっと、僕ら、同じような顔で二人を見守ってると思う。
「なんで?」
「なんでって、なんです?」
「なんで俺には何の関係もねえの?オリバーのことなのに?」
「過去の研究結果の横取も恋愛の逆恨みも、あなたは知らないことですし、気にすることじゃありません」
「そりゃあ、宮廷薬師んときの研究結果の横取だって、恋愛の逆恨みだって、俺は知らねえよ。
聞いてねえもん。
けど、さっき、お前俺になんつった?
『あなたが知ってることを私が知らないのが嫌』そう言ったよな?
なのに、お前は俺に、『何の関係もない、知らないことだから、気にしないでいい』そういうのか?
お前、俺に同じこと言われたらどう思うの?俺今すげー傷ついてんだけど」
旭さん、泣きそう。
大丈夫かな?
旭さんは、ちゃんと自分が傷ついてるって素直に言葉に出来るんだ。
相手がオリバーさんだからこそだと思うけれど、まっすぐに言われたら、さすがにオリバーさんにも届くはずだ。
オリバーさんは、はっと息を飲んでから、慈しむように旭さんを見る。
「ごめんなさい、アサヒ。でも、私のために危ないことはしないで欲しくて」
「何の関係もないなんて言わないでくれよ、っ頼むから」
「ごめんなさい」
「危ないことは自らはしないけど、いざという時には、俺自身もお前のことも守れるようになりたいから、それは許してほしい」
「………」
譲れないこともある、かな。
誰だって好き好んで、自分が守りたい人を危ない目に合わせたくはない。
でも……旭さんなら、いざという時は、例えば、二人で逃げる隙をつくる、くらいは任せられるかなって思うんだ。
『アサヒのこと、おはぎ守る』
あ、おはぎ!
クッキーばかりで全然二人のことを気にしてなさそうだったけれど、ちゃんと気にかけてくれてたみたい。
頼りになるなあ……って感心しかけたけれど、お皿の上のクッキーがすっかり全部綺麗になくなってるのを見て、複雑な気分になった。
「本当は私が守りたいんです。出来ないことは、わかってます」
『ん。オリバー弱い、ムリ』
苦しそうに告げるオリバーさんに、おはぎが辛辣な言葉を投げる。
なんていうか、事実を言葉にしただけって感じで、なんの感情も見えないおはぎの言葉が、よりささって聞こえる。
オリバーさんも、おはぎの言葉により顔を顰めた。
「別にいいじゃん、そういうのは適材適所っていうか、出来るやつがやればいいんだし。
何でもかんでも出来るやつなんていないだろ?
苦手なこと無理にしなくていいよ、お前はもっと、得意なことしてればいい」
「アサヒ」
旭さんの言葉に、オリバーさんが感極まって旭さんに抱き着きそうになる。
上手くあしらってから、安堵した旭さん。
良かった。
アレックスを見上げると、アレックスもほっとしたようにソファに背を預けた。
『大丈夫。アサヒ、裏番長、とっても強い!おはぎ、アサヒより、もっと強い!任せて』
「え?」
裏番長?
旭さんが?
裏番長って、元の世界で、ってことだよね?
ぎょっとした顔の旭さんと目が合う。
あ、僕がわかっちゃったのを、わかっちゃったみたいだ。
裏番長ってもっと、厳つい人のイメージだったけれど……あ、それはただの番長か。
でも、えー……旭さんの見た目からしたら意外過ぎだよ。
僕が言うのもなんだけれど、旭さん、線が細いもん。
とてもそんな風には見えない。
あ、だからこその“裏番長”なのか。
あー……うん、でも、そっか、だからか。
なんであんなに実践慣れしてるのかなって思った。
宰相に詰め寄った時と、さっきのアレックスの時と、まだ二回しか見てないけれど、躊躇いとか全くなさそうだった。
素人の動きじゃないなって思ったけれど、だからか、そっか、謎が解けた。
「“うらばんちょー”ってなんだ?」
そっかそっか、と僕が小さく頷いてると、アレックスが僕を見て問いかけてくる。
え?
“裏番長”が何かって?
えー?なんて言えばいいんだろう?
「えーと…強くて頼りになって、影で支えてくれるリーダー的な存在、かな?」
うん、間違っちゃいないよね。
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