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本編
-169- 帰宅
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学校が見えてからエリソン侯爵邸までは本当にすぐだった。
薔薇農園の広がる道に入るところで、また領民たちに声をかけて貰って手を振って、その時にはもう侯爵邸が見えていた。
セバスとアニーに笑顔で出迎えられる。
戻って早々、セバスがアレックスを引き留めて、少し難しい顔で一言二言告げていて、それを聞いたアレックスが小さく頷いたのがわかった。
なんだろう、良くないことなのかな?そんな風に思ったけれど、宮廷の職場に急ぎの手紙が届いたから、一度戻ることになったと言う。
「手紙は、帝都の別邸からで急ぎだというから、とりあえず手紙だけ確認してすぐ戻る。
約束まではまだ少し時間があるし、レンもたくさん移動して子供たちと遊んで疲れただろうから、休んでいてくれ」
「うん、わかった。皆にお土産渡して待ってるね」
「ああそうか…すまない、先にセバスに渡してしまったから、直接渡したいならセバスから受け取ってくれ。…行ってくる」
「行ってらっしゃい」
慰めるようにキスを落とされて、素早く魔法士の制服に着替えたアレックスは転移で出ていく。
僕よりアレックスの方が疲れただろうに、そんな素振りは全然見せない。
僕もそこまで疲れた感じはしないけど、お土産渡すのにアレックスがいないのはちょっと寂しいな、なんて思ってしまう。
「レン様ー、休憩で食堂にみんな集まるそうですから、そこで渡しましょうか」
「うん」
明るく声をかけてくれたセオは、そんな僕を見抜いていたのかもしれない。
気を取り直して、明るい返事を返した。
「可愛い!牛型のケーキなんてあったんだ」
「まだ試作品みたいですよ、これから店頭に並ぶそうです」
「そっか……ん、おいしいっ!」
牧場でアレックスと一緒にいたジュードが答えを教えてくれた。
わがまま言って、使用人の食堂で僕もみんなと一緒に食べる。
たぶん、侯爵夫人として喜ばしい行動ではないはずだ。
『レン様の分はちゃんと取っておきます』と言われて、アレックスの分もあるのか聞いたら、ないっていうんだもん。
『それなら、皆と一緒にここで食べたい』と言い出した僕に、セバスが今日だけ特別に許してくれたんだ。
牛型のケーキは牛乳がたくさん使われてるようなしっとりしてるけれど軽いケーキだった。
甘さも控えめで美味しい。
「レン様、乳搾りしたって本当ですか?」
斜め前に座っていたイアンがびっくり顔で聞いてくる。
「うん。難しかったけど、初めてにしては上手だって褒めてもらえたよ。
乳牛がね、人懐こくてとても可愛かったし、搾りたての生乳をいただいたんだけどすごく美味しかった」
「そうですかそうですか」
「あ、孤児院でお芋掘りをして、さつま芋もらったんだ。
大きいお芋だから、皆で食べようね。
大きいのは美味しくないかもしれないってアレックスに言われたんだけど、パイに出来る?」
「ええ、お任せください。
ただ、三週間くらいは置いた方が美味くなりますから、すぐにはお出しできませんがいいですか?」
「うん。ありがとう、イアン」
「レン様、芋ほりされたんかあ?」
「親父、そんなわけーー」
「うん!はじめてだったけど、すごく楽しかったよ」
にこにこ顔のイアンの横で、ロブが声をかけてくれた。
あ、ロンがなにか言いかけたけど、遮っちゃった。
僕の言葉にぎょっとしたのは、ロンだけじゃなくて、イアンもアニーもついでにレナードもだ。
レナードなんてまた、は?って、びっくりした声が出てた。
ロブとトムだけニコニコした笑顔で頷いてくる。
二人は孫を見守るような視線だ、安心するなあ。
「そうかそうかあ、よがったなあ。今年は豊作だって聞いたがあ」
「うん、すごくたくさんとれたよ。孤児院の子供たちが頑張ってくれたんだ」
「…他に、何をされたんです?」
レナードから僕に聞いてくれた。
恐る恐るという感じだけれど、直接聞いてくれるのが嬉しい。
お芋掘りも乳搾りもびっくりしてたもんね、他に何かあるなら先に聞いておこうって感じなのかな?
後から知ると、レナードの心臓に悪いのかもしれない。
「孤児院では、あとはみんなでご飯を食べて、それから絵本を読んだり、合唱の伴奏をしたり。あと、僕もお礼に歌を歌ったよ」
「やー、俺、めちゃくちゃ感動しました。また歌ってくださいね」
「うん」
「お前泣いてたもんな」
「うっさいなー、ジュードもアレックス様も泣いてただろー?」
「俺は泣いてません。かろうじて」
「うっそだー」
セオとジュードがじゃれ合う。
じゃれ合うっていうか、ジュードがセオを揶揄ってるだけなのかもしれないけれど。
「今度、聞かせてください」
みんながおかしそうに笑う中、レナードがぼそりと呟く。
ちゃんと拾えてよかった。
「うん、勿論」
薔薇農園の広がる道に入るところで、また領民たちに声をかけて貰って手を振って、その時にはもう侯爵邸が見えていた。
セバスとアニーに笑顔で出迎えられる。
戻って早々、セバスがアレックスを引き留めて、少し難しい顔で一言二言告げていて、それを聞いたアレックスが小さく頷いたのがわかった。
なんだろう、良くないことなのかな?そんな風に思ったけれど、宮廷の職場に急ぎの手紙が届いたから、一度戻ることになったと言う。
「手紙は、帝都の別邸からで急ぎだというから、とりあえず手紙だけ確認してすぐ戻る。
約束まではまだ少し時間があるし、レンもたくさん移動して子供たちと遊んで疲れただろうから、休んでいてくれ」
「うん、わかった。皆にお土産渡して待ってるね」
「ああそうか…すまない、先にセバスに渡してしまったから、直接渡したいならセバスから受け取ってくれ。…行ってくる」
「行ってらっしゃい」
慰めるようにキスを落とされて、素早く魔法士の制服に着替えたアレックスは転移で出ていく。
僕よりアレックスの方が疲れただろうに、そんな素振りは全然見せない。
僕もそこまで疲れた感じはしないけど、お土産渡すのにアレックスがいないのはちょっと寂しいな、なんて思ってしまう。
「レン様ー、休憩で食堂にみんな集まるそうですから、そこで渡しましょうか」
「うん」
明るく声をかけてくれたセオは、そんな僕を見抜いていたのかもしれない。
気を取り直して、明るい返事を返した。
「可愛い!牛型のケーキなんてあったんだ」
「まだ試作品みたいですよ、これから店頭に並ぶそうです」
「そっか……ん、おいしいっ!」
牧場でアレックスと一緒にいたジュードが答えを教えてくれた。
わがまま言って、使用人の食堂で僕もみんなと一緒に食べる。
たぶん、侯爵夫人として喜ばしい行動ではないはずだ。
『レン様の分はちゃんと取っておきます』と言われて、アレックスの分もあるのか聞いたら、ないっていうんだもん。
『それなら、皆と一緒にここで食べたい』と言い出した僕に、セバスが今日だけ特別に許してくれたんだ。
牛型のケーキは牛乳がたくさん使われてるようなしっとりしてるけれど軽いケーキだった。
甘さも控えめで美味しい。
「レン様、乳搾りしたって本当ですか?」
斜め前に座っていたイアンがびっくり顔で聞いてくる。
「うん。難しかったけど、初めてにしては上手だって褒めてもらえたよ。
乳牛がね、人懐こくてとても可愛かったし、搾りたての生乳をいただいたんだけどすごく美味しかった」
「そうですかそうですか」
「あ、孤児院でお芋掘りをして、さつま芋もらったんだ。
大きいお芋だから、皆で食べようね。
大きいのは美味しくないかもしれないってアレックスに言われたんだけど、パイに出来る?」
「ええ、お任せください。
ただ、三週間くらいは置いた方が美味くなりますから、すぐにはお出しできませんがいいですか?」
「うん。ありがとう、イアン」
「レン様、芋ほりされたんかあ?」
「親父、そんなわけーー」
「うん!はじめてだったけど、すごく楽しかったよ」
にこにこ顔のイアンの横で、ロブが声をかけてくれた。
あ、ロンがなにか言いかけたけど、遮っちゃった。
僕の言葉にぎょっとしたのは、ロンだけじゃなくて、イアンもアニーもついでにレナードもだ。
レナードなんてまた、は?って、びっくりした声が出てた。
ロブとトムだけニコニコした笑顔で頷いてくる。
二人は孫を見守るような視線だ、安心するなあ。
「そうかそうかあ、よがったなあ。今年は豊作だって聞いたがあ」
「うん、すごくたくさんとれたよ。孤児院の子供たちが頑張ってくれたんだ」
「…他に、何をされたんです?」
レナードから僕に聞いてくれた。
恐る恐るという感じだけれど、直接聞いてくれるのが嬉しい。
お芋掘りも乳搾りもびっくりしてたもんね、他に何かあるなら先に聞いておこうって感じなのかな?
後から知ると、レナードの心臓に悪いのかもしれない。
「孤児院では、あとはみんなでご飯を食べて、それから絵本を読んだり、合唱の伴奏をしたり。あと、僕もお礼に歌を歌ったよ」
「やー、俺、めちゃくちゃ感動しました。また歌ってくださいね」
「うん」
「お前泣いてたもんな」
「うっさいなー、ジュードもアレックス様も泣いてただろー?」
「俺は泣いてません。かろうじて」
「うっそだー」
セオとジュードがじゃれ合う。
じゃれ合うっていうか、ジュードがセオを揶揄ってるだけなのかもしれないけれど。
「今度、聞かせてください」
みんながおかしそうに笑う中、レナードがぼそりと呟く。
ちゃんと拾えてよかった。
「うん、勿論」
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