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本編

-161- 人物鑑定、歩みよる心 アレックス視点

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人物鑑定?
いやいや、何言ってんだ?
子供たちの人物鑑定は、しないって約束だろ。
確かに、スキルや魔力鑑定は、7歳を前にしてエリソン侯爵領の教会で行うし、預かる時にも魔道具を使用して、魔力測定はする。低い場合はともかく、高い場合は教えが必要だからだ。

だが、生立ちや血を追うようなことはしない。

これは、祖父さまが決めたことだ。
遡ることで、他国や人族でない血が出たら?
もし、貴族の血が入っていたら?

受け入れの前でそれをすれば判断を誤るし、受け入れた後であれば、その子に対する態度が変わる。

子供たちは敏感だ。
ここに来る子供たちは、さらに敏いだろう。

聞かれていないと思っても、どこかで誰かが聞きかじってしまうかもしれない。
子供たちは、尊い存在であり、平等に愛すべき宝であるからだ。

「許可出来かねます。ルカ本人が望んでいるのですか?」
「いいえ、まだ話をしていません」
「なら尚更です」

何言ってんだ、ったく。
セバスを寄越したら、それこそ断れないだろ。
セバスの持つ鑑定スキルは、特別強い。
鑑定スキルというのは、ものを見るだけで、その名前や状態の善し悪し等、本質が分かる、というスキルだ。
空中に文字が浮かんで見えるらしい。
名前しか見れない者もいれば、状態の善し悪しまでわかる者もいる。
それは、スキルの高さによる。

スキルというのは、学び磨いてある日スキルとして身につくものと、生まれ持って身についている天性のものと、2パターンある。
鑑定スキルを持っているものは、一定数いる。
友人のオリバーは、植物に関しての鑑定であれば、帝国1、2を争うほどだ。因みに彼は、学び磨いて身につけたものである。
商人であれば、仕事上商品に対して鑑定スキルが身につく者も少なくない。
セバスの場合は、天性のもので、それを更に学び磨いてきた。
子供の頃から、名前と魔力とスキルと状態が常に見えていたらしく、それが常であったから、特別なものとは思わなかったらしい。
最初は制御する方が大変だったというが、成人した時には既に、見ようとしなければ見えない、までに制御出来たと聞く。

逆に、見ようとすれば、奥底に隠蔽されているものまで見えるらしい。
隠蔽は、けして悪いものだけという訳でもない。
特別なスキルを隠したい場合、魔物によって何らかの呪いを受けていた場合、元孤児であることが商売への不利になる場合等、隠蔽する方が生活がしやすい者もいる。
因みに隠蔽するには、魔道具に頼るのが一番簡単だが、隠蔽スキルを持つ者や、一部の魔道士等は、魔法で隠蔽することも出来る。

セバスもそうほいほいと鑑定をかけているわけじゃない。無意識も興味を向けてしまえば少し発動するらしいが、隠蔽された情報まで読み取るのは、それなりの時間、対象を見つめる必要があるようだ。



「ルカ、という名前は、帝国では珍しい名前ね。とある種族を除いて」

待て待て、エルフの血が入ってるってか?
俺の師匠の名前はルカだ、ルカ=スペンサー。
本人曰く、エルフ族で“ルカ”という名前は男性名で非常に多く、ありきたりだと言っていたが、名前だけで?

「エルフの血が入っていると?…彼が持っている腕輪と手紙の文字は、共通語ですよ?
文様も独特でしたし、早計ではないでしょうか」

エルフ族の里は、この帝国内に統合されてからかなり経つ。
古くには里を出て、自由を求めて他国に渡ったものも少なくないとは聞いているが、それこそこの閉ざされた帝国内では、有り得ない話だ。

「他の子に比べて随分と小さいでしょう?でも体は健康そのものだそうです」
「子供の成長には差があってもおかしくないのでは?」
「万が一継いでいる場合、あの子だけ生きる時間が異なる…それでは苦しいでしょう」
「だとしても、本人が望んでもいないものを黙ってやる訳にはいかないでしょう?
彼はまだ11歳かも知れませんが、もう、11歳でもあります。
自分のことを自分で考え、意思決定の出来る歳です」
「…規格外の貴方自身を基準にするのは良くないわね」
「とにかく、本人の承諾なしに人物鑑定するなど、許可出来ません。───これ以上は平行線ですから、これで終わりにしてください。本人が望むのでしたらまた考えましょう」
「でもね──」
「終わりと言ったはずですが」
「聞いてちょうだい、アレックス」
「いいえ、聞きません。お祖母さま、貴方はいつも相手に良かれと思って先に行動を起こされます。情報を自ら仕入れ、相手のためを思って、と。
それは、確かに相手にとって良い時も勿論あります。
でも、相手の気持ちを無視してるのをおわかりですか?
…その相手は今後俺だけにしてください。出来れば、先にお祖母さまから相談して欲しいとは思います。俺には考える頭も伝える口もあるんですから。
ルカにとっても、同じです。彼の人生は彼のもの。あなたのものではありません」
「………」

さっきに続いてこんなに祖母さん相手に言い合ったのは、初めてかもしれない。
だが、昔からの悪い癖だと思ってる。学生時代、勝手に護衛をつけられて、そうとは知らず返り討ちにした事がある。
撒くに撒けず、鬱陶しくも怪しい連中だったからだ。
ひとこと言ってくれれば良かっただけだ。

俺らの知らないところで、レンの周りをうろちょろされるのは非常に面倒だ。
ジュードは鼻が良いし、セオは耳が良い。
どちらも腕が立つ上に、気配察知に優れてる護衛だ。
盗賊や魔物等、もしもの時に、逆に足でまといになる可能性も少なくない。

「…さっきから叱られてばかりね。レンの影響かしら?」
「俺に守りたいものが増えたからだと思います」
「そう…そうね、貴方はもう立派に大人ですものね。孫離れしなくてはならないかしら?」

寂しそうに微笑む祖母さんを目にしてしまうと、キツいことを言ったか、と少しばかり罪悪感が押し寄せてくる。
孫離れとか、そういう話じゃないだろ。
祖母さん自体を鬱陶しく思ってるわけじゃない。一方通行じゃなく、互いに歩み寄りたいって話だ。

「もっと本人と向き合ってください。その方が、俺も嬉しい」

びっくりしたような顔をされたが、これは本心だ。守りたいものの中には、当然祖母さんも含まれてる。

「さしあたって、お祖母さまの代わりに侯爵邸へ向けてる目と耳を解放して頂きたいなとは思いますが。
知りたいことがあれば、直接聞いてください、家族なんですから」
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