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本編
-160- 孤児院の子供たち アレックス視点
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「先にこちらの受け入れの話から。
先月引き取ったのが、7歳になる男の子、名前はビート。
とても警戒心が強くてまだこの孤児院にも馴染んでいません。
帝都で暮らしていましたが父親は賭博で借金奴隷に、母親は自害だそうです。
母方の祖母がエリソン侯爵領出身で、昨年帝都から引き取られたのですが、その彼女が病で亡くなりました。
父親とはすでに絶縁の届け出がされているために、他に行き場所はありません」
書類を受け取り、サインを入れて領主の受任印を押す。
孤児院での生活を認める正式な書類だ。
これが受任されることによって、エリソン侯爵領の住人として認めると同時に、孤児院にいる限りは何かあれば領主が責任をとるとしている。
子供たちを守る大切な書類だ。
ちなみに孤児院の運営は、帝国は一切かかわっちゃいない。
全てにおいて、領主任せである。
口を出すこともなければ、当然金を出すことなど1イエンもない。
「馴染んでもらえると良いんだが、時間がかかるかもしれないな」
書類を返すと、祖母さんはサインと印を確かめてからクロードに手渡す。
実に貴族らしいやり取りだ。
とはいえ、俺も勝手に書類をとじようとするとセバスに小言を貰うので同じように人を使う。
未だに少しだけ慣れない。
少しだけ、だが。
「あなたから、ビートに声をかけてくれるかしら?領主様がくると聞いて、少しだけ関心を持っていたようだから」
「わかりました」
「次は、養子先が決まった子たちです。
まず1人目。
ギーは、領都に店を構えるエイミーの店長、マリアンとその夫から打診があり、ギー本人がいくつか要望を出しましたが全て飲んだため決定しました」
「あの人結婚してたのですか?」
「夫の方は元宮廷魔法士だったそうよ。名前はダマスス」
「ダマスス……ああ、3年くらい前に開発部にいた奴か!」
腕も性格もついでに顔もいい奴が辞めるっていうんでユージーンがご乱心だったのを覚えている。
努力家で人望もあったようだ。
ようだ、ってのは、ただ単に俺が閉鎖的な場所にいるからだが。
確か、婚約者が店を持つことになったから帝都を離れるって聞いたはずだが…うちの領だったのか。
しかも領都なら、ユージーンの実家ハワード伯が納めている街じゃないか。
ユージーンはうだうだ言っても去る者は追わず主義だから、詳しく聞いていないのかもしれないな。
「マリアンは今でもキャンベル商会の商会員に席を置いているし、その伝手で夫は独立後にキャンベル商会と取引しているそうよ。
住居兼工房を領都に新しく建ててる途中で……正しくは、改築、ね。完成は約一年後、来年の冬になる予定。
ふたりは今年に領民になったばかりだから自分たちの家を持つのに時間がかかったそうね」
うちの領で血縁のない者が領民になるには、領民と結婚するか、領内で3年以上継続して働くかのどちらかが必要になる。
継続して働くといっても、基本的には領民でない限り独立して店や家を借りることすら出来ないので、ギルド員か役人か、もしくはギルドを通しての年間契約で住み込みで働くか…となり、
勿論、犯罪歴がひとつでもあればその受け入れは出来ない。
他領より基準が厳しいが、治安維持が一番の理由だ。
「新しい家で一緒に暮らす家族が欲しいんですって」
「ギーは?」
ギーは10歳で、年齢にしては大分落ち着いていて、頭もいい子だ。
俺がここに来るときには、よく魔法具や魔法陣の話を聞きたがっていた。
「魔法具や魔法陣が好きだから、それに携わる仕事をしたいそうよ。
けれど、自分の魔力量じゃ作り手になるには足りないのも分かってる、と」
「10歳なら…無理すれば、あと5は引き上げできますが」
ギーの魔力は平民にしては高い12だ。
12じゃ確かに魔法士としては足りない。
最低でも15は欲しいところだ。
魔力量は絶対に変えられない、というわけじゃない。
子供の成長途中時に無理くりすれば引き上げは可能だ。
枯渇しないギリギリまで魔力を使って、その後に眠るのを繰り返すことで少しずつ魔力の器を増やしていくんだが、
枯渇すれば永眠状態になるわけで、専門家の教えが必要であり、絶対に子供が遊び半分で行うことではない。
それもほぼ毎日繰り返す必要があるが、上がって年間1増えれば成功と言われている上に、5以上はいくらやっても上がらないらしい。
さらに、成人後はいくらやっても上がらない。
その方法は、平民には知れ渡っていないし、貴族間であっても実際にやる奴なんてほぼいない。
理由は、アリアナ教の教えに、魔力は神様からの贈りもの、という教えがあるからだ。闇は脅威で悪なら、それもまた神の思し召し、らしい。
アリアナ教なんて新しい信仰だぞ?
だったら、魔力が高い女性が産まれなくなったのも、神様のせいじゃないのか?ならば帝国の繁栄どころか衰退を願ったんだろうよ。
ははっ、全く矛盾だらけで、都合の良い宗教だ。
第一、昔から魔力というものはあったんだ、ほぼ親から属性を引継ぐもんだし、んなわけあるか…と、鼻で笑いたくなるが。
ようするに、自ら魔力を増やすなど涜神なのだ。
俺は師匠にやらされたが……懐かしい思い出だ。
「ええ。それを言われて、是非に、と。
それとは別に統計学についても学びたいとも言っていたわね。
それについては、家庭教師を雇うと言っていたわ」
ダマススは知っていたか…というか、やらせる気か。
まあ、アリアナ教の信仰が低い者もいるし、なんにせよ、本人次第だ。
「書類を見る限り、二人の年収なら余裕がありますね」
「ギーの要望は、あと一つ。
実際に一緒に住むのは、再来年、できれば春からにしてほしいと。
養子の契約書はすでに交わされて、こちらにあります。
異例のことですが、養子の契約だけ先に承りました」
これは……難しいな。
先に養子契約だけする意味がよくわからない。
実際書類を交わし、寄付金も払っているが、実際に暮らすのは後っつーのはなあ。
「彼らは勘当されているから、もしもの時に託す人がいないんですって」
「ああ…なるほど。わかりました、本人たちがそれでよしとしてるなら、認めましょう」
承認印を押し、契約完了とする。
他には、9歳のロッテが、エリソン侯爵の学校教師である夫婦に養子になることに決まった。
共に40代になる夫婦で、子供は好きだが出来なかったようだ。
彼女は元々本を読むのが好きで、将来は学校の先生になりたいと言っていたから学ぶものも多いだろう。
「それとリリーですが、いくつか打診はありましたが、本人の希望で断っています」
「保育所で働きたい、か」
「ええ」
うちの領の保育所は、1歳から6歳までを預かることが出来る場所で、区画ごとに点在している。
保育所の職員は、領独自の仕事で、学校の教師と同様、領の職員扱いだ。
保育所で働く資格は特に必要ないが、経験が必要になっている仕事である。
乳母の経験、もしくは、子供を育てたことがある、つまり育児を経験している人に限られている。
リリーが保育所で働くには、育児の経験が必要になる。
パーシーとネロがここに来たのは3年前、か。
0歳児から2歳児までの経験が全くないのならば育児経験とはみなせない。
「子供が好きなんですって。
できるならずっとこの孤児院に居たいそうですよ」
孤児院にいたい、か。
祖母さんも年だし、通いの職員がいるにはいるが、週に2回。
その他の世話は子供たちに任せているようなものだ。
年齢が上の子たちは、下の子たちの面倒を見るので、自分の時間を持ちづらい。
ドロシーとクロードは祖母さんの世話と仕事の方が重点を置いている。
「私も年ですし、住み込みの職員を雇うことも視野にいれてもいいと思っているのよ。
今すぐでなくてもいいのだけれど、子供たちを可愛がってくれる子が来てくれると嬉しいわ」
「…12から15までは見習いとして入ってもらっても良いと思いますが」
「あなたの許可が必要なのよ」
「本人にその気があるなら、書類をそろえてください。承認します」
「わかりました。リリーには話しておきます。
それと、近いうちにセバスを一度寄こしてほしいの」
「セバスを?…理由は?」
手紙や伝言じゃなく、直接セバスをよこしてほしい理由はなんだ?
領地経営はうまくっているしそれに関しては心配されてはいないはずなんだが。
それともレンに関すること、か?
なんだ?
「ルカの人物鑑定です」
先月引き取ったのが、7歳になる男の子、名前はビート。
とても警戒心が強くてまだこの孤児院にも馴染んでいません。
帝都で暮らしていましたが父親は賭博で借金奴隷に、母親は自害だそうです。
母方の祖母がエリソン侯爵領出身で、昨年帝都から引き取られたのですが、その彼女が病で亡くなりました。
父親とはすでに絶縁の届け出がされているために、他に行き場所はありません」
書類を受け取り、サインを入れて領主の受任印を押す。
孤児院での生活を認める正式な書類だ。
これが受任されることによって、エリソン侯爵領の住人として認めると同時に、孤児院にいる限りは何かあれば領主が責任をとるとしている。
子供たちを守る大切な書類だ。
ちなみに孤児院の運営は、帝国は一切かかわっちゃいない。
全てにおいて、領主任せである。
口を出すこともなければ、当然金を出すことなど1イエンもない。
「馴染んでもらえると良いんだが、時間がかかるかもしれないな」
書類を返すと、祖母さんはサインと印を確かめてからクロードに手渡す。
実に貴族らしいやり取りだ。
とはいえ、俺も勝手に書類をとじようとするとセバスに小言を貰うので同じように人を使う。
未だに少しだけ慣れない。
少しだけ、だが。
「あなたから、ビートに声をかけてくれるかしら?領主様がくると聞いて、少しだけ関心を持っていたようだから」
「わかりました」
「次は、養子先が決まった子たちです。
まず1人目。
ギーは、領都に店を構えるエイミーの店長、マリアンとその夫から打診があり、ギー本人がいくつか要望を出しましたが全て飲んだため決定しました」
「あの人結婚してたのですか?」
「夫の方は元宮廷魔法士だったそうよ。名前はダマスス」
「ダマスス……ああ、3年くらい前に開発部にいた奴か!」
腕も性格もついでに顔もいい奴が辞めるっていうんでユージーンがご乱心だったのを覚えている。
努力家で人望もあったようだ。
ようだ、ってのは、ただ単に俺が閉鎖的な場所にいるからだが。
確か、婚約者が店を持つことになったから帝都を離れるって聞いたはずだが…うちの領だったのか。
しかも領都なら、ユージーンの実家ハワード伯が納めている街じゃないか。
ユージーンはうだうだ言っても去る者は追わず主義だから、詳しく聞いていないのかもしれないな。
「マリアンは今でもキャンベル商会の商会員に席を置いているし、その伝手で夫は独立後にキャンベル商会と取引しているそうよ。
住居兼工房を領都に新しく建ててる途中で……正しくは、改築、ね。完成は約一年後、来年の冬になる予定。
ふたりは今年に領民になったばかりだから自分たちの家を持つのに時間がかかったそうね」
うちの領で血縁のない者が領民になるには、領民と結婚するか、領内で3年以上継続して働くかのどちらかが必要になる。
継続して働くといっても、基本的には領民でない限り独立して店や家を借りることすら出来ないので、ギルド員か役人か、もしくはギルドを通しての年間契約で住み込みで働くか…となり、
勿論、犯罪歴がひとつでもあればその受け入れは出来ない。
他領より基準が厳しいが、治安維持が一番の理由だ。
「新しい家で一緒に暮らす家族が欲しいんですって」
「ギーは?」
ギーは10歳で、年齢にしては大分落ち着いていて、頭もいい子だ。
俺がここに来るときには、よく魔法具や魔法陣の話を聞きたがっていた。
「魔法具や魔法陣が好きだから、それに携わる仕事をしたいそうよ。
けれど、自分の魔力量じゃ作り手になるには足りないのも分かってる、と」
「10歳なら…無理すれば、あと5は引き上げできますが」
ギーの魔力は平民にしては高い12だ。
12じゃ確かに魔法士としては足りない。
最低でも15は欲しいところだ。
魔力量は絶対に変えられない、というわけじゃない。
子供の成長途中時に無理くりすれば引き上げは可能だ。
枯渇しないギリギリまで魔力を使って、その後に眠るのを繰り返すことで少しずつ魔力の器を増やしていくんだが、
枯渇すれば永眠状態になるわけで、専門家の教えが必要であり、絶対に子供が遊び半分で行うことではない。
それもほぼ毎日繰り返す必要があるが、上がって年間1増えれば成功と言われている上に、5以上はいくらやっても上がらないらしい。
さらに、成人後はいくらやっても上がらない。
その方法は、平民には知れ渡っていないし、貴族間であっても実際にやる奴なんてほぼいない。
理由は、アリアナ教の教えに、魔力は神様からの贈りもの、という教えがあるからだ。闇は脅威で悪なら、それもまた神の思し召し、らしい。
アリアナ教なんて新しい信仰だぞ?
だったら、魔力が高い女性が産まれなくなったのも、神様のせいじゃないのか?ならば帝国の繁栄どころか衰退を願ったんだろうよ。
ははっ、全く矛盾だらけで、都合の良い宗教だ。
第一、昔から魔力というものはあったんだ、ほぼ親から属性を引継ぐもんだし、んなわけあるか…と、鼻で笑いたくなるが。
ようするに、自ら魔力を増やすなど涜神なのだ。
俺は師匠にやらされたが……懐かしい思い出だ。
「ええ。それを言われて、是非に、と。
それとは別に統計学についても学びたいとも言っていたわね。
それについては、家庭教師を雇うと言っていたわ」
ダマススは知っていたか…というか、やらせる気か。
まあ、アリアナ教の信仰が低い者もいるし、なんにせよ、本人次第だ。
「書類を見る限り、二人の年収なら余裕がありますね」
「ギーの要望は、あと一つ。
実際に一緒に住むのは、再来年、できれば春からにしてほしいと。
養子の契約書はすでに交わされて、こちらにあります。
異例のことですが、養子の契約だけ先に承りました」
これは……難しいな。
先に養子契約だけする意味がよくわからない。
実際書類を交わし、寄付金も払っているが、実際に暮らすのは後っつーのはなあ。
「彼らは勘当されているから、もしもの時に託す人がいないんですって」
「ああ…なるほど。わかりました、本人たちがそれでよしとしてるなら、認めましょう」
承認印を押し、契約完了とする。
他には、9歳のロッテが、エリソン侯爵の学校教師である夫婦に養子になることに決まった。
共に40代になる夫婦で、子供は好きだが出来なかったようだ。
彼女は元々本を読むのが好きで、将来は学校の先生になりたいと言っていたから学ぶものも多いだろう。
「それとリリーですが、いくつか打診はありましたが、本人の希望で断っています」
「保育所で働きたい、か」
「ええ」
うちの領の保育所は、1歳から6歳までを預かることが出来る場所で、区画ごとに点在している。
保育所の職員は、領独自の仕事で、学校の教師と同様、領の職員扱いだ。
保育所で働く資格は特に必要ないが、経験が必要になっている仕事である。
乳母の経験、もしくは、子供を育てたことがある、つまり育児を経験している人に限られている。
リリーが保育所で働くには、育児の経験が必要になる。
パーシーとネロがここに来たのは3年前、か。
0歳児から2歳児までの経験が全くないのならば育児経験とはみなせない。
「子供が好きなんですって。
できるならずっとこの孤児院に居たいそうですよ」
孤児院にいたい、か。
祖母さんも年だし、通いの職員がいるにはいるが、週に2回。
その他の世話は子供たちに任せているようなものだ。
年齢が上の子たちは、下の子たちの面倒を見るので、自分の時間を持ちづらい。
ドロシーとクロードは祖母さんの世話と仕事の方が重点を置いている。
「私も年ですし、住み込みの職員を雇うことも視野にいれてもいいと思っているのよ。
今すぐでなくてもいいのだけれど、子供たちを可愛がってくれる子が来てくれると嬉しいわ」
「…12から15までは見習いとして入ってもらっても良いと思いますが」
「あなたの許可が必要なのよ」
「本人にその気があるなら、書類をそろえてください。承認します」
「わかりました。リリーには話しておきます。
それと、近いうちにセバスを一度寄こしてほしいの」
「セバスを?…理由は?」
手紙や伝言じゃなく、直接セバスをよこしてほしい理由はなんだ?
領地経営はうまくっているしそれに関しては心配されてはいないはずなんだが。
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