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本編

-154- 収穫

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「みんなたくさんとれたねー!」

背中を汚した後もお芋掘りを続けて、たくさんのお芋がとれたよ。
さつまいも畑の前に、3つのさつまいもの大きな山ができた。
自分がとったお芋から、自分の芋を2つ選んで、残ったお芋を山にしたんだ。
だから、皆お芋を2つ抱えている。
ひとつは、自分で食べる分、もうひとつは自分があげたい人にあげる分、って決まってるんだって。
僕も、お芋をふたつ選んだ。
ひときわ大きいお芋と、一番おいしそうに見えるお芋の2つにした。
この大きなお芋で、イアンに美味しいパイを作ってもらおう。
おいしそうな方は、そのまま焼いて食べたい。

お芋はすぐに食べるのではなくて、3週間以上寝かせる方がおいしくなるみたい。
折角とってもすぐには食べられないし、毎回小さな子たちは途中で走り回ったりして怪我をする子もいたりで、お芋掘りもすぐに飽きちゃうんだとか。

「レン様が一番手のかかるパーシーとネロを引き受けてくださったので助かりました。ありがとうございます」

リリーが僕に丁寧にお礼を言ってくる。
ちょっとドジなところがあるみたいだけれど、とてもしっかりした子だ。

「僕はふたりと一緒でとっても楽しかったよ。畑はこの後どうするの?」
「私たちだけだとこぼしが多いので、明日、農家の人たちが来て残りの芋を掘り起こして、その後畑を整えてくれるんです。
少し置いたら、次は玉ねぎを植えます。
ここの畑は、玉ねぎとさつま芋を交互に育てています」

「畑を整えるのは、プロの人たちがやってくれるんだね」
「皆孤児院出身の人たちやその家族なんだよ。定期的に来て、色々教えてくれるんだ。だから、ちゃんと枯れたり根腐りせずに育つんだぜ?」

ジャックが横から得意げに教えてくれた。
子供たちだけじゃ、立派な畑は出来ないか。
だって、この他にも、この孤児院には、お花畑も、果物畑もある。

「植え付けの時が肝心だから、必ず来てくれる…っていうか、俺たち用の苗を持ってきてくれるんだ」
「苗を作ることはしてないんです。育てて、収穫するだけです」

一番難しいところや、力がいる仕事はやってもらえるんだ。
食育と植物の知識、あとは、農業の知識も得られる。
食べてるものがどうやって育つのか、どうやって花が咲いて、どうやって実や種ができるのかも小さいころから触れて知れるし、土の中の虫やミミズなんかの生態も知れる。

ミミズはこっちの世界でもミミズだった。
というのも、さつま芋じゃなくて、大きなミミズを見せに来てくれた子がいたからだ。
なんと女の子だった。
いたずら目的じゃなくて、嬉しそうに両手にのせて見せに来てくれた。
太くて立派なミミズだったよ。

『レン様、見て。大きなミミズがいたの!』
『本当だ、大きいね!でも、ほら、ミミズさんお家がわからなくて困ってるよ。元のところに帰してあげて』
『っ!?たいへん!』

パタパタと駆けてく女の子。
途中、間近にミミズを目にしたリリーが悲鳴をあげてた。



「そっか。勉強の一環なんだね。このお芋の山はその人たちに分けるの?」
「ひとつの山は、年末年始の祝祭で売るお菓子作りに孤児院で使います。
あとのふた山は、お世話になってる方に少しずつ分けるんです。
食堂や、カフェ、パン屋さんと、果物屋さん」
「あと、マクマートリーさんのところと、バークレイ様とワグナー様も良く来られるから渡すんだ」

「実際口にしてるかはわからないけれどね」

幼い子供特有の可愛いさと耳さわりの優しさを含む声が耳に入ってきた。
ただし、言っていることは結構な棘がある。

「ちょっと、ルカ!そんなこと言わないの!」

リリーがすかさず注意する。
ルカ、と言われた子は小学校一年生くらいの男の子だ。
見事な金髪に、澄みきった海のような、アクアブルーの瞳をしている。
一瞬、女の子と間違えそうになるくらいには可愛らしい顔をしているし、将来美形に育つだろう。
レナードといい勝負になるかもしれない。

「少なくとも捨ててはいないはずだよ。
食堂とカフェとパン屋、果物屋とマクマートリーさんのところは限定商品として並ぶし、バークレイ様とワグナー様はお菓子を作って持ってきてくれているからね」

優しそうに少し垂れた目元の男の子が絶妙なタイミングで声をかけてくる。
ジャックと同じくらいかな?
賢そうな雰囲気を持ってる男の子だ。

「果物屋さんは果物だろ?芋をどうやって売るんだ?…ってか、なんでギーはそんなこと知ってんだよ」

ジャックが不思議そうに聞き返す。
彼の名前は、ギーというみたいだ。

「グレース様に聞いたからだよ。果物屋さんは、ジャムを売るから、限定で小瓶のいもジャムを作るんだ。
食堂では汁物に入る。
あとは、カフェはケーキになって、パン屋はパンに、マクマートリーさんのところではクッキーだって」
「なんだ、儲けに使われてるのか」
「本当にルカは悪い見方ばっかりするね。
いいかい?そうやって限定商品にして売ると、普段は寄付が出来ない街の人たちが、買ってくれるんだよ。
これなら自分たちも買えるからって。
利益が出たら、その分ちょっと食事がよくなって僕たちに返ってくるんだよ」
「ふうん」

ルカが、興味なさそうな声で答えたけれど、その後にきゅっと唇を結ぶ。
何か思うことがあったのかもしれない。

けれど、そっか…僕もとても勉強になった。
寄付っていうと、ある程度まとまったお金でないとしにくい。
けれど、“孤児院の子たちが育てたさつま芋を使ってる”って知ったら、普段買わないものでも買ってみようか、となる。
関心を持ってもらうことも出来るし、商品を買う方も少しだけ貢献してるような、良い気分になれるんじゃないかな。

「レン様、そろそろアレックス様がこっちに来そうなので、浄化して靴下と靴を履いてください」
「でもまだみんな泥だらけだし、後ででいいんじゃない?このさつま芋アレックスにも見せたいし」
「泥だらけ過ぎて、心配されちゃいますよ?」
「え?それは…困るね」
「だから、急いで浄化してください。…ああ、ほら、お芋は置いてください。誰も取りません。早く早く」
「わかったから、早く早くって言わないでよ、出来るものも出来ないよ」

早く早くって急かされると、必要以上に焦る。
家ではあまり言われなかった。
父さんも母さんも、早くだとか、急いでだとか言わない人だったし、なんていうか…二人ともゆったりしたマイペースな人たちだったから。
そうすると、僕もマイペースになるのはしょうがない。
けれど、マネージャーは、早くと急いでが口癖だったなあ。

「レン!」
「あー…間に合いませんでしたねー」

少し離れたところから、アレックスの僕を呼ぶ声が聞こえて、そっちへと振り向く。
アレックスはぎょっとした顔で僕を見てきた。
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