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本編

-153- お芋掘り

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亜麻色ツインテールをした女の子の名前はリリーで、とってもしっかりした女の子だった。
僕たちが目の前まで来ると、腰にあった両手を前に合わせ仁王立ちしていた足をすっと揃えると、挨拶と謝罪を述べてくる。

「初めましてレン様。
私は、最年長のリリーと言います。
先ほどはいきなり大声を出してすみません。
それに…パーシーとネロが勝手をして失礼しました」

そして、僕に向かってまっすぐに綺麗なお辞儀をした。
長いツインテールのふた房が、さらりと前に落ちて、太陽光でキラキラ輝いて見えた。

「頭を上げてリリー。
予定も聞かずに一緒にはしゃいじゃった僕も悪いんだ、ごめんね。
パーシーもネロも反省してるよ。
パーシー、ネロ、みんなを待たせちゃったから、ごめんなさいしよう」
「ごめんね、リリーお姉ちゃん」
「ごめんなさい」

ネロとパーシーに目を向けると、2人ともうるうるした目でリリーを見上げていた。
これは、これ以上怒れないくらいに可愛い。
リリーに目を向けると、うっ、と言葉に詰まらせてから、コホンと小さく咳払いをする。

「まあ、良いわ。今日は、レン様に免じて許してあげるわ」
「ありがとう、リリー」
「そんなっ!お礼なんて!」

お礼を言うと、リリーは真っ赤になってブンブンと頭を振る。
ツインテールも合わせてブンブンと揺れた。


「立派な畑だね。今から何かを植えるの?」
「いいえ、今からさつま芋を掘るんです」
「え!お芋掘り?」

10メートル四方ほどの広い場所に、まっすぐ均等に畝が伸びているだけだ。
てっきりこれから何か植えるんだと思ってた。
そっか、お芋掘り!


「さきに、葉っぱとつるは取っちゃうんだね」
「その方が美味しく育つんです」
「そうなんだ?お芋掘りだって、楽しみだね」

まだ浮かない顔をしたパーシーとネロに話しかける。
僕の両手は未だに塞がったままだ。小さな手に、きゅっと力がこもるのがわかった。

「レン様にはあちらに席をご用意しましたので、是非近くで見てくださ​──」
「え?僕もやりたい!」
「え!?」

僕が驚くと、リリーも驚く。
僕だけ見学とか嘘でしょ?

「お芋掘りですよ?」
「うん、お芋掘りでしょ?
やったことは無いけど…でも、やってみたい」

「レン様もお芋掘る?」
「うん、やりたいな。初めてだけど、僕にも出来るかな?」
「あのね、僕ね、前もその前もやったの。教えてあげる!」

あ、ネロとパーシーが元気になった。
もしかして、僕と一緒に何かしたかったのかな?

「ダメよ!」
「「「えー…」」」

リリーが止めに入る。
僕と、パーシーと、ネロ、3人の声が綺麗に重なった。

「う……レン様まで…っ、だって、お芋掘りですよ?汚れるし汚いし、今日は日差しも強いから、焼けちゃいます」
「汚れなんて浄化魔法で綺麗になるよ?それに、日焼け止めをちゃんと塗ってるから大丈夫。
ああ、みんな畑の中は裸足なんだね。
じゃあ、僕も裸足になるね、危ないし」
「ダメよ!レン様はお貴族様です!次期侯爵夫人です!そんなの…っ!」

ああ、泣かしちゃいそうだ、どうしよう?

「なら、アレックスの許可があればいい?
アレックスはきっとダメって言わないと思うよ?ここに来る前に牧場に寄ったんだけど、乳搾りの体験もしたんだ。
僕もみんなと一緒にお芋掘りしたいな。
…それとも、リリーは僕が一緒だと嫌かな?」
「そんなことっ!」
「なら──」

「レン様ー」
「ん?」

ここに来てセオにはじめて名前を呼ばれた。
というのも、孤児院の子供たちと遊ぶ際に、手助けや助言は、僕からセオを呼ぶまで出来るだけ待って欲しいって僕がお願いしたからだ。
理由は、出来るかぎり、僕自身が子供たちに向き合いたいと思ったから。

「アレックス様からの伝言とお届け物です。一緒にやるなら、帽子被って手袋してくれ、との事です。帽子はグレース様のを借してくれるそうですよ」
「やった!ありがとセオ!
あ、セオも一緒に手伝ってね」
「そう言うと思って、手袋は2つあります」

「レン様も一緒だ!」
「やったー!」
「うん、一緒にやろうね」

リリーに目を向けると、びっくりした目で僕を見て、それから仕方なさそうに笑った。
セオも苦笑いで、手袋を1つ僕に寄越してきた。

一緒に出来ると知ってから、パーシーとネロは、はじめて手を離して飛び跳ねたり、腰の辺りに抱きついたりとはしゃいでる。
こっちまで楽しくなってくるし、2人の安心しきってる距離感のなさが嬉しい。

セオは、自分のポケットに手袋をねじ込んでから、僕に帽子を被せてきた。
鍔が広めだけれど、柔らかいから邪魔になりにくい。
「帽子は汚れても良いそうです。
気にせず楽しんで、と」
「うん、ありがとう」

「あのね、一番いっぱいとるのと、一番大きいのが勝ちなの」
「そうなの?じゃあいっぱい大きいの見つけなきゃね僕も張り切っちゃおうかな!みんなで競争だね!」

比較的大きな子たちがリリーを含めて5人いるけど、驚いた顔で見てくる。
パーシーとネロを含む小さな子たちは、楽しそうな声を上げた。


「これ見てーレン様ー」
「わあ、おっきいね!凄い」
「こっちも見てーおっきい!」
「ほんとだ!顔より大きい!みんな凄いなあ」

パーシーとネロが僕の傍から離れずに一生懸命に無言で土を掘る。
それをいい事に、他の子たちが採れたてのお芋を見せにやって来てくれた。
小さな子が持つと、お芋ってより大きく見える。
両手に抱えて、嬉しそうに見せに来てくれて、褒めるとドヤ顔になるのがとっても可愛い!

さつまいもの種類は分からないけれど、見た目は赤紫色で、見せてもらう度、結構太めで立派なさつまいもだ。
なんて言うか…うん、絵に描いたような美味しそうなさつまいもだ。
僕も掘ってはいるんだけど、なかなか出てこない。

「まだかなあ。なかなか出てこないねえ」
「ん」
「……」

わあ、2人とも真剣だ。
チラリと横、後ろ側の畝を掘ってるセオに目を向けると、びっくりするくらい取れてる!

「ちょっとセオ、何で1人でそんなに取れてるの?ずるいよ!」
「ズルくないですーコツがあるんですー。
ちなみにレン様たちが掘ってるところより、拳3つ分程右のあたり、あー俺に近い方ですよ、この辺を掘るとたくさん出てくると思います」

僕らが掘っていた所と何が違うのか全然分からないけど、セオが指さす当たりを目にして、すぐ様場所を変える。

「2人とも、もっとこっち側だって」
「こっち?」
「うん。どう?ありそう?」

「あ!」
「あった!」
「ほんとだ!頭が見えてきたね!セオ、お芋あったよ」

「良かったですね。もう少し掘らないと抜けないですから、頑張ってください」
「はーい」



いくつか立派なさつまいもを掘り出した僕たちは、取れるたびさつまいもをかかげて見せびらかした。
はじめはみんなが褒めてくれたのに、だんだん反応が冷めてきた。
とくに、9歳から11歳くらいの子たちは呆れ気味だ。
彼らは芋掘りを楽しむというより、小さな子たちの芋掘りを手伝っている、と言った方が正しい。
大人だなあ。


とりわけ大きなさつまいもが出てきて、パーシーが全身でさつまいもを引っ張ってるけど、なかなか抜けない。
「んー!」
「パーシー、抜けそう?」
「んー!…抜けない!レン様やって」
「わかった、やってみるね。
せーのっ!わあっ!」

思いっきり引っ張ったおかげか、すっぽりお芋が嘘のように抜けた。
抜けたけど、勢いつけすぎて背中に畝を預けてしまう。

「ちょーっ!危ないでしょ、何やってんの!」
「ごめーん、セオー、でも、ほら、見て!今までで1番大きいよ!」
「おっきい!」
「すごいの!」

「大きいのは分かりましたから、もっと気をつけてください。後ろに子供たちがいないことを確認したのはえらいですけどね、加減してください」

畝を背にしたまま、さつまいもを空にかかげると、パーシーとネロは喜んでくれたけど、セオは叱ってきた。
まあ、今のは僕が悪い。
起こされて、土を払われる。
言い方雑なのに、手つきは丁寧だから反論出来ない。

「レン様、大丈夫?怪我してない?」
「うん、大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
「良かったあ」

心配そうに尋ねてきた小さなおかっぱの女の子に目線を合わせてしゃがみこみ、笑顔で答える。
すると、直ぐに安心したような笑顔を見せてくれた。

「てか、レン様一番泥だらけじゃん」

後方上から、呆れ果てたような声がかかった。
少し掠れた声は、声変わりかな。
振り向いてそのまま見上げると、茶髪で短髪の男の子が立っていた。
「う…頑張った証拠だよ」
「や、ちげーから」

「ジャック失礼よ!」
「えー?だって、レン様俺らより子供みたいなんだもん」

すかさずリリーが男の子を叱り飛ばす。生意気そうな男の子は、ジャックって言うらしい。
リリーと同い年くらいかな?
リリーもだけど、ジャックも年齢にしては発育がかなり良さそうだ。

子供たちからは、敬語とか全然気にしない。
成長していく過程で身につけていけばいいと思うし、僕に対しては、遠慮しない方が嬉しい。

「それはそうかもしれないけど、そういう事は口に出しちゃダメよ!」

う…リリーの言葉の方がダメージが大きい。

「うわー。リリー、お前の方がひでえ事言ってるぞ」
「え!嘘?!」

リリーが慌てふためく。
それを見てみんながケラケラと楽しそうに笑い声を上げた。

もう、みんな可愛いなあ。
後で、みんなの名前を教えてもらわなくちゃ。
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