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本編

-152- はじめましてのご挨拶

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「お久しぶりです、お祖母様。お元気そうで何よりです」
「久しぶりですね、アレックス。あなたも元気そうで嬉しいわ。
それに…」

子供たちに案内されて孤児院の玄関まで来ると、若いメイドと執事らしき人達を左右後方に、アレックスのお祖母さまがお見えになった。
柔らかな薄紫色のシンプルなワンピース姿で凄く上品な方だ。
アレックスは若いころのお祖父さまに似ているって聞いているけれど、それでもどことなく似てるのはやっぱり血のつながりがあるからかな。
肩までのふんわりしたウェーブを描く髪の色は白髪に近いけれど、きっと若い時はアレックスと同じオールドローズだったはずだ。

「紹介します。…婚約者のレン=スペンサーです。
養子先は師匠であるスペンサー公が名乗り出てくださいました。
レン、俺の祖母で、前侯爵夫人のグレース=エリソンだ。挨拶を」

アレックスが僕のことを婚約者だって言うから、急に顔が熱くなった。
そっか、そうだよね、結婚しようって約束したんだし、確かに婚約者だ。
紹介したいってそういう紹介だったんだと、今更ながらに意識しちゃう。

「初めまして、レン=スペンサーです。
お会いできて光栄です」

ここのエリソン侯爵領の人たちからは、最初からレン様レン様って呼んでくれてたから全く気にしなかったけれど、確か、セオは、声をかけるだけで不敬なんて言ってた。
名前をいきなり呼ぶのも、本来アウトかもしれないし、かと言って、前侯爵夫人なんて固い言葉は言いたくない。
まさか、アレックスのお祖母様をいきなりおばあ様とも呼べない。
だから、本当に一言の挨拶になってしまったけれど、ここは相手の出方に合わせてくのが一番ベターだ。
後はもう、素を出して、笑顔で乗り切る。
アレックスのお祖母様なら、素の僕を認めてもらいたいもん。

「こちらこそ会えて嬉しいわ。
アレックスのところに神器様が来られたと聞いておりました。
あなたに会えるのを楽しみにしていたのよ。
レン、と呼んでもいいかしら?」
「はい、勿論。
僕は、何とお呼びすればいいですか?」
「グレースと呼んでも構いませんよ、でもそうね…出来れば、アレックスと同じように、おばあ様と呼んでくれると嬉しいわ」
「わかりました、おばあ様」
「っまあまあまあ!話に聞いていた以上に、あなた本当に可愛らしいわ」

おばあ様は、両手を合わせてキラキラとした目で僕を見て笑顔になった。
よかった、最初から歓迎してくれていたみたいでほっとしちゃう。
上品だけれど、明るい方みたい。

「アレックスの神器の申請は、アレックスじゃなくて、おばあ様がされたとセバスが教えてくれました。
アレックスと出会えたのは、おばあ様のおかげです。
ありがとうございます」
「…あなたがアレックスの元に来てくれて本当に良かったわ。
私こそ感謝しています。
これからは安心して幸せになってちょうだい。
エリソン侯爵領は、とても良いところだから気に入ってくれると嬉しいわ」
「はい」

心から感謝を述べると、おばあ様は僕の目をじっと見てから、ゆっくりと言葉を告げてくれた。
“これからは安心して”という言葉に、何も心に引っかからなかった訳じゃない。

もしかしたら、以前の僕の状況までは聞いていなかったのかも知れない。
神器様という存在は、本来元の世界で例外なく理不尽な目に遭っている人達みたいだから、僕ら4人…あ、聖女様を入れたら5人か、ともかく、僕らが異例中の異例みたいだもんね。

それでも、アレックスと共に幸せになりたいことには変わらない。
だから、素直に返事が出来た。

「…レン、俺はお祖母様と少し話があるから、子供たちと遊んで貰えるか?
後で俺も行く」
「うん」
「セオ、頼んだ」
「お任せ下さい」

ツン、とシャツの袖口を引っ張られて下に目を向ける。

「レン様、グレース様のご挨拶終わった?」
「もう遊べる?」
「うん、待たせてごめんね」

案内してくれた2人の小さな男の子達は、僕の顔を見上げて期待に満ちた表情をしてきた。
5歳くらいかな?
しゃがんで視線を合わせると丁度くらいだ。
一番小さい子で5歳って言ってたもんね、確か。

「ううん、じゃああっちに行こう!」
「早く立って!一緒に行こ!」

ひとりはレンガ色のふわふわとした髪の子で、もうひとりはミルクティー色でくるくるとしたくせっ毛の子だ。
2人とも大きな青い瞳と長いまつ毛で、頬がぷくぷくしててとっても可愛い。

ぱあっと満面の笑みになった2人の小さな手を片方ずつ繋ぐ。
2人はぐんぐん歩いていく。

「こっちだよ!」
「あ、じゃあ、アレックス、おばあ様もまた後で…えーと、後のおふたりも後で…もー、早いよ2人とも」

後ろに振り向きざまに声をかけ、2人に連れられて広い芝生と大きな木があるゾーンに向かって進んでいく。

「2人のお名前は?」
「僕は、パーシーだよ」
「あのね、僕はね、ネロっていうの」
「パーシーとネロだね、教えてくれてありがとう」

ふわふわな髪の子がパーシーで、くるくるな髪の子がネロ。
2人は人見知りせずにとっても元気だ。

「いつもどんな事して遊んでるの?」
「鬼ごっことか、木登り!」
「あのね、木にね、登るとね、遠くまでみえるの」
「そうなんだ、良いなあ。2人とももう木登り出来るの?」
「うん!」
「僕もー!」
「えー?凄ーい!今日は、じゃあ木登りするの?」
「ううん、違うの。えーとね、今日はねー」

「こらあ!パーシー、ネロー!
2人だけでレン様連れてっちゃ駄目でしょ!こっちに来なさーい!」

ネロが話しかけてる途中で、女の子の大きな声が響いた。
ネロとパーシーがピタリととまる。
2人の顔には、イタズラがバレちゃった、と書いてあるかのようだ。

声に驚いてそっちを見ると、畑らしきスペースには、孤児院の子たちが集まっていた。
声の主は、亜麻色の髪をツインテールに結んでいる女の子だろうなあ。
仁王立ちして腰に手をやってるし、傍にしゃがんでる子たちが、両耳に手のひらをあててる。


「みんなのところに戻ろうか。お姉ちゃんに怒られちゃったね」
「…やだ」

あらら、嫌なようだ。
僕が促すと、2人とも唇を尖らせて身体を捻る。
俯いてるけど、お鼻より唇が高い。
可愛くて笑っちゃいそうになるのをぐっと堪える。

「何で嫌なの?」
「怖いから…」
「いーっつも怒るの」

いーっつもか。
いつもよりたくさんだ。

うん、きっと2人は、イタズラが好きなんだろうなあ。
でも、怒られても全然気にせずへっちゃらな子じゃないくらいには、素直な良い子たちだ。

「僕も一緒に怒られるよ。そしたら怖いのもちょっとだけ減るよ、ね?」
「うん…」
「レン様も一緒?」
「うん、僕も一緒」
「じゃあ、行くう」
「…僕もお」

ネロとパーシーは、僕の手に引かれながら、俯き加減でとぼとぼと歩き出した。
悪いことをしたっていう自覚はあるみたいだ。
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