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本編

-151- 孤児院

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「え?あの建物が孤児院?」
「ああ。あれが孤児院だ」

森を抜けた先には、ピンクと黄色の花の絨毯が広がる芝生、その奥にオレンジ色の屋根に真っ白な壁をした、2階建ての建物が見えた。
緩やかな下り坂だから、全体がよく見える。

建物の敷地はかなり広めで、白い格子の門から建物の距離までが意外とありそうだ。
門の中には、大きな木があったり、いくつかのブロックになって色々な植物が植えてあるみたい。

道中は2回ほど道を曲がったけれど、道は整備されていて広い道を通ってきた。
孤児院につながるこの道も、馬車がぎりぎりすれ違えるくらいには広々とした道だ。

僕が何で驚いたのかっていうと、想像していたよりずっと立派な建物だったからだ。
孤児院っていう字面から、木造で平屋の建物だと思ってた。
けれど、実際の建物は昨日連れて行ってくれた領都の街並みにある建物より、フィーテルにある建物より、もっと…なんていうか、貴族よりだ。
近づいていくうちに、どんどんと鮮明になる。

2階には大きなバルコニーが見えるし、外にあるゆるやかな螺旋階段で繋がっている。
シンメトリーではないけれど、洋館というのが正しいかもしれない。
右端の円柱状の部屋は、縦長の窓が沢山あってどの角度からも光が差し込む作りだし、左はテラスというか、広めのデッキになっていて、上には屋根もちゃんとある。
もちろん侯爵邸に比べたら広さも作りも小規模だ。
それでも、思い描いていたものとは全く違う建物だったんだ。
貴族の所有する別荘、うん、そんな感じだ。

「なんだか、思っていた建物と全然違った。貴族の別荘みたいに立派だね」
「三代前が所有していた別荘を、先代が改築したんだ。それまでは、小さな木造の平屋で、衛生環境が悪い上に辺鄙な場所にあったんだ。
今の場所になってから商家や貴族の訪問、金や物資の寄付等も増えたし、里帰りも増えたようだ」
「そっか。いいこと尽くめだね」

孤児院というより、大家族みたいだ。
勿論、大変なことも多いと思う。
けれど、セオに聞いていた以上にのびのびとしてるのかもしれない。

「だからこそ祖母さんが住み込みなのを俺やセバスも許せている…ああ、本人にはお祖母様って言わないと怒られるが」
「ふふっ、お会い出来るのが楽しみ。
あ、そうだ、まだ貴族同士の挨拶の仕方を教えて貰ってないんだけど、失礼にならないかな?」
「うちに来てまだ3日しか経っていないんだ。神器様は元は貴族でないことは周知している。今日は普通の挨拶で大丈夫だ」
「失礼にならないなら良かった」

「ただ、膝が悪いから、立ったり座ったりは補助がいる。それだけ心にとめてくれ」
「うん、教えてくれてありがとう」
「いや。貴族同士のお辞儀の仕方は、そうだな、来月の納税報告までに覚えてもらえるか?
男性夫人には男性夫人の所作があるんだが、あれだけのダンスができるのだから、レンならすぐに綺麗にできるはずだ」
「わかった」
「覚えてもらうことが多くてすまない」
「僕にできることなら嬉しいよ」
「なにか少しでも無理があったり辛いことがあったら必ず言ってくれ」
「うん。そのかわり、アレックスも僕にして欲しいことがあったら遠慮しないで言ってね」
「ああ、ありがとな、レン」
「うん」


綺麗な格子状の門まで到着し、アレックスはテンからひらりと降り立つ。
僕も1人で降りたんだけど、アレックスみたいに綺麗に降りてみたいと無理をしたら、後ろに倒れそうになった。

アレックスより、セオより、早かったのはテンだ。
僕の背中を、ぐるんと首を回して支えてくれた。

「助けてくれてありがとう、テン」

テンの頬に頬を寄せてなでなでしてると、アレックスが呆れたような顔して見てくる。
僕じゃなくて、テンとアレックスが見つめあってる。

やがて、テンが小さな鼻息を吐いたのを合図に、アレックスが何も言わずに行動した。
以心伝心かな?ちょっと違うか。

アレックスが、門の柱にある金属板に手をかざすと、ふんわりと虹色の魔法陣が浮かび上がり、門が自動で開いた。
えー、凄い!
便利だ!


あ、子供たちが出てきた!

みんな嬉しそうに飛び出してきて、元気にこっちに向かって走ってくる。
門から建物まで結構距離があるけれど、広い庭には、シンボルになりそうな大きな木に、花畑や、野菜畑もあるし、背の低いベリー系の木も植わってる。

「アレックス、今日は学校お休みなの?」
「今日は光の日だからお休みだ。
闇の日と光の日は学校が休みなんだ。
だから、孤児院に来る時は必ずどちらかで調整してる」
「そっか。学校に行ってて会えないのは寂しいもんね」
「楽しみにしてくれていると、毎回行く甲斐があるな」


子供たちに元気な声と笑顔で歓迎されて、僕も自然と笑顔になった。
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