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本編
-146- 工房見学
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「っ!?」
ひと口飲んで、びっくり!
今まで飲んだことのある牛乳とは全く違う!
後味がさっぱりしてるのに、口あたりは濃厚で柔らか。
とってもクリーミーだ。
「すっごく美味しい!」
「そうでしょう?」
「うん、今まで飲んでた牛乳と全然違う!」
実は、牛乳を使ったお菓子や料理、カフェオレやラテは好きだけれど、牛乳そのものはあまり好んで飲んでは来なかった。
嫌いじゃないし、飲める。
でも、いかにも牛乳飲みましたっていう感じがずっと続くというか、息がしばらく牛乳臭い感じがするでしょ?
自分だけならまだしも、相手にもこの牛乳臭さが伝わるかも…って思うとなんだか演技に集中出来なくなりそうだったし。
つまるところ、そこまで好きじゃなかったんだ。
けれど、魔物だという“乳牛”のお乳、そのままの生乳は全然違う、別物だ。
後味のもわっとした牛乳独特な臭さが全然ない。
「牛乳そのものはそこまで好きじゃなかったんだけど、これはとっても好きな味。美味しい、ごくごく飲めちゃう」
「まだまだ数が少ないですが、エリソン侯爵領で必要なところに必要なだけいきわたるよう、少しずつですが販路を広げています」
「そっかあ。エリソン侯爵邸のもここの?」
「はい。一番古くお屋敷から近い牧場なこともあり、前侯爵様の代からお取引させていただいています」
ベネッタさんの言葉を聞いて頷いてから、はた、と思う。
取引を知らないって、知らなさ過ぎて失礼じゃない?
ベネッタさんの表情からはとくに気にしている様子は見えないけれど、物を知らなさすぎるのは良くない。
来る前にちゃんと聞いておけばよかったな。
ちらりとセオを見ると、どうしました?という顔で僕を見てくる。
すましていれば品のいい顔に、白い髭が出来ててちょっと間抜けだ。
「事前にちゃんと聞いておけばよかったって思って。あと、お髭が出来てる」
そう言うと、セオは笑顔で袖口で口元を拭った後、袖口を目にして、そこに浄化をかけた。
自身に対して結構適当な感じが、傍にいられて楽だなって思う。
「レン様がうちに来てから3日間しか経ってないんですよ?
それも最初の1日は夕方ですし、いきなりだったんです。
それにしちゃ大分馴染んでますけど、普通はこうはいかないですからね?
細かいとこなんて知らなくて当たり前です、これから知っていけばいいんですよ」
「まあ…てっきりアレックス様が隠されていたのかと思いましたのに」
「美人過ぎますからねー、アレックス様もめちゃくちゃ独占欲丸出しですよ。
こうやって領内だけでも外に連れていこうと思えたのも、スペンサー公がすぐに養子に入れられたのが大きいと思います。
俺に頼んでおきながら、頼む顔じゃないですもん。
妥協ですよ、妥協」
「そんなことないよ、セオを信頼してるから安心して僕を任せてるんだよ」
「そりゃそうですけど、変われるものなら変わりたいって顔に書いてありますもん」
そうかなあ…と思うけれど、ベネッタさんも息子さんもおかしそうに笑ってる。
まあ、アレックスが僕に対してとろけるように優しいのは本当だ、特別扱い過ぎる。
嬉しいから、いいんだけどね。
「工房の方もご覧になりますか?」
「是非」
瓶を息子さんに預け、ベネッタさんに続いて赤い屋根の工房に足を踏み入れる。
扉を開けると、カランカランと可愛いベルの音がなった。
工房と言っても、扉を開けてすぐ商品を作っているのではなくて、売り場になっているみたいだ。
扉の1番近くに、焼き菓子がラッピングされて、乳牛色の茶色いリボンで結んで並んでる。
華やかさはないけれど、麻のような紐で括ってあるものもあって、とても可愛くておしゃれだ。
やわらかな木の香りに混ざり、甘いお砂糖とミルクの香りと、チーズやバターの濃厚な香りが広がって、とっても美味しそう。
縦長で、売り場自体は狭いし、元の世界のように、冷蔵のガラスケースはないけれど、奥のガラスの向こう側が、広い作業台やオーブン、大きな鍋があって、作ってる様子が見える。
真剣な表情だけど、時折何か言葉を交わすと、楽しそうに笑ってる。
楽しそうな職場だ。
僕をガラス越しに見て、みんな1度手が止まってしまった。
目があった女性に笑顔で小さく手を振ると、一瞬惚けたような顔を真っ赤にして、握ってた泡立て器をぶんぶん振り回して全力で応えてくれた。
ベネッタさんが額に手をやって呆れかえり、周りのみんなが大笑いしてる。
勿論僕も笑っちゃった。
木製の棚には、可愛らしい籠が出てるから、今作ってるものが、これから並ぶのかもしれない。
「焼き菓子は最近始めた商品で、少量ですが1日2回、朝と夕方に焼き上がりになります。
ご予約でのお取置きもしております。
チーズやバター、ヨーグルト等は奥にあり、試食することも出来ますし、その場で食べられる容器もご用意しています。
こちらが、今お出ししている商品のお値段と風味の見本です。
お店とのお取引では、生乳と一緒に配達も行っています」
気を取り直したベネッタさんの丁寧な説明に耳を傾け、渡されたメニューに目を落とす。
メニュー表には、柔らかいカラーのイラストと値段と風味が書かれていて、どんな人におすすめなのかも書いてある。
イラストがあるからわかりやすい。
焼き菓子は運送ギルドの乗合馬車に合わせて、朝の便の最初と夕方の便の最初に間に合うように焼き上がりを出してるんだって。
運送ギルドの乗合馬車がここを通るのは毎日6往復で、つまり12回の馬車が通る。
また、いくつかの個別馬車も不定期だけど通る。
その全ての休憩所として、ここを解放してるようだ。
運送ギルドからはお金を貰っているけれど、個人馬車はお金を貰わない。
その代わり、買い物をしてくれるんだって。
街と街の間にあって、ある程度広さがあるし、急な雨にも対応出来る。
緑豊かな分、少し不便なのかと思ったけれど、エリソン侯爵領の中では、そうでもない。
休憩を挟まずに街まで行けるから、むしろ、立地は良いみたいだ。
馬車は、元の世界のバスと違って、馬が原動力。
疲れたら、休む必要がある。
だから、長く乗る場合、20分から30分置きに休憩をとる必要がある。
その、毎日必ず12回、一定数の人がやって来る、その時が売り時だ。
生乳は勿論、ヨーグルトやチーズも休憩する人々に良く売れる。
焼き菓子はお砂糖を使ってるから少し高価になるけど、商家の人達がお土産に買ってくことも少なくないんだって。
「す、少しずつですが、よろしかったらどうぞ!」
「わあ、ありがとう!」
「いいえ!喜んで!」
同い年くらいの女性だから、お孫さんかな?テンパりすぎてちょっとおかしな返事が返ってきた。
1センチくらいのサイコロ状の色んなチーズが、2個ずつ木の器にのって出てきた。
楊枝が2本刺さっている。
チーズの色も少しずつ違う。
全部で7種類だ。
「セオ、チーズ好き?」
「はい、好きですよ」
「なら、セバス達にお土産買いたいから一緒に選んで貰ってもいい?」
「勿論です」
セオにお皿を差し出すと、俺が持ちますよ、とお皿ごと笑顔で受け取ってくれた。
ひと口飲んで、びっくり!
今まで飲んだことのある牛乳とは全く違う!
後味がさっぱりしてるのに、口あたりは濃厚で柔らか。
とってもクリーミーだ。
「すっごく美味しい!」
「そうでしょう?」
「うん、今まで飲んでた牛乳と全然違う!」
実は、牛乳を使ったお菓子や料理、カフェオレやラテは好きだけれど、牛乳そのものはあまり好んで飲んでは来なかった。
嫌いじゃないし、飲める。
でも、いかにも牛乳飲みましたっていう感じがずっと続くというか、息がしばらく牛乳臭い感じがするでしょ?
自分だけならまだしも、相手にもこの牛乳臭さが伝わるかも…って思うとなんだか演技に集中出来なくなりそうだったし。
つまるところ、そこまで好きじゃなかったんだ。
けれど、魔物だという“乳牛”のお乳、そのままの生乳は全然違う、別物だ。
後味のもわっとした牛乳独特な臭さが全然ない。
「牛乳そのものはそこまで好きじゃなかったんだけど、これはとっても好きな味。美味しい、ごくごく飲めちゃう」
「まだまだ数が少ないですが、エリソン侯爵領で必要なところに必要なだけいきわたるよう、少しずつですが販路を広げています」
「そっかあ。エリソン侯爵邸のもここの?」
「はい。一番古くお屋敷から近い牧場なこともあり、前侯爵様の代からお取引させていただいています」
ベネッタさんの言葉を聞いて頷いてから、はた、と思う。
取引を知らないって、知らなさ過ぎて失礼じゃない?
ベネッタさんの表情からはとくに気にしている様子は見えないけれど、物を知らなさすぎるのは良くない。
来る前にちゃんと聞いておけばよかったな。
ちらりとセオを見ると、どうしました?という顔で僕を見てくる。
すましていれば品のいい顔に、白い髭が出来ててちょっと間抜けだ。
「事前にちゃんと聞いておけばよかったって思って。あと、お髭が出来てる」
そう言うと、セオは笑顔で袖口で口元を拭った後、袖口を目にして、そこに浄化をかけた。
自身に対して結構適当な感じが、傍にいられて楽だなって思う。
「レン様がうちに来てから3日間しか経ってないんですよ?
それも最初の1日は夕方ですし、いきなりだったんです。
それにしちゃ大分馴染んでますけど、普通はこうはいかないですからね?
細かいとこなんて知らなくて当たり前です、これから知っていけばいいんですよ」
「まあ…てっきりアレックス様が隠されていたのかと思いましたのに」
「美人過ぎますからねー、アレックス様もめちゃくちゃ独占欲丸出しですよ。
こうやって領内だけでも外に連れていこうと思えたのも、スペンサー公がすぐに養子に入れられたのが大きいと思います。
俺に頼んでおきながら、頼む顔じゃないですもん。
妥協ですよ、妥協」
「そんなことないよ、セオを信頼してるから安心して僕を任せてるんだよ」
「そりゃそうですけど、変われるものなら変わりたいって顔に書いてありますもん」
そうかなあ…と思うけれど、ベネッタさんも息子さんもおかしそうに笑ってる。
まあ、アレックスが僕に対してとろけるように優しいのは本当だ、特別扱い過ぎる。
嬉しいから、いいんだけどね。
「工房の方もご覧になりますか?」
「是非」
瓶を息子さんに預け、ベネッタさんに続いて赤い屋根の工房に足を踏み入れる。
扉を開けると、カランカランと可愛いベルの音がなった。
工房と言っても、扉を開けてすぐ商品を作っているのではなくて、売り場になっているみたいだ。
扉の1番近くに、焼き菓子がラッピングされて、乳牛色の茶色いリボンで結んで並んでる。
華やかさはないけれど、麻のような紐で括ってあるものもあって、とても可愛くておしゃれだ。
やわらかな木の香りに混ざり、甘いお砂糖とミルクの香りと、チーズやバターの濃厚な香りが広がって、とっても美味しそう。
縦長で、売り場自体は狭いし、元の世界のように、冷蔵のガラスケースはないけれど、奥のガラスの向こう側が、広い作業台やオーブン、大きな鍋があって、作ってる様子が見える。
真剣な表情だけど、時折何か言葉を交わすと、楽しそうに笑ってる。
楽しそうな職場だ。
僕をガラス越しに見て、みんな1度手が止まってしまった。
目があった女性に笑顔で小さく手を振ると、一瞬惚けたような顔を真っ赤にして、握ってた泡立て器をぶんぶん振り回して全力で応えてくれた。
ベネッタさんが額に手をやって呆れかえり、周りのみんなが大笑いしてる。
勿論僕も笑っちゃった。
木製の棚には、可愛らしい籠が出てるから、今作ってるものが、これから並ぶのかもしれない。
「焼き菓子は最近始めた商品で、少量ですが1日2回、朝と夕方に焼き上がりになります。
ご予約でのお取置きもしております。
チーズやバター、ヨーグルト等は奥にあり、試食することも出来ますし、その場で食べられる容器もご用意しています。
こちらが、今お出ししている商品のお値段と風味の見本です。
お店とのお取引では、生乳と一緒に配達も行っています」
気を取り直したベネッタさんの丁寧な説明に耳を傾け、渡されたメニューに目を落とす。
メニュー表には、柔らかいカラーのイラストと値段と風味が書かれていて、どんな人におすすめなのかも書いてある。
イラストがあるからわかりやすい。
焼き菓子は運送ギルドの乗合馬車に合わせて、朝の便の最初と夕方の便の最初に間に合うように焼き上がりを出してるんだって。
運送ギルドの乗合馬車がここを通るのは毎日6往復で、つまり12回の馬車が通る。
また、いくつかの個別馬車も不定期だけど通る。
その全ての休憩所として、ここを解放してるようだ。
運送ギルドからはお金を貰っているけれど、個人馬車はお金を貰わない。
その代わり、買い物をしてくれるんだって。
街と街の間にあって、ある程度広さがあるし、急な雨にも対応出来る。
緑豊かな分、少し不便なのかと思ったけれど、エリソン侯爵領の中では、そうでもない。
休憩を挟まずに街まで行けるから、むしろ、立地は良いみたいだ。
馬車は、元の世界のバスと違って、馬が原動力。
疲れたら、休む必要がある。
だから、長く乗る場合、20分から30分置きに休憩をとる必要がある。
その、毎日必ず12回、一定数の人がやって来る、その時が売り時だ。
生乳は勿論、ヨーグルトやチーズも休憩する人々に良く売れる。
焼き菓子はお砂糖を使ってるから少し高価になるけど、商家の人達がお土産に買ってくことも少なくないんだって。
「す、少しずつですが、よろしかったらどうぞ!」
「わあ、ありがとう!」
「いいえ!喜んで!」
同い年くらいの女性だから、お孫さんかな?テンパりすぎてちょっとおかしな返事が返ってきた。
1センチくらいのサイコロ状の色んなチーズが、2個ずつ木の器にのって出てきた。
楊枝が2本刺さっている。
チーズの色も少しずつ違う。
全部で7種類だ。
「セオ、チーズ好き?」
「はい、好きですよ」
「なら、セバス達にお土産買いたいから一緒に選んで貰ってもいい?」
「勿論です」
セオにお皿を差し出すと、俺が持ちますよ、とお皿ごと笑顔で受け取ってくれた。
応援ありがとうございます!
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