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本編

-145- 乳しぼり

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マクマートリー家の酪農は、三代で協力して牧場と工房を運営している。
ベネッタさんとニックは仕事の量を減らしつつ、教える側に回っているみたいだ。
今搾乳をしている男性3人は、2人の息子さんたちだ。

挨拶をすると、ふんわり優しい笑顔であたたかく迎えてくれたよ。
3人とも笑った顔がベネッタさんによく似てる。

ニックとベネッタさんには、息子さんが3人娘さんが2人、合わせて5人のお子さんがいる。
息子さん娘さんなんて言ってるけど、僕の倍以上の年齢だ。
皆家族持ちで、娘さん2人も比較的近くに住んでいて、工房に働きにきているんだって。
女性たちが中心になって工房で加工品を作り、男性たちが中心になって搾乳と肥料を作ってるみたいだ。
お孫さんは僕と同い年くらいの人たちで、みんな一緒に働いている。
結婚して子供がいる人もいるから、ニックとベネッタさんにとってはひ孫にあたる。

お孫さんの1人は、獣医になるのに途中から帝都の学園に通った後、2年間辺境で見習いをして来年の春に戻ってくる人がいるらしい。

女性だからニックは反対したみたいなんだけれど、ベネッタさんとアレックスが後押ししたんだって。
ニックと喧嘩になってるところに丁度アレックスが来て、詳細を知ったアレックスがニックを説得してくれたようだ。
動物と意思疎通のとれる珍しいスキル持ちである上に勉強も出来る優秀な女性であるから、その場でさらっと推薦状を書いたのだとか。
乳牛たちの健康を守りたいっていう強い意志に、最終的にはニックも応援してくれたようだ。
今では、“孫が、来年になったら、エリソン侯爵領初の獣医になって戻ってくるぞ!”と誇らしげに自慢してるみたい。

帝国には獣医という職業はかなりマイナーで、資格や試験はないんだって。
数も少ないから、エリソン侯爵領には今現在いないそうだ。

元の世界だと獣医は国家資格だったし、野生動物の生態の他、家畜は勿論、ペットを飼うことも多いから街中に病院があって、かなり身近な職業だった。
けれど、この帝国では家畜を相手にするのは庶民であるから、貴族とは縁のない職業らしい。
貴族が犬や猫のペットを飼うことも珍しい。
亜人が蔑み、獣人が排除の対象だという帝国では、動物は基本卑しい生き物だ。
だから、獣医になりたい人というのは極まれで、変人扱いされやすいし、獣医ギルドというのも無い。
ならどうするのかって言うと、調教師の資格を取ってから、獣医として働いている人の師につくのが近道なんだそうだ。
お孫さんが辺境を選んだのは、優秀な獣医がいて、良くも悪くも魔物が多いからなんだそう。
乳牛は、魔物だもんね。

「ねえ、セオ。獣医ってそんなに珍しいの?
貴族だって馬車に乗るのに、馬を飼ってるでしょ?身近に動物がいるのになんで?」
「馬車はあくまでも移動手段だって思ってる貴族は少なくないんです。
馬だって生きてるんですけどね、なんででしょうね…」
「え、じゃあ病気になったり走れなくなったら捨てられちゃうの?」
「使えないとそうですね」
「そっか」
「うちの馬たちは、大丈夫ですよ」
「うん」

憂いでもしょうがないよね、何か変わるわけじゃない。
アレックス自身が推薦状を書いたなら、アレックスは獣医を認めてるんだもん。

それに、お孫さんは、同じ獣医の男性を射止めて、来年一緒に戻ってくるという。
今までエリソン侯爵領に居なかったのなら、2人も専門の獣医が来たら、きっと何か、良い方に変わると思う。

マクマートリー家は大家族に思えるけれど、外からの人を雇い入れていないから、毎日忙しいんだろうな。

乳牛相手だとみんな一斉に休むってわけにはいかないから、お休みは一家族ずつ順番に取るようだ。
昔は休みが全くなかったけれど、お孫さんが定期的に休みを作ることも大切だっていって体制を整えてくれたんだって。


「乳牛たちは、お乳がはると搾乳しに来てくれます。人懐こいので、搾乳以外でも来ることがあります。なので、きちんと記録を付けて、搾乳の前にもちゃんとお乳の状態も確認します。
そして、搾乳の前には、こうやって、必ず清潔なタオルで、優しく丁寧に拭くんです」
「濡れタオルなんだね」
「はい、ひと肌に温めているものを使います。こうやっ拭くことで、今から搾乳することが、乳牛たちにも伝わります」
「じっとしてて大人しいね」
「みんなとても賢くていい子ですよ。拭き終わったら、搾乳器をあててレバーを握り、様子を見ながら握ったり離したりを繰り返します」
「いっぱい出てる!」
「この子は乳牛の中でもたくさん取れる子です。やってみますか?」
「うん、やってみたい」

原理はスポイトみたいなものなのだと思うけど、大きさがあるから結構力がいるし、ゆっくり放すのに、具合を確かめながらになるから、かなりコツがいる。
見るのとやるのとじゃ、だいぶ違う。
1瓶貯め終わったところで代わってもらった。
パッと見は、200mlくらいの瓶で、元の世界と大きさや形は変わらない。

「難しいね?痛くなかったかな」
「大丈夫ですよ、初めてなのにとても上手です。とれたてを飲まれますか?」
「飲んでみたい!いいの?」
「ええ、是非どうぞ」
「ありがとう!」

封をする前に瓶を受け取る。
チラッとセオを確認すると、べろんべろんにセオの手を舐めていた乳牛たちは、ようやく離れていくのが見えた。
これから搾乳のようだ。
セオも手を浄化して生乳を1瓶貰ってる。

「セオー、アレックスより先に飲んでいい?」
「はい、いただいちゃいましょー」
「うん、いただきます」





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