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本編

-141- トイレ事情と麦畑

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美味しい朝食を食べ終わった後は、ここから20分ほどのところにある牧場を目指す。
途中、麦畑を通るんだったよね、楽しみだ。


スープの容器はどうするのかな?って思ったら、アレックスが浄化魔法をかけてから空間にしまった。
こういう周りに見えなくていいところで空間魔法を使うみたいだ。
そっか、普段使っちゃいけないわけじゃないんだった。
使いどころの問題だ。

また行くことがあるだろうから、その時に返すとお金が戻ってくるんだって。
セオが返してきましょうか?って言ったけれど、いつでもいいから今日はいい、ってアレックスが断ったんだ。
返すのは、同じ容器を使ってるマルシェのお店ならどこでも引き取ってくれるんだって。
ゆくゆくは、統一化したいみたい。
ゴミを少なくする工夫がされてるよね。

そういえば、トイレの時はどうするのかな?って思ったら、森だったら、こっそりおしっこしちゃうんだって。
その後は必ず浄化魔法をするから大丈夫みたいだ。
牧場とか、孤児院とかにはちゃんとトイレがあるから、森以外の場所ではトイレを借りる。
森を移動するときはこっそりする。
馬も森でさせたら、気が付いたときは浄化してあげるんだって。

まあ、森に棲んでる動物は浄化なんてしないもんね、それを考えたら浄化するんだから悪いことじゃない。
アレックスだってそうしてるなら、僕もそうする気だったのだけれど。

「行きたいときは必ず言ってくれ。戻るから」
「戻るって?」
「トイレだろ?家に転移で戻る」
「えー?!転移で戻っちゃうの?」
「誰が見てるかわからないんだぞ?森でさせたくないし、うちのトイレなら掃除も行き届いている」
「誰がって誰も見てないよ、そんなの」
「絶対とは言い切れないだろ?」
「そうだけど…僕のトイレだけのために転移するの?」
「時間も手間もかからないだろ?」

そうだけど、そうだけどさ。
見えたって遠目だから分からないよ、そんなもの。

まあ、いいんだけどさ、僕は。
エリソン侯爵邸のトイレはとっても綺麗だし、衛生的だし、安心だし。
でもさ、馬でここまで移動してきたのに一瞬で戻るっていうのが、なんかさ……。

「レン様ー、アレックス様のわがままなんですから、のんでください。
今行きたくなくても、途中で行きたくなったら困りますから、今から一度行ってきた方が良いですよ?」
「うー…わかった。じゃあ、アレックス、お願い。ここに直接戻ってこられるの?」
「ああ。セオやジュード、テンを目的地に戻れるから心配ないぞ。レンだって俺のそばに行けるだろ?それと一緒だ」
「そっか」


そんなことがあって、すっきりした状態で馬に乗ってます。
相変わらず優しい丁寧な歩き方をしてくれるおかげで、食べてすぐでも全然酔わない。

家に帰ったのがセバスにバレて、何事かと思われたよね。
セバスも呆れてた。
それで、その後、アレックスの言い分を聞いたセバスは、僕に同情するような目線をよこしてきた。
うん、わかるよ、アレックス、すごく過保護だよね。


「ここを抜けたら、麦畑だ」

アレックスが優しく声をかけてくる。
もういいや、トイレのことなんて小さいことだ。
アレックスのそばが居心地が悪いわけじゃない、良すぎて困るくらいだ。


アレックスの言う通り、木々を抜けたら一面の麦畑だ。
金色ですごく綺麗。

「凄い!一面金色だね!…なんだろう、凄く懐かしい感じがするよ、こんな光景、実際見たことなんてないのに」

本当に、綺麗すぎて涙が出てきそうなくらい感動する。
ざわざわと風が吹くたびに音を立てて波打つ金色の絨毯。
まるで、あの有名なアニメ映画の世界だ。
あれは、麦畑じゃなくて、虫の触覚が束になってできた金色の絨毯だったけれど。
だからかな、懐かしく感じるのは。
僕が見たのは再放送のテレビであって映画館じゃないし、劇場公開のとき生まれてもいなかったんだけど、再放送を見る度に、なんだか懐かしいなって感じちゃうんだよね。


今の時間誰もいないようで、静かだからかとても幻想的だ。

「連れてきてくれてありがとう、アレックス」
「ああ。喜んでもらえて良かった」

アレックスの声も凄く嬉しそうだ。
表情が見えないのが残念だ。
帰りはここを通らないみたいだけど、また来たいなあ。

「また来ような」
「うん」

僕の気持ちが伝わったのか、アレックスがまた来ようと言ってくれる。
この幻想的な光景をまた見に行きたい。



人がいないと思った麦畑は、少し進んだところで並んで腰を降ろして休憩している人達にであった。
ここでもアレックスは大人気だ。
大きく手を振ってくれて、僕にも声をかけてくれたよ。
エリソン侯爵領の人々はとても元気で明るい良い笑顔で、見てると自然に笑みが浮かんでくる。

そして、また同じようなやり取り。


「ねえ、アレックス。あの人はロブの」
「言いたいことはわかるが、兄弟じゃないぞ」
「そっか」

また違ったみたいだ。
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