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本編

-136- 出発 アレックス視点

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厩につくと、ジュードは入口のすぐそばで馬装を行っていた。
レンを目に届く範囲で、何かあったら動ける範囲にいるためだろう。
普段なら、もう少し開けた場所で行っているからだ。

そのレンはというと、トムと共にテンのそばにいた。
テンは馬の中でも特にデカい上に、扱いづらいのだが随分大人しくしてるようだ。

大好きな角砂糖を二つほど食わせて、装備に入る。
トムの手入れは馬具の細部にまで行き届いているし、けして疑っているわけじゃない。
だが、乗るときには必ず馬装は自ら行い、体調や蹄の確認をしてから乗るようにしている。
俺の馬だ、信頼関係を築くには必要な作業だ。

レンも俺のそばでその様子を眺める。

「蹄に蹄鉄は打たないの?」

ふいに、レンが不思議そうに聞いてきた。

「ん?ああ、長時間馬車を引かせるときや帝都に出るときは打つが、うちの領内では基本打たないな。
芝生や土が多いし、石畳でも道の凹凸が少ない」
「そうなんだ」
「鞍には軽量化の魔法がかかっているから、負担も少ないんだ」
「そっか、僕が乗ってもテンの負担になりにくいなら良かった」

ほっとしたようにレンが笑うが、たとえ軽量化の魔法がかかっていないとしても、レンのように軽い者ならなんの負担にもならない。

「そこは気にしなくて大丈夫だぞ?…よし、今日も綺麗な蹄だ」

蹄の確認を終えて、当の本人…や、本馬と言おうか。
ともかく確認するように顔をあげれば、ご満悦な表情だ。
俺の確認を終えたことにじゃない、レンに撫でられて、だ。
黒くてデカい図体をしているのにも関わらず、レンに撫でられて嬉しそうに目を細めている。
これならレンを乗せることに不満もないだろう。

「なんだ、随分好かれてるな」
「うん、アレックスに似たんだね」
「ははっ、そうだな。……さて、どうやって乗ろうか」

足場を組むのは避けたいな、道中の休憩時に出し入れするのは面倒だ。
子供のころなら、先に乗せられて後から祖父さまが乗ってきたが、他の手を借りられるなら俺が先に乗って、引き上げるほうが良いのか?


「出発しますか?」

セオが手綱を手にこちらに来る。

「ああ。…セオ、恋人同士が相乗りの時はどっちが先に乗るんだ?」
「へ?どっちが?あ、あー、前に乗る方が先ですかね。初めてですし、レン様は前に乗せるでしょ?」
「ああ」
「最初は補助があった方が良いですね。
俺が下から持ち上げますんで、体勢が崩れそうならアレックス様が横で支えてあげてください。
多分、それが一番いいと思います」
「………」

持ち上げるなら俺の方がいいんじゃないだろうか?
一番いいと言う根拠は何だ?

「お顔が怖いですー、持ち上げるって言ったって、腕で足の裏を持ち上げるだけですよ?土台になるだけです土台、補助ですよ?」
「………」

言い方はなんとでもなるな。
にしても、お顔が怖い……か。
普段からこんな顔してんだが、本人目の前にして遠慮なく言えるのは家の者でも限られてる。

「俺がレン様の真横で背中やお尻を支えるよりマシでしょー?レン様運動神経良いですし身軽ですしバランスもいいですから、一回やって上手に乗れるようでしたら次からアレックス様が同じように乗せてあげればいいじゃないですか」
「なるほど、わかった」

確かに、背中や尻をセオが支えるよりは、幾分マシな選択だ。
やっと納得した俺を目に、セオは最大にため息をついてくる。
本当に、遠慮なさがだんだんセバスに似てきたんじゃないだろうか。

「どんな想像したんですかーもー…んー先に見本を見せたほうが良いですね。ジュード、補助するから見本見せてあげてー」
「了解。レン様、セオは俺ですら持ちあげられるんですから、遠慮せずに安心して体重かけてくださいね」
「そーそ、馬の負担や怪我の原因になりますからね」
「うん、わかった」

ジュードの助言に、レンは納得したように頷く。
人を土足で踏むことに躊躇いがあったようだ。
セオもジュードも他人に敏感だ。
俺は鈍い方だからよく失敗してきたが、レンに関しては見逃したくない。


二人に感心してる間に、セオの補助でジュードがランディに跨る。


「こんな感じです。出来そうですか?」
「うん、大丈夫だと思う」
「じゃあ、やってみましょう」
「うん、お願いします」

横からも後ろからも万が一のために支えられるように傍によると、レンがふんわりと嬉しそうに笑ってくる。
安心しきってる笑顔だ。
初めての乗馬だというが、身体を固くすることなくあまり緊張をしていないように見える。
セオの手を借りて、ふんわりと綺麗にテンに跨った。
お手本のように綺麗な姿だ。

「乗れた!」

レンが嬉しそうに声を上げた。

「初めてなのに随分綺麗に乗れましたね」
「身軽ですね、練習すればすぐに一人でも飛び乗り出来ますよ」
「そうだな。とりあえず、今日はこの後、俺の補助だけで大丈夫そうだな」

俺もテンに飛び乗り、ベルトを締める。
俺が幼いころに祖父さまと使っていたベルトだが、また出番が来るとは思わなかった。
レンを紹介した次の日にはトムが手入れをしてくれていたし、大事に取っておいてくれたことにも感謝したい。
レンの腰は本当に細いな、俺と使うのにも余裕があった。


「背中は俺に預けるようにして、まっすぐ前を向いていれば大丈夫だ。
変に体に力が入っているとテンも緊張が伝わるし、なにより疲れてしまうから、出来るだけリラックスして乗ってくれ」
「そっか、わかった」
「じゃ、いくぞ。今日はレンが一緒だからな、ゆっくり行こう」


「エラ、ゆっくりだぞー」

いつもなら、エラはスピードを出せる道はかなりの勢いでかけていくが、今日はお預けだ。
セオがエラの首元を軽く叩いて宥める。
不満が残らねばいいんだが。
だが、レンにとって初めての乗馬だ。
初めてにしては距離を乗るから、出来るだけ負担のないようにしてやりたい。

テンが、エラに続いて一歩を踏み出した。
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