異世界に召喚された二世俳優、うっかり本性晒しましたが精悍な侯爵様に溺愛されています(旧:神器な僕らの異世界恋愛事情)

日夏

文字の大きさ
上 下
133 / 445
本編

-133- 目に見えるかたち

しおりを挟む
門の前で、セバスとアニー、それからロブとロンの見送りを受けて、手を振って出かける。
いよいよ出発だ。
今日は裏門から出たみたいだ。
裏門っていっても凄く大きくて立派な門なんだよ?

最初に目指すのは、マルシェで賑わう街、フィーテルの近くにある湖だ。
とてもいい天気で爽やかな風が心地いいし、囀る鳥の声も聞こえてくる。
頭からかぶっていたフードを外して、息を大きく吸い込むと、最初に緑と土の香りが、そしてあとからふんわりと上品な薔薇の香りが漂ってくる。
それから、アレックスの甘いオレンジの香り。
表門と同様、少し進めば、薔薇園が広がるんだって。
エリソン侯爵邸をぐるっと囲むように、東西南北全て薔薇園なんだとか。
流石、薔薇の名産地だよね。

「フード、いいのか?」
「うん、風が気持ちいいから」
「そうか」

昨日の馬車と同じくらいの速度でかぽかぽと進んでいく。
それにしても、乗馬ってもっと上下に揺れるかと思ったけれど、凄く揺れが少ない。
もちろん、テンが歩いてる感覚はするんだけれど、なんか魔法でも効いてるのかな?
これならお尻も痛くならない。

「にしても、今日は随分丁寧に歩いてるらしい」
「あんまり揺れないね?」
「普段はもっと揺れるぞ。前のセオ見てみろ、揺れてるだろ?」

本当だ。
元の世界で、映像で見たことのある乗馬と同じような感じに見える。
もちろん、セオは慣れてるようでお尻を打ったりなんかしてないけれど、規則的なリズムがあってコツがいりそうだ。

「楽しそうに歩いてるね」
「普段、テンもあんな感じだ」
「なら、僕がいるから揺れないようにしてくれてるんだね、ありがとう、テン」



「アレックス様とレン様だあ!今朝はついてるなあ、お気をつけてー!」
「まあ!レン様よ!」
「きゃあ!噂以上にお綺麗だわー!レン様ー!」
「うおおお、よがったなあ、よがったなあ、アレックス様ああ!」

薔薇園が広がると、僕らに声をかけて大きく手を振ってくる。
昨日と同じように薔薇のグラデーションがとても綺麗だ。
けれど、そんな美しい光景でも、朝からとってもにぎやかな声があがる。
薔薇園の朝は早いみたいだ。
もう、皆仕事をしてる。

僕も手を振って応える。
うん、朝から皆元気いっぱいだ。

「あの人は、ロブの兄弟?」
「っぶは、や、違うぞ」

違うのか。
アレックスが吹き出すってことは、そのくらいアレックスも似てるって思ったんだろうなあ。
大きな声で、朝から号泣して自分の息子が結婚したかのように喜んでるし、日に焼けた大きな体で、とても似てるから他人とは思えなかったんだ。

「うちの領には一定数いるな。俺も最初のころ、同じ質問を祖父さんに何度もして笑われた」
「ふふっ似てるもんね。あ、そうだ、アレックス」
「ん?」
「今日は、孤児院のお土産はリボンとお菓子なんでしょ?」
「ああ、エラとランディに積んでるぞ」
「お土産によっては、運送ギルドから荷馬車を出してもらうって聞いたんだけれど、アレックスの魔法、空間収納は使わないの?」

空間収納は、魔力量によって収納できる大きさが左右されるらしくて、アレックスは膨大な量を収納できるみたいなんだよね。
凄く便利だし、僕も次に魔法を教わるのはこれが良い。
元の世界の、あの有名なアニメ、猫型ロボットのポケットみたいに使えるなら凄く便利だ。

わざわざ運送ギルドに頼って荷物を運んでもらわずとも、寧ろ、今積んでるリボンとお菓子だってアレックスの空間にしまったらいいんじゃないかな?って思う。

「あー…空間収納については、あんまり言い広めてないんだ」
「そうなの?」
「便利すぎるだろ?」
「うん、便利だよね」
「師匠の助言でな。
ただでさえ、瞬間移動が可能なんだ。
その上、大量の物を収納出来ると広まれば兵器にされる可能性が高い。
今は国境を封鎖してるし、皇帝陛下は全くその気がないから他国に攻め込むような戦争は起きていないが、万が一戦争や紛争が起これば十中八九最前線だと」
「あ…そっか」

荷馬車が要らない、武器や食料を運ぶこともしなくていい。
足りなくなったら、アレックスから一瞬で大量の物資を届けられる。
大量の爆弾を抱えて、敵陣に落とすことだって可能だ。
一瞬、鳥肌がたった。

それは、非人道的なやり方だ。
いくら魔法が発達しているからといって、そういうやり方はあってはならない。

「ごめんなさい、ちゃんと考えてなかった」
「いや、気にしないでくれ。職場でも頼まれてこっそり使ってるし、俺自身日常的に使ってるしな。
便利は便利だ、使えるときには有効的に使用してるぞ?
それにな、こうやって荷物を運んでるってのを目で見てわかってもらうのも必要なんだ」

孤児院に行くのに、領民の皆が、“ああ、親のいない子供たちにも、ちゃんと物が行き届いてるんだな”って知って貰えるのも必要なんだとか。

アレックスはその後も、色々と教えてくれたよ。

領主が直接運送ギルドを利用するのも、目の届きにくいギルド内の職場状況を確認できるし、それをギルド側もわかってるからエリソン侯爵領の運送ギルドはきちんと運営されてる。
なんでも、外からの出入りで、領主管轄から唯一外れるのが運送ギルドの職員みたい。
毎日出入りが多いから、記録はギルドが管理するようだ。
エリソン侯爵領だけなら出来なくはないけど、そこは、どの領でも統一されて運送ギルドが管理するっていう規則になってるからそれに合わせてるんだって。
もちろん、外から持ち込まれる物や人に関しての記録は検問が入って記録がつくのだけれど、運送ギルド員自体の記録はされないようだ。

あと、お店でものを買う時も空間収納は使わないみたい。
アレックスは領主様だから、自分で店に足を運んで購入することは多くないみたいだけれど、お店に入ったら必ず何か買うことにしているんだって。
これは、この帝国内において、貴族なら店に入って何も買わないっていう選択肢は出来ないから。
貴族が店に入って何も買わないことがあったら、店がなにかその人に対して失礼なことをしたとか、商品がよっぽど粗悪で買う価値がないだとか、店側に問題があるって勘ぐられる。
あるいは、金銭的に厳しい貴族だと印象付けてしまう。

だから、店から出るときは、物を買いましたと分かってもらえるように出る。
そんなことある?って思うけれど、そうなんだって。

それに、領内でアレックスが物を買ったとなると、領民のみんながお店にも物にも注目するからそれだけで宣伝になる。
物を購入するという行為自体が、いい影響を与えるみたいだ。

元の世界では、必要かどうかの判断は、自分の価値観を中心に決めてきた。
でも、これからは自分の価値観だけじゃなくて、もっと広い視野が必要になるよね。
空間収納の話から物の価値観についても考えるきっかけになったし…それは、ほんのさわりだけかもしれないけれど、学べたことは大きいと思う。

「レン、顔を上げてくれ、目的地が見えてきたぞ」
「ん?…わあ、凄い!」

アレックスの言葉に、僕は顔を上げる。
いつの間にか、目線は下がって自分の手元を見ていたみたいだ。

緩やかに下ってきた道は、途中緩やかに上り坂だった。
薔薇農園を過ぎてからは自然が多かったけれど、急にひらけたように目に映る。

前方、少し下の方、左側には緑が広がっていた。
その奥には、キラキラと水面が輝いているのが見える。
目的地の湖だ。

そして、僕らの進んでいる道を挟んだ右側には、碁盤の目のように綺麗に補整されている道が見える。
その両側に、集合住宅が並んでるのが見えた。
しおりを挟む
感想 42

あなたにおすすめの小説

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

処理中です...