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本編

-128- 氷魔法の使い方 アレックス視点

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心頭滅却するどころか煩悩渦巻くトレーニングを終えて、浄化で汗を落とした後は、テンの様子を見に行く。
乗馬の時間が少しも取れないときは、必ず朝に顔を出すようにしている。

俺が来たことに気が付いたのだろう、すぐさまこちらの方へと近づいてきた。
トムの持つブラシを離れて勝手に足を進めるもんだから、トムが仕方なさそうに笑っている。

「トム爺、すまない」
「いいえ、構いません。おはようございます、アレックス様」
「ああ、おはよう。今日はレンも乗せるから、よろしく頼む」

小さくお辞儀をするこのデカい相棒、テンは、俺がエリソン侯爵領に来てすぐの頃俺のために飼われた馬だ。
馬といっても、うちにいる馬たちは魔物化した馬たちだ。

馬にも種類があるが、魔物化した馬は通常の馬よりも大きく寿命が長い。
また、気配察知にも優れており、普通の馬よりも意思疎通が伝わりやすいのが特徴だ。
不思議な話だが、主人が亡くなると同時期に亡くなる馬が多いらしい。
祖父さんの馬もそうだったな。

デメリットとしては、魔力量が少ないとなめられて中々いうことを聞いてくれないらしい。
トムは魔力こそ少ないが、動物の意思疎通のスキルがあるらしく、どんな動物すらも好かれる体質だという。
会話が出来るほどじゃないらしいが、何となくなにを思っているかが伝わるっつーんだからそれはそれで凄いことだ。

「またあとで来る」

一度戻らねば、セバスが探しに来るかもしれない。
小さく頷くテンを目に入れて、トムに後を任せる。

そろそろマーティンが家に戻る馬車が迎えに来る時間だろう。
レンはまだ寝ているだろうから、もう少しだけ寝かせてやりたい。
送り出すのは俺の役目だ。



「家族によろしくな」
「朝早くからありがとうございます」
「もし、万が一今夜の最終で戻れないようなら、無理せず帰りの御者に言伝を頼んでくれ」
「っ……ありがとうございます、ありがとうございます!」

朝から泣かせるつもりはなかったが、マーティンは目に涙をためている。
年取って涙腺が緩んだか?

「マーティン、これ、レン様が持っていってくれってさ。
栄養のあるものを家族分持たせてあげたいと、レン様自ら一緒に選んでくれたぞ、なんと肉もある。良かったな!」

レンは本当に優しい上に使用人を大切に考えてくれるようだ。
その気遣いに感謝したい。
が。肉?
生肉なんて持たせて大丈夫か?と思ったが、イアンからマーティンが受け取ると驚きの顔を更にびっくりさせた。

「おい、肉が凍ってるぞ?氷冷箱空けたのか!?」
「んなわけないだろ、レオンの魔法だ」
「「は?」」

俺とマーティンの声が重なった。

「やあ、レン様は凄いな。氷の王子もレン様にはかなわないぞ。
それ、レン様の指示で、今すぐにでもちゃんと包丁が通り、且つ一日完全に溶けないほどには凍ってんだ。
作りたてを食べさせてやれ」
「そうか、そうかあ。ああ…こんなにたくさんありがたいなあ、心から感謝を」


くしゃくしゃに笑いながら泣くという器用なマーティンを、俺とイアン、それからセバスとアニーで送り出す。

しっかしなあ、レオンの氷魔法は、ありゃ本来戦闘用だ。
どでかい氷の柱を何本も地面に突き立て檻にすることも出来るし、氷の槍をあたり一面降り注ぐこともできるし、相手を氷漬けにすることも出来る。
水の上級魔法である氷魔法を、食材を凍らせるために使うっていう発想は普通出来ない。

あー、でも、レンは魔法のない世界から来た。
だからこそ躊躇なく出来たのかもしれないな。
レンは、そろそろ起きる頃だろうか。
セオにつかせているので心配することはないはずだが、昨日の今日だ。
そわそわしてしまうのは仕方ない。


「アレックス様、今日レン様を迎えるのは出発30分前まで耐え…待ってください」
「ああ、わかったわかった」

念を押すようにセバスから声がかかる。
意識がそちらに向かったが、わざわざ言い直さなくたっていいだろう。
全く持って理不尽な気になる。



「ジュードと今日の最終経路と予定を確認してくる。書斎にいるから、なにかあれば声をかけてくれ」
「畏まりました」
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