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本編

-126- 誘惑 アレックス視点*

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風呂から上がり、昨日と同じようにレンの髪を丁寧に乾かしていく。
肌の保湿も抜かりない。
俺のは適当でも、肌が薄くきめ細かなレンを相手にしたらどれだけ丁寧にしたって足りないことはあっても足りることなんてない気がする。

レンはこういってはなんだが、自分を磨くことは適当な気がする。
神器様も、貴族夫人やその候補も、自分磨きに余念がないが、レンはそこら辺、以外と大雑把だ。
風呂に関しては俺と入るのを楽しみだと言ってくれたが、1人なら浄化で済ましそうな気もするくらいだ。

だが、磨かれることには慣れているのか、触られることに対して最初からあまり戸惑いはなさそうだった。
貴族はいない国、だったか、裕福だったようだが平民で役者だったという。
人に見られることに慣れてるようだが、こちらでも有名な劇団のトップには世話係がいる。
おなじように、世話付きがいたのかもしれないな。
そんな考えが頭をよぎる。
はっきりいって面白くないが、過去のことをあれこれ悩んだって仕方ない。

サラサラとしたレンの髪の指通りを確かめる。
髪が艶めいて、中心の旋毛を取り囲むように綺麗に光の輪が丸く浮かんでいる。
我ながら、なかなかの仕上がりだ。


「今日は、このまま一緒に転移で部屋に戻ろうか」
「ん?うん、わかった」

レンも疲れただろうし、明日も早い。
湯冷めしないように部屋に戻り、すっきりする果実水を与えて早く休ませねば。
っつーか、そうしないと、俺の理性が限界だ。

果実水を与えれば、ぴったりと寄り添って行儀よくゆっくりと喉を潤している。
しっとり柔らかな空気と熱が伝わってくる。
可愛い。



「おやすみ」
「え?」
「ん?」

どうしても食指が動く自分自身を叱咤し、レンの額に口づけを一つ落とした時だった。
おやすみ、と告げると戸惑うようなレンの声が上がった。
勘違いするな、舞い上がるな、負けるな理性、俺はもういい年だろう、と俺自身の欲に重りを乗せていく。
なにも気が付かない風を装い、出来るだけ優しく聞き返す。
上出来だ。

「しないの?」
「………」

しないの?、だと?
待て、や、待つのは俺自身の欲であって、レンじゃない。
あーだが遅い、んな可愛い顔で“しないの?”なんて言われてみろ。
なにを?なんて聞き返せない。

「昨日、今日は途中まで、僕の負担がないところまでしようって約束したよ?」

不満そうに可愛い顔して言わないでくれ。
確かに言った、誰が?俺がだ。
けどなあ…あれだけ風呂場でやっちまった後に……ってもう俺自身の熱は引くのに時間がかかりそうだが、レンの体の方がずっと大切だ。
俺の欲望なんて、生理現象だ。
そんなのどうにでもなるし、どうだっていい。

「でも、疲れただろ?風呂場であれだけやっちまったし」
「ううん、疲れてない」
「あー……また泣いちゃわないか?」

意地になっていないか、負担になっていないかを良く確かめながら口にする。
これ以上泣かせたら、明日が大変なことになってしまう。


「もっと触ってほしい」
「……っ」

あー…聞かなかったことにするなんて無理だ、脳内に保管箱を作り永久保存だ。
いつでも取り出して新鮮な声を何度も聞き返したい、そのくらい衝撃的で歓喜する言葉だ。

まっすぐに見つめながら、動かない俺の手を取り、その手を自分の胸元に押し当ててくる。
俺自身の熱はとっくに上がっているが、レンの熱をも感じてより高鳴る。
そっと外されていくパジャマボタンの、その隙間をなぞるように手の甲を滑らせる。
白く、薄くバラ色に色付く素肌が、酷く俺を誘惑する。
臍の窪みにたどり着くと、小さくその肌が震えた。
もう、何もしないという選択はない。
ゆっくりと撫で上げると、レンは自らパジャマを脱ぎ捨て、ズボンの紐へと手を伸ばしている。
あー…下も脱いじまうのか。
完敗だ、俺の頭の中には白旗が1本どころでなく、何本も立っている。

「アレックスも脱いで」
「…わかった」

自分の沸騰してる熱を逃がすように、ゆっくりと息を吐き出す。
こうなったら、泣かさない、レンの体力を考える、無理はしない、頼まれても絶対最後まではしない、そのためには今夜は絶対ナイトポーションは出さない、そう自分自身に言い聞かせる。


「アレックス、疲れてない?」

レンがそっと心配そうに聞いてくる。
俺自身は全く疲れていない。
それどころか、元気すぎるくらいだ。

「いや、大丈夫だ」
「今は、僕に触りたくない?」

あー…俺は、レンをまた不安にさせてしまったようだ。
お世辞にも態度が良いいとは言い難い。
自分自身を抑えるあまり、レンを不安にさせているんだから最低だ。

「いや、触っていいなら、もっと触りたいし、触ってほしい」

言っても熱は冷めるどころかより増すばかりだ。
ぎちぎちに立ち上がり、激しく主張しまくってる。
自分で言うのもアレだが、はっきりいってエグい。
正直すぎるだろ。

「……あー、その、悪い」
「ううん、触っていい?」
「ああ、触ってくれ」
「うん」

それなのに、レンはほっとしたような嬉しそうな顔をした後に、そっと触っていいか聞いてくる。
躊躇はないようだ。


再び待ちわびていた細く綺麗なレンの指が、俺自身に触れた。
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