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本編
-113- 氷の魔法
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「お呼びと聞きましたが」
厨房にいる僕とイアンの前に、硬い表情でレナードが顔を出してきた。
呼び出した内容は、セバスは告げていないと思う。
僕から頼みたいと言ったからだ。
レナードと離れて少し後ろからセバスが様子を見守ってくれている。
「うん、レナードにお願いがあって」
「なんでしょうか?」
「マーティンにお肉を持たせてあげたいから、凍らせて欲しいんだ。出来る?」
「は?」
は?って……そんな驚かなくても。
否定的な、は?じゃないよ、思わず驚いて出た言葉なんだろうけれど。
目を大きくして、びっくりした顔で僕を見てくる。
「だから、お肉を凍らせるの。レナードは氷の魔法が使えるってセバスから聞いたよ、出来る?」
「…出来ます」
「うん、じゃあ、お願い。イアン、どのお肉にしたらいい?」
「え、あ、そうですねー、お腹に優しくて柔らかいなら、とり肉ですかね、量もありますし安価ですからマーティンも気に病むことなく持って行ってくれますよ」
そう言って、イアンがでーんととり肉を貯蔵庫から取り出してくれた。
ピンク色していて鮮度がいいみたいだ。
「レナード、じゃあ、お願い」
「はい」
「あ、あとね、カチコチにしないで、ギリギリ刃が通るくらいにしてね。でも、今から貯蔵庫に入れて、明日朝持たせて、夜まで外に出しても完全には溶けないくらいにして」
「…難しいこと言いますね。今やることですか?」
「でも、明日の朝出発する前だとバタバタしちゃうし、レナード、起きられないかもしれないでしょう?今出来る?」
「出来ます」
レナードは、ため息を一度吐いて、仕方なさそうにとり肉に手をかざした。
小さく呪文を呟くレナードを傍で見守る。
ひんやりとした空気が伝わってきた、凄い。
「レン様、危ないのでもう少し離れてください」
「あ、うん」
セバスからそっと距離をとるよう告げられて、僕は一歩下がる。
艶があったとり肉が凍って艶がなくなるのに、そう時間はかからなかった。
「出来ました」
「凄いね!ありがとう、レナード!」
「いえ……ふっ」
「?」
僕が笑ってお礼をいうとレナードが思わずと言ったように笑いを漏らす。
硬い表情が消えて、柔らかい表情になった。
うん、少しずつ僕に慣れて欲しいな。
「ああ、いえ…すみません。子供のころ、グレース様に言われて、ジェラートを作ったことを思い出しまして」
「ジェラート?」
「ええ。今すぐに食べたくなったから、ジャムと牛乳を混ぜるから、傍でそっと冷やしてくれ、と。
かちこちじゃ駄目、ゆっくり少しずつ丁寧に冷やしてくれと言われて、出来上がったジェラートを2人でこっそり食べました」
「いい思い出だね」
「ええ。そのころはまだ制御が上手くできなくて、とても苦労したのを今でも覚えています。
それに、俺の氷魔法は強力なので。そのような要求をしてきたのはグレース様以来です」
「とても助かったよ、ありがとう」
「はい。お役に立てたなら良かったです…それでは、私はこれで下がらせていただきます」
「うん、お休みなさい」
「っ…お休みなさい」
レナードが去っていく背をなんとなく見送っていると、イアンからもセバスからも面白そうに笑いが漏れた。
何だろう?
「やあ、レン様にかかれば、あの氷の王子様もたじたじですねえ」
「お見事です」
「え?そんな特別なことしてないと思うんだけれど」
「いいえ。それに、お休みなさい、という挨拶もグレース様以来かと」
「そうなの?アレックスは言わないの?」
お休みなさい、なんて普通の夜の挨拶だと思うのだけれど。
「ゆっくり休んでくれ、とは言うかもしれませんが、お休みなさい、とは言わないでしょうね。
ですから、お休みなさい、と返すことはなかったと思いますよ」
「そっか」
なら、まずは、普通のコミュニケーションから始めていくのがいいのかもしれない。
僕が普通にしてるだけで驚かれることがこうやって多々あるなら、良い傾向だ。
印象は、悪くないと思う。
レナードも少しずつ慣れてくれるかな。
時間が必要かもしれないけれど、急ぐことでもないから、ゆっくりいこう。
「レン様ー?」
「セオ、どうしたの?」
厨房をひょっこり覗くようにして、セオが顔を出してきた。
まだアレックスが帰ってくるまで少しだけ時間があると思うのだけれど、何だろう?
「アレックス様が戻ってくるまでに、一度着替えて履き替えましょう。髪も解いておきましょうね」
「また着替えるの?」
あとちょっとしかないんだから、着替えなくてもいいと思うんだけれどなんでだろう?
そう思うと、セオが呆れたような顔を向けてくる。
「アレックス様が帰ってきたら一緒にお風呂に行くんでしょ?その服だと脱ぐの大変ですし、髪解くのもアレックス様に任せたら時間かかりますよ、きっと」
「う…そっか。なら着替える」
「はい、そうしましょ」
「じゃあ、イアン、部屋に戻るね。一緒に選んでくれてありがとう。お休みなさい」
「はい、こちらこそありがとうございました。お休みなさいませ」
厨房にいる僕とイアンの前に、硬い表情でレナードが顔を出してきた。
呼び出した内容は、セバスは告げていないと思う。
僕から頼みたいと言ったからだ。
レナードと離れて少し後ろからセバスが様子を見守ってくれている。
「うん、レナードにお願いがあって」
「なんでしょうか?」
「マーティンにお肉を持たせてあげたいから、凍らせて欲しいんだ。出来る?」
「は?」
は?って……そんな驚かなくても。
否定的な、は?じゃないよ、思わず驚いて出た言葉なんだろうけれど。
目を大きくして、びっくりした顔で僕を見てくる。
「だから、お肉を凍らせるの。レナードは氷の魔法が使えるってセバスから聞いたよ、出来る?」
「…出来ます」
「うん、じゃあ、お願い。イアン、どのお肉にしたらいい?」
「え、あ、そうですねー、お腹に優しくて柔らかいなら、とり肉ですかね、量もありますし安価ですからマーティンも気に病むことなく持って行ってくれますよ」
そう言って、イアンがでーんととり肉を貯蔵庫から取り出してくれた。
ピンク色していて鮮度がいいみたいだ。
「レナード、じゃあ、お願い」
「はい」
「あ、あとね、カチコチにしないで、ギリギリ刃が通るくらいにしてね。でも、今から貯蔵庫に入れて、明日朝持たせて、夜まで外に出しても完全には溶けないくらいにして」
「…難しいこと言いますね。今やることですか?」
「でも、明日の朝出発する前だとバタバタしちゃうし、レナード、起きられないかもしれないでしょう?今出来る?」
「出来ます」
レナードは、ため息を一度吐いて、仕方なさそうにとり肉に手をかざした。
小さく呪文を呟くレナードを傍で見守る。
ひんやりとした空気が伝わってきた、凄い。
「レン様、危ないのでもう少し離れてください」
「あ、うん」
セバスからそっと距離をとるよう告げられて、僕は一歩下がる。
艶があったとり肉が凍って艶がなくなるのに、そう時間はかからなかった。
「出来ました」
「凄いね!ありがとう、レナード!」
「いえ……ふっ」
「?」
僕が笑ってお礼をいうとレナードが思わずと言ったように笑いを漏らす。
硬い表情が消えて、柔らかい表情になった。
うん、少しずつ僕に慣れて欲しいな。
「ああ、いえ…すみません。子供のころ、グレース様に言われて、ジェラートを作ったことを思い出しまして」
「ジェラート?」
「ええ。今すぐに食べたくなったから、ジャムと牛乳を混ぜるから、傍でそっと冷やしてくれ、と。
かちこちじゃ駄目、ゆっくり少しずつ丁寧に冷やしてくれと言われて、出来上がったジェラートを2人でこっそり食べました」
「いい思い出だね」
「ええ。そのころはまだ制御が上手くできなくて、とても苦労したのを今でも覚えています。
それに、俺の氷魔法は強力なので。そのような要求をしてきたのはグレース様以来です」
「とても助かったよ、ありがとう」
「はい。お役に立てたなら良かったです…それでは、私はこれで下がらせていただきます」
「うん、お休みなさい」
「っ…お休みなさい」
レナードが去っていく背をなんとなく見送っていると、イアンからもセバスからも面白そうに笑いが漏れた。
何だろう?
「やあ、レン様にかかれば、あの氷の王子様もたじたじですねえ」
「お見事です」
「え?そんな特別なことしてないと思うんだけれど」
「いいえ。それに、お休みなさい、という挨拶もグレース様以来かと」
「そうなの?アレックスは言わないの?」
お休みなさい、なんて普通の夜の挨拶だと思うのだけれど。
「ゆっくり休んでくれ、とは言うかもしれませんが、お休みなさい、とは言わないでしょうね。
ですから、お休みなさい、と返すことはなかったと思いますよ」
「そっか」
なら、まずは、普通のコミュニケーションから始めていくのがいいのかもしれない。
僕が普通にしてるだけで驚かれることがこうやって多々あるなら、良い傾向だ。
印象は、悪くないと思う。
レナードも少しずつ慣れてくれるかな。
時間が必要かもしれないけれど、急ぐことでもないから、ゆっくりいこう。
「レン様ー?」
「セオ、どうしたの?」
厨房をひょっこり覗くようにして、セオが顔を出してきた。
まだアレックスが帰ってくるまで少しだけ時間があると思うのだけれど、何だろう?
「アレックス様が戻ってくるまでに、一度着替えて履き替えましょう。髪も解いておきましょうね」
「また着替えるの?」
あとちょっとしかないんだから、着替えなくてもいいと思うんだけれどなんでだろう?
そう思うと、セオが呆れたような顔を向けてくる。
「アレックス様が帰ってきたら一緒にお風呂に行くんでしょ?その服だと脱ぐの大変ですし、髪解くのもアレックス様に任せたら時間かかりますよ、きっと」
「う…そっか。なら着替える」
「はい、そうしましょ」
「じゃあ、イアン、部屋に戻るね。一緒に選んでくれてありがとう。お休みなさい」
「はい、こちらこそありがとうございました。お休みなさいませ」
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