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本編

-112- 食材選び

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セバスに連れられて厨房に顔を出すと、イアンが明日朝の賄いの準備をしていた。
普段の仕事じゃない別の仕事をさせてしまうことになっちゃうけど、僕が顔を出すと嬉しそうに笑顔で迎えてくれる。

「おー、レン様、どうされました?」
「仕込み中にお邪魔してごめんね、イアン。
今日のりんごのクレープ、あったかい味がして、凄くおいしかったよ。あと、夕食後のゼリーも美味しかったし、宝石みたいに綺麗だった。ありがとう」
「いや、いいえ、はい!気に入ってくださって良かった!」
「うん。それで、仕事を増やしちゃうのだけれど、明日の朝ね、マーティンに果物とか栄養のあるものを家族分持たせてあげたくて。今から一緒に選んでもらっても良い?」
「そりゃあもう、勿論です!え、でも、レン様もご一緒で?」

イアンは僕を見てからチラッとセバスに視線を移す。
やっぱり、普通は人に任せることなのかな。
イアンの視線を僕が追うと、セバスはしっかり頷いてくれた。

「ええ、レン様自ら仰いまして、是非ご一緒に用意されたいと」
「そうですかそうですか!マーティンも喜びます!
レン様、あちらは刃物がありますし、先ほどまで火を使ってましたので近づかないようにお気を付けください。
食材の保管場所は向こうで離れていますが、念のため」
「わかった、気を付けるね」

イアンの教えに頷いて、パントリーは、厨房内の扉の奥だと案内してもらう。
セバスも一緒だ。

パントリーっていうのは、食糧庫のことなんだって。
奥にもう一つ扉があって、外と繋がってるから搬入に便利な作りだよ。
少しひんやりするくらいだから15、6度はありそう。
パントリーの中の作りは、コの字型した大きなウォーキングクローゼットみたいだ。
小麦粉や調味料の他に、常温で日持ちする果物や野菜、ワインもこっちみたい。

因みに厨房の貯蔵庫には、お肉や牛乳、卵、バター、それから葉物野菜やベリー系の果物の他、下処理後の料理なんかが中心に入ってるんだって。

「寒くないですか?」
「うん、大丈夫。ここ、夏は暑くなるの?」
「いいえ、アレックス様が改良しまして、年中ずっとこの気温と湿度ですよ」
「そうなんだ、凄いね!」
「ええ、食料も傷みにくくなっています」

背の高い棚が陳列していて、きちんと整理整頓されていた。
くだものの棚もあれば、野菜の棚もあるし、小麦粉の棚もあった。
さて、何にしようかなあ。

「レン様、一応申し上げておきます」
「ん?」

セバスが、迷いながらもそっと声をかけてきた。

「クライス帝国の貴族間では、自ら厨房の中に入ること自体、あまり良いこととされておりません」

普通やらないどころか、良くない行動みたいだ。
セバスどころかイアンまで驚いていたから、普通は人に任せることなのかもって思ったけれど。

「そうなの?危ないし、仕事の邪魔しちゃうから?」
「いいえ、使用人が行き届いていないという意味に捉えられるためです」
「そっか…思ってもみなかった、わがまま言ってごめんね。次からしないように気を付ける」

エリソン侯爵邸の使用人が行き届いていない、なんて言ってるように思われてたってことかな。
そりゃ、増員は必要だって思ったけど、今現在、少ない人数でも、心づくしの料理と給仕がされてるのに、悪いことしちゃった。
使用人をちゃんと信用して任せるっていうことも大切なことなのかもしれない。

「いいえ。クライス帝国の貴族間ではそうですが、エリソン侯爵邸に限ってはレン様の自由にしてくださって結構ですよ」
「いいの?」

「はい。レン様がそのように思っていないことは使用人全員分かっております。それに、前侯爵夫人のグレース様もよく顔を出されていましたから、イアンもマーティンも慣れております。ただ、祝賀会では他領の貴族間との会話にお気を付けください」
「うん、わかった。イアンも、誤解させちゃってごめんね。これからも行ってもいい?」
「誤解など!ええ、ええ、勿論です!まあ、俺とマーティンの他にその倅2人なんてよりむさ苦しくなると思いますがいつでも歓迎しますよ!」
「ふふっありがとう。…えーと、今日のりんごがとても美味しかったから、りんごは持たせてあげたいな。出来る?」
「ええ、多めにありますから大丈夫ですよ」
「あとは、やっぱり、体調が悪い時に食べられるのはスープとかになるかな?」
「そうですね、栄養満点のスープを作ってもらいましょう。ジャガイモと人参、きのこを数種類と、玉ねぎとトマトも持たせましょうか。
あとは…そうですね、このオレンジは手でも簡単に皮がむける品種ですから、食べやすいと思います」
「なら、それも持たせてあげたいな。お肉は無理?」
「肉は…そうですね、量はあるんですが、難しいですね。
普通の家には貯蔵庫はありませんし、帝都から何時頃戻ってくるのかがわからないですからね。あーでも、到着後すぐに調理してもらえば……」

そっか、生肉はそのままじゃ厳しいよね。
あ、でも、氷があるか。
昨夜のシャンパンの、あのクーラーボックスには入ってたし。

「セバス、マーティンの家までは馬車でどのくらい?」
「20分程ですよ。持って帰るだけなら問題ありません」
「氷はある?」
「ありますが貴重です。マーティンが遠慮するでしょう。それに、氷零箱には肉を凍らせるスペースなど取れませんよ」
「そっか……うーん、氷魔法を使える人なんて、いないよね」

氷が貴重なのか。
貯蔵庫はそれなりの大きさがあるのに、冷凍庫と同じ機能がある氷零箱は小さい。
元の世界の電子レンジよりもずっと小さい。A4サイズのダンボールくらいの大きさしかない。
 
多分、冷凍するにはそれだけ魔石もたくさん必要になるのかもしれない。

「おりますよ」
「え?いるの?」
「ええ。いるにはいますが、警護や戦闘向けの魔法ですよ?食材を冷やせ、という指示は未だかつて出したことがありません」
「誰?出来るならやってほしいから、僕から頼みたい」

戦闘向けってことは、セオか、レナードか、ジュードの誰かだろうけど、セバスがためらうならセオじゃないと思う。
セオが氷魔法を使えたら、セバスは色々指示しそうだもん。
氷魔法って、氷属性ってないから、水属性ってことかな?それともスキル?
いずれにしても、戦闘なんてそうそうエリソン侯爵領ならなさそうだし、宝の持ち腐れじゃないかな?
使えるなら、ぜひ使ってもらいたい。

「レオンです。お呼びしますか?」
「うん、お願い」
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