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本編

-108- 裏編み

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先にアニーが再び服を用意してくれて、僕はそれに着替えた。
セオが上から下まで確認して軽く頷いたので、セオ的にもオッケーみたいだ。
鏡台の前に座り、後ろからアニーも僕の様子を一緒に見てくれる。
いよいよ、セオが僕の髪をセットしてくれるようだ。

「うっわ、レン様、思っていた以上に髪がやらかいですね」

セオが、僕の髪に指を通し、驚いた声を上げた。
やらかいって、正しく言えば柔らかいなんだろうけれど、メイクさんも僕の髪に指を通して、やっらかー!と叫んだことがあった。
やっぱり、僕の髪は、“やらかい”みたいだ。

「うん、扱いにくいって言われたことがあるよ、ごめんね」

扱う方は、扱いにくい、みたいだ。
髪質が良すぎるのも逆に扱いにくいのよ、と言われたことがある。
美容師泣かせだって言われたこともあるなあ。
セオは、大丈夫かな?どう思うだろう?

「謝んないでくださいよ。大丈夫ですよー、こういう髪はむしろ、慣れてるんで」
「そうなの?」
「ええ、孤児院の子供たちと似てますから大丈夫です」
「そっか、なら良かった」

確かに子供の髪の毛みたいでやりにくい、と言われたことがある。
やらかい、すくうとこぼれる。
じっとしていてくれる分、まだマシだ、と。
今思うと結構酷い言い草だよね。

孤児院の子たちも髪をセットしてもらうみたいだ。

「小さくても女の子はおしゃれが好きですからね、せがまれて毎回編み込んでますよ。
レン様、髪質も頭の大きさも似てるとこあるんで、安心してくださいね」
「うん、よろしくね」

「セオ、先ほどから失礼ですよ」
「え?そーですか?」

アニーがセオを、困ったように窘める。
セオは、なんで?って感じで純粋に首をかしげてるから、全くアニーの言葉が分かっていないみたいだ。
僕に対して失礼ってことはないけれど、確かに子供の髪質と大きさに似てる、なんて言われるのは素直に喜べるかと言ったら微妙だよね。

「レン様、少し変わった髪型してるんですね。や、でも、伸ばすのには良い髪型ですね、トップが長いんで」

セオが旋毛の方の毛を取りながら確かめて呟く。
変わった髪型かは分からないけれど、僕の顔だとあまり短すぎるのは似合わないし、かといって長くしてしまうと女の子うけが悪くなるだろうってことで髪型は男女通用する、マッシュショートと言われる髪型だ。
染めずに黒いままだから、モード系と言われる。でも、少し置いてしまったから、中途半端な状態だった。
衣装では、ユニセックス系の服を着ることも多かったから、髪質と服装と水原蓮というイメージに合わせていた。

髪質は、パーマもかかりにくいし、そうなるとトップを短くするとアレンジが利きにくい分、ぺしょんとしちゃうらしい。
頭の形は、丸くて良い形だと褒められた。
撮影の時はコテでその時だけふんわり巻いてもらう時もあったけど、長時間は持たなかったよ。
髪質も、母さんに似たみたい。

「伸ばすの?」
「そうですね、貴族夫人は長い方が多いですね。短い方もいますが、短くてもこのあたりまである人が多いですかね」

そう言って、セオが僕の肩上位に手を当ててくる。
ボブってことか、どっちにしろ今よりはのばした方が良いみたいだ。
髪を自分で弄ることはなさそうだし、任せていいなら長くしても短めでもどちらでもいい。
アレックスが、気に入ってくれる方が良いかな。

「まずは、一番長いこのあたりをこのまま伸ばして、後ろを少し整えていきましょうか。
片側編み込んで、細めのリボンで結びましょう」
「リボンはあるの?」

メイク道具一式がないって言っていたけれど、リボンはあるのかな?
そう思うと、セオが頷く。

「月に一度、孤児院に行くときは、毎回お土産を持っていくんです。
玩具や、本、お菓子、リボン等色々です。
今回はリボンとお菓子です。そのリボンを少しだけ拝借するんで、あまり質が良いとは言えませんけど」
「僕がそのリボンを使ってしまったら、誰か貰えない子がいたりしない?」
「大丈夫ですよ、たくさん用意してるんで。
子供たちがつけるのもですけどね、そのリボンを使って子供たちが手造りするんですよ、髪飾りや花束に使われたりします。
なので心配いりませんよ」
「そっか、良かった」

「セオ、リボンも一緒に編み込んだ方が良いかもしれませんよ」

セオが僕の髪の毛を指に取りブラシを通しながら丁寧に分け目を整えてると、アニーから助言が入った。
確かにら僕の髪は真っ黒だから、編み込んだだけだと暗い印象になっちゃうかも。

「あー、はい。試しにこのあたりを2本並行して裏へ編み込んで、更にこの間をエメラルド色のリボンで交差に通し編みしてみようかと思ってます。
孤児院でそうしてくれって言われたことがあって、やってみたらかなり好評だったんですけど、んー…可愛すぎちゃいますかね?」
「そのような髪型を私は見たことがありませんが、華やかでかなり良いと思われます」
「なら、やってみます。レン様ー動かないでくださいねー」
「はーい」

人に髪を弄られるのは慣れてる。

セオは、機嫌よさそうにワックスみたいなものを手に少しとってから、髪を編み込みはじめた。
鼻歌まじりで、よく聞くとピアノで弾いたあの曲、シャンティの大冒険だった。
話ながらの余裕がありそうだ、さっき話にあった孤児院の話を聞きたいな。
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