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本編

-107- 平民の暮らし

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「アレックスも何かに入ってるの?」
「通常領主は、ギルドへ加入出来ませんが、アレックス様は、宮廷魔法士としてお勤めですから、魔法士ギルドに所属されていますよ」
「そうなんだ」
「ええ。宮廷で働くにあたり、何かあった場合には、領主とは別経費にされたいとおっしゃっていました」
「そっか。じゃあ、侯爵邸と領地経営は別なの?」
「左様でございます。アレックス様の代になり、どちらもかなりの余裕がございますよ。他にお金のことやギルドのことについて今知っておきたいことはありますか?」

セバスが、そっと聞いてくれる。
りんごとパンの値段しか聞いていないんだよね、それだけで物価が分かった気になるのも…ちょっと乏しい。


「うん…ごく一般的な家庭…奥さんと旦那さんと、それから小さい子供が2人いる4人家族の場合、平均的に1か月どのくらいのお金が必要なの?」
「そうですね、条件でかなり変わってきますので難しい質問ですが……レン様は平民の暮らしが気になっていらっしゃいますか?」

セバスが神妙に聞いてくる。
侯爵夫人になるんだから、平民の暮らしはあんまり知らないで良いってことなのかな?
でも、エリソン侯爵夫人になるんだから、せめてエリソン侯爵領の人たちがどういう暮らしをしているのかは知りたいな。

「うん。ここは豊かだって聞いているし、実際外へ行って目で見て、良いところだって思ったよ?
でも、人々が、特にエリソン侯爵領の人たちがどうやってくらしてるのかっていうのに、興味があるかな」

「爺さまは的外れな懸念してるよ。レン様は、元貴族じゃないのにいきなり侯爵夫人になるんだよ?
なら、平民の暮らしにも興味を持って当然でしょ?」
「そうでしたか、失礼しました」

セバスってば、どんな心配しちゃったんだろう?
平民の暮らしに憧れがあるとでも思われちゃったかな?

「確かに、条件でかなり変わってきますんで難しいですが、皆、健康だったとしましょう。
例として、うちの実家のフィッツ子爵家の領地で雇われて農家をしているとしたら、1カ月の給料は20万~30万イエン程度になります。
これは時期によっても収穫量によっても多少変わってきます。
で、1カ月の生活費ですが、大体15万イエン程度だと思います」

セオが代わりに教えてくれた。
4人家族で、15万イエンか。思ったより少ないかな?
20万から30万イエンの手取りがあって、15万イエンで暮らしてるってことでしょう?
残りが貯金出来てるってことだけど、余裕をもってるってこと?切り詰めてるわけじゃないのかな?

「旦那さんだけが働いて、奥さんと子供が家にいるってことでいい?」
「いえ、奥さんもですね。ちょっと、エリソン侯爵領が変わってるのとうちを例にだしちゃったのがいけなかったですかね……。
家は必要な魔石や飲料水や燃料含めて貸してるんですよ、その家賃が月5万~6万イエン。
生活しやすく協力し合えるように家は区画ごとに整理されてますし、一軒家で庭付きです。
1歳から6歳までは、子供を預かる場所があって、お昼もおやつもそこで面倒見ます。
これは、預ける側は何人子供を預けても無料です。
子供を送りだしてから、乗合馬車で農地まで働きに出ます。
エリソン侯爵領の平民の農家は、どこも同じような条件ですね。あー家畜と酪農はまた別になりますが」

「そっか。だから一面薔薇の絨毯が広がる花畑が見えたけれど、間に家が見当たらなかったの?」
「ですです。先々代が大規模な区画整理を計画して今の働き方になりました。
子供が生まれて1年間母親は休むことが推奨されてますが、その間はちゃんと手当が出ます。
因みに7歳以上は、エリソン侯爵領の平民は、無料の学校がありますから、大抵の子供はそっちに通うことになりますね」

貴族と平民との差はかなり大きいみたいだ。
それに、2人で働いて20万~30万で、子供2人を養う4人家族っていうのは、学校や保育施設が無料であっても、元の世界の日本と比べちゃうと生活が厳しい。
パンが2個で100イエンくらいするんだもん。物価的に、同等か、それ以上のものもあると思う。
勿論、豊かな暮らしっていうのが、お金だけが問題かっていうとそうじゃないのも分かる。
でも、今まで僕が生きてきた基準や常識は通用しない。
貴族のマナーもだけど、本当に学ぶことがたくさんだ。

「他領の場合と、どの程度違うの?」

「また詳しくは追々学んでいかれると良いと思いますが、平民の子供全員が通える無料学校がある領地は、今現在エリソン侯爵領のみです。
そして、通常、農業と言いますと、領主から土地を借りて農作物を育てるのが一般的です。
土地が広ければ広いほど管理も生産も大変になりますし、収穫量によって大きく暮らしに差が出ます。
領主は土地を貸し出した分の税を受け取る、というのが一般的です。
子供を背負ったまま働くことが多いですし、小さいうちから畑仕事を手伝う家庭も少なくありません」
「負担が大きいし、収穫量が悪ければ生活は苦しくなるね」

「ええ、そうやって土地を借りれなくなる者がいる一方で、その土地を広げ、行き場のなくなった者を雇い入れたり、新たな土地を求める者に、上乗せして貸したりと、儲けを大きくしている者もいるようです」

セバスが、何とも言えない顔で告げてくれた。
貧しい人がより貧しくなるだろう。

「領主から土地を借りてるのをまた貸ししたり、人を雇ったりってことは、経営する側ってこと?」
「そうですね、ですが元々経営などしたこともない者が急に経営側に回る、それも学ぶこともなく、です。
労働条件は悪いところが多いようですよ。エリソン侯爵領も昔は同じでしたから、先々代は、これを変えるのにかなり苦労されたようです」
「アレックスの曾お祖父さんは、亜人奴隷のこともだし、馬車が通過する時のお辞儀のこともだし、凄く思い切ったことを成し遂げていたんだね」
「領民思いの領主様でした」
「うん。じゃあ」
「レン様ー」
「ん?」

じゃあ次は、と、言おうとしたところで、セオが待ったをかけた。
実際は、名前を呼ばれただけ。

「詰め込みすぎは良くないですし、そろそろ夕食の準備しましょう」
「準備?」

準備ってなんだろう?
一緒に夕食を食べるのに、僕も準備がいるのかな?

「祝賀会に向けて、夕食は貴族のマナーを爺さまから学ぶって聞いてますよ。なら、もう一度おめかしして、借りたブーツも履かないと」
「そうだった!」

「あと、試しに少しお化粧…もしたいですが…無いですね、化粧道具一式が。アニーさんのは借りれるかな?」
「アニーのものは、レン様には肌の刺激が強いかもしれません。今日はメイクはやめておきましょう。
ですが、メイクのことを私からはお伝えしておりませんでした。アレックス様が忘れている可能性もあります」
「ですねー」

「メイクもするものなの?」
「はい、正装、ピンヒールのブーツを履くときですね、そんときは必要です。まあ、レン様はしなくても美人すぎますから、薄ーくでいいと思いますけど、するのがマナー、みたいなものなので」
「マナーならしないとだね」
「アレックス様が帰ってきたら、ちょっと相談しましょうか。今日は、試しに髪だけ少しいじりましょう」
「わかった。髪はセオがやってくれるの?」
「………」

黙っちゃった。
セオは器用そうだけど。

「セオ、言い出したのはあなたですよ」
「うえー?爺さまも出来……あーはい、俺ですね、やります、やれますよ、嫌じゃないですよ?寧ろ、得意です。
でも出来ればアレックス様の許可は先に欲しかったなーと思っただけです。
…アニーさんにも見てもらいながらにしましょうね」




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