異世界に召喚された二世俳優、うっかり本性晒しましたが精悍な侯爵様に溺愛されています(旧:神器な僕らの異世界恋愛事情)

日夏

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本編

-103- 友人オリバー アレックス視点

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「っ忘れてた」

やべえな、すっかり忘れていた、と思い出したことに手を止める。
二山が終わり、残りの書類の山もあと二山になったところで、唐突に思い出した。

何を忘れていたかというと、帝都の別邸にいるオリバーに、明日レンと共にそっちへ行くのを伝えることだ。

1人でなら、ふらっと空いた時間に行ったとしても問題ないが、明日はレンも一緒だ。
それと、事前にオリバーの神器のことも聞いておきたい。

「オリバー、いるか?」

魔法具を発動し、話しかける。
この時間なら、部屋にいる確率は高い。
もし、いなければ執務室の方へ入れなおせば、すぐ連絡がとれるはずだ。

『はい、いますよ。良かった、私からあなたへ聞きたいことがあったので助かります』

すぐに穏やかな男性の声が烏のペーパーウェイトから聞こえてきた。
感情の起伏が緩やかで優しい性格をしているオリバーは、俺の元学友で、親友と言っていい間柄だ。
今でもユージーンの次に顔を合わせているが、プライベートで会うのはオリバーの方が断然多い。

オリバーは、エリソン侯爵領内にあるワグナー子爵家の三男だ。
卒業後は木属性と調合のスキルを活かし宮廷薬師として勤めていたが、色々と問題があって自主退職を余儀なくされた。
学生時代からモテていたが、すこぶる顔が良い上に子爵家の三男という微妙な貴族の肩書が更に厄介事を生んでいるようだった。
ただでさえ気の優しすぎるオリバーは、上司に研究結果を横取りされ、仕事を押し付けられ、宮廷薬師としても随分苦労していた。
研究や成果は人一倍どころか何倍も天才的な持ち主だが、説明下手な上に気の優しさで相手のペースに押し切られてしまう。
更に、宮廷という場所は、貴族の縦割りが大きく影響している。
これは、薬師に限らずどこも一緒だ。
子爵家の三男というのは、平民ほどではないにしろ弱い立場であり、更に顔が整っている理由で誘いが絶えず、断るのに苦労していた。
寮が一人部屋とは言え、あれではいつ潰れてもおかしくない、と心配していたが、やはり続かなかった。

現在は帝都にあるエリソン侯爵の別邸に住んでいて、そこの温室で薬草をはじめとして植物の研究をしている。
エリソン侯爵領で原因不明の薔薇の病気が流行し生産が落ちていたが、その薬剤をオリバーが開発してくれた。
薔薇の病気、白粉病や黒星病に効く薬だ。事前に防ぐ栄養剤も同時に作られて、生産性は抜群に良くなった。
また、養蜂用にと、珍しく育てるのが難しい花の発育環境を整えてくれたおかげで、献上品としてもすばらしい香りの蜂蜜が出来上がった。

そうやっていくつか特許を取り、その特許だけで何もせず暮らしていけるほどのはずだが、おごることなく日々研究に勤しんでいる。
植物が好きなんだろうな。
温室はかなり広く、珍しい薬草も育てているため手入れはかなり大変だろうに、会うたびいつも穏やかな笑顔を向けてくる。
今の生活があっているなら、無理を言ってまでも貸して良かったと思っている。
貸す前は、無理やり笑みを浮かべていて痛々しい様子で、見るに堪えなくて何とかしてやりたい、と思ったくらいだ。

「聞きたいこと?…それは、神器様のことか?」
『ああ、さすが耳が早いですね。ですが、それなら話が早い。他の神器様3人の居所を知っていますか?
もし、知っていたら教えてください。交流があったようで、アサヒが、心配していまして…知りたがっているので』

ああ、なるほど。
俺が神器様を得た話は聞いていないらしい。

「一人は俺のところにいる」
『はい?今なんと?』
「だから、神器様の内一人は、俺のところにいる」
『…あなたから神器様の申請をされた話は聞いていませんでしたが。
ということは、闇属性、ってことですね?
その、神器様に対して、アレックスは否定的だったと思いますが、いかがですか?』

心配そうにオリバーが伺ってくる。
まあ、そうだよな、散々、神器なんて必要ないっつってたもんな、俺は。

「申請は、俺の知らないうちに…領主代行の時に、祖母さんが勝手に出してたらしい」
『そうでしたか』
「あれだけ必要ないって言っといてなんだが、…駄目だな」
『…駄目、とは?』

言い方が悪かったか、オリバーがより心配そうに尋ねてきた。

「ああ、悪い、言い方が悪かった。今まで望んでも手に入らなかったもん全部かかえて目の前にやってきたら…、何がどうしても欲しいと思っちまった」
『そうですか、良かった。彼の様子はどうですか?元気でいますか?』
「ああ、貞操具も外したし、元気でいるぞ。それに、俺のことも、好きになったと…受け入れてくれた」
『そうですか、本当に良かった。私のところへも神器様が届きました。アサヒ、と言います。
まさか、あの要望が全部揃う神器様がくるとは思ってもいなかったのでびっくりしました。
とても心が美しく、不憫な目に合っただろうに屈することのない強い人です。
貞操具は外せましたし元気でいますよ。それまでの神器様の印象と違いすぎて戸惑うこともありますが、私は彼に惹かれています』

オリバーにしては力強い声が聞こえてきた。
良い奴らしい。
何より、いい影響をオリバーは得ているのだろう。
俺も、会ってすぐとはいえ、いい影響をレンから受けている。

「そうか。明日の午後、2時過ぎにそっちに行っても大丈夫か?レンを連れていく」
『ええ、是非。ああ、他のお二人の居場所はわかりますか?』
「コナーのところに一人、あと、師匠のところに一人だ」
『え?随分アレックスと近しいところへ皆さん行かれましたね。でも行き先が良い方で良かったです。会うことも出来そうですね、安心しました』
「ああ。連絡はとれていないが、悪いようにはされないだろう。それじゃ、神器様、アサヒ、だったか?よろしく言っておいてくれ」
『はい。会えるのを楽しみにしています』
「ああ、じゃあ、また明日」

会えるのを楽しみにしています、という言い文句はオリバーの癖みたいなもので俺はなんとも思わないが、聞かれたところでいらない憶測が飛び交ったことがあったな。
俺も大概だと言われるが、オリバーもまた大概だと言われる要因があるようだ。
ユージーンの方が言質を取ること、取られないことに慣れているからか、学生時代は、俺やオリバーに対して何度も助言し間に入ってくれたことがある。

流石に今じゃ俺も少なからず貴族社会に揉まれて慣れたが、オリバーは慣れない上に変わらない。
まあ、今はエリソン侯爵領との取引ばかりだからそう問題になることもないだろうが、交渉スキルを持っている神器様が傍にいるのは頼もしいことだ。
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