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本編

-86- 昼食と後継者 アレックス視点

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各所の命令書を必要枚数すべて書き終え、セバスに確認を取っていると、扉が開いた。
気落ちしているかと思ったが、そうでもないようでほっとしてしまう。

「おかえりなさい」
「ああ、ただいま」

ふんわりと笑うレンを抱きしめ、キスを落とすとうっとりとした表情を一度向けてくる。
ほんとに可愛いな。

書類はセバスが手にして、片付けるためか扉を出ていった。
セオもセバスの指示で一緒に出ていったので、各種書類を届けてくれることだろう。
少し多いが、セオに任せれば、出かけるまでには通達が届き渡るはずだ。


「セバスから仕立て屋のことを聞いたが…大変だったな」
「うん。大丈夫」
「大丈夫?本当にか?」

何でもないような笑顔で笑わないで欲しい。
それに、風呂に上がりたてのような甘い薔薇の香りが混じっている。

「…レン、風呂にでも入ったのか?」
「ううん、浄化をかけたらこうなっちゃったんだ」
「体を触られたらしいな…、どうして来てくれなかった?」
「ごめんなさい、1人でなんとかしたくて意地はっちゃった」

責めるような言い方になってしまったが、レンはすぐに謝ってきた。
対処の仕方が悪かったとは思っているみたいだ。
あまり責めたくないが、もしまたこういうことがあったらと思うと辛い。
それも、少なからず闇属性が関係しているし、俺の立場が招いたことでもある。
だが、レンは俺を一切責めるこはなかった。

「次からはみんなのことも、アレックスのこともちゃんと頼るから」
「…そうしてくれ」

俺にはもったいないほど、いい子だと思う。
まあ、もう絶対、何があっても手放してやれないが。
目を瞑ってキスをねだるようなしぐさが可愛い。
望むとおりに口づけを落とす。
嬉しそうに受け止める姿が、本当に可愛かった。


昼は給仕はせず、一度に並べてもらった。
レンが話を聞いてほしいからそうしてくれと頼んできたのだ。
二つ返事で了承し、セバスとアニーも顔を出す。

「マーティンの息子さんが帝都で料理人をしていたんだけど、環境が酷くてね、今奥さんが迎えに行っていて、明日領に戻ってくるんだって」
「そうなのか?」

レンの話を聞いて、アニーに確認を取る。
すると、アニーも悲しそうな顔で頷いてきた。

「ね?だから、まずは明日はマーティンを1日お休みをあげたいなって思うし、もし息子さん2人がマーティンと一緒に働きたいならどうかなって思うんだ。
もちろん2人の体調次第だけれど。
今までアレックスは朝と夜だけだったし、外食もしてたでしょう?けど、僕がいたらより忙しくなるし、マーティンもそろそろ教える側に回っていいと思う。
他もだよ、元気に楽しく働いてもらいたいし、後継者を育ててあげられる環境に出来ないかなって」
「そうか。レンは色々考えてくれたんだな、すまない」
「ううん、僕も一緒に暮らしていくんだから、当然だよ」

使用人のことは使用人に、と、どこか任せきりのことがあった。
俺よりずっと前から侯爵家にいた使用人たちだ。
仕事も信用していたし、俺より屋敷のことは知っているだろうと思い込んでいたこともある。

とくに、不自由は感じていなかったのもあるし、長らく1人だったからというのもある。
後継者、そんなことは全く考えたこともなかった。
休みのことについてもだ。
文句はなかったものの、今まで休みなく働かせていたと思うと急に自分が悪い貴族にくくられたような気がしてきた。

「マーティンを呼んできてくれ」
「はい」

アニーに頼み、マーティンが顔を出す。
いかついがっしりとしたおっさんだが、帽子をとり、俺に深々と頭をさげてきた。
小さい頃は、もっと食ってくださいと、色々と世話をかけきた。

泣きながら話すマーティンに、マーティンも年をとったのだ、と思い知らされた。
まだまだ若いといえば若い。セバスたちよりは一回りは若いから。
だが、年月は待ってくれない。
これからのことは考えていかねば。
俺だけでは、ないのだから。

「今日は夕食が済んだら戻る準備を始めてくれ。
気づいてやれずにすまなかった。
セバス、明日朝一で馬車の手配を。
体調が良くなったら、うちで雇おう。
もちろん、2人が良ければ、だが」
「ありがとうございます、ありがとうございます、アレックス様」
「ああ、これからも遠慮なく、何かあったら伝えてくれ」
「はい……はいっ」

最初は通いになるかもしれないが、ずっととはいかない。
この際、あの離れを一部改装して修繕し、使用人の宿舎を立てるのがいいかもしれない。
3代前の侯爵が建てたらしい離れは、何用かというと、愛人用だ。
どうしようもない好色家だったようだ。
奴隷部屋もあったくらいだ。
まあ、有効的に活用させてもらおうか。
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