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本編

-79- セバス先生の講義 属性について

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コンコン
「はい」
「レン様、お待たせして申し訳ございません」

返事をすれば、すぐさまセバスが顔を出してくる。
穏やかな表情でいるから、アニーとの打ち合わせも終わったみたいだ。
僕とアレックスが出かけるようになっちゃったから、手間が増えたのかもしれない。

「ううん、大丈夫。
今セオからエリソン侯爵領がとてもいい場所だっていうのを教えてもらっていたところだよ」
「それはようございました」

にこにこと僕に笑顔で答えたセバスは、セオに疑いの視線を向ける。
何か余計なことをいったんじゃ…っていうような疑いの視線だ。

「もー爺さま、余計なこと言う時間もないって。
今日出かける分については、領民たちに話しかけられても戸惑うこともないと思うよ」
「なら結構」
「ふふっ」

もうコントみたいで思わずわらっちゃう。

「では、私から少しだけ魔法の基礎をお教えしましょう。
それと、アレックス様ですが、先ほどご連絡がありまして、仕事が立て込んでいて15分ほど遅れるようです。
レン様には、すまないと伝えてくれ、と」
「うん、わかった。ありがとう、セバス。昨日僕のために休んじゃったから、仕事溜まってたんだろうな」
「アレックス様がしたくてそうしただけですよ、お気になさらず」
「うん」
「ああ、セオ、あなたもこのままここで私の話を聞いてください」

冊子を閉じて片付けようとしたセオに、セバスが声をかける。
セオはこのまま部屋を出るつもりだったんだろうな、びっくりした目を向けてきた。

「へ?俺も?」
「出先でレン様の世話に回されるのはあなたです。
…まあアレックス様のことですからご自身でお世話されると思いますが、それが出来ないこともあるかと思いますので」
「あー…なるほど。わかりました」

セオが一瞬遠い目をする。
僕には、なにがなるほど、なのかよくわからないけれど、セオにはそれで通じるんだなあ。
魔法と僕の世話がどう関係するのかはわからないからしっかり聞いておかなくちゃ。

「魔法には7つの属性があります。
火、水、木、金、土、闇、光の7つです。
魔力を持つ者は、すべてこの7つのうちどれか、あるいは稀に複数を持つものがいます。
光属性は皇族と一部の人間で、数は少なく、魔力の高い光属性を持つ者は、聖職者につくことが多いです。
闇属性は更に、非常に少ない。高い魔力をもつ闇属性は、帝国内では現在アレックス様のみでした。
帝国では、水、木、土が多く、火、金、も珍しいことではないですが一定数います。

基本的に魔力は貴族が高く、市井の人間は少ない人が多いです。
稀に市井の人間でも10以上の魔力を持つ者が生まれることもありますが、先天性の者は少なく遺伝的な者が多いと言われています。
例外は、精属性といわれる、精霊魔法。
エルフ族の者が扱う魔法です。
彼らは精霊の力を借りて魔法を使うと言われていますが、通常は実際目に見えないために、我々には精霊はおとぎ話とされています。

さて、属性には相性というものがあります。
火は、火、土と相性が良く、水と木に対しては相性が悪くなります。
水は、水、木と相性が良く、火に対して最も相性が悪くなります。
木は、木、水、土と相性が良く、火に対して最も相性が悪くなります。
金は、金、土、と相性が良く、火、水、木に対しては良くも悪くもなく可、といったところでしょうか。
土は、火、木、金、土と相性が良く、水に対しても可、となります。
光は光のみ、闇も闇のみです。
ですから、アレックス様には、レン様のみとなります」
「うん」

そう、だからアレックスはずっと一人だったと、聞いている。
属性が合わないと、恋愛も難しいなんて理不尽なこともありそう。
属性の相性の良し悪しについては、なんとなく感覚でわかるし、僕が闇なら基本として知っていればいいことで、詳しく深堀する必要はなさそうだ。
アレックスには僕のみなら、僕にもアレックスのみってことだもん。

「古くは7つの属性全てが等しく扱われておりました。今でも暦の上で用いられておりますよ。
光の日、火の日、水の日、木の日、金の日、土の日、闇の日の7つです。因みに今日は闇の日でございます」
「1年は365日?」
「いいえ、こちらでは360日でございます。ひと月30日。12の月に等しく30日ございます。
レン様のいらした世界は365日とお聞きしています。4年に1度366日の日がやってくるとか」
「うん」
「少し戸惑われるかもしれませんが、こちらではずっと360日となります」
「1日は24時間なんだよね?」
「ええ、そうですよ」

そっか、あまり考えなかったけれど、1週間はむこうもこちらも一緒なんだ。
1年が360日、時間も24時間なら、月日の流れについては大差ないみたいでほっとする。

「あまり変わらなくてほっとしたよ。エリソン侯爵領は四季もあるって聞いたから、僕のいたところと気候も似てるみたいだし」
「そうですか。戸惑われる神器様もいらっしゃると聞いていましたが、レン様が馴染みがあるようで私もほっとしました。
では、属性について戻りましょう。
7つの属性全てが等しくありました教えは、時代と共に変わりました。
現在5つの属性の扱いは等しくありますが、光属性がもっとも尊く守るべき属性であり、闇属性はその反面、脅威とされています。
アリアナ教の教えが強く反映されているのです。
光の属性を持つ者は、治癒魔法に優れたものが多くいますが、攻撃魔法にも優れ、魅了魔法の強い者もいます。
魅了の魔法は、人々の精神を司る魔法です。
人々の賛同と支持を集めるには適任の魔法ですね」

闇属性が嫌煙されるのは、アリアナ教の教えが強いからっていうのもあるのか。
つくづく自分よがりの都合のいい宗教だなって思っちゃう。
それに、魅了。
あのサミュエルっていう神官も、見た目は若い感じだった。
でも、司祭って言っていたから、ただの神官じゃない。
きっとセバスの言う、魅了魔法の強い者なんだろうな。
あの無理矢理食べさせられた時のが、魅了魔法なんだと思う。

「レン様?大丈夫ですか?」

セオが僕にそっと言葉をかけてくる。
サミュエルのことを思い出して、知らず知らずのうちに顔がこわばっていたに違いない。

「あ、うん、大丈夫。ちょっと神殿の、ペリエの実を食べさせられた時のこと、思い出しちゃっただけ」
「そうですか」
「そうでしたか」

セオもセバスも、きゅっと眉をひそめて、同時に相槌を打ってくる。
顔がそっくりだ。

「でも、もう大丈夫。ここに来られて、アレックスに出会えたことは、本当によかったと思ってるから」

そういうと、2人ともほっとして笑顔を見せてくれる。
ほんとによく似てるなあ。

「続けても?」
「うん」
「闇属性は、時と空間を司る魔法です。
時の停止、空間を操ることが出来、高い魔力を持つ者は、自身や物体に対し時を遡ることも出来ると言われています。
レン様が昨日アレックス様にお使いになった魔法は、治癒魔法ではなく、遡行、時を戻す魔法です。
特定の者や人物を対象に可能な魔法で、昨日のように魔力干渉がある場合は、強い魔力を必要とします。
魔法は無理をして行い自分の魔力以上の力を注ぎこむと枯渇するおそれもございますので非常に注意が必要です」

治癒魔法じゃなかったのか。
非常に強い魔力、だからアレックスがあんなに慌てていたんだ。
アレックスは魔力を使い切って通常3日間寝た状態になるって言っていたけれど、使い過ぎと枯渇は違うと思う。
枯渇するってことは、ずっと寝たきりになるってことなんだろうな。

「魔力干渉がある場合って?」
「そうですね、例えば、カップを落として割ってしまったとしましょう。そして、それで指を切ってしまった。
これに対しては魔法は使われていませんので、魔力干渉がない、と言えます。
ですから、さほど魔力を必要とせず、カップを元通りにし、指の傷も前の状態に戻せます」
「転移魔法もだけれど、遡行魔法も便利だね」

「ええ、とても便利ですよ。魔力干渉がある場合、と申しますと、昨日のことについては呪詛返しとなりますが…
そうですね、わかりやすい例としましては、ただの火でやけどをした場合と、火属性の魔法の炎でやけどをした場合、同じ程度のやけどを覆った場合でも
遡行をするには、後者の方が強い魔力を必要とします。他の魔力が加わると邪魔が入る、と思うといいでしょう」
「そっか。うーん…遡行っていうと、過去に戻ったりっていうイメージなんだけれど、そういうことは出来るの?」
「ありえないことだ、と言えますね。あくまで、特定の者や人物を対象に可能な魔法なのです。
過去に行く、ということは、自分も含めて世界の全ての時間を戻す、ということになりますので、とてつもない魔力量が必要になるでしょう。
時間を戻せるにしても、一度にほんの少しですよ。
遡行魔法は、魔力干渉がない場合、通常、時間の長さと対象物の大きさで魔力量が決まります」

なんとなくわかってきた。
便利だけれど、誤魔化しがきいたり、都合のいい魔法ではないみたいだ。
そういった意味では光属性の魅了より、ずっと好感が持てる。

「じゃあ、例えばなのだけれど、大けがを負った人がいたとしたら、魔法の干渉がない場合は、治癒魔法より遡行魔法の方が優れてることもあるってこと?」
「はい、そのとおりでございます」
「なら、病気は難しいけれど、時間が経っていなければ、怪我は遡行魔法が便利ってことだね」
「さようでございます。ですが、領民以外は、けして人に対しては使われませぬよう」
「助けられると分かっていても?」
「アリアナ教の教えでは、闇属性を持つ者は恐怖の存在。光は善。治癒魔法一択です」
「そう、なんだ。例えば光属性の人にも遡行魔法は使えるの?」
「はい、可能ですし、魔力干渉がなければ問題なく使えます」
「わかった、気を付けるようにする」
「はい」

「さて、レン様、レン様には今後、特に気を付けなければならないことが2つございます。
一つはアレックス様に対して、もう一つは、アレックス様以外の者に対してです。
セオも、ここからはちゃんと流さずに聞いてください」
「あ、はいはい」

セオが背筋を伸ばした。
僕も背筋を伸ばす。
遡行魔法の使い方以上に気を付けなければならないことってなんだろう?
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