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本編

-77- セオ先生の講義 エリソン侯爵領

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いつまでも客間にいるのも…ということで、僕はセオと一緒に一旦書斎に向かうことになった。
アレックスが来るまでまだ30分くらいある。
セバスはアニーと打ち合わせが終わったら、書斎に来てくれるんだって。
その間に、魔法の基礎やエリソン領について少しだけ教えてくれるみたい。

「セオ、今日はテンに乗れる?」
「今日、レン様は初めてですし、店に入るので少しおめかししましょう。なので今日は、アレックス様と一緒に馬車に乗りましょうね。
三店舗とも距離はそう離れていませんが、店の前の通りは人通りが多い上に道幅が狭いですからね。
今日は途中まで馬車で、馬車止め後、店までは徒歩になります。どの店も馬車止めからの距離は近いはずですよ」
「そっか…じゃあテンに乗れるのは明日になりそうだね。
街に出るのはここに来てから初めてだから楽しみ」

思いがけずに外出することになっちゃったんだけれど…というか、僕が服屋に行くっていう選択を取ったからなんだけれど。
でも、駄目だったらセバスやセオが止めてただろうし、止められなかったってことはオッケーってことだって思っていいよね。

「外出用の服、レン様に合うのがあるかな…後で、アニーさんに相談しましょうね。
その靴も少しだけ大きいですよね?今日、祝賀会用の靴の他に普段の靴も作ってもらいましょう」
「うん」
「あー後、レン様、その、エリソン領地の人々は、基本凄くおおらかで明るくてのんびりしてるんですが、貴族との距離が近いんです。
アレックス様にもですから、当然レン様もそうなると思うんですけど、びっくりしないでくださいね」
「ん?」

距離が近くてびっくりしないでって、どういうことだろう?
セオがばつの悪そうな顔で笑うけれど、なれなれしいって感じじゃないだろうし。
ここの使用人の人も、レナード以外は領で育ったって聞いてる。
セオとセバスとアニーはエリソン侯爵領の貴族の出身って聞いてるしけれど、他のみんなは庶民だと言っていた。
ロブとかイアンみたいな感じの人が多いのかな?

「距離が近いってどういう意味で?」
「あー、レン様俳優だったでしょ?」
「うん」
「領地のみんながレン様のファンみたいな感じになりますっていったら、わかりやすいですかね?
馬車が通れば、手を振って笑顔と歓声が上がりますし、歩けば普通に声をかけられますし、わらわら人だかりができます。
もし話しかけられたら、俺らみたく話してくれたら嬉しいです。
アレックス様は、帝国内や貴族間では闇属性のことで恐れられていたり嫌煙されがちですが、領民には前侯爵様と同じくらいとても好かれています。
今日は、レン様と一緒だからちょっとした騒ぎになると思うんで覚悟してください。
もちろん、領地にはエリソン侯爵領の警備隊や自衛団もいますし、俺らもいますから安心してくださいね」
「そっか、わかった」

アレックスがみんなから好かれているっていうのは、きっとアレックスの努力した結果だろうなあ。
豊かな領地とは聞いているけれど、何もしないで豊かにはならない。
アレックスのお爺様、前侯爵様がとても良い人だったのだろうけれど、アレックス自身の力ももちろんある。
じゃなかったら、アレックスが侯爵様になってから十年間、みんなに好かれたままなわけない。

日本では一人で道を歩くっていうことがほとんどなかったけど、舞台での出待ちはあったから、ああいう感じかなあ。
ちょっと違うかな?でも、元の世界の知事や市長っていう感じよりもずっと垣根が低いみたいだし。
あ、もしかしたら、ご当地キャラみたいな感じかも。
セオがびっくりしないでっていうくらいだから、他の領地とは全く違うのかな。

「でも、セオ、エリソン侯爵領が特殊なの?他の領地は?」
「普通は、馬車が見えてから見えなくなるまで立ち止まって帽子を取り頭を深く下げます。その間頭を上げてはいけません。
手を振って歓声を上げるなんて、もっての外、不敬にあたります。
領民から近づいて直接声をかけることもそうです。
他の領地では絶対にありえません」
「そうなの?」
「そうですね」
「えー、それじゃあ、普通だったら、馬車で通っても誰の顔も見えないの?それに、馬車が通るときに、仕事中の人も急いでる人もいるでしょう?」

元の世界ですら、皇族の方が車でお通りになるなんて時は、手や旗を振ったり歓声が上がったり写真や動画をとったりしていたくらいだ。
交通規制なんかはあったけれど、仕事中だったり急いでる人が出くわしても普通に歩いている人はいるだろうし、仕事の電話をしてる人もいるだろう。
立ち止まって見えなくなるまで頭を下げるなんて、大昔の大名行列みたいだ。

「そうなんですよねー…、先々代が、やらなくていいって言ったらしいんですよ、わざわざ手を止めなくていいって。
それが切っ掛けらしいんですけどね、先代のころは、もう手を振ったりがあたり前になったらしいですよ」
「そっか。でも、僕も手を振ってくれるほうがいいな」
「なら、よかったです。ぜひ、笑顔で振り返してあげてくださいね。じゃあ、爺さまがくるまで、俺からエリソン領のことを少しだけ」

書斎に入ると、ゆったりとしたソファに促してくれて、そっと腰掛ける。
高級そうだから座るときにちょっとだけドキドキしちゃった。
うーん、ベッドも食堂の椅子もお風呂場の椅子もとてもゆったりしていたけれど、このソファも凄く座り心地がいい。
セオが、一冊の冊子を開いてくれる。果物や蜂蜜、薔薇のイラストが載っていた。
エリソン侯爵領で出荷されている製品を紹介している本みたいだ。

「エリソン侯爵領は、帝国内の侯爵領の中では一番小さい領地ですが、独立して領地を預かっています。
その領地を7つの子爵家と1つの伯爵家が分割して納めています。
因みに、来年子爵が陞爵する家が1つあり、6つの子爵家と2つの伯爵家に変わります。
薔薇と果物、養蜂が盛んです。
その他にも数はそう多くはないんですが、野菜や乳牛、養鳥や養兎もあります。
薔薇と果物、それから蜂蜜は帝都への販路が開けていますが、その他はおおよそ領内での販売消費が殆どです。
レン様がここで口にするのはほとんど領内で作られたものになります」
「今朝のサラダもたまごもとても美味しかった」
「でしょ?アレックス様の代になってからより安定して供給できています。
現在の帝都の果物市場はおよそ7割がエリソン侯爵領の出荷で占めています。
生花市場の薔薇は、おおよそ8割強がエリソン侯爵領の出荷です。
近頃は薔薇の精油や薔薇水を使った製品も増えて、貴族間ではとても売れ行きが良いようです。
養蜂は領外だと貴族向けで蜂蜜自体がまだ貴重ですが、こちらも年々生産性を上げているんですよ。
来年陞爵となったのも、皇帝陛下への献上品となった蜂蜜が高評価だったからと聞きます。

年内の視察予定はありませんが、来月に入ると納税の申告がありますから、8貴族が侯爵邸に集まります。
内3貴族は1泊するのが通例です。今年はレン様もおもてなしする側になります。
それらが終わるとすぐ祝賀会になるのでかなり忙しくなると思いますが、俺も爺さまもお手伝いしますから心配しないでくださいね」

「うん、ありがとう、よろしくね」




++++++++++++++++
長すぎてしまい、2話に分けました。
本日のみ2話更新です。
この後、23時にも後半更新です。
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