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本編
-76- 約束20分前 アレックス視点
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「だが、まあ、少なくとも俺たちが死ぬ方が早いだろうな」
「あー、確かに。レン君がしっわしわのおじいちゃんになる方が早いだろうね」
「おい、さっきから、ぴっちぴちだの、しっわしわだのうるさいぞ」
「だってー!あんなに美人で可愛くて若くてレンくんが羨ましいー!」
「お前だって十分美人だろ」
「え?」
ユージーンがびっくりして俺の顔を見る。
ユージーンは、神器様と第二夫人の間に生まれた子だ。顔は神器様を引き継いでいるらしいが、すっきりとした顔立ちで派手さは無いもののかなりの美人だし、それなりにモテる、はずだ……黙っていたら。
それに、光に当たると、まるでベリドットのような輝きを放つ柔らかそうで美しい黄味を帯びた緑色の髪、同じ色の長いまつ毛に縁取られたセピア色の瞳、そのどちらも優しい色をしている。
その色は夫人譲りだから、容姿については、神器様との良いとこ取りだ。
だが、大人しそうな顔をしてるのに、話すと騒がしい。騒がしい性格は夫人そっくりだと言っていたが、本当にそっくりだった。
学生時代にそこまで容姿が目立たなかったのは、傍により派手な顔のオリバーがいたからだろうが、系統は違う。
宮廷魔法士を辞めるなんてことがあるのならば、第二第三夫人を望む高位貴族から釣書がわんさかくるだろう。
「美人だと…、そう、思われるんですか?」
補佐官が神妙な顔で答える。
なんだ?美人だろうが、誰がどうみても。
今まで恋人は可愛い部類の恋人だったと思うが、立場も含めて自由に選べる状況だ。
もっと忍耐力のある恋人も選べると思うんだが。
俺と違い、属性は水。
相性的には、木、水、あたりが良いだろうが、どちらも多いし、火さえ外せば、土や金であったって魔力譲渡に向かないだけで付き合うには問題ない。
「は?美人か美人じゃないかで言ったら、十分美人だろうが」
「……や、まあ、そうなんですけど」
「一瞬驚いたけど、アレックスはね、思ったことをそのまま口にするからね。他意はないんだよ。本当、学生のときからそういうとこ変わってないっていうかさあ…」
「なんだよ、他意って。美人を美人っていうだけで、なんで他意になるんだ?」
「ほらあ」
「なにが、ほらあ、だ、全く。
ここで、うだうだしてるだけならそろそろ仕事に戻ったらどうだ?」
補佐官に引きずられるようにユージーンが部屋を後にした。
とたん静かになった部屋で、処理する書類もなくなると、つい、レンのことを考えてしまう。
開発中の魔法具もあるにはあるが、昼まであと20分弱だ、気分がのらない。
気分がのらない中で開発するのは良いもんが出来ないので、手に付けないようにしている。
今は、都合の良い言い訳にしか聞こえないだろうが。
昨夜は本当に可愛くて、うっかり手が出そうになった。
出さなかった俺を褒めて欲しいくらいだ。
今夜はやんないぞ?、と言った時のあの反応。
驚きに声を上げて、それから、理由を知れば、寂しそうに頷いていた。
「そっか…じゃあ、残念だけど仕方ないね」
「っ……」
残念だけど、仕方ない…あー、くっそなんで煽るんだ、や、煽ってるつもりは毛頭ないんだろうが。
本当に残念そうな顔と声で、可愛すぎた。
「なら、明日?」
「あー…明日は……」
「明日も駄目なの?」
「…明後日の朝、孤児院に連れてってやりたいし、午後は帝都の別邸に連れていこうと思ってる。
明後日以降は、調整が難しくて…一日あけてやれることが出来ないかもしれない」
「孤児院…アレックスのお祖母さまがいるところ?」
「そうだ」
「わかった」
わかった、と言いながら、そんなに寂しそうな顔をしないで欲しい、そう思った。
口にして、と口づけをねだるのも可愛いすぎる。
本当は、口内を蹂躙し、余すことなく舌を味わい、とろとろに溶かしてしまいたい。
だが、それをしたら、止まらないだろう。
今日は、出来ない。
舞い上がりすぎて、途中までですら終えられる気がしない、無理だ。
だから。
「明日…」
「ん?」
「明日は…途中まで。レンの負担がないところまでは、しような」
「途中まで?」
「ああ。たくさん触れたいし…それに、レンも触ってくれるだろ?」
そう口にしたら、ぽっと頬が色付く。
恥ずかしそうに、答えてくれる様子がすげー可愛いかった。
「うん、もちろん」
「よかった。…じゃあ、今夜は、こうやって寝ようか」
「嬉しいけど、腕重くない?」
「全然。こうやってレンを近くに感じられてよく眠れそうだ」
「僕も、アレックスを近くに感じられて安心して眠れそうだよ」
もう、寂しそうな顔はしていなかった。
嬉しそうに、すり寄って、いい位置を見つけたのか、より距離が近づく。
ほのかに甘い蜂蜜の香りと薔薇の石鹸の香りが混ざり、鼻腔を擽る。
何も感じないわけじゃないが、悟られたくない。
「なら決まりだ。…おやすみ、レン、いい夢を」
「ありがとう。おやすみアレックス、いい夢を」
しばらくすると、規則正しい小さな呼吸が聞こえてきた。
一緒にいるだけで、こんなにもあたたかい。
愛しい人と眠りにつく安らぎという心地よさを、俺は、はじめて感じた。
「あー、確かに。レン君がしっわしわのおじいちゃんになる方が早いだろうね」
「おい、さっきから、ぴっちぴちだの、しっわしわだのうるさいぞ」
「だってー!あんなに美人で可愛くて若くてレンくんが羨ましいー!」
「お前だって十分美人だろ」
「え?」
ユージーンがびっくりして俺の顔を見る。
ユージーンは、神器様と第二夫人の間に生まれた子だ。顔は神器様を引き継いでいるらしいが、すっきりとした顔立ちで派手さは無いもののかなりの美人だし、それなりにモテる、はずだ……黙っていたら。
それに、光に当たると、まるでベリドットのような輝きを放つ柔らかそうで美しい黄味を帯びた緑色の髪、同じ色の長いまつ毛に縁取られたセピア色の瞳、そのどちらも優しい色をしている。
その色は夫人譲りだから、容姿については、神器様との良いとこ取りだ。
だが、大人しそうな顔をしてるのに、話すと騒がしい。騒がしい性格は夫人そっくりだと言っていたが、本当にそっくりだった。
学生時代にそこまで容姿が目立たなかったのは、傍により派手な顔のオリバーがいたからだろうが、系統は違う。
宮廷魔法士を辞めるなんてことがあるのならば、第二第三夫人を望む高位貴族から釣書がわんさかくるだろう。
「美人だと…、そう、思われるんですか?」
補佐官が神妙な顔で答える。
なんだ?美人だろうが、誰がどうみても。
今まで恋人は可愛い部類の恋人だったと思うが、立場も含めて自由に選べる状況だ。
もっと忍耐力のある恋人も選べると思うんだが。
俺と違い、属性は水。
相性的には、木、水、あたりが良いだろうが、どちらも多いし、火さえ外せば、土や金であったって魔力譲渡に向かないだけで付き合うには問題ない。
「は?美人か美人じゃないかで言ったら、十分美人だろうが」
「……や、まあ、そうなんですけど」
「一瞬驚いたけど、アレックスはね、思ったことをそのまま口にするからね。他意はないんだよ。本当、学生のときからそういうとこ変わってないっていうかさあ…」
「なんだよ、他意って。美人を美人っていうだけで、なんで他意になるんだ?」
「ほらあ」
「なにが、ほらあ、だ、全く。
ここで、うだうだしてるだけならそろそろ仕事に戻ったらどうだ?」
補佐官に引きずられるようにユージーンが部屋を後にした。
とたん静かになった部屋で、処理する書類もなくなると、つい、レンのことを考えてしまう。
開発中の魔法具もあるにはあるが、昼まであと20分弱だ、気分がのらない。
気分がのらない中で開発するのは良いもんが出来ないので、手に付けないようにしている。
今は、都合の良い言い訳にしか聞こえないだろうが。
昨夜は本当に可愛くて、うっかり手が出そうになった。
出さなかった俺を褒めて欲しいくらいだ。
今夜はやんないぞ?、と言った時のあの反応。
驚きに声を上げて、それから、理由を知れば、寂しそうに頷いていた。
「そっか…じゃあ、残念だけど仕方ないね」
「っ……」
残念だけど、仕方ない…あー、くっそなんで煽るんだ、や、煽ってるつもりは毛頭ないんだろうが。
本当に残念そうな顔と声で、可愛すぎた。
「なら、明日?」
「あー…明日は……」
「明日も駄目なの?」
「…明後日の朝、孤児院に連れてってやりたいし、午後は帝都の別邸に連れていこうと思ってる。
明後日以降は、調整が難しくて…一日あけてやれることが出来ないかもしれない」
「孤児院…アレックスのお祖母さまがいるところ?」
「そうだ」
「わかった」
わかった、と言いながら、そんなに寂しそうな顔をしないで欲しい、そう思った。
口にして、と口づけをねだるのも可愛いすぎる。
本当は、口内を蹂躙し、余すことなく舌を味わい、とろとろに溶かしてしまいたい。
だが、それをしたら、止まらないだろう。
今日は、出来ない。
舞い上がりすぎて、途中までですら終えられる気がしない、無理だ。
だから。
「明日…」
「ん?」
「明日は…途中まで。レンの負担がないところまでは、しような」
「途中まで?」
「ああ。たくさん触れたいし…それに、レンも触ってくれるだろ?」
そう口にしたら、ぽっと頬が色付く。
恥ずかしそうに、答えてくれる様子がすげー可愛いかった。
「うん、もちろん」
「よかった。…じゃあ、今夜は、こうやって寝ようか」
「嬉しいけど、腕重くない?」
「全然。こうやってレンを近くに感じられてよく眠れそうだ」
「僕も、アレックスを近くに感じられて安心して眠れそうだよ」
もう、寂しそうな顔はしていなかった。
嬉しそうに、すり寄って、いい位置を見つけたのか、より距離が近づく。
ほのかに甘い蜂蜜の香りと薔薇の石鹸の香りが混ざり、鼻腔を擽る。
何も感じないわけじゃないが、悟られたくない。
「なら決まりだ。…おやすみ、レン、いい夢を」
「ありがとう。おやすみアレックス、いい夢を」
しばらくすると、規則正しい小さな呼吸が聞こえてきた。
一緒にいるだけで、こんなにもあたたかい。
愛しい人と眠りにつく安らぎという心地よさを、俺は、はじめて感じた。
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