異世界に召喚された二世俳優、うっかり本性晒しましたが精悍な侯爵様に溺愛されています(旧:神器な僕らの異世界恋愛事情)

日夏

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本編

-70- 独断と偏見

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部屋には僕とレナードの二人だけが残った。
この家の使用人はとても連携がとれている。

セバスがお金を用意しにいって、それをセオが追いかけて、アニーもすぐに部屋を後にする。
しっかり僕にお辞儀をしてからだ。僕もそれに頷いて答える。
厨房に伝えに行ったのだと思う。

「あのテイラー商会は、失脚でもさせたかった商会なの?」
「決定的な証拠はなかったのですが、調べている最中でした」
「アレックスの指示で?」
「いえ、元々は、複数の商会の監査を内密に進める予定でした。
内一つが、テイラー商会です。
帝都貴族街にある服飾店では高級店であり、老舗としても有名な店ではありました。
先代が亡くなり、その息子が引き継いでからというものの評判は下がりました。
来年、エリソン領にある薔薇園との取引をそのまま継続するか否かの見極めです」
「テイラー商会は服飾だけれど…、薔薇はポプリか何かで取引しているの?」
「ぽぷり?…薔薇は花嫁衣装にも使われますので」
「ああ、そういう……」

うーん…だとすると、アレックスにはすぐにバレそうだ。
商会の名前を言ったら、一発で。
僕のことを単に試したかったのかと思ったのだけれど、それだけじゃなかったのかな?
レナードは何がしたかったんだろう?

「…いつから気づかれましたか?」

レナードが僕に冷たい視線を送ってくる。
そんなに威嚇しなくたっていいじゃないか、と思う。
でも、みんながみんな、ぽっとでの僕を最初から怪しまずに受け入れてくれるとは思っていなかった。

今回の彼の行動は、アレックスを思っての行動だ。
だから、僕は怒りもないし、悲しみもないし、納得するまで僕を試せばいいとすら思う。
これは、僕にとっての試練みたいなものだ。

「わりと最初の方から。まず、挨拶でレナードだと名乗ったところから、僕のことを信用してはいない、というのが分かってた。
単純に時間を間違えるっていうのも、隙のなさそうに見えたのに、らしくない気がした。
極めつけは、テイラー会長との最初のやり取りで君が驚いていたから。すぐに仕組まれたなって思ったよ」
「なぜ分かっていてのったのです?」
「だって、僕を試したかったのでしょう?いくらでも試せばいいと思ったし、失脚させたい商会なのかと思ったから。
僕を試してボロが出せて、さらに同時にテイラー商会が失脚出来れば一石二鳥って考えたのかなーって思って」

そこまでいってレナードを見ると、驚いた顔を悔しそうに歪めた。
なんだ、結局結構顔に出る人なんだなーと思ってしまう。
僕自身はちょっと安心はするけれど、それでは今後困る。

「やるなら、もう少し平然とやってもらえないと。
さっきから凄い顔に出てるよ」
「あなたは私に対して何も感じないのですか!?」

何も感じないわけないじゃないか、人間だもん。
けれど、怒りはない。
アレックスのためっていう思いからの行動からだっていうなら理解はできる。

「先ほど気分は最悪だと、なのになぜ!?」
「そりゃあ、下着の上からとはいえ、あんなおじさんにお尻撫でられてナニを掴まれて色々言われたら気分も最悪になるよ。
でも、アレックスを思っての行動、なんでしょう?なら、レナードに対して怒りとかはないよ」

「神器なんて…」
「ん?」
「神器なんていらない、必要ない、そうおっしゃっていたのに……」

うーん…確かに、アレックスはそう言っていた。
神器なんて必要ねーけどって。
でも、アレックスは神器としてじゃなくて、僕自身を必要としてくれたんだ。

「宮廷であなたたち神器がどう過ごしているか知っていますか?
美貌を自慢し、主人の貴族位の高さで優越に浸り、世話係を侮辱し足蹴にし、露出度の高い服で媚を売り。
主人が求めればどこでも足を開き、厭らしく喘ぎ、私のようにいい男にもすり寄り媚態を示す。
奴隷や男娼より厄介で、吐き気がするほどの存在だ」
「それは、そういう神器様もいるって話でしょう?
みんながみんな、そうじゃないでしょう?
いつ僕が、君に対してすり寄って媚態を示したの?」
「………それは」

アレックスのための行動かと思ってたけれど、ちょっと違うみたいだ。
なら、僕だって僕の考えがある。

「朝、アレックスが言ってくれたのが全てだよ。
神器様じゃなくて、僕を必要としてくれた、僕自身を見てくれた。
レナード、君は?
僕のことを、神器様っていう括りで偏見を持った目で見てる、違う?」
「っ!?」

「アレックスを思っての行動かと思ったけれど、そうじゃないのなら残念に思う。
君のそういった偏見は、今すぐ直した方が良いと思う。
じゃないと、今後、判断を見誤るよ」
「っ説教ですか?」

神器様だけじゃない、奴隷にたいしても、男娼にたいしても、一つの括りでしか見ていない。
今後、なにかあったときの判断基準が狂うかもしれない。
それは、危うい考えだ。
例えば、国全体を見るなら、一つの判断材料として、それでいいのかもしれない。
一人一人を見ていたらきりがない。
後の細かいことは、下の者に任せればいいのだから。

でも、アレックスは侯爵様だ、エリソン領を任された領主様。
細かいことを、任せられる方。
一人一人、耳を傾けて、問題があったら解決をする人。
市井だから、貴族だから、子爵だから、伯爵だから、神器だから、奴隷だから、男娼だから。
最初から人を見ずに自分の偏見を押し付けて欲しくない。
じゃないと、絶対に損をする。

「アレックスのそばにいるなら、人そのものを見て、今後はその目を養ってほしい。
アレックスは王様じゃないんだから」
「どういう、意味でしょうか」

えー言わないとわからないのかな?
もっと頭の回る人かと思ってたんだけれどな。

「アレックスは、エリソン領の領主様だよ?
国全体を見てるんじゃなくて、領民一人一人、耳を傾けて、問題があったら解決をする人でしょう?
神器様だから、奴隷だから、男娼だから、そういう括りでしかものを見れない君は危ういって言ってるの。
市井だから、子爵だから、伯爵だから…そういう括りで、人そのものを見ないつもり?」

レナードが、驚いたように目を大きく見開いて僕のことを見てくる。
まるで、そんなことは思いもしなかった、というように。
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